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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
賢者打倒編

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至った結論

 エーレから立案された策を、俺は少しばかり考えてみる。クーデターに乗じてということについて、果たして成功するかどうか。


 少なくともそれを実行する際、俺達が関与しているという点については一片たりとも露見してはならないだろう。これは正体を明かす以外の策もそうだが、この場合は特に……加えて、クーデターの理由はあくまで「この街の中における騒動」としなければ、技術に関する資料などを隠してしまう可能性が高い。


 資料奪取を目的とする場合、常に証拠隠滅の可能性が存在するのだが……まあ、デインに直接訊くというやり方はできなくもないため、決して成果がないとは言えないだろう。ただ、


「でも、俺達が参戦してクーデターをさせる気にできるのか?」


 一つ懸念を上げると、エーレは頷いた。


「私達の正体を明かせば簡単だろう。そして奴が魔族に歯向かう意志を明確に示している旨を伝えれば、理由としては上等だ」

「結局正体を晒すのか……けど、それをやったらクーデターを行うエルフ達から情報が漏れるんじゃないか?」

「協力することを引き換えに、口外できない魔法を掛ければいい。こういうのは契約魔法に近いため、相手の同意が得られなければ成功しないのだが、こちらの策なら容易にできる」

「ああ、そうか……ちなみに、記憶は消せないのか?」

「エルフの魔力は特殊だからな。できないこともないが、人間と異なり下手をすると廃人同然にしてしまう可能性があるため、あまりやりたくない」


 ――こちらの情報が漏れる可能性は低いというわけか……ふむ、作戦実行中に俺達の存在をデインに知られないよう配慮する必要は出てくるが、俺達が提示した案よりは情報を手に入れる可能性は高いのは間違いなさそうだな。


「街の者達については……例えば私達の糧だとかなんとか言い、殺さないよう命令するとかできるからどうにかなるだろう。ただ多少なりとも混乱は発生するが……」

「騒動を引き起こす以上、仕方ないだろうな。で、俺達は悪役に徹するというわけだが……俺は、ベリウスとして活動するのか?」

「その方が都合としても良いだろうな……どう思う?」


 エーレは俺達に尋ねる。そこでシアナと一度目を合わせ、


「……私は、他の策よりは確実性が高いと思います」


 シアナが言う。賛同に近い意見だ。


「街に暮らす方々のことは、私もあまり心配していません。そもそもクーデターを行うにしても、成功した後人々の支持を得なければなりませんし、族長の意を唱えている方々は元々ここに住んでいた者達……ひどいことはしないでしょう」

「その辺りも相手を見極め、対処すればいいだろう……ともあれ、シアナは賛同のようだな。セディは?」


 エーレは俺と視線を重ねた後、小さく笑った。


「セディとしては、後ろめたい気持ちがあるかもしれないな」

「え……?」

「族長デインは、確かに問題のある行動をしているし、間接的にマヴァスト王国へ多大な被害をもたらした……が、歪みが生じているとはいえ、この森を発展させてきたことは事実であり、善行を重ねている存在と言うこともできる。つまり私達は、そうした相手に対し策謀を巡らし、叩き落す真似をするということであり……言ってみれば、悪だくみだ」


 そこまで言うと、エーレは肩をすくめた。


「勇者の物語としては、あまり良い展開とは言えないな……例えば内側から敵を崩すために潜入するということはあっても、まさかクーデターをそのまま成功させるなんて展開は、あまり見ないからな……」

「けど、これが結果として人々のためになる……か?」


 質問すると、彼女は首をすくめた。


「街の者から見れば、多大な混乱を呼び起こし戸惑う他ないだろうし、森がどうなってしまうのか、少なからず不安になるだろうな……そういう観点からすれば決して良い選択とは言えないな」

「となれば、大いなる真実に基づき活動しているエーレにとっては、あまり望ましくない策なのか?」

「……私は、資料を手に入れるにはこうした策が良いと思い、私達が追っている事件の解決が早くなるため提示したのだ。デインを族長という地位から引き離せば、彼自身から色々情報を取れるため、事件の真相に大きく近づく……そしてそれは」


 と、エーレは一拍置いた後、俺へ告げた。


「以前から言っているだろう? 私の行動原理はひどく狭い……今は、セディがやろうとしていることに対する障害を排除するべく、首謀者の正体を掴むべく行動している……ただ、それだけの話だ」

「なるほど、な」


 人々というより、俺のことを考えてやろうとしているわけか……無茶苦茶と言えばそうだが、不快な気分ではないな。


「さて、セディ。回答としてはどうだ?」


 エーレが再度問う。それに俺はまず、周囲を見回した。

 繁盛する食堂は、時折笑いが起こるような状況ではある……ここだけ切り取ってみれば、俺達が混乱を呼び込む理由はないかもしれない。しかし、


「……あの、子供」

「ん?」

「ああした存在が大通りに姿を現すということ自体、あまり感心したものじゃないな」


 別にそれだけが理由ではないのだが……俺は切り口として、そうエーレに言った。


「それにエーレが言った通り、デインはマヴァスト王国の人達を脅かした存在に加担している……まあ、俺達が手を出さなかったらあの騒動は起きなかったと考えることもできるんだけど、ヴランジェシスの言葉を聞けば、いずれああして攻撃するつもりではいたんだろう……見かけ上罪は無いとしても、俺はデインが今後人々に災いをもたらす存在だと、考えている」

「そうか……なら、いいな?」

「ああ」


 頷いて見せた俺。それに同調するかのようにシアナは頷き、エーレもまた俺の返答に満足した様子。


「ならば早速、明日から行動を始めよう……まずはデインの取り巻く状況についてだな。交友関係などを調べていけば、おのずと付け入る隙が見出せるはず」


 エーレの言葉に、俺とシアナは同時に頷いた……明日からは情報収集を開始するということになりそうだ。


「さて、本題はこのくらいにして食事を始めよう。長々と話をしていたが注文すらまだだったな……ほう、メニューかすらするとここは肉料理がメインのようだな」

「エルフの暮らす場所で肉類ってあんまりイメージないけど……まあいいか」


 そんな風に会話をしつつ、俺達は注文を始める……気付けば近くにある窓の外は暗くなり始めていた。


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