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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
賢者打倒編

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魔王からの案

 神殿を訪れた後、俺達は多少の散策の後適当な宿に入った。時刻は夕方近くとなり、一階が食堂ということで部屋に入る前に早めの夕食をとることにする。


「なあエーレ。大丈夫なのか?」


 席に着くなり俺が言う。ここの宿に関する費用はエーレが払うということなのだが――


「セディ……財政的にあまり良くないというのは把握しているようだが、いくらなんでもそこまで貧窮していないぞ?」


 エーレの回答はそれ。確かに、いくらなんでも失礼か。


「ただ予算をそのまま持ってくることはできなかったため、今回は私の自腹だ」

「……どのくらい持っているんだ?」

「心配するなと言っているだろうが」


 エーレは半眼になりつつ言う……なんだかその表情がおかしく新鮮で、吹き出しそうになったのだが――どうにかこらえる。

 ただ、彼女の言った通りだとしても、疑問が。


「それだったら何で一部屋なんだ?」


 俺はもう一つの問題について言及……実は、エーレがとったのは三人部屋。値段的に部屋を二つとるよりそっちの方が安かったというのもありそうなのだが。


「そ、そうですよお姉様……セディ様については別の部屋でも」


 シアナがここで告げた……のは、きっと俺と一緒の部屋ということで色々思う所があるのだろう。これまでカレンと同室だったからな。


「ん? 念の為三人で固まっていた方が良いだろう?」


 対するエーレの理由は、ひどく現実的だった。


「襲撃される可能性など、街に混乱が生じるためゼロに近いとは思うが、敵である以上何かしてこないとも限らない。警戒する必要はあるだろう」

「そういう現実的なことから三人部屋にしたのか……」


 俺は納得しつつ口に出すと――エーレは小さく肩をすくめた。


「まあ、ほら、なんだ。安かったというのもあるが」


 ……最後で台無しになった気がする。


 ただ、色々考えた結果至った結論という感じなので、俺もとやかく言えない……別に仲間内なわけだし、意識しなくても――


「ところでセディ」

「……どうした?」

「一応、私達は女性なわけだが……」


 面倒な方向に話を持ち込もうとしている。


「……それ、質問されて俺はどうコメントすればいいんだ?」

「む、逆に訊くのか……確かにセディにとっては、どう返答しても厄介事になりそうな質問だったな」


 俺の心を読むようにエーレは言う。対するシアナは、なんだか困った顔つきで俺とエーレを交互に見ている。


「わかった。この話は無しにしよう……あ、ただ一つ言っておきたいのだが」

「どうした?」


 聞き返すと、エーレは薄い笑みを俺へと向けた。


「私は何かしていても、寝たフリをするつもりでいる」

「……お姉様」


 シアナはがっくりと肩を落とした。完全に呆れ果てているような様子。


「もう少し任務に集中してください……」

「そんな顔をするな。冗談だよ」


 涼しい顔で返答するエーレを見て、俺は本当に彼女が魔王なのか疑ってしまうくらいなのだが……何も言わないことにしよう。

 のっけから脱力する会話で始まったため、俺とシアナは注文もせず沈黙。そこで、エーレは改めて切り出した。


「さて、注文の前にこれからのことを簡単に話し合おう……私の中で考えている案は二つあるのだが、セディとシアナは案はあるのか?」


 ――彼女の質問に対し、先んじて反応したのは俺だった。


「密かに神殿内を散策するくらいかな……」

「あなたの魔法を使って、だな」


 それにエーレは小さく頷き、


「それもまた一つの手だが……わかっていると思うが、エルフは人間より魔力が多い以上、女神の武具もそれだけ通用しにくくなっている。あなたの気配を消す魔法を使えば兵士くらいなら誤魔化せるはずだが、族長クラスとなればその限りではないだろう」

