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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者と魔王編
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全てを決するために

 夜、部屋で机を挟んでフィンと簡単な話し合いを行う。議題は当然フォシン王からの誘い。得た結論は、行ってみないとわからないということだった。


「で、セディ。王様の所にはいつ行くんだ?」


 フィンは葡萄ジュースの入ったコップに口をつけながら尋ねた。


「明日にでも行くよ。早い方がいいだろうし」

「そうか。気を付けろよ。言っておくが、死ににいくような真似はするなよ」

「前にも言われたな、その言葉」

「当然だろ。実際無茶をしてる」


 呆れた風にフィンは言った。確かに仲間達から見れば、無謀な行為に及んでいる。


「普段は色々と悩んで後悔してるくせに、いざとなったら周りが止めるくらい派手に動くからな、お前は」


 さらに続ける。俺は肩をすくめつつ心の中で同意した。


 思えば、ベリウスの戦いからずいぶん無茶をしている。その決戦の時だけは、戦っている状況からの物の弾みだった。そこから大いなる真実を知って以降も、感情の差異はあれど同じように一人で突っ走った行動をしている。仲間達から見れば、危なっかしい。


「ごめん。けど、色々あってさ……」


 心の内で感情をまとめながら、そう返した。

 だがそこで、気付く。大いなる真実を知る前、俺はどういった理由で戦っていたのかを――


「なんというか、仲間に関わると……さ」


 言葉に出してみる。ベリウスの覚醒も、仲間が操られた時も、きっかけは仲間のことだった。

 するとフィンはわかっていると、手を挙げながら応じた。


「もう少し仲間を信用しろよ。お前が思う程俺達は柔じゃない」

「わかっているけど……」

「ま、そうやって仲間思いだからこそ、お前についていく理由にもなるわけだが」

「……そっか」


 少し嬉しくなった。仲間のために戦っていることこそ、仲間達から信頼を得られている――けれど、同時に疑問を抱く。


 いつからこうなったのだろう。剣を握った時は、両親を殺した魔物や魔王への復讐が理由だったはず。だがいつのまにか仲間のためになっていた。


「フィン、一ついいか?」


 仲間のため、というキーワードに対し、別のことを尋ねる。


「ん? なんなりと」

「俺が間違った答えを出したら、お前はどうする?」

「えらく抽象的な問いだな」


 フィンは天井を見上げ少し思案した後、答えた。


「そうだな。人の道を踏み外すようであればぶん殴る。もし後悔するような事柄だったら、ミリーやカレンに頼んで慰めさせる、かな」

「お前はやらないのかよ」

「俺に慰められる図なんて想像できるか?」

「ないな。それに気持ち悪い」


 即答した。フィンはそれに合わせ笑う。


「ま、ミリーやカレンだって俺と同じだろ。人生一度きりで出した答え以外道が無いんだから、悩んでも仕方が無い」

「……そうだな」


 少し沈黙を置き、フィンの言葉に賛同した。


「なあセディ、もし全て片付いたら話してくれよ」

「ああ……そうするよ」


 答えると立ち上がった。

 そろそろ寝ようと思ったのだが――その矢先、ノックも無しに部屋のドアが開いた。


「セディ、起きてる?」


 ミリーだった。こっちが目をやると、ツカツカと歩み寄ってくる。


「どうした、ミリー?」

「はい、これ」


 彼女は俺の言葉を無視し、唐突に何かを差し出す。


「これは?」

「お守り」


 見せられたのは、銀の宝石がはめ込まれた、首から下げるタイプのアミュレットだった。

