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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
首都動乱編

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切り札

「何……?」


 魔法に対し避ける素振りを見せなかったことで、魔法使いが俺のことを見て驚く。まさか真正面から――そういう感情が見え隠れする。

 対する俺は、向かってくる光の槍に対し、魔力を込めた斬撃で応じた。先ほど傭兵達がしてみせたように、刃先から剣戟――しかし、こちらは白い光の刃を放ち、槍と衝突。結果相殺する。


 そして俺はすぐさまモーデイル達を見る。波状攻撃を仕掛けようとしていた傭兵達を視界に捉え、


「待て」


 モーデイルの指示が。それにより、傭兵達の動きが停止した。


「ふむ、こんな(つたな)い戦法では無理か……とはいえ、綿密な連携ができる程馴染みがあるわけではないからな――」


 モーデイルが何やら呟いている時、シアナ達の動きが止まった。見ると、赤き悪魔が彼女達の正面にいた。


「挟撃して交戦しているところに魔法をぶつける手はずだったんだが、そう易々と勝たせてはくれないか」


 モーデイルはさらに言う……すると、後退してきたリーデスが口を開いた。


「ずいぶんと舐められているみたいだね……そんな悠長にしていていいのかい?」

「そのセリフ、そのまま返そう」


 告げた瞬間――シアナの正面に、さらに赤き悪魔が出現。これで合計三体となる。


「理解できているはずだが、赤い方は青よりも強力……さらにお前達を倒すくらいの戦力は、整えてある」

「ふうん」


 興味なさげにリーデスが言う。


「なるほどね……いいよ、わかった。来るといい。セディ、さっきと同じように援護を頼んだ」

「大丈夫なのか――」


 言うや否や、一瞬だけリーデスは俺に鋭い眼光を示した。余計な気遣いはいらない――そういう態度が見て取れる。

 力が制限されているとはいえ、リーデスは魔王軍幹部であり、シアナは魔王の妹君……心配ないという声が聞こえてきそうだった。


「ならば――死ね」


 モーデイルが告げる。それと同時に今度こそ赤き悪魔が突撃を開始した。

 俺は屋根の上にいる相手に注意を払いながら二人を観察。モーデイル達が動き出せばすぐにでも対応できる体勢だけは整えておき――


 シアナが交戦するのを目に留めた。最初に襲い掛かって来た悪魔を一撃で弾き飛ばし、後続の赤き悪魔と正面から相対する。

 悪魔が捨て身の一撃を放つ――それにシアナは冷静に対処する。攻撃を僅かに身を捻って避けると、反撃に移った。


 それは単なる掌底。青き悪魔にも放っていた一撃だったが――やはり赤き悪魔は吹き飛ばず、耐えた。

 けれど今回の攻撃には続きがあった。悪魔は掌底の反動により一瞬身動きが取れなくなる。その隙を突いてシアナはさらに肘鉄を悪魔の胸に食らわせた。


 それにより今度こそ悪魔は体勢を崩す。次いでシアナは蹴りを放った。まっすぐ刺突のように放たれた一撃は悪魔の腹部を抉り――鈍い音と共に腹部が破砕し、貫通。向こう側が見え、


