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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
賢者打倒編

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打倒の始まり

 俺達は再びノージェスの部屋へ赴く。そしてひとまずナリシスが定時連絡を先に済ませる。


「お騒がせしました……現状、変化はありません。詰所の者達が昼から酒をあおっているような光景もありましたが、平和でありノージェス様を殺めようとする動きもありません」

「そういう物騒な言い回しはよせと言っているだろう」


 ノージェスは歎息しながら語るが……俺達のこともあるためか、指摘はそこそこにして彼女に問う。


「ナリシス、どうやらこの者達は君のことを心配してやって来たようなのだが……」

「はい。私がロクに連絡をしなかったために、見に来たのです」


 そう切り返す……彼女の言葉で、俺はどう本題を切り出すのか理解した。


「そうか。しかし、私としては手紙を送るような暇もないような仕事を与えていたつもりはないのだが」

「私の一存で連絡を控えていたのです……理由は、できるだけ怪しまれないようにするために」


 怪しまれないように――その一言により、ノージェスは眉をひそめた。


「……ナリア?」

「ノージェス様、私は一つあなたに言っていなかったことがあります。そしてこの者達が来たことにより、とうとうそれを明かす必要が出てきました」

「待て……何を言っている?」


 彼にとっては、雲行きが怪しくなってきたと感じるところだろう……ナリシスはそれに構わず、さらに話を続ける。


「……シアナ、結界を」

「はい」


 ノージェスは言い、シアナは頷く――打ち合わせなど一つもしていなかったのだが、流れるようにシアナは承諾し、


「――閉ざせ」


 小さな声で魔法を使用。結果、部屋を覆うように結界が形成された。きっと外部からの音を遮断するためだろう。


「何?」


 それにエルフであるノージェスも気付く。


「この結界は……?」


 ノージェスが声を上げた次の瞬間、


 部屋に女神の気配が、一気に解放される。


 魔力発生源はナリシス……格好は一切変わっていないのに、醸し出す雰囲気だけが神々しくなっているのは、何か魔力に仕掛けを施しているのかもしれない。

 ただアミリースと比べれば魔力が薄い気がしないでもない……ナリシス自身はアミリースより階級が下だと言っていたが、その階級の違いがこうした力の発露に対しても現れているようだ。


「な……!?」


 そしてノージェスは呆然となる。この反応は当たり前だが、果たしてしっかりと認識してくれるのだろうか。


「この魔力は――」

「ご認識して頂き助かります。そう、私は――」


 女神、と口にしたところでノージェスの口が完全に止まった。疑問はいくらでもあるだろう。なぜ女神がこんな場所に存在しているのか。そしてなぜ自分の下にいるのか。


「この場にいる騎士エリナとシアナは、私の部下です……彼女達が来たということは、いよいよ作戦を始める必要が出てきたということ」

「作戦……?」

「はい。あなたの弟であるデインに対し……裁きを下す」


 裁き――その言葉でノージェスはつばをゴクリと飲み込んだ。


「彼は、街を発展させる中で大きな過ちを犯しました。手に入れた富を用いて、様々な者達と手を組み魔族の力を得て、世界に暗闇をもたらそうとしている」

「それを裁くために……?」

「はい、そうです。女神自身がなぜ、という点はあなたもお疑いすることかと思いますが、逆に言えば私のような女神という存在が出る程までに、彼が罪を犯したのだと認識してもらえれば結構です」


 ――こう言ってしまえば、デインに対しノージェスは擁護できなくなるだろうな。実際彼はナリシスの言葉を聞いて委縮すらしている状態。


「あなたに、力を授けます……無論私達も助力を致します。どうか、族長デインに裁きを与える機会を」

「……それは」


 沈鬱な面持ちでノージェスは返答する。首を振るような真似はしないが、やはり縁を切っても血が繋がっているのは事実であり、判断が迷うところだろう。


「あなたが不安に思っていることは、全て私がどうにかしましょう」


 そこへ、後押しするべくナリシスが続ける。


「大義は魔の力を手に入れ悪を振るう存在の裁き――そして、この街に暮らす方々は私がお守り……なにより、デインも支持を失いたくない以上殺めるような真似はしないでしょう。さらに、必要とあらば新たな増援を――」

