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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
首都動乱編
106/428

判明した二つの事

「周辺の悪魔を倒さないと――!」


 シアナがそう告げた直後、俺は周囲の状況に気付いた。青き悪魔が散乱し、兵士や騎士は統制がとれない状況となりつつあった。その中でヴラシスはディクスと対峙し双方動けない様子。カレンも下手に動けばディクスの迷惑になると思ったか、魔法を放てずにいた。


 そうした状況の中で、フォゴンは悠然と門へと歩む。足取りはゆっくりだが取り巻きの傭兵やモーデイルが騎士達を蹴散らし、最早障害となるべきものはないと言って良かった。


 ここで逃がせば間違いなく街に多大な混乱を呼ぶだろう。しかし青き悪魔だって放置すれば危険な上、ここで騎士達が壊滅すれば逆に包囲されてしまう。

 最悪シアナ達が全力でかかれば倒すことはできる――けれど、こんな所で魔族の力を使うわけにもいかない。


 俺はどうするのが正解なのか迷い――悪魔とフォゴンを交互に見る。その時、


「――仕方ないね」


 声がした。聞き覚えのあるもので、それは――

 次の瞬間、近くで兵士を倒そうとしていた青い悪魔を、光の槍が滅ぼした。それを見た俺は驚き……先ほどの声と合わせ、誰が原因であるのかわかった。


 リーデス――ここに来て最後の戦力が加わった。助かった兵士はどこからの攻撃なのかわけがわからない様子で、周囲を見回している。


「……セディ様はフォゴンを!」

「わかった!」


 俺はシアナの言葉に従い走り出す――リーデス自身は混乱しているからこそ、誰にも見咎められないよう援護できるのだろう……彼の存在がバレないよう祈りつつ、俺はフォゴンへと駆けた。

 それに反応したフォゴンを始めとした傭兵一団。門前まで辿り着いていたが、距離はそれほどでもなく、一気に俺は接近する。


「なるほど――ともすれば、オイヴァよりも厄介な存在だな」


 その中で、モーデイルの声を耳にした。俺を危険視するような反応であり、こちらに明確な殺気を放つ。

 俺は彼らへ突撃を仕掛け、フォゴンを押し留め――たかったのだが、今度は青き悪魔が俺を阻んだ。能力的には赤き悪魔よりも低いのは間違いないが――シアナを吹き飛ばすだけの力がある以上、無理に突破するような真似はできない。


 悪態をつきそうになる中、悪魔へ剣を放つ。敵は全てフォゴン達を逃がすための盾となってその役目を果たし――

 フォゴンはとうとう、脱出を果たした。俺は追おうとするが、さらに悪魔に阻まれ――やがてその姿を、完全に見失った。


「やあっ!」


 後方でシアナの声が聞こえたと同時に、俺は目前にいた悪魔を倒す。振り返ると周囲にいた悪魔をシアナが体術で吹き飛ばしているところ。他の悪魔もリーデスによるものか、姿は無かった。


 視線を転じると、役目を果たしたヴラシスがディクス達を差し置いて退却を始めた。一方のカレンやディクスは動きを止め、追撃をしようとする構えは見せていない。

 俺はすぐさまシアナに呼び掛け、ディクス達へと駆け寄る。その途中で騎士達が態勢を立て直そうと号令を掛ける声を耳にし――俺は、名を呼んだ。


「カレン、大丈夫か?」

「オイヴァさんが守ってくれたから……」


 ディクスへ視線を移しながら彼女は言う。


「でも、勇者オイヴァと互角の力を持っているとは……」

「身なりは騎士のようだったが、真実は違うかもしれない」


 そう告げたのは交戦していたディクス本人。


「切り結ぶうちに、ずいぶんと変わった魔力を抱えているのがわかった……詳細は掴めなかったが、ただの人間ではなさそうだ。だからこそ、倒すのが難しいと判断しあきらめたのだが……」

「ディクス、これからどうする?」

「……ここからは、相手の出方次第だ。悪魔を生み出しつつ脱出するのか、それとも人々に紛れて脱出するのか」

「すぐに門を封鎖します」


 そこで声を発したのは、近くにいた騎士。


「既に伝令は発しました。城壁の外へ出すのはいくらなんでもまずいですし……」

「街に被害を及ぼさないために、あえて外に出すのも一つの手ですが……」


 俺はそんな風に騎士へ意見したが――彼は、首を左右に振った。


「勇者を最初から待機させておいたことから考えても、策を施していないとも限りません」

「……確かに」


 騎士の言葉にディクスは同意し、視線を門方向へ移す。


「外から爆音などが聞こえない……フォゴン達は、手当たりしだい破壊しているという雰囲気ではなさそうだ。おそらく事を荒立てたくない……いや、この場合は悪魔や漆黒の剣を目立たせたくないといった方がいいのか?」