 宝石から溢れんばかりの魔力が生じている。相当な力が入っているとわかるし、何よりその魔力は、女神の力をはっきりと感じられた。


「これ……どうしたんだ? 武具に女神の力を注ぎ込むなんて、かなりの難事だろ?」

「カレンが一生懸命に作ったからね」

「カレンが?」


 驚きつつ聞き返すと、ミリーは深く頷いた。


「当のカレンはどうした?」

「部屋で休んでる。魔力の使い過ぎで」


 そんなにまでしてなぜ作ったのか。とはいえ有難いことに変わりは無いので、俺はアミュレットを受け取りミリーへ尋ねた。


「カレンはもう寝てるのか?」

「ううん、まだ。お礼言うなら今の内」

「わかった」


 俺は自室を出て、カレンのいる部屋のドアをノックする。すると、短いいらえが返ってきた。


「入るよ」


 ドア越しに言った後、部屋に入る。

 そこには疲労困憊といった様子のカレンが、椅子に背を預け座っていた。


 カレンはこちらに気付き視線を送る。その眼は、ずいぶんと重い。


「カレン、大丈夫か?」


 予想以上に疲弊している。カレンは近づく俺に対し、小さく頷いた。


「アミュレット、受け取ったよ。ありがとう」

「どういたしまして……少しばかり気合を入れて作りましたから。兄さんの持っている魔法具の力を収束させ、兄さんの魔力と共鳴させる物です」

「そうなのか。けど、こんなになるまでしなくても……」


 その言葉に、カレンは首を力無く左右に振った。


「心配なんです。兄さんが」


 疲弊していても真っ直ぐに見据え告げるカレンに、俺は何も言えなくなった。


 仲間達は、全員が全員俺の身を案じ、いつ何時戦ってもいいように腐心している。かといって、無理に理由を尋ねようとはしない。

 なんとなく理解できた。仲間達は俺を信頼している。だからこそ、何も訊かずにいる。


「カレン、アミュレットは有難いけど、無理をしたら俺だって心配する」


 けれど、ひとまず諌めるように言った。だが当のカレンは俺を見返し、逆に言う。


「わかっています。けど兄さんは私達がいない所で何をしでかすかわかりません。だから、少しでも準備を」


 どうやらそこは信用されていないらしい。まあ、行動から当然かもしれない。


「……ありがとう、カレン」


 俺は追及をやめ礼を告げ、アミュレットを身に着けた。それを見てカレンが嬉しそうに微笑む。


「兄さん、一つ約束してくれませんか?」


 カレンは要求する。心なしか、子供が親に置いて行かれるような、不安な色を見せている。

 だから、俺は柔和な笑みを伴い首肯した。


「ああ、いいよ」

「無茶をしないでとはもう言いません……けど、自分を大切にしてください。その上で、後悔のないようにしてください」


 ――カレンはやはり、予感している。そしてその上で、最善の気遣いをしている。大切に思われているというのは、痛いほど伝わってくる。

 だから俺は静かに頷き、カレンに答えた。


「約束するよ。大丈夫、俺だって死にたくはないから」

「……約束ですよ」


 カレンの言葉が心に染み入る。死ぬつもりはない――それは事実だが、決断した選択はカレン達にとって良いものかどうか、それについてはわからなかった。






 翌日、昼を回った時刻に城に向かった。カレン達は宿の外で俺を見送る。歩きながら何となく、こうして生活するのは最後じゃないか、という直感みたいなものを覚えた。

 城門前で名を告げ、城に入る。中を歩いていると、すれ違う誰もが俺に会釈をするだけで通り過ぎる。咎めようとしないのは、話が城内に伝わっているためだろう。


 二度城に侵入した道のりを経て、王の寝室に辿り着いた。扉の前で俺は一度深呼吸をする。その後ノックをすると、声が返ってきた。扉を開けると、書類整理を行っている王の姿があった。


