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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
首都動乱編

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その正体

 城へ向かう途上で、俺は遭遇した青き悪魔を次々と倒していく……赤き悪魔については見かけること自体が皆無で、モーデイルが引きつれていた悪魔もまた、その姿を見せない。

 ただ悪魔は、街中にいても人を襲うような態度は見せていない……幸いというべきだが、それが逆に相手の目的を不明瞭にさせ、不気味とすら思えてしまう。


 とはいえ野放しにしておくこともできず、見かければどんどん倒していく……しかしここで、決然とした問題があった。


「数が多いな……!」


 戦う中で何より思うのは、悪魔の多さ。どうやってこれほどまで生み出したのかわからないが、移動していれば常にその姿を見かける。なおかつ先ほどのように指示を受けている様子はなく、ただ歩いているだけなのだが……、それだけで、街の人々が騒ぎ混乱へと陥れている。


 俺は混乱を鎮める意味合いを込めて、目についた悪魔を倒し続ける。けれど十体近く倒した時、これはシアナ達に任せ城へ向かった方がいいのか思案した……が、この悪魔達がいつ攻撃し始めるかわからない。ならば、逐次倒していくしかない。


「……そういえば、騎士は――」


 歩きながらふと考える。この数では、騎士も対応しきれないのでは……街に存在している兵士で悪魔を抑えることはできないだろうし、城から爆音が聞こえたということは、城内にいる騎士団を街に派遣するのも難しいかもしれない。


 あるいは、悪魔達をこれ見よがしに出現させ、混乱に乗じて逃げるつもりなのか……そうなればエーレが用意した魔族がいる。そちらの方が解決も早かったりするのだが……こちらにとって都合の良い展開は往々にして起こらないものだ。あまり期待しない方がよいだろう。


「とにかく、悪魔を倒しつつ城へ向かわないと……!」


 改めて断じつつ俺は城へ駆ける。その途中でまたも青き悪魔と遭遇し、一刀両断。住民から礼を言われつつ、さらに先へと進む。

 混乱を生み出しているという状況ではあったが、やはり悪魔達はこちらから仕掛けなければ襲ってこない様子。これは一体どういう意味があるのか――


「っ……!?」


 その時、俺は別の悪魔が路地を進む光景を見つける。すぐさまそちらへ駆け、悪魔は反応。俺へ向かって走り始め、こちらの剣と悪魔の腕が交錯する。

 魔力を集中させた一撃はしかと悪魔の腕を斬り、その勢いで胴体すら両断。結果一撃で消滅し、事なきを得る。


 周囲を見回すと、やはり悪魔の存在が……俺は焦燥感に襲われつつ、そちらへ向かい、倒す。中には腰を抜かした住民へ近づく悪魔もいた。俺が慌てて駆け寄ると悪魔はこちらに反応し、攻撃を開始する。

 何もしない人々にはやはり攻撃は行わない魔力に反応して、攻撃しろと指示を受けているのだろうか……推測しつつ一撃で倒すと、へたり込んだ住民――若い女性へ声を掛ける。


「大丈夫ですか?」

「は、はい……」


 彼女は小さく頷きつつ立ち上がろうとする。その時、背後からこちらに駆け寄ってくる足音が。


「お前さん、勇者か?」


 ややしわがれた声。振り返ると、初老の男性が俺へと視線を向けていた。


「はい、そうですが……悪魔が出現し、目についたものを倒しつつここまで来ました」

「そうか……悪魔は消えたようだし、先に進んでほしい。私は人を呼んで彼女を介抱するよ」

「わかりました……お願いします」


 俺は承諾すると同時に移動を再開。けれど少しすれば、やはり悪魔が視界に入る。


「キリがないぞ……これは……」


 やはりシアナやリーデスに任せた方が良いのだろうか……考えつつ俺は路地を出る。気付けば大通りを離れ、フォゴンの屋敷近くのような大きい建物のある場所へ来ていた。

 そこもまた例外なく悪魔が存在している状況……それを逐一倒しながら、俺は徐々にではあったが城へと近づいていく。


 悪魔は基本吠えもしないため、目で確認できなければいるかどうかもわからない……現状はウロウロしているからこそこうして発見し倒しているのだが……そういえば、周囲の屋敷なんかに住む人は無事なのだろうか?


 フォゴンの屋敷周辺が静かだったように、悪魔が現れてもこうした場はやはり静寂。屋敷の人々は逃げ出したのか、それとも門を固く閉ざし関係ないと無視を決め込んでいるのか、近くにあった屋敷の奥はひどく静か。


「どちらにしても確認する時間は無いか……進まないと」


 呟きつつ、いよいよ城を真正面に見る所まで近づいた。けれど進行を悪魔が阻み、内心苛立ちつつも剣で斬る。

 自制しないと――心の中で呟きつつ俺は黙々と歩を進める。その途中で体に僅かながら疲労が溜まっていることに気付くが……無視するように足を動かす。この状況で、休むわけには――


「……おや、君も城に行くつもりなのか」


 刹那、声が。方角は俺の背後であり、すぐさま振り向くと、そこには――


「お前、は……!?」


 騎士が立っていた。しかしただの騎士ではない、あのフォゴンの傍にいて、なおかつディクスと剣を合わせ戦った――


「ヴラシス、と言ったか?」

「ああ」


 相手――ヴラシスは、律儀に返答した。

 格好は騎士服であり、屋敷で遭遇した時と変わっていない……が、発する空気が、以前よりも鋭く、硬質になっている気がした。


 俺が視線を送っていると、ヴラシスが口を開く。


「悪魔が出没し、城に援軍を要請しに行く、といったところか?」

「……お前が、フォゴンを殺したんだな?」


 彼の質問を無視するように俺は尋ねる。すると、


「ああ、そうだ」


 彼は、あっさりと同意した。ならば――


「そして、この街の騒動を引き起こした……違うか?」

「その点は違う。奴……フォゴンが、私に殺されかけ悪魔を多量に発動させたまで」


 それは果たして本当のことなのか……疑いの眼差しを向けていると、ヴラシスは肩をすくめた。


「なるほど、現状から疑うのも無理はない……だが、奴の本性を暴くためには、これしか方法がなかったのだよ」

「本性だと……?」


 一体、どういうことなのか――そう思った時、


「そしてこれはある意味、奴がもたらした人間に対する試練という解釈もできる……魔の力に対抗するために必要な試練」


 ヴラシスは、意味不明なことを告げた。


「何を……言っている?」


 訳も分からず聞き返す。するとヴラシスは、この場にそぐわない、柔和な笑みを浮かべた。


「本来は姿を現す予定は無かった……が、その力に敬意を表し、見せよう」


 さらに彼は硬質ながら澄んだ瞳を見せ――魔力を、開放した。


「っ……!?」


 瞬間、俺に訪れたのは殺気――などではなかった。それはいわば、暖かく心を安堵させるような気配……優しく包み込むようなそれは、まるで子供の頃母に抱かれるような懐かしさと、心地よさを覚える。


「お前、は……!?」

「そうだ」


 主語の無い会話の後、ヴラシスは頷き――その背から、白い翼を出現させた。


「てん、し……?」


 呆然としながら俺は呟く――そう、それは紛れもなく、天使の翼。


「改めて自己紹介をしよう。私の本当の名はヴランジェシス……女神ナリシスに使える、天使長だ」


 剣を持たない左手で自身の胸に手を当て……天使、ヴランジェシスは俺へはっきりと告げた。


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