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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
首都動乱編

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天使との戦い

 ヴランジェシスが天使の力を見せつけながら仕掛ける――間合いを詰め、手に握る剣により一閃する。速くはあったのだが、決して回避できないレベルというわけではない。

 攻撃を受け流すと同時に反撃。横薙ぎを決めたが、ヴランジェシスは一瞬で後方に退いて避けると、そのまま距離を置いた。


「単純な剣の応酬では、こちらが不利かもしれないな」


 笑みを絶やさないまま、ヴランジェシスは言う……当たり前だが天使長と戦うなんて初めてだ。どんな戦法をとるのか予想もつかない。

 俺はどのように戦うのが望ましいのか……そもそも神々はどのように戦うのか俺には見当もつかない以上、出たとこ勝負しかない。


「とはいえ、手の内を見せるつもりも……ない」


 彼は告げたと同時に、突撃を敢行した。それは完全に捨て身であり、俺は咄嗟に押し返すことができないと悟る。


「くっ!」


 剣が振り下ろされる。対する俺は体を横に移動させて避けると――横を抜けようとするヴランジェシスに対し、すれ違いざまに剣で腹部を薙いだ。

 手ごたえあり――剣が入ったのは間違いなく、俺は多少ながら傷を負わせられたのではないかと思ったのだが、


「今の攻撃を瞬間的な反応で避けるとは、やはり魔王軍幹部を倒した勇者は一味違う」


 ヴランジェシスは平然と語り……なおかつ、腹部の衣服も傷一つついていない。


「そして、今の攻防で理解したよ。勇者セディ……お前は、間違いなく私に勝てない」


 勝てない――宣言した相手に対し、俺は刀身に魔力を集めることで応じる。


「無駄なのだが……やれやれ」


 嘆息と共にヴランジェシスは刺突を放つ。それを紙一重で避けた俺は、相手が次の行動を起こす前に刃を胸部へ当てた。

 それも彼は避けることなく、直撃。確実に薙いだ感触はあったのだが、やはり傷は生じない。


 何が原因なのか……魔力自体は魔王軍幹部に対抗できるくらいには集めている。けれどそれでは足りず、さらに量を増やさなければならないのか?

 俺はヴランジェシスの動向を窺う。相変わらずの笑みに俺は顔を険しくさせ……なおかつ、何か仕掛けがあるのだろうと思った。


 ヒントとなるのは、先ほどの突撃。ある程度実力を評価している以上、俺の剣に警戒を示してもおかしくないはず。けれどそれすらなく、ヴランジェシスは笑っている。

 もしかすると……胸中考えつつ、攻撃を開始する。牽制代わりに刀身へ魔力を注ぎ、それを外部に放出してみたが、


「通用しないぞ」


 こちらの魂胆がわかったヴランジェシスは薄い笑みさえ浮かべながら答えた……ならば、

 俺は剣の力を引き出し薙いだ。けれどヴランジェシスは易々と剣で防ぐ。そこで追撃の一撃――速度があったためか、今度こそヴランジェシスの体を捕らえた。けれど、やはり傷がつかない。


