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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
首都動乱編

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騒乱の後に

 城内の混乱が完全に静まったのは夕方になってから。茜色の空が俺達を見下ろす中で、ようやく城は事後処理を始めた。


 ただ街の悪魔を全て掃討するには時間が掛かり……俺達が腰を落ち着けたのは、翌日の昼を回ってからだった。その時まで俺は城で適度に休息をとりつつ、悪魔を倒し続けた。もっとも、その仕事の大半はシアナとリーデスが行い、ディクスは国側と折衝し上手く対応し――


「今回の戦いでこの国の損害は大きかった……しばらくの間は、ジクレイト王国と連携して軍事に当たることになるだろう」


 さらに翌日。場所は城の客室。街にいた悪魔達を倒したシアナやリーデスとも合流し、ようやく落ち着いて話ができるようになった。

 城内では怪我人の収容などが行われ、その中にはカレンも含まれていた。彼女は静養が必要とのことで、別の客室で休んでいる。作戦会議をするには、多少都合が良かったかもしれない。実際、


『……事情は、どうやら刻一刻と悪くなっているようだな』


 シアナの連絡により、エーレとも話ができている。


『そして一連の報告……まず、天使ヴランジェシスが仕えていた女神ナリシスの件だ。アミリースが事の報告をした途端、彼女は相当狼狽え、気落ちしていたようだ。彼女に対してどうするかアミリースも多少迷ったらしいが……ひとまず彼女自身は経過観察を行い、他の部下達に波及していないかを、調べることとなった』

「対象は、女神ナリシスの部下だけか?」


 俺が訊くと、エーレは首を左右に振る。


『大いなる真実を知る神々の部下達を、一度調べることにした』

「……ま、当然そうなるよな」

『これは私達も同じだ。魔族に関する技術が漏れていたとなると、こちら側にも同様の考えを持ち、賛同する者がいるということだ。それを見つけ、捕らえなければならない』


 エーレは重い声で告げる……事態は彼女の言葉通り、深刻さを増してきた。


『とはいえ、悪い話ばかりではない。私達は大いなる真実を知り管理を行っている者の犯行だと考えていたが、どうやらそういう事ではないらしい……というより、相手としては真実を知る者達を味方に引き入れるのはリスクがあると考えているのだと思う……となれば、大いなる真実を知る者達は現状敵である可能性は低い……これなら、やりようはある』

「ですが姉上。敵は相当この世界で根を張っているようですよ」


 これはディクスの言葉……それは俺も、作戦会議が始まる前に聞いていた。


「事件が起きてまだ数日……しかし、どうもおかしな動きをしている人間が、色々と出現し始めたと情報が届いています」

『私も把握している。ディクス達が掴んだ情報は、おそらくフォゴンと縁のある者だろう……そして、そればかりではない』

「それは?」

『私の手元に入って来た情報だけで、三件……魔族の力を使い騒動を起こしている場所がある。ちなみに全て、東側の国々だ』

「……敵が、動き出したってことか!?」


 俺が驚愕の声で応じると、エーレは首を左右に振った。


『こちらの動向を知ったため、本格的に行動を開始した、と捉えることもできる……が、私の見解は違う。敵はどうやら私や神々に対抗する術を研究している様子。そしてその可能性が、今回の騒動で明示された、と相手は考えたのだろう。勇者達と戦い、それなりに成果が出たからな』


 あの悪魔――確かにあの悪魔を今以上に大量生産できたなら、驚異的な戦力となるに違いない。


『とはいえ発展途上であるのは間違いなく、敵としてはまだ研究を行いたいはずだ……けれど、今回は天使を打ち破っている……ディクスの存在が露見した可能性は限りなく低いが、それでも神々が色々と調査しているのでは、などと考えている可能性は高い』

「それなら逆に、ほとぼりが冷めるまで引っ込んでいてもおかしくないですよね」


 シアナが言う。確かに研究を完成させるためには、おとなしくしていた方が良いだろう。


『そのやり方も一つだが、敵は違う選択を取ったのだろう。相手の目的は研究を発展、完遂させること……つまり、それをするために敵がわざわざどうでもいい技術をわざと目立たせているとは思えないか?』

「カモフラージュってことか?」


 俺が問うと、エーレは「そうだ」と応じた。


『おそらく敵は神々や魔族が動いているのでは、と勘繰っているような状況。だからこそわざと技術を与えた者を暴れさせ、様子を見ている……本当に動いているなら、そういう面々が暴れている者達を叩き潰しに来るだろう』

「こちら側のあぶりだしをかねているということか……なるほど」

『もし何かしら動いているとわかれば、そこから潜んでも遅くはない。目立たせている面々は十中八九外れで、こちらとしても無駄骨以上の何物でもないだろうが……凶行は止める必要があるな』