 こちらが扉を閉めた時、王は手の動きを止める。


「少し、そなたと話がしたかった」


 言いながら、王は真っ直ぐ俺を見つめた。


「街へ戻ったにも関わらず、そなたは驚くほど静かだ。何か目的があるのか?」

「それは、国の平和を守るための問いですか?」

「単純な問い掛けだ。新たな幹部、リーデスから大方のあらましは聞いている。魔王と謁見し、そなたは何を思う?」


 質問に沈黙する。考えはある。しかし――話すのは迷う。


「王が納得するかどうかはわかりませんが、答えはあります」

「私としては、世界の崩壊に繋がらないことを祈ろう」


 王の言葉に俺は無言。こちらが何も話さないと、王は再度話し始めた。


「ここに呼んだのは、さらに別の理由がある。とある方からの要請で、連れてきてほしいと言われたのだ」

「誰に?」


 聞き返すと、テラスに気配が生まれた。見るとそこには――


「リーデス?」


 魔王軍幹部、リーデスの姿。彼は窓を開け室内に入ると、まずは王へ慇懃(いんぎん)に礼を示す。


「フォシン王。ご依頼とご訪問、申し訳ありません」

「構わない。彼と話を進めてくれ」


 王の言葉にリーデスは「わかりました」と答え、俺に向き直った。


「ここに君を呼んだのは他でもない。再び魔王城へ舞い戻るか否か」

「……そういうことか」


 得心がいった。確かに大いなる真実に関する話をするのに、この場所がどこよりも適当だ。邪魔は入らないし、聞き耳を立てるような人間もいない。

 俺が納得の言葉を発すると、リーデスは苦笑しながら言った。


「ま、いきなり呼ばれて答えなんて出ないだろうけど――」

「連れて行ってくれ」


 リーデスの口上を遮り、要求した。対する彼は目を僅かに見開き、驚いた様子を示す。


「えらく簡単だね。まるでこのことを予見して、答えを持っていたみたいだ」

「今回の件、あんた絡みの話であるとは思っていた。王から魔王城の行き方でも教えてもらうんだと思っていたから、それが早まっただけだ」

「覚悟は、できているみたいだね」


 リーデスは声を落としつつ告げる。


「僕は陛下の命でここに来ているけど……実を言うと、君を連れて来るべきじゃないという意見もある」

「大いなる真実を知っている魔族らが言っているのか?」

「ああ、そうだ。多くの幹部は恐れているんだよ。君という、魔王を倒せるかもしれない勇者を」

「……魔王を倒せるかどうかは、わからないけどな」


 本音を言ったつもりだった。だがリーデス自身も懸念しているのか、目を細めじっとこちらを凝視する。


「……まあいいよ。僕はあくまで魔王の使者という立場だ。君の望みに従おう」


 リーデスは言うと指をパチンと鳴らした。

 すると彼の横手の空間が突如歪んだ。異界の門――その先には魔王城の門がはっきりと見えた。


「ずいぶん簡単にゲートを作れるんだな」

「大いなる真実を知る人間と連絡を取り合うためさ。陛下から力を与えられている」

「そうなのか。だがそれでも、光すら生じないんだな。前の時は派手だったのに」

「要塞の時もこんな簡単にやったら、君の仲間に怪しまれるじゃないか」

「……ごもっとも」


 答えながらそちらへ歩み寄る。その時、突然リーデスが進路を阻んだ。


「一応、確認しておくよ」

「何を?」

「君がいきなりいなくなれば王が怪しまれる。だからいくつか工作させてもらうけど、いいかい?」


 リーデスの言葉の意味を、俺はすぐに察した。


「あんたか、あんたの部下を仲間達の所にけしかける、という話だな?」

「そう。設定上君は王を訪れた帰りに襲われた。そして君をどうにかしたため、仲間達の前にも出現する」

「ああ、構わない。ただもちろん――」

「怪我もさせないよ。それは約束する」

「わかった」


 心に引っ掛かるものを感じたが、それを押し殺し淡々と応じた。

 リーデスはこちらの声に納得したのか、ゲートを手で示しながら続けた。


「じゃあ、このまま入ればいい。陛下には話をしてあるから、まっすぐ進めば玉座に辿り着く」


 俺は頷くと最後にフォシン王を一瞥した。

 王はただこちらを見据えているだけ。しかしその目は、無闇なことをするなと主張をしている気がした。


 だがそれに応じることなく視線を逸らし、リーデスの作った空間に身を投げる。僅かな浮遊感を覚え――魔王城の前に辿り着いた。周囲は前と変わらない荒涼とした景色が広がっている。

