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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
賢者打倒編

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賢者という存在について

 ここで、エルフに関する話をしておこう。


 俺達人間とは異なる亜人種というのは、世界には結構いる。その中で特に有名なのが人の形を成して活動できる新竜と、エルフだ。


 特に『賢者』と呼ばれ、知的なイメージが付きまとうエルフは人間達にとっては羨望の的と言える。多くの人間によってイメージされている姿は、サラサラの金髪に白い肌。そして人と比べ尖った耳……なのだが、それが多いというだけであって、人に様々な特徴があるように、エルフにも色々と種類がある。


 際立って特徴的なのは、手のひらサイズの小人だろうか……エルフから言わせれば種族の違いらしいのだが、人から見れば全く違う種族としか思えない。


 他にも肌の色が異なっていたり、別に耳が尖っていなかったり……傍から見れば人間と同じような特徴を持つエルフだって存在する。こうなってしまうと見分けはつかなくなり、人が判別するのは困難だ。実際俺もそうした人間に近い容姿を持ったエルフというのに幾度となく出会ったことがあり、考えていた概念が覆された経験がある。


 道中エーレ達に尋ねると、魔族の場合は一定のイメージは持っていないようだった。まあ俺達人間のイメージは人間の書いた物語を元にしているので、イメージを持っていないというのは至極当然なのかもしれない。


「ですが、人間にとって共通している認識が一つありますね」


 森へと入った直後、シアナが言った――森は多少草が生えていながらも道は存在しているため、移動には一切困らない。


「人々は口をそろえてエルフ達を『賢者』と呼びます」

「そうだな……小人のエルフは人へ悪戯したりするけど、多大な魔力を保有し魔法を自在に使えるというケースが大半だ。そういうイメージがあるからこそ、人々はエルフを高貴な存在だと考えている」

「長命というのもまた、一つの理由かもしれませんね」

「そうだな」

「命が長いのは、大した理由ではないだろう」


 切って捨てたのは、前を歩くエーレだ。


「生まれつき人よりも魔力を多く保有していて、体の維持ができるため老化が無い。これだけだ」

「見も蓋もないな……ま、俺達が一方的なイメージを抱いていることだから」

「人間は、誰しもそうした見解を抱いているのか?」

「エルフに接したことが無く、なおかつ物語だけを読んでいる人ならそういうイメージだと思うよ。人間もエルフと商売なんかで接することはあるし……そういう人は範疇から外れるんじゃないかな」

「セディ様はどうですか?」

「俺は……色んなエルフと出会ったことがあるから、固定的なイメージは持っていないよ」


 言いつつ前方を見る。時刻は昼を過ぎている。今日は宿なんかを見つけて休むことになりそうだな。


「あ、そうだ……魔族はどうやってエルフと接しているんだ?」

「――到着前に、話しておくべきですね」


 改まってシアナが話し出す。どうも、何かあるらしい。


「まず、魔族及び神々は、基本エルフと深く干渉していません」

「なぜ?」

「人々が持つイメージである、自然に身を置くという行動原理によるものですね……彼らは自然に身を置き、魔力を感じ取る能力が他の種族と比べ秀でています。そうした中、彼らは一つのスタンスを所持しています」

「スタンス?」

「言ってしまえば、魔力などの流れは自然の流れに沿うべきというもの……例え人の営みによって乱れたとしても、人の活動自体も自然の一部であるから、放っておくべきだと考えているのです」

「ああ、なるほど。そういう見解なのか」

「はい。エルフ達はそういう教えを受けており……魔力を管理するということ自体、あまり快く思わないのです。だから大いなる真実を知る者達も、エルフとは極力干渉しませんし、領域に足を踏み入れることもありません」

「例外はあるのか?」

「無論のこと私達の行動に賛同して頂いたエルフも存在し、協力関係を結んでいるケースもあります。けれど、これは極一部ですね」

「そうか……まあ、エルフは自ら争いを起こそうということもないから、別にいいんじゃないか?」

「……セディ様、それは思い違いですよ」


 シアナは俺の言葉に指摘を入れる。


「彼らも人間と同様、戦乱を起こします……実際、長き歴史の中には、権力争いを引き起こし滅亡した一族もいました」

「そうなのか……とすると、俺達があまり干渉しなくて耳に入ってこないだけ?」

「はい。人と比べそうした欲などが少ないというのは認めます。ですけど、人以上に強い野望や欲を所持する方もいますし……あとは、人間と色々と結びついたエルフなどは、教えの範疇を超えたりするでしょうね」


