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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
賢者打倒編

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神殿の賢者

 街の中央にある神殿は間近で見ると、改めて異様なまでに白いと感じる。魔法か何かで加工しているだろうと推察しつつ、俺達は神殿前に到着した。


 荘厳美麗な白い柱と屋根が本殿を囲うように形成されており、柱の前には先ほど見かけたエルフと同様の装備をした兵士が立っている。白い柱を超えるとこれまた白い建物が見え、両開きの大扉とその左右にはまた兵士。


 よくよく見ると兵士は神殿を取り巻くように、かつあまり目立たないように見回りをしている。人数から考えると、何かに対し防衛しているような雰囲気も感じられる。


「――止まれ」


 兵士が神殿へ行こうとする俺達を呼び止める。そこですかさずエーレが進み出て、


「マヴァスト王国騎士、エリナと申します」


 自己紹介。偽名を使うらしい……エリナね。憶えておこう。


「此度は族長、デイン様へお目通り叶いたく思い、参らさせていただきました」


 うやうやしく一礼したかと思うと、流れるような動きで書状を差し出す。


「是非こちらを、デイン様に」

「……待っていろ」


 兵士は一瞥すると書状を受け取り、俺達から離れて行く。


「マヴァストの名前がある以上、無下に突き返すこともできないでしょうね」


 その間にシアナが横で、俺に小声で解説する。


「アイストの発展には大なり小なりマヴァストという国家の存在があります。交易という形で多くの資材が投入された実績もありますから……」

「なるほど、マヴァストに頭が上がらないわけだ」


 俺が納得すると同時に、兵士が戻ってくる。


「書状の件を伝えると、中へ入って欲しいとのことだった」


 やや尊大な物言いだが、エーレは「わかりました」と涼やかに答え、歩き出そうとする。


「……後ろの二人は、同行者か?」


 だが兵士は俺達を見て呼び止めた。


「見た所、騎士ではないようだな?」

「その点は書状に記載してありますが」

「……わかった。それでは本殿に入り一番奥の部屋に行ってくれ」


 そう言われては兵士も頷かざるを得ず、エーレの言葉によって俺達も本殿へと歩みを進める。


 大扉を抜けると、そこは金やら白銀やらがそこかしこに目立つ、ずいぶんと豪華な廊下だった。必要ないのに装飾品が置かれ、なおかつ絨毯ですら所々輝いている。過剰装飾だと断言できるし、贅沢を尽くさんばかりの光景にここにいるのは本当にエルフなのかと疑ってしまう。