「そうかもな……だとすると考え付くのは、寝静まった後とかかな……? けど、それこそリスクは相当なものだし、あまりやりたくないな」

「私は同意ですね」


 ここでシアナが発言する。


「私が浮かぶ案としては、族長の周囲にいる面々……つまり、この場合事件と関わりのあるエルフということになりますが、彼らをどうにか丸めこみ確実な証拠を見つける、といったところでしょうか……もし族長だけが事件首謀者と荷担しているのなら、この策は失敗に終わってしまいますが」

「別の意味で面でリスクがあるな」


 俺はボヤくように言うと、腕を組む。俺達が示した方法は、一長一短。敵はこちらが探っているとわかれば、すぐに完全に身を潜めてしまうだろう。だからこそ露見や失敗は許されない状況であり、その状況下で取れる策としては、あまり良いものではない。


「ふむ、二人の手段も確かに考えた……が、正直首謀者の尻尾を掴むのには難しいかもしれない」


 エーレが言う。俺とシアナは同時に彼女へと視線を向けた。


「二人の言っていることは、手段はどうあれ族長に見咎められないよう資料を手に入れるということに集約されるだろう……しかし、そう都合よく資料が存在している可能性は低い上、族長自身をこちらが懐柔して情報を聞き出す、というのも難しい」

「確かに、向こうは既に警戒しているわけだからな」

「となると、方法としては二つだ……一つは」


 と、エーレは机の上で手を合わせながら語る。


「族長に、私達の正体を告げる」

「……は!?」


 思わぬ内容に、俺は声を上げた。


「正体って……!?」

「私やシアナのことを、だ。そこで相手は考えるだろう……身近に脅威が迫っている。それを対し、どうやって抵抗するのか」


 ――そういうことか。エーレは自分が魔王であることを明かし、その上で相手から情報を引き出そうというわけだ。


「ヴランジェシスが大いなる真実を知っていた以上、彼もまた把握していると考えて良いだろう。となれば、自身の脅威に対し先手を打ったという私達の存在も、すぐに理解するはずだ」

「しかし、かなり性急ではありませんか?」


 シアナが問うと、エーレは深く頷いて見せる。


「無論、デメリットも多い……私達の存在を把握してなお反抗の意志があれば、敵に私達が動いていることを完全に理解されてしまう。となれば敵は間違いなく身を潜める。そして次に現れた時、取り返しのつかない程力を得ている……などという可能性も否定できないな」

「それに、族長からどれほどの情報が聞き出せるのかも問題だな」


 エーレの言葉の後、俺が続く。


「技術供与しているのはほぼ間違いないと思うが……だからといって首謀者と強い協力関係があるかどうかも、保証できない」

「そういう懸念もある。だから結果は大失敗に終わる可能性がある、賭けに近い策だ」


 淡々とした口調でエーレは返答。感情を排し事実だけを延々語っているような雰囲気。


「そして二つ目の策だが……これは、おそらくアイストの森全体に大きな混乱をもたらすことになる。さらに秩序を維持するという私達の活動を真っ向から否定するものであるのだが……メリットも大きい」

「……どういうことだ?」


 俺が訊くと、エーレは説明を開始した。


「もしこの策が成功したならば、この場所に存在する敵にまつわる資料は間違いなく発見できるだろう。加え、族長自身とも話を大いにできること間違いなしだし、上手くやれば私達の存在が露見せずにすむ」

「……具体的に、どうするんだ?」


 いいことづくめのやり方だが、先ほどのデメリットを考えるに、相当大事になりそうな気がするのだが――


「現在アイストは貧富の差が拡大し、なおかつ旧来のエルフ達は族長に反発している所だろう……おそらくだがそうした勢力も一定いて、族長を倒すべく動いている可能性が高い」

「……あの、まさか」


 シアナが何を言いたいのか気付き声を上げる。それにエーレは、深く頷いた。


「理解できたようだな……そう、彼らに接近しクーデターを行わせる。これなら神殿内に堂々と潜入し、自由に資料を探すこともできるし、捕らえた族長に尋問することだってできるだろう」


 発せられたのは、荒っぽい内容……さすが魔王、考えることが違うと思った。


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