「でしょうね。下手に商人や旅人を襲えば、ジクレイトという巨大な存在が出現することになる」


 そのように返答したのは、騎士。


「今ならまだ、マヴァスト国内における不祥事という形……おそらく国の上層部の方々も、これ以上表に出さないように通達するでしょう」


 やや硬質な顔つきで告げる騎士――俺は多少ながら違う見解だった。ジクレイト王国を刺激したくないというよりは、大いなる真実を知る魔王や神々を刺激したくないのではないだろうか。

 今ならまだ魔族が人間に悪魔の力を与えたくらいのレベルで済ませられる可能性もある……だからこそ、無差別な攻撃はしないのでは。


「とはいえ、こちらが仕掛ければ攻撃してくるのは必定ですね」


 次に声を出したのはシアナ。騎士もまた頷き、俺達へ依頼をした。


「今回の戦い、十分に対抗できるのはあなた方だけ……私達も装備を整え再び戦うつもりですが、皆様の協力をお願いしたい」

「もちろん」


 頷く俺。他三人も俺に賛同する構えを見せ、騎士は「ありがとうございます」と礼を述べた。


「では、私達は行動を開始します……皆様、ご武運を」


 言い残し騎士は去る……そこで、俺はふと呟いた。


「特に指示とか出なかったな」

「というより、出せなかったのかも。とにかく、自由に動いていいということだと思う」


 カレンは俺の言葉に応じ、小さく息をつくと門へと足を向けた。


「兄さん、私達も行こう」

「……そうだな」

「いや、ちょっと待ってくれ」


 呼びかけたのは、ディクスだった。


「ここからは、二手に分かれないか?」

「二手……?」

「そうだ」


 カレンが聞き返すと、彼は即座に頷く。


「あの赤色が混ざった悪魔……あの存在は、どうやらセディしかまともに攻撃することができないらしい。そして、敵の狙いは城などの可能性も十分ある」

「だから二手に分かれて戦うと?」


 カレンが問い掛ける。顔は困惑半分。不安半分といったところ。


「ああ……城には騎士団を含め余剰戦力がたっぷりあるはずだから、すぐに陥落するようなことにはならないはず。それにセディだって城で異変が起きれば気付くだろう……加え」


 ディクスはカレンと目を合わせ、さらに述べた。


「ここに勇者オイヴァとセディがいる……その事実を伝えれば、国側も動揺を収め騎士達も混乱なく動ける可能性が高い」

「なるほど……理解できます」


 カレンも内容を聞いて大きく頷いた。


「そしてフォゴン達と対抗できるのは兄さんだけ……となれば、私が城に行くと?」

「俺と同行して欲しい。城には馴染みの者もいるから、すぐに話ができる」


 そう言ってディクスは自身の胸に手を当てた――話の内容的にも筋は通っているので、カレンも頷いた。


 上手く言いくるめたなというのが、俺の感想だった。無論、ディクス自身が言った意味合いもあるはずだが、ここで二手――つまり俺とシアナとを組ませることで、魔族の力を利用して対処できるのではと考えたわけだ。

 また、こうした騒動となった以上、リーデスもさすがにエーレに報告しているだろう。だから話し合いをするためにも、カレンは離れてもらったほうがいい。


「カレン、俺からも頼むよ」


 駄目押しとばかりに俺はカレンに告げる。


「多少なりとも不安なのはわかるけど――」

「街の混乱を止めるには一番の方法だから、私も賛同するよ」


 カレンは俺の言葉に答え、少し不安な顔を見せた後、改めて口を開いた。


「兄さん……気を付けて」

「ああ」

「シアナ、セディについてあげてくれ」

「はい。セディ様、足手まといにならぬよう注意しますから」

「わかった……オイヴァ、気を付けろよ」


 俺の言葉に彼は頷き、カレンと共に足早に移動を始める。そして門を抜けた後、俺とシアナは互いに目を合わせた。


「まずはどうする?」

「……一刻も早くフォゴンを追いたいですが、まずはお姉様と連絡を」

「援軍として魔族でも回してもらうか?」

「その点を含め、協議したいです」


 告げた彼女は、小さく息をついた。


「……さすがに、あれほどのレベルとは思いませんでした。けどあれ以上力を引きだせばカレン様や敵方に私の存在を気付かれる可能性が高かったですし」


 語る間に、