 これは……考える間に俺は一度後退。そして、


「……ふむ、その腕、惜しいと思ってしまうな」


 ヴランジェシスは語る……目は、俺を品定めするかのよう。


「そうだな……殺すつもりでいたが、記憶を封じ魔王に対する刃とするのも得策か」


 ――記憶を消し、勇者として活動させる、か。そういえばエーレも俺と対峙した時、そんな風に語っていた。


「この強さならば、何も話さず勇者として活動させるべきだったかもしれないな……まあ、その辺りは私の失態か」


 ヴランジェシスは淡々と独り言を吐いていく。失態などと言っておきながら、表情は一片たりとも変わっていない。

 そして、ここに至り俺は相手のやり口を理解した。


「……女神の魔法具を身に着ける俺の攻撃は、通用しないというわけだな?」

「正解だ」


 こちらの質問にヴランジェシスはあっさりと応じた。


 ――つまり、女神の力を秘めた武具に対し、同族であるが故に防ぐことができる。もしくは、そうした防御魔法を構築できるというわけだ。

 俺の剣は遺跡で拾った物であるため、この魔法具に眠る力を解析した、というわけではないだろう。おそらく神々の力を持っている武具に反応し、攻撃を防ぐタイプのものだ。


 通常ならば、女神の武具で固めた勇者では相手にならない……けれど、俺には一つだけ思いついたことがあった。


「攻撃が効かない以上、勝ち目はない……もしここで協力すると表明するなら、許しやらないこともないぞ?」


 ヴランジェシスは俺へと告げる……が、こちらは無言で剣に魔力を加える。


「……残念だ」


 所作を見た天使は歎息すると、俺に向かった。そうして一撃で終わらせるべく、一閃する。

 何の変哲もない斬撃――だが、集中すれば僅かながら魔力を発しているのがわかった。


 ここで俺は、直感的に理解する。おそらくこの攻撃は、女神の武具を持つ存在に対し有効な一手なのではないかと。

 もし受け切れば、剣は破壊されるか、それともすり抜けるか――考える間に俺は迎え撃つべく剣を振る。そして刀身には、


 シアナからもらった増幅器を介し、斬撃を決めた。


 刹那、双方の剣が交錯する。それと同時にヴランジェシスが息を呑むのを、俺は見逃さなかった。


「何……!?」


 驚愕の声。どうやら今の攻撃で、剣をどうにかするつもりだったのだろうと推測した直後、魔力強化をフルに用い、薙ぎ払った。

 さらに、追撃の一撃を相手へと加える――ヴランジェシスは回避に転じたが一歩遅く、


 刃が、彼の左肩辺りに触れた。


「ちっ……!」


 舌打ちしたヴランジェシスはさらに後退し、俺の間合いから脱する。そして俺は見た。刃が当たった場所から、ほんの僅かに出血している……天使もまた肉体を持ち、人間と同じような構造らしい。


「通用したな、きっちりと」


 俺が宣言すると、ヴランジェシスは目を細めた……視線は、シアナからもらった黒い指輪に向けられる。


「その指輪の力を前面に押し出したというわけか……神々の武具とは違うようだな。それは、どこで手に入れた?」

「悪いな、もらい物だから出自はわからない」

「そんな物を身に着けるとは、人間というのは度し難い」

「けどだからこそ、今俺はお前を倒すことができる」


 ――シアナの増幅器は、純粋な武具強化などができる。それを利用すればもしかすると……という推測だったのだが、見事で当たった。剣の特性が変わるようだ。

 ただ本質的にはシアナの魔力であり、過度に使用すればバレる可能性だってあるのだが……今の所、勘付かれた様子はない。


 ならば――このまま一気に!

 断じると共に俺は地を蹴りヴランジェシスへ接近。対する天使は攻撃が通用するとわかったためか、先ほどよりは消極的に動く。


 傷を負ったことが、多少なりとも精神的なダメージになっているのかもしれない……このまま押し続ければ倒せるかもしれない。そう思った矢先、


「……仕方あるまい」


 ヴランジェシスが小さな声で呟いた。俺は気になったがそのまま剣を放ち、

 双方の剣が再度激突。しかし、今度はヴランジェシスも力を加え、剣を噛み合わせた状態で、止まった。


「勇者セディ……ひとまず勝負は預けておこう」


 その状況下で、ヴランジェシスは述べた……まさか、逃げる気なのか!?


「本当ならば悪魔を倒し続けているお前の仲間からどうにかしたかったのだが……方針変更だ」


 何を――俺は魔力を両腕に注いで押し切ろうとした時、突如ヴランジェシスの体が発光した。


「っ……!?」


 何が起こるのか――俺は反射的に後退しようとした瞬間、ヴランジェシスは俺の剣を捌き、横をすり抜けた。

 そしてそのまま俺を無視するように駆ける。方向は……城。


「くっ!」


 城へ向かう気か――! 俺は進むヴランジェシスに対し追撃の剣を放とうとしたが、それより前に再度彼の体が発光した。それに僅かながら気が逸らされ、対応が一歩遅れ、


 天使の姿が、消えた。


「転移したのか……!」


 相手の動きに応じることができなかったことを後悔し……直後、城から爆音が聞こえてきた。


「やっぱり城か……!」


 即座に走り始める。城からの音はさらに激しくなり、ヴランジェシスが本気になっていることが窺える。

 狙いは先ほど言っていた魔法具だろう……そしてそれを奪取できれば、後は街の悪魔を引きつれ脱出するだけというわけだ。


 ここで退却したのは、魔法具の力を組み合わせれば俺との戦いも楽になると踏んだからだろう……だからこそ、ヴランジェシスは魔法具を優先した。本来はシアナ達を倒すのを優先にしていたようだが……俺という存在を厄介に思い、方針を変更した。


 城にはカレンやディクスがいる……けれど、二人は対抗できるのか――


 俺は不安を抱えつつひたすら走る。途中で悪魔を見かけるが、こちらから仕掛けない限り無害だとヴランジェシスから聞いたため、全てシアナに任せることにして……城へと、駆け続けた。


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