 付き合う相手によって……か。なんだか人間が悪者扱いされそうな雰囲気だけど、人間達はそういうことを行い発展してきたわけで、一概に否定するのもあれだな。


「アイストの森にいるエルフ達がどうなのか……正直、深く干渉していないため私達にも判断つきかねますが、人並み以上の欲を持っている可能性は高いと思います」

「何か根拠があるのか?」

「ええ……見えましたね」


 シアナが言った時、森の道が途切れ、開けた場所へ出た。

 そうして目の前に現れたのは、まごうことなき街……森の中に、突如人が暮らすような大きな街が存在していた。


 けれど、木々を始めとして森に溶け込むような色合いをしている……なおかつ俺達の正面には綺麗な直線の道があり、それを挟むように建物が並んでいた。道は理路整然と形成されていて、俺は碁盤目状に構成されるジクレイト王国の首都を思い出す。


「……あれが、その根拠か?」


 街に一通り視線を送った後、俺は真正面にある建物に目を向けた。森と調和した建物の中で、似合わないくらい真っ白な石造りの神殿が一つ、街の中央らしき場所に鎮座していた。

 俺は頭の中でこの街を上から見下ろす想像をする。推測だが、大通りが十字に交差し、その中央にあの神殿がある、というイメージで良いのではなかろうか。


「はい。確かああした神殿は、現在アイストを統括するエルフの長……族長が建てたはずです。自然との共生を考えるに、ああした建物は必要ありませんよね?」

「エルフの一族は、信仰に近いやり方で支持を集めることが多い。あれは、そうしたものの一つだろう」


 シアナの言葉に続いてエーレが発した……信仰。なるほど、な。


「逆に言えば、ああした物を建て権威を示さなければならないという事態に陥っているわけだ……シアナ、あの建物を見てどう考える?」

「……話に聞いているより、規模が大きそうですね。力を誇示したことで自意識が肥大し、計画に加担したという可能性が考えられるでしょう」

「だな……ふむ、私もアイストの情勢を小耳に挟んだことはあるのだが、予想以上の発展だな」

「俺も詳しくは知らなかったけど……出入りしている商人の話は聞いたことがあるな」


 そこで俺は記憶から情報を引っ張り出す。


「確か、人間と色々取引することによって発展していった、という感じじゃなかったかな?」

「新たに就任したエルフの長が、人間との関わりを強め発展させたということか……ふむ、これは予定を変更し、その辺りの経緯から詳しく調べた方が良いかもしれんな」

「経緯を?」


 聞き返すと、エーレは頷いた。


「情報では確か、新たな長が就任し今年で丁度十年目だったはずだ……エルフにとって十年というのはそれほど長くない……むしろ短い。彼らの時間軸で言う短期間に発展すれば、必ず負の部分も出てくるはず」

「そうした中で、俺達が追う事件と関わりがある……という解釈か?」

「そういう可能性もあるということだ……私達はアイストの技術が使われていると知り、この森の族長が荷担している可能性を考えた。しかしこう発展すれば人の出入りも多く、また保守的な考え方のエルフなどから反発も生まれよう。だからこそああした神殿を建て権威を強めているはずだが……」

「エルフの長を打倒するために、敵対勢力が魔族の力を手に入れ族長が警戒している、という可能性もあるってことかな……」

「その辺りの見極めは、あの神殿の奥にいる族長と話をすればいいだろう。ひとまず、情報を集めべきだ」


 エーレは決議すると、街へ歩もうとする。しかし、俺はそれを呼び止めた。


「エーレ、情報収集の場合は騎士の格好のままだと目立つんじゃないか?」

「ん、それもそうだな……よし、少し待っていてくれ」


 と、彼女はすぐさま踵を返し森へと入った。少しすると、茂みの奥から藍色の地味なローブを着た彼女が現れる。


「どうだ?」

「うん、良いと思う」

「ではセディ、シアナ。行くぞ」

「ああ」

「はい」


 返事をしたと同時に、俺達は街へと歩み始めた。


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