「大いなる真実を守るため?」

『ああ。それと、悪しき技術から人々を守るために』


 エーレは笑みを浮かべながら語る……改めて、人々が聞いたら卒倒しそうなセリフだ。


『私達としても、動かざるを得ないのは事実……その間に敵は、今回得た研究を発展させる可能性が高い。私達は、それを潰す必要がある』

「でも、どうやって?」


 何も情報が無いのでは……と思った時、エーレはリーデスへ告げた。


『リーデス。資料に関してだが、傭兵達が握っていた剣はこの製法で間違いないのか?』

「アレンジが施されていたケースも存在しますが、根本は同じです」

『そうか……ならば、この研究を発展させる場所が、どこだかわかる』


 それは――驚き俺が口を開こうとした時、エーレは言った。


『マヴァストから北東に進むと、大森林がある……セディもよく知っているだろう。俗にエルフの森と言われている、アイストの森だ』


 ――エーレの言う通り、ここから北東に進むと大森林にぶち当たる。そこは人間の国家が治めている場所ではなく、亜人種の一つ――エルフ達が住む場所だ。


『資料を精査した結果、この剣には非常に目立たないがアイストの技術が使われていることがわかった。ここから考えるに、敵の協力者にはエルフが混ざっている可能性が極めて高い。さらに言えばアイストのエルフは、大いなる真実を知る存在がいない。事件首謀者と接触し私達の敵になっている可能性は十二分にある』


 そこまで言った後、エーレは懸念を示す。


『しかし、動き出している面々を放っておくわけにはいかないだろう……だが魔族や神々を下手に動かせばこちらが動いていることが完全にわかってしまう……そこで、ここはジクレイト王国を介し、騒動の収拾を図ろうと思う』


 人間達の手を借りるということか……まあ、敵の目論見を考えれば至極当然の結論と言えるか。


『とはいえ、多少ながら援護はするつもりだ。アミリースと相談し、どのように動くか今後検討する……ただ今回の騒動に関わった者達は、顔がバレている可能性があるため使えないだろう』

「俺達の出番はなくなると?」


 質問すると、エーレは首を左右に振った。


『本題はここからだ……セディ、あなたにはアイストへ行ってもらいたい』

「俺に……? でも、エルフに情報が伝わっている可能性が高いだろ? 天使を打ち破ったという事実を聞けば、引っ込むんじゃないのか?」

『口実は用意するさ……今回の事件で関わり、マヴァストから依頼を請けて赴いたということにすれば、もっともだろう? セディに行ってもらうのは相手がどの程度の警戒レベルなのか……そして、私の推測が合っているのかを確認する意味合いもある』

「……場合によっては、襲撃されるんじゃないか?」

『その辺りは無論、フォローするつもりだ』


 エーレが言うのだから、まあ大丈夫か……俺は小さく頷いた。


「わかった。エーレの指示に従うよ」

『ありがとう……では、リーデス』

「はい」

『一度城へ戻り、フラウと共に情報収集を頼みたい』

「情報収集?」

『騒動が起き始めたのは全て東側の話だが、西側で色々と動いている可能性もある……西側は混沌としていて情報が上手く集まっていない。だから現地へ行って情報を収集してくれ』

「わかりました。ではすぐに西側に赴きます」

『頼んだぞ……次にシアナ』

「はい」


 返事をしたシアナに対し、エーレは少しばかり悩んだ顔を見せたが、


『……そろそろ休んでもいいのではと思っていたのだが、セディに追随する意志は固そうだな』

「もちろんです」

『わかった。シアナはセディに同行してくれ。今回の事件、セディと合わせシアナのこともそれなりに話に上っているようだから、エルフ側の反応も大きくなるだろう』

「……エーレ、俺達はどういう口実で森に行くんだ? 明確な根拠が無ければ怪しんで動いていることが相手にもわかるだろうし」


 そこで俺は一つ質問。


「カレンにも説明しないといけないし……」

『マヴァスト王からの依頼で、西側の脅威に備えエルフの協力をお願いする……無論セディとシアナだけでは怪しまれる以上、騎士を随伴させるということにしよう。二人は事情をよく知るということで同行した……それを口実として、増員する』


 ああ、なるほど。マヴァストの騎士という名目で、魔族を誰か俺達に同行させるのか。


『公的なものであればエルフ達の上層部とも話ができるし、動向を窺うことは容易だろう。そこからは、私達の腕の見せ所だ』


 エーレは含みを持たせた笑みを見せる……俺とシアナは、同時に頷いた。


『そしてディクス』

「はい」

『マヴァストの情勢も、当分穏やかなものではなくなるだろう……西側の国々が混乱に乗じて襲い掛かってくるなどとは思わないが、ひとまずこの場に留まり事の推移を見守ってくれ』

「わかりました」


 ディクスはここにいるのか……となれば、


「ディクス、カレンのこと――」

「わかっているさ。彼女のことは任せてくれ」


 自信を持ってディクスは答える。それならばと俺は頷き、


『これで、決まったな……連続の任務となるが、全員頼んだぞ』


 エーレが言う……それに、俺達は全員頷いた。


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