 俺はしばし辺りを見回した後、静かに息を吐き城を見上げた。


「……行くか」


 誰もいない場所で、一人歩き始める。


 城門に近づくと自動的に開いた。それを抜け庭園に入っても魔物や魔族の姿は無い。さらには城内に通じる門も近づけば開いた。

 中へ入る。正面にはどこまでも続く階段。それを無言で上り始める。


 俺が刻む足音だけが響き始める。前はリーデスの脱力する解説を聞きながらであったため緊張感はほとんどなかった。しかし今回は、静寂が鼓動を加速させる。いよいよ全てが決する――そんな風に思いながら、玉座手前の大扉に到着した。

 前に立つと扉はまたもゆっくりと開く。中には前見たように玉座にいる魔王エーレの姿。だが以前のようなひざ掛けや、本は持っていない。玉座から俺を見下ろしているだけ。


「ここに来たということは、あなたは何かしら答えを見出したのだろう」


 エーレが告げた。俺は入りながら首肯する。同時に、後方の扉が重い音を立てて完全に閉まった。

 そしてゆっくりと、彼女は立ち上がる。


「魔王を討つ力を持つ勇者……これは前例がある。しかし、大いなる真実を知り、なおかつ力を持つ勇者は、今回が初めてだ」

「倒せる力を持つ勇者に、どう対応していたんだ?」


 興味本位で尋ねてみると、エーレは腕組みをしつつ答えた。


(から)め手を用い、こちらが滅ぼされる事態にはならなかった……それは、あなた達人間の歴史からも理解できるはずだ」

「ああ、そうだな」

「ちなみに、倒された場合も方策はある。噛み砕いて言えば、やられたフリか、新たな魔王が出現したことにする」


 全ては秩序を守るため――そういう話なのだろう。


「今回は、そんな風にしないのか?」

「全てを知る者に意味は無い。例え死んだフリをしたとしても、あなたが私を滅ぼす気でいるのなら、どこまでも戦い続けるだろう。私としては、そんな血みどろの闘争はしたくない」

「それは、俺も同感だよ」


 同調する俺の言葉に、エーレは微笑を湛えながら続ける。


「さて、勇者セディよ。あなたはどういった選択を取る?」


 エーレが問う――俺は無言で剣を抜いた。


「それが答えで、構わないか?」

「もし勝ったら、命令に従ってもらう」

「なるほど、それで力づくか。しかし甘いな……剣を交えるのなら、なぜ私を滅ぼす気で戦わない?」


 問われるが、応じなかった。呼吸を整え、剣先に力を集中させる。

 そうした姿を見て、エーレは嘆息した。


「リーデスが言っていたな。あなたが戻るのは、もしもの事例――例えば、死ぬかもしれないことを考慮し、仲間に別れを言いに行ったのではないかと。その予測は、正解だったようだ」


 エーレは悲しそうに笑うとヒールを脱ぎ裸足となって、姿勢を低く腰を落とし、右腕を突き出すように構えた。

 ドレス姿の魔王は一見すると様になっていないのだが、滲み出る気配は今まで関わってきた魔族や魔物と比べ物にならない程重く、鋭い。ベリウスと互角――エーレ自身言っていた気がするが、嘘だろうと感じた。


「悪いな勇者……私に対し刃を突きつける者には、制裁を与えることにしている。だが心配するな、あなたは優秀だ。せいぜい大いなる真実の記憶を抜き取り、力を多少制限する程度に留めよう」

「そうはならない。俺があんたを倒すからな」


 圧倒的な相手に対し、毅然と答える。互いが視線を交錯させる中、俺は深く息を吸い込む。そして――


「勝負だ! 魔王――!」


 目前にいる最大最強の相手に向かって、戦いを挑んだ――

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