 赤き悪魔は、今度こそ消滅した。


「何……?」


 そこでモーデイルが初めて驚愕の声を上げた。まさかここまで容易く――彼らがシアナ達の技量を侮っていた証拠だった。


「確かに君達は強い」


 続いてリーデスが声を上げる。見ると赤き悪魔と交戦していて、蹴りを頭部に決めているところだった。


「けど、それはあくまで君達の背後にいる面々の技術がすごいのであって、君達自身が強いというわけじゃない」


 切って捨てると同時にとどめの手刀を首に加えた――それは鋭利な刃物のように赤き悪魔の首を両断し――消滅。


「確かにこの悪魔の攻撃力は驚くべきものだけど……こちらの対応力を舐めてもらっては困るな」


 言うと同時に今度は轟音。見るとシアナが拳を加え赤き悪魔を吹き飛ばしている光景。

 今までとは異なる、圧倒的な一撃――それにより悪魔はものの見事に消滅した。


「……魔力の流れは把握しました。最早、敵ではありませんね」


 告げると同時に、残っていた青き悪魔も掃討にかかる。まさに圧倒的……いや、シアナとリーデスならば、むしろ当然と言えるかもしれない。

 思わぬ伏兵にモーデイルは目を見開き沈黙を貫く。屋根の上にいる傭兵や魔法使いも似たような顔を見せ――俺はここが好機だと悟る。


 瞬間的に、剣へ魔力を込めた。そして彼らが対応を見せる前に、すくい上げるような斬撃を放った。


「っ……!」


 一番最初に反応したのは、モーデイルの横にいる傭兵の一人。けれど行動に移すことはできず、俺はそのまま剣を薙ぎ払い、

 刀身より生み出した風の刃が――魔法使いへと迫った。


「ぐっ!?」


 魔法使いは呻くと共に回避に転じようとした。けれど一歩遅く刃が杖に直撃。余波がその身に直撃し、彼は叫び声と共に倒れ伏した。


「……加減はしたつもりだが、あれで十分だったようだな」


 俺は次にモーデイルへ視線を送る。傭兵達は狼狽え、モーデイルは俺のことを見据え険しい顔をしている。青き悪魔だけ命令を待ちピクリとも動かないのが、逆に奇妙に思えてしまう。


「……なるほど、どうやら俺達は見誤っていたというわけか」


 やがてモーデイルは認め、一歩引き下がった。


「おっと」


 それにリーデスが声を上げる。一瞥すると、悪魔を全て片付け屋根の上に視線を送っていた。


「悪いけど逃がすつもりはないよ。ここで決着をつける」

「同感です」


 シアナもまた悪魔を片付け、モーデイルを見上げた。


「そして、訊きたいこともあります……あなた方の主人について」

「モ、モーデイルさん……」


 左右に控える傭兵が呻く。形勢不利と見て、不安の表情を見せる。


「ど、どうするんですか――!」

「……やれやれ」


 するとモーデイルは自身が握る剣を揺らした。


「仕方ないな……まあ、ヴラシスもこんな状況となれば、使う他ないと言うだろう」


 そして何やら呟く。目の驚愕は静まり、何か続きがあるように見えるが――

 次の瞬間、モーデイルは剣を振るった。何を――そう思った時、


「ぐああっ!」


 傭兵の一人が声を上げた。見ると、彼の握っていた漆黒の剣が、屋根の上に落ちた。どうやら手の甲を剣の腹で打って、落とさせたようだ。


「モ、モーデイルさん……何を……」

「お前達は指示しても聞かないだろう」


 ぞんざいな物言いと共に、彼は屋根に落ちた剣を蹴った。それは横にいた青き悪魔の足元に落ち、


「――食え」


 指示を送った刹那、悪魔がその剣を拾い上げ、

 その剣を、喰い始めた。


「――っ!?」


 異様な光景に俺は固まる。けれど次の瞬間ドクン、という心臓の鼓動を連想させるような魔力の胎動が青き悪魔から発生し、我に返る。


「まさか、漆黒の剣の魔力を――」


 シアナは告げると同時に足に力を入れた。そのまま跳躍しそうな雰囲気であり、


「シアナ! 待て!」


 上にいくのはまずいのではと俺が警告しようとして……モーデイルがもう一人の傭兵から剣を奪い、素早くもう一体の悪魔に食わせた。


「お前ら、死にたくなければ逃げろ」


 モーデイルが言う――同時に傭兵達は悲鳴じみた声を上げ、その場を離れる。


「さて、できれば見せたくは無かったのだが……仕方ないな。ここで始末させてもらう」

「その悪魔は、魔力を取り込み強化できるというわけですか」


 シアナが警戒を込め呟いたと同時、青き悪魔が変化を見せる。やはりこれまで見ていた青き悪魔と、違うわけか。

 悪魔は体躯が肥大し、翼が生え、全身が硬質な筋肉へと変ずる。さらに顔が生じ始め、人間のような……それでいて、牙を剥いた獣のような、醜悪なものへと変貌していく。


「こいつらは他の二種と比べ、戦闘能力は少ない。しかし、魔力を吸収し能力を強化することに特化している……一応保険のためということで渡されていた悪魔だったが、こうした状況である以上、遠慮なく使わせてもらう」


 切り札というわけか……ただあまり使いたくなさそうな雰囲気……何か理由があるのだろうか――

 直後、悪魔が唸る。雄叫びを上げるような真似はしなかったが、ギラリとした紅い目が、俺達を射抜き相当な威圧感を与える。


 やがてその体躯は翼を広げ、俺達を威嚇し始める……けれど命令に従う気なのか、モーデイルが無言に徹している状態で、悪魔は仕掛けない。


「……やれやれ、面倒な能力だ」


 ここに至っても、リーデスはまだ余裕を見せていた――その態度にモーデイルは眉を僅かに動かす。不快に思っているのか?


「……すぐにそんな態度を見せられなくなるだろう」


 モーデイルはそう呟くと表情を戻し、漆黒の剣を指揮棒のように振る。


「殺せ――目の前の奴らを」


 その号令に従い――悪魔達は、俺達に襲い掛かった。


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