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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
首都動乱編

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傭兵を統括する存在

 シアナが相対する悪魔の数は合計三体。その内の二体が並んで仕掛けようとしていた。


「はっ……終わったな!」


 傭兵がそうした光景を見て声を上げる。しかし、

 シアナはまず、無言で左にいる悪魔に接近。相手が攻撃を繰り出す前に懐へと潜り込み、腹部に掌底を一発――悪魔を、吹き飛ばす。


 彼女の力ならば消し飛ぶ威力は出せるはずだが……その悪魔は消えず、あくまで吹き飛ばしただけ。けれど後方にいた悪魔を巻き込み、二体がシアナと距離をあけた。

 そして残る一体は、シアナの横をすり抜けようとした。けれど彼女は驚くべき速度でバックステップを行い、一瞬で悪魔の眼前に到達する。


 その挙動に悪魔は対応しようとした――が、拳を振り上げた時、シアナは既に懐に潜り込んでいた。


「――終わりです」


 冷酷な声音。同時に正拳突きを放ち、悪魔の胸部を打ち抜き、滅ぼした。

 そこでようやく、後方の二体が体勢を立て直す。けれど突撃する前にシアナが接近し、一体へ向け蹴りを放った。


 彼女の足は悪魔の腹部に直撃し、さらに吹き飛ぶ。そればかりか空中で滅んでいく。残るは一体――最後に残った悪魔を、シアナは一度攻撃をかわしたあと迎撃し、戦いは彼女の勝利に終わった。


 そこで視線を転じる。リーデスも同様に拳で対処し、残る悪魔を倒した。不得意だと言っておきながら、このくらいは容易く対処できるらしい。

 シアナが最初吹き飛ばされたため少し危惧していたのだが、力を見誤らなければ魔力を引きださなくともきちんと対応できるというころだろう……まあシアナ達なら、当然と言えるかもしれない。