「いや……大丈夫ですよ」


 敬語となり、ノージェスはナリシスへ応じる。


「なるほど……あなたは、私がデインを討てるかを見定めるために、取り入ったというわけですか」

「半ば騙すような真似をしてしまったことは謝罪しましょう……しかし、これも魔の力を所持するデインを倒すため」

「……デインは、どうなります?」

「一番気になるところでしょうが……裁きといっても、滅ぼすようなことはしません。どのような形になるか戦いの情勢により断言できませんが、私達が滅さないことだけはお約束します」

「……デイン」


 俯くノージェス。彼としては不本意、ということなんだろうな。自身が縁を切られこうして追われるような身になっているが、やはり弟なのだろう。


「なぜ、デインはそのような真似を?」

「私にもわかりません……それを解明することもまた、私の役目」

「むしろ、あなた方にとってはそちらの方が重要なのでしょう?」


 鋭く問い掛けるノージェス。核心を突いた質問だが、どう答えるのか――


「はい」


 対するナリシスの答えは、ひどく明瞭。どうやらウソ偽りなくいくらしい。


「デインに技術を提供した輩がいます。証拠も私達が保有しておりますが、正体は掴めていない。そうした者達を打倒するために、私達は動いているのです」

「天使や神々の力では、捕捉できないと?」

「私達は確かに人間やあなた方と比べても優れた力を所持しているかもしれない。しかし、万能ではありませんからね」


 ……これ、結構踏み込んだ内容を喋っているようにも思えるんだが、大丈夫なのか? 神々の品格とか、そういうの――

 胸中で色々考えていると、ノージェスは一度顔を伏せた。


「……わかりました」


 加えて頷き、今度はため息をつく。


「なぜこんな真似をしたのか……」

「それもまた、私達が解明すべき点ですね」


 ナリシスが応じた直後、ノージェスは難しい顔を見せた。それまでの若々しいものと異なり、これまで長い年月生きてきた相応の、深い顔。


「……話を聞いていると、主役はあくまで私達、ということでしょうか?」


 ノージェスは踏み込んだ内容を訊いてくる。それにナリシスは頷いた。


「魔族の力を手に入れたデインは、私達を大いに警戒しているでしょうから、姿を現せば証拠などを隠される可能性がありますからね……それに」

「それに?」


 聞き返したノージェスに対し、ナリシスは一拍置いて告げる。


「このようなケースは、デインだけではありません」


 断言した直後、ノージェスの顔が引き締まった。


「その様子であれば、気付いたようですね……そう、同様の事態が世界各地で起きている。すなわち、神々またそれに準じて動いている。魔族に私達が動いていることが伝われば、相手がどう動くかわかりませんし、場合によってはこの世界に被害が及ぶ可能性も……だからこそ現段階で正体を見せるのは避けたいいというのが、私達の見解です」

「……魔王との、戦争を?」


 やや掠れた声でノージェスは問う……事情を知らなければ緊張感のあるシーンなのだが、女神の隣に魔王がいる状況を認知している俺としては、大丈夫だからと心の中でツッコミを入れる他なかったりする。


「そこまではわかりません。しかし、魔王が私達を打倒するため新たな手段を模索している可能性がある。よって、それを知るために私はまだ公に立つべきではないのです」

「……事情はわかりました。つまり今回は、あなた方の隠れた助力の下、私がデインを打倒するということですな」

「はい」

「しかし、一つ質問が」


 ノージェスは次に俺へと視線を移す。これまで触れられなかったのが逆におかしかったと言うべきか……あまりの話題に忘れていただけかもしれないけど。


「あなたは先ほど、女性二人については部下と言った。そうすると、彼は?」

「彼は正真正銘、勇者です。名をセディ=フェリウス……あの魔王軍幹部ベリウスを破った存在です」

「……そうか、君が」


 目を細め告げるノージェス。俺は小さく頷くと、ナリシスがさらに続ける。


「そうした功績から、我らは彼を魔王に対抗できる存在とするために、進んで協力を申し出ました。さらに彼はマヴァスト王国の騒動も片付けた……これもまたデインが関係している事件と推測され、彼もまた今回裏方に回ることになります」

「そうですか。事情はわかりました」


 頷いたノージェスは、表情を会話が始まる前のものへと戻し、告げた。


「デインの所業は、いずれこの街に牙を剥くことになるのでしょう……私も、協力致します」

「ありがとうございます」


 微笑み、ナリシスが礼を述べる――かくして、エルフ、女神、魔王、勇者という摩訶不思議なメンバーで、クーデターを行うべく活動することとなった――


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