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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
首都動乱編

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混沌の城

 それから程なくして、俺は城へと辿り着いた。外からでも時折轟音が聞こえ、内心不安の中で城の状況を窺う。

 城門は既に開け放たれており、横には倒れる兵士の姿。俺は駆け寄って容体を確認してみると、気絶しているだけだった。


「……街中より、よっぽど戦場だな」


 城門から俺は城内を見回し呟く。

 フォゴン達が生み出した魔物や悪魔は、基本倒せば塵が残る。だからこそ城門を抜けた先の地面に塵がいくつも存在しており、ここが激戦だったことが認識させられる。


「街にいた悪魔は襲撃している雰囲気はない……けど、こっちは別なのか? ヴランジェシスの言う通り……」


 フォゴンの命令により、悪魔は活動している……そして、当の彼は既に死んだ。生み出した人物がいなくなれば悪魔も消えるか停止するという可能性もあったが、現状を考えればそう上手くいかないのは明白だった。


 城門の先、真正面には大扉があり、そこもまた開け放たれ玉座へと続く赤い絨毯の敷かれた廊下が見える。ふと耳を澄ませてみると、どこからか喚声が聞こえた。まだ戦っている人間がいる――

 そこで、爆音が耳に入った。腹を打つような大きさであり、ヴランジェシスが何かしているのだと俺は認識し、城内へ入ろうと足を動かす。


 問題は、音が反響してどこからのものなのか判別つかなかったこと……そして城内の詳細がわからない以上、できれば話のできる人を捕まえたいところだが――

 考える間に城内へ進入。ひとまず直線であったため、右も左もわからない状況でも俺は走った。


 ヴランジェシスの狙いは宝物庫のはず。なので玉座周辺は無事なのではと思っていたのだが――


「っ……!」


 扉の開いた玉座を見て、俺は驚く。中には血を流し倒れる騎士もいれば、玉座に繋がる絨毯もボロボロだった。

 ただ王の姿はない。逃げ出したのか、それとも――


 視線を巡らせると一人、座り込む中年の騎士を発見。彼は俺と視線を合わせ、眉をひそめる。


「君は……」

「――セディ=フェリウスと申します」


 俺は丁寧な口調で語ると彼に近寄る。すると、


「君が……勇者オイヴァと、君の妹から話は聞いている」


 きちんと説明は行ったらしい……次に、城の状況を確認する。


「それで、この状況は――」

「最初、悪魔や魔物達が城へ迫り、にらみ合いの状況が続いていた……勇者オイヴァに言わせると、城にいる兵士達を外に出さないようにすることが目的だろうと断じ、突破しようと攻撃した。加え、強敵である赤い悪魔についても、勇者オイヴァが対処し、街へ救援に行く寸前になった」


 ――ディクスもまた、赤き悪魔に対応できたらしい。彼の能力なら至極当然と言えるが。


「その時だった。突如街にいる悪魔達が怒涛のごとく押し寄せ、私達は再度交戦を開始した」


 ……やはり城だけは例外だったというわけか。しかも街にいる悪魔が……フォゴンの執念は、相当なものだったらしい。


「そこで、勇者オイヴァが一つの推測を行った。もしや敵の狙いは、この城にある宝物庫ではないかと……フォゴンに関する念書があったため、私達もそれに納得し防衛に回った。だが、その途中で幾度となく攻撃にあい、このような結果となった」


 言って、騎士は玉座を見る。石床や絨毯などは大いに損傷しているのだが、幸い玉座は傷一つついていない。


「陛下を逃がすのが精一杯だった……けれど音も止み、悪魔の攻撃が終わったのでは思っていた時……先ほど、一際大きな爆発が起こった」


 それはおそらくヴランジェシス――転移し、魔法具を奪うべく動いているに違いない。


「状況はわかりました……それで、宝物庫の場所は?」

「……玉座を出て、右に廊下を進め。いくつも分かれ道があるのだが、突き当りの壁まで到達したら、再度右へ……最後に壁に当たったらもう一度右へ――これで、辿り着く」

「ありがとうございます」


 礼を述べた後、俺はすぐさま移動を開始。玉座の間を出て右に曲がり、ひたすら駆ける。

 途中、気絶する兵士や魔法などによって砕かれた壁面などを目にするが、悪魔の姿は見えない。やはり城へ攻撃を仕掛けた悪魔は倒し、残るはヴランジェシスだけという状況なのだろうか。


