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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
首都動乱編
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魔王の推測

 エーレと連絡を取ることにして、俺達は裏路地へと移動する。その途中でリーデスと合流し、彼の魔法により気配を断ち、周囲の人に見咎められないようさらに配慮を行う。


「連絡は既に行っています」


 リーデスがシアナへそう前置きをする。


「詳しい事情はシアナ様からということで、簡単な説明しかしていませんが」

「わかりました」


 シアナは頷き、エーレと連絡を行った。映し出された光景は玉座。そこに座るエーレの姿が目に入る。


『……セディ、久しぶりのように思えるな』

「そうだな」


 頷く俺。会話をしたのがカレン達と遭遇した時以来だ。なおかつ直接話したのはアミリースと魔王城を出る前。それほど時間は経過していないのだが、騒動に関わり続けた結果、話をしたのがずいぶん前のように思える。


『そして、どうやら相談もなしに色々と動いていたようだな』


 そこでエーレはリーデスを睨むようにしながら述べた。対する彼は、首をすくめる。


『……まあいい。その辺りのことは後にしよう。リーデスから概要は聞いている。シアナ、今敵はどのような状況だ?』

「街に入り込んでいるのは間違いありませんが、混乱は起きていないようです――」


 シアナは一連の説明をエーレへ加える。街で敵が悪魔を使っていないことや、その悪魔の詳細を話すと、彼女は憮然とした面持ちとなった。


『下手に街の人間を襲うと、厄介なことになると考えているのだろう……となれば、私達はそれを利用するしかないな』

「門を封鎖すると騎士達は言っていたが……大丈夫だろうか?」


 俺の質問に、エーレは「大丈夫だろう」と楽観的な返答をしつつも、苦い顔をした。


『敵が街に入り表立って動いていないというのは、おそらく余計な噂を立てられたくないのだと私は考える……もし無理矢理にでも外に出るようなことがあれば、それが発覚した直後、私の方で用意した部隊に迎撃させることにしよう。被害が出ないとも限らないが、彼らを逃がすよりは良いだろう』


 ……頼もしい限りだな。むしろそうなってくれた方が、解決も早い気がするけど……街の外で交戦なんてすれば、二次被害が出る可能性だってある。街の人々のことを考えるなら、やるべきじゃないな。


『わかっていると思うが、これは最終手段だ。人々のことを考えるなら、決して外には出すな』

「ああ」


 エーレは被害が出ないようにしたいようだ……俺はもちろん、頷き返事をする。


『よし、それに関しては早急に準備しよう……城壁の内側にいる間は、セディ達に任せるぞ』

「ああ……ちなみに、城内に派遣はできないのか?」

『できなくもないが、場合によっては魔族が転移しているのが城下にいる人間に露見する恐れがある。城壁の外なら、誤魔化しようもあるが……』


 確かにそうか。なら、俺達でやるしかないな。


「人の誘導は僕に任せてもらえれば」


 そこでリーデスが俺に口を開いた。


「人払いの魔法は使えるから、援護できる」

「で、倒すのは俺がメインか?」

「シアナ様も、さすがに全力で戦うのは難しいからね」

「私も援護に回ります」


 シアナは俺に表明。援護……俺は小さく頷いた。


「シアナ、無理はするなよ」

「はい。敵が魔族幹部の力を使っている以上、そう無茶はしません」

『そこだ、シアナ。その点を疑問に感じる』


 途端に、エーレが声を上げた。


『武器のことといい、敵はどこから魔族の体を集めている?』

「……詳細はわかりませんが、魔族から直接奪ったというわけではないでしょう。おそらくですが、滅ぼされた魔族が生み出した武器などを収集したのではないでしょうか」

『そんなところか……? 疑問に思う点はあるが、シアナの言う通りだとすればこの点を深く掘り下げてもあまり情報は出て来なさそうだな……いや、一応調べてみるか』

「エーレ、敵の推測とかはついているのか?」


 なんとなく尋ねてみると、エーレは小さく肩をすくめた。


『情報収集はしているが、現在も大いなる真実を知る存在であり、なおかつ技量は魔族幹部クラスではないか……という推測しかできないな。ただ今回の件で、一つだけ私なりに解釈したことがある』

「解釈?」

『敵はもしかすると、私達のことを知らないかもしれない』


 私達――エーレのことを言っているのか?