「金というのは恐ろしいものだな」


 本殿に入り、見張りの兵士に聞き咎められない程度の声量で、エーレは呟いた。


「族長であるデインもまた、それに憑りつかれ発展しようと思ったのかもしれんな」

「……そういう目的があるとすると、混乱を呼び込むような実験には関与しなさそうな気もするけど」

「結論は置いておこう……さて、到着だ」


 兵士に言われた一番奥の部屋に到達。ワインレッドの扉で、エーレがまずはノックをする。


「失礼します」


 言葉と共にエーレが入る。続けて俺とシアナが入ると、そこもまた様々な調度品が置かれた場所だった。

 部屋としては、執務室とでもいえばいいのだろうか。形は横幅のある直方体で、扉から真正面に位置する場所に、目的であるエルフが執務机越しに存在していた。


「どうも」


 対するエルフ――デインはずいぶんとフレンドリーに応じる。

 格好はシアナと同様白いローブ……髪は金髪、瞳は青。そして尖がった耳と……何から何まで、多くの人々が想像するエルフ。


 そうした彼は椅子に座りエーレの渡した書状を読んでいた。


「ようこそ、アイストの森へ……私の名はデイン=エッド。書状に目を通し内容は把握しています」

「マヴァスト王国騎士、エリナ=シャドットと申します」

「どうぞ」


 エーレが自己紹介をした後、彼は手で示す――その先は、俺達の正面。向かい合うようにして存在する、五人は余裕で座れる黒革のソファ。

 彼は立ち上がるとそちらへと歩む。俺達も彼に呼応するように移動し……エーレは中央。右に俺、左にシアナが座り、デインはエーレと目が合うように座った。


「マヴァストの一見……こちらも概要については把握しておりました。相当な事件だったようで」

「ええ。死者が皆無に近かったことは、奇跡と言って差し支えないでしょう……それであの一件ですが、私達は西側の手の者だと判断致しました」

「西側……なるほど」


 デインはエーレと目を合わせながら小さく頷いた。


「その線かもしれないですね……そしてここに来たのはなぜですか? 書状には書いてありませんが」

「はい……今回、私達はどうにか犠牲者を出さずに済みました。けれど再度襲撃された際、同じように立ち回れるとは思えません」


 そう言うと、エーレは俺とシアナを手で示す。


「今回、同行者として事件に関わったお二人に同行をお願いしました……そして、彼らの働きがあったからこそ死者がなかった。だからこそ、私達は今度こそ国の騎士として戦える力が必要だと認識し、今回協力を頼みに来た次第です」

「ふむ……そうですか」


 デインは俺とシアナを値踏みでもするように一瞥する。


「二人は、その敵達の脅威を伝えるために?」

「はい……他の仲間は現在城に控えています……今回、私自身直接戦うことができなかったため、詳しい話をお二人から伝えてもらおうと思いまして」

「そうですか……お二方のお名前は?」


 来たか――俺は全身に僅かながら力を入れつつ、エーレ達の会話を聞く。


「彼の名は……勇者セディ。そしてもう一人、仲間であるシアナ」


 解説した次の瞬間――デインの目が僅かに細まり、俺とシアナへ再度視線を送る。


「ほう……彼が、事件の解決に貢献したということですね?」

「はい。最前線で戦っていたため、無理をお願いして今回――」

「なるほど、用件はわかりました」


 エーレの言葉を遮るようにして、デインは応じた。


「事情は、改めてお伺いすることにしましょう……おそらく長い話になるかと思いますが、私自身この後予定をが立て込んでおりまして」


 急に話を締めるような方向に持っていった……何かあるのか?


「私は陛下の命を受け、この場にいます。できれば返答が欲しいのですが……」

「協力は致します。とはいえここではどのような対策をするか決めるのも難しいでしょう……ひとまず王へは書面を作成しますから、それをお渡しください」

「……わかりました」


 エーレは納得のいった表情というわけではないが、同意した。

 急に話をたたみ始めたことは……俺達の名を聞いたためだろうか? それとも、本当に長くなると思ったからなのか。


「書面作成については、どの程度必要ですか?」

「一両日中には……私自身予定もありますから、さすがに今日中というのは無理ですね」

「わかりました。では待たせてもらいますが……」

「そうですか。けれど申し訳ありませんが、本殿であなた方を宿泊させる余裕が無いのですが」


 余裕が無い……なんだか嘘くさく思えるな。話をまとめ始めたことから考えて、何かあるとみてよさそうだ。


「それなら街で宿を求めることにします」


 エーレの言葉にデインは「わかりました」と答えた――仮にも王国の使者なのだから、歓待とまではいかなくともそれなりの応対はするものだが、彼の場合は目の前からすぐにいなくなって欲しい、という空気がそこかしこに感じられた。


 態度から考えて、彼はクロだと考えて良いのだろうか……いや、ここまで露骨だと逆に疑わしいような気も――


「二人とも」


 エーレが立ち上がりつつ声を掛ける。俺とシアナは同時に立ち上がり、デインもまた席を立つ。


「良い返事を期待しております」

「はい」


 エーレはデインと短い会話をした後、移動を開始。俺とシアナがそれに続き部屋を出て、それから本殿を抜けた。

 全員無言で歩き続ける。そして神殿を後にした時……ようやくエーレから声が。


「二人の名を口にした途端、警戒の気配を感じ取った……ボロを出さないよう務めていたのかもしれないが、私にはバレバレだったな」

「気配、というと魔力の?」


 問い掛けると、エーレは小さく頷いた。


「そうだ……しかもあれだけ帰って欲しいのであるなら、やはり隠し事をしていると考えても良いだろう。確証こそないが、彼が協力者と考えていいな」


 エーレは言うと、一度神殿へと振り返る。合わせて俺も眺める。見上げくらい大きな、迫力を伴い鎮座する建物。


「さて、宿をとるとしようか……夕食の時にでも、作戦会議といこう」


 エーレは気を取り直して提案。俺とシアナは一度互いに視線を交わした後頷き、神殿から遠ざかるように大通りを歩き始めた。


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