 さらに爆音が城内に響く。交戦しているのは間違いないようだが、それでも散発的なものであるため、敵が残り少ないのは間違いなさそうだが――

 俺は騎士に言われた通り角にぶつかると右に曲がる。直進方向には多数の塵と、倒れる兵士。移動しながら確認すると、気絶しているだけの様子だった。ひどい惨状だが、犠牲者という観点ではそう多くないかもしれない――


 その時、俺は前方に見覚えのある人物を発見した。それは――


「カレン!?」


 地面に倒れるカレンを見て、俺は叫んだ。

 慌てて駆け寄り確認すると、額や手足から僅かに出血し、目を瞑り気絶しているようだった。念の為脈を確認すると、きちんと動いている……安堵して息をついた時、真正面から靴音が。


 首を向けると、鎧が大きく砕かれた騎士が一人。


「あなたは……」

「勇者、セディです」


 自己紹介をすると、彼はカレンに視線を送り、


「カレン様より事情は聞いております……申し訳ありません」

「カレンは、どうして――」

「つい先ほどのことです……悪魔の掃討が終わり、状況を確認しようとした矢先、騎士姿の男が一人……」


 ヴランジェシスで間違いない……奴が、カレンを――!


「カレン殿は遭遇した直後交戦しましたが、吹き飛ばされ気絶……その騎士がとどめを刺そうとした時、私達が抵抗しましたが……なすすべもなく」


 悔しさを滲ませ男性は語る。


「けれど、彼女に斬りかかる寸前となって、男は奥へと進んでいきました……どうやら、交戦しているようですが」


 彼が述べた直後、さらに爆音が聞こえた。これがその音だというわけだ。


「わかりました……カレンを、頼みます」


 俺は騎士に告げると、駆け出した。目指すのは――宝物庫。


 この時点で推測はできていた。現在ヴランジェシスと戦っているのは間違いなく、ディクスだろう。誰かの援護を受けているのか、それとも魔族の力を用いているのか……あるいは勇者としての力で戦っているのかわからないが……とにかく、この惨状の中城で対抗できるのは、彼だけのはず。


 念の為周囲を確認しながら歩を進める。けれど時折発する音以外敵が存在する様子はなく、障害一つないまま俺は最後の角を曲がり、宝物庫が見える場所まで到達した。


 そこには、予想通りヴランジェシスの姿――そして騎士やローブ姿の魔法使いが倒れる中、ディクスだけが一人扉の前に立って剣を構え、相手の侵入を阻んでいた。


「オイヴァ!」


 俺は彼を勇者としての名で呼ぶ。刹那、ヴランジェシスが苛立った様子で俺に振り返った。


「ちっ……来てしまったか」

「こちらの勝ちだな」


 ディクスは不敵な笑みを浮かべヴランジェシスへ言う――彼は服などはかなり汚れているが、出血などしている様子はない。魔族の力を使っている様子もないが、どうにかヴランジェシスと戦えたようだ。


 そして――言葉からディクスは、俺が来ることを待っていたらしい。魔族としての力を使わなかったのは、おそらく周囲に人目があることもそうだが、城内で使えば探知魔法などによって魔族だと正体がバレる可能性があるからかもしれない。


「……だが、他の奴らは全て潰した」


 ヴランジェシスは後方にいる俺に注意を払いながら、ディクスへ応じる。


「勇者セディが来てしまったのは誤算だが……諸共倒せば済む話」

「そうだね……それじゃあ、決着をつけよう」


 言うと、ディクスは突如剣を振り――その刀身を、石床へと突き刺した。


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