「知らないって……魔王を?」

『より正確に言うと、私やシアナ。そしてディクスの姿形だ』

「姿形……?」

「陛下を含め親族は、あまり公に姿を出さないんだよ」


 その言葉はリーデスからのもの。


「大いなる真実を知る幹部は当然知っているけど、知らない者の中には陛下にお目通りが適っていない存在も結構いる」

『信頼できない者と顔を合わせると、不都合が起きる可能性もあるからな。魔族から見ても、この姿は威厳が無いというわけだ』


 肩をすくめつつエーレは語る……なるほど、俺がエーレと出会った時のような印象を、魔族も抱くわけだ。


『で、話の続きだが……私達は敵の首謀者が大いなる真実を知っていると認識。だから私達の存在も認知しており、だからこそシアナを囮として起用した……が、もしかすると敵は大いなる真実は知っているが、私達の存在についてはわからないのでは、と現在推測している』

「エーレ、根拠は何だ?」

『今ある現状だ……状況証拠で申し訳ないが、直接交戦したのだろう? シアナの存在に気付いているのだとしたら、敵はセディ達を倒すため積極的に動いているか、脇目も振らず逃げているだろう』

「確かに私達がいるにも関わらず、反応が鈍いですね」


 これはシアナの言。口元に手を当て呟くように見解を述べる。


「そもそも私やお兄様のことがわかっているなら、実験なんて真似はしないでしょうし……」

『そうだな。特にディクスのことについては調べていてもおかしくないはずだが、敵は勇者オイヴァとしか認識していないようだ。もし知っていたなら、交戦した時シアナ達を魔族だと看破し混乱をもたらすなんてやり方もできただろう。それがないということは、彼らは私達の存在をこの目で確かめていないのでは、と思える』

「となれば、首謀者は……」


 俺の言葉に、エーレは小さく頷いた。


『大いなる真実を偶発的に知り、魔王を倒すべく動いている存在……といったところか?』


 つまり俺のように偶然知り、魔族と神々が管理する世界に反逆しているということか……一歩間違えば俺だってそうなったかもしれないと思うし、そういう存在がいてもおかしくはない。


『ただ、こうなると天使化に関する技術を持っていることが疑問なのだが……』

「エーレ、もしかして魔族じゃないとか……? でも、そうなるとジクレイトの一件が疑問になるな」


 ――俺達は元々、大いなる真実に関する情報を所持し、それを利用し神々と魔王双方の技術を得ていると推測していた。けれど偶然知ったとなれば……どうして記録上しか残っていない魔物の製造技術を知り、さらには天使化の技法を知っているのか。


『……この辺りはもう少し情報を精査することにしよう。セディ、シアナ。可能であればその点も解明するよう動いてくれ』

「わかった」

「わかりました」

『では、事件解決に動いてくれ。一番の目的は貴族フォゴンだが……人間ではない騎士も気になるな。捕らえるのは難しいかもしれないが、せめて正体だけは掴むようにしてほしい』

「わかった」


 俺は小さく頷き――エーレは「頼んだ」と述べ、視界の歪みが元に戻った。


「さて、行くとしようか」


 リーデスがこの場を仕切るように告げる。俺とシアナは同時に頷くと、路地から出るべく歩き出す。


 その時、今度はシアナが話し始める。


「私とリーデスで気配探知を行います。悪魔や傭兵を野放しにしておくのは危険ですから、貴族を捕らえる前に倒すことを優先としましょう」

「そうだな……頭を失って暴走されるのは勘弁だしな」


 シアナの言葉に同意した時、路地を抜ける。まだフォゴンの屋敷に程近い場所であるため、周囲は人の姿も少なく静か。


「……悲鳴なんかは上がっていないが、貴族が騒動を起こしたことくらいは伝わっていてもおかしくない。慎重に行こう」


 俺は言いながら大通り方向を指差す。シアナとリーデスはそれに黙って頷き、改めて移動を開始した――


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