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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
賢者打倒編

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女神への説得

 エーレから目的を聞かされた女神ナリシスは、目を白黒させて問い掛ける。


「え、ちょっと待ってください……もしや、それが目的でアイストの森を訪れたのですか!?」

「そういうことだ。最初、ノージェス殿に魔族であることを示し、上手くクーデターを行うよう仕向け情報を手に入れようと考えていたのだが……女神ナリシスがいるとなれば、方針を変更した方がよいだろう。ノージェス殿に対し説得できる成功率が上がり、さらには情報を手に入れる可能性も高くなるだろう」

「いやあの……性急ではないですか?」


 ずいぶんと慌ててナリシスが反論する。しかしエーレは首を左右に振った。


「むしろ遅すぎたと私は考えているくらいだが……現在、どうにか犠牲者を出さずにいるが、ここで食い止めないと大変なことになるぞ?」

「それは、わかっていますけれど……」


 言葉を濁す女神。当然と言える。いきなり魔王が現れて「クーデターに協力してくれ」と持ちかけられれば、どんな相手だって驚くだろう……いや、アミリースとかなら「いいわよ」と軽く答えそうだ……まあ、そこは置いておこう。


「私としては、できるだけ速やかに情報を手に入れ対応策を考えたい……無論、アイストの森に問題が起こらないよう処置はする。場合によっては全て魔族の仕業にすればいい。それならアイスト全体の意識統一も速やかにいくだろうし、何かあっても混乱が早期に収束するだろう」

「外部に敵を作れば、森全体が一つになるというわけですね」

「組織心理上、当然の話だな」


 エーレは笑みを浮かべる。確かに言っていることは正しいと思うのだが……さすがにナリシスも、首を縦に振らない。


「事情はわかりましたが……もう一つ質問が。私達だけで行動すると?」

「当然だ……それに、首を振られても私はやるつもりでいる」


 強い口調で語るエーレは……突如、笑みを含みのあるものへと変えた。


「言っておくが、私達が魔族だと知れれば、かなりの大事になる……最悪先ほど言った手段を用いるが、できるだけ漏らさないよう配慮はする。ただ一つ問題がある。あなたと知り合いだと、私達は言ってしまった。つまり、ここで協力してもらわなければ、あなたまで魔族扱いされることになる。あなた自身、本意ではないだろう?」


 なんか、女神を脅している感じじゃないか? これ、問題にならないのか?

 内心の不安をよそに、今度はナリシスが口を開く。


「……クーデターを行わせる理由の確認をしますが、私が女神としてノージェス様の目の前に姿を現し……族長デインが悪逆非道なことをやっていると伝えた後、女神側も打倒を協力すると持ち掛けるわけですね」

「そうだ。いくら神々と干渉をしないエルフとはいえ、神々の実力については一目置いていることだろうし、その主張が正しいと思うだろう。通用するはずだ」

「それで私が潜入していたのは、ノージェス様が神々の協力を得るに足るかというのを計っていた、とでもいえばいいんですね?」

「そういうことだ……協力してもらえるのだな?」


 確認するようにエーレは問う。それにナリシスはなおも悩んでいる様子。


 ここでナリシスが首を左右に振っても、エーレの意志は変わらないだろう。しかし予定通りの策を実行するのは、女神の存在もいることから不都合が生じる可能性もある……それ自体エーレも把握しているし、そういったリスクを彼女だって避けたいはずだが……ここはナリシス説得のために押し通る構えということだろうな。


 沈黙が、部屋の中を包む……俺としてはどう応じるのかで内心ハラハラしていたのだが、やがて――


「……魔王の助言を聞き入れるというのは、大いなる真実を知っていてもあまり気の良いものではありませんが、あなた方には私の身内から出た問題を解決してくださった恩があります。協力しましょう」

「ありがとう」


 礼を述べるエーレ。こういう礼を示す態度が自然と出るのは、魔王としては奇妙極まりない……が、よくよく考えると魔族と接し奇妙に思わなかった方が少ないので、ある意味当然と言えるのかもしれない。


 ナリシスはそれに憮然とした表情を示しつつ……視線を、俺に向ける。


「それで、あなたは?」


 そして俺へ質問。なので、とりあえず自己紹介。


「……勇者、セディ=フェリウスと申します」

「勇者……なるほど、あなたがアミリース様の言っていた管理の協力者」


 話はきちんと通っているらしい……そこで、今度は彼女が改めて自己紹介をした。


「申し遅れました。私の名はナリシス=アージェルガント。神々の中で大いなる真実に対する管理をする女神であり……階級的には、アミリース様より下です」

「ああ、はい」


 頷いた俺はまじまじと彼女を見る……風貌だけでなく、アミリースと初めて会った時に感じた雰囲気はない。わざと気配を隠しているのだと思うが……外見からは、女神だと想像もつかない――って、当たり前か。


「勇者様を引きつれているということは、何か意味が?」


 ナリシスが行う質問の矛先は、再度エーレへ。


「この方に、重要な役目が?」

「いや、単に管理について教えている内に、こういう形となった。成り行きに近い」

「そうですか……セディ様も大変なのですね」

「こういう形で世界を守ると決めた以上、当然です」


 俺は自分の意志を口にした。するとナリシスは大いに驚く。


「ふむ、やはり大いなる真実を知りつつ活動する勇者は変わっていますね」


 そんな評価……わからないわけでもないけどさ。


「そしてアミリース様より合格の認定を受けている……ふむ、個人的には私達と共に働いてもらえないかと交渉するところなのですが――」

「女神ナリシス」


 名を呼ぶのはエーレ。その声音はずいぶんと刺々しく、ナリシスは虎の尾を踏んだとだと認識したのか、僅かに苦笑し、


「……では、作戦に移りましょう」


 話を変え、いよいよ本題へ――


「ちょっと待った」


 そこで俺は声を上げる。


「エーレ達に確認だけど、彼女と話を合わせるということでいいんだよな?」

「そうだな」

「そうなりますね」

「……そうなると、俺はともかくエーレ達は女神か、天使か……神々に関連する存在のフリをするという解釈でいいんだよな?」


 話を合わせるために確認しておいた方が良いだろう……その問い掛けに、エーレは当然そうに頷いた。


「当たり前だ。無論力を発露すると魔族であることがバレるため、あまり派手な戦闘はできなくなるが」

「それは現時点で魔族として姿が現せない以上、変わらないと思うけど……わかった、俺はそれに従う勇者という設定にするから」

「……良いのですか?」


 ナリシスは不安そうにエーレに問う。すると、


「神々を演じることにプライドなど感じていたら、こんな仕事なんてできんよ」


 肩をすくめてエーレは語る。するとナリシスは途端に表情を改める。


「……見習わないといけませんね」


 今回の作戦についてあまり気を良くしていなかったのだが……それを反省した様子。

 それから彼女は、改めて俺達へと告げる。


「では気を取り直して……作戦を、開始します」


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