「な……」


 対する傭兵二人は、驚愕でこの光景に応じた。さすがに傷一つ無しにこの結果は予想外らしい。


「あなた達に勝ち目はありませんよ」


 厳然とシアナは言い放ち、俺の隣に立つ。次いでリーデスは俺の前に立ち、壁となるようにして構えた。


「で、どうする?」


 そしてリーデスが、いつもの口調で相手に問う――傭兵達は僅かばかり逡巡し、やがて意を決したか同時に剣を抜き放った。やはり、漆黒の剣。


「ふむ、退却はしないのか」

「どうせお前ら、逃げたら後を追う気だろう?」

「正解だね」


 リーデスは答えると同時に肩をすくめた。


「ま、逃げたのを追いかけてそちらの仲間を見つけ出してもいいし、二人を倒せば尋問できる……どっちにしろ結果は変わらないな」

「ほざけ!」


 叫び、傭兵二人は同時に攻撃を開始する。悪魔は通用しないが、この剣ならば――そう思っているのが、透けて見えた。

 対するリーデスは素手で応じる。俺は漆黒の剣を一瞬不安になったのだが……傭兵の一人が放った一撃を腕で軽く弾くのを見て、大丈夫なのだと確信できた。


「どれほど強力な剣であろうとも、使用している本人が弱ければ意味が無いよね」


 そう評したリーデスは――間合いを詰めると同時に剣を握る傭兵の手首に手刀を放った。


「ぐっ……!」


 短く呻いた傭兵は、剣を取り落とす。さらにリーデスもう片方の傭兵に接近し、


「ふっ!」


 僅かな呼吸と共に、拳を腹部に叩き込んだ。


「がはっ!」


 こちらは叫ぶとそのまま崩れ落ちるように倒れ伏す。そしてリーデスはもう一人が取り落した剣を拾い上げると、その刃を相手の首筋に突きつけた。


「で、これで終わりなわけだけど……どうする?」


 傭兵は何一つ応じることができず、ただ憤怒の表情を見せ続けるだけ。

 勝負は決し、後は尋問するだけなのだが――


 その時だった。突如、リーデスの持っていた漆黒の剣が、パキンと乾いた音を立てて折れる。


「……っ!」


 反応したのは傭兵。首筋から刃が消え、そのまま逃げようとしたが、


「はい、待った」


 リーデスは素早く後を追い、相手の首根っこを掴んだ……退却は見事失敗に終わった。


「ぐうっ……! 話せ……!」

「悪いができない相談だね」


 リーデスは語った後、軽く手を振った。直後、傭兵はピタリと動きを止め、人形のように動かなくなった。眠らせる魔法でも使ったのだろう。

 そして彼は、俺とシアナを一瞥する。


「さて、とりあえず戦闘は終わった……場所を移すことにしようか。戦いが終わればギャラリーが出てくるかもしれないし」


 語る彼の表情は――場違いな程楽しそうに見えた。






 そこから移動を重ね、別の路地に回り込んでリーデスが気配消しの魔法を使用。それから彼は、記憶を読みにかかる。


「……やはり、重要な情報は持っていないな」


 そして出た言葉。まあ、予想できた。


「彼らはヴラシスという騎士から武器の概要と魔法具の使い方を教えられたくらいだね……で、現在はモーデイルの指示により、僕らの所に向かったらしい」

「モーデイルが……? とすると、俺達を捕捉したのもモーデイルか?」

「の、ようだね。彼はおそらく、フォゴンに一目置かれているんだろう」


 勇者として、結構評価されているのか……だとすると、主要な人物はフォゴンとヴラシス。そしてモーデイルと三人と考えていいだろう。


「肝心のフォゴンについてはわからないけど、モーデイルから指示を受けた場所ならわかるよ。現状ではおそらく、彼を捕まえるのが事件解決の近道だろうね」

「記憶から場所もわかるのか?」

「地理感覚はないけど、彼らが来た道を辿ることはできるから、案内はできる。けど、さすがにそこにはいないんじゃないかな」


 それもそうか……とはいえ、手掛かりが他にない以上行くしかないだろう。


「ともかく、その場所に行ってみよう……リーデス、案内してくれ」

「了解。途中で悪魔の気配を感知したら、そちらへ向かうってことでいいかい?」

「もちろんだ」


 頷き、俺達は移動を再開。ちなみに気絶させた傭兵達は魔法により生み出した縄で縛り、途中で詰所に入り不審者という形で連絡を行った。

 そこからは、また同じように悪魔退治……とはいえ、やはり街の人間に見咎められないような場所に潜んでおり、ずいぶんと厄介。


「しかし……こうまで悪魔を分散させて、何がしたいんだ?」


 幾度目かの悪魔を倒した後、なんとなく言及。すると、リーデスは肩をすくめた。


「愚問じゃないかい? 実験だよ」

「実験……騎士や俺達に追われているとわかっているはずなのに」

「だからこそ、良い実験なんだろう。僕らは当然悪魔を野放しにしておくことはできない。だから悪魔を倒すべく動くわけで……そのデータを、彼らは収集できる」

「実験を行うのは、逃げた先に技術を明け渡す気なのかな……成果がなければ相手だって疑うだろうし」

「身の安全を約束に、というわけですね」


 シアナが言う。俺はそれに頷いた。


「推測すると、ここで悪魔に関するデータをとり、頃合いを見計らって逃亡。そして、新天地で技術を渡し一定の地位を約束させる、といったところか……そう考えると、実験が終わるまで街には滞在するということだよな」

「だからこそ、今の内に見つけないといけないね」

「そうですね」


 リーデスの言葉にシアナが同意した時、裏路地へ入り、またも悪魔。しかし今度は赤き悪魔に加え、傭兵が一人いた。


「お前ら……!」


 傭兵達は俺達を見つけると、すかさず赤き悪魔に指示を飛ばす。


「やっちまえ!」


 同時に、赤き悪魔が走った。それに対し俺は、シアナ達の前に出ることで応じる。

 屋敷の交戦から、魔力を集めれば一撃で倒せることはわかっている。だからこそ、俺は相手が攻撃するよりも早く仕掛けた。


 全力の剣戟が赤き悪魔へ向け放たれる――悪魔は傭兵の言葉通り直情的な指令しか受けていない様子で、回避する素振りは見せなかった。

 代わりに悪魔は腕を交差させ防御――そして剣が衝突し、腕に刃が食い込み、一気に両断する。


 一瞬の出来事――悪魔はあっさりと消滅に向かい、奥にいる傭兵の顔が大きく引きつった。


「な、な……」

「屋敷における戦いを見ていたら予想できそうなものだけど……いや、もしかして屋敷の戦いの時いなかった人かな?」


 リーデスが傭兵に問い掛ける。すると傭兵は図星だったのか、俺達を見回し動揺を見せる。


「くそっ……話が違うぞ!」


 言って、慌てて逃げようとした。


「逃がさないよ」


 言葉と共にリーデスが走る――魔力強化を施し、常人には引きだせない速度で接近すると、素早く回り込み退路を断つ。


「ま、そういう事情なら情報は持って無さそうだね。これで、おさらば」


 告げたと同時に彼は拳を傭兵に叩き込んだ。結果あっさりと彼は倒れ伏し、短い戦いが終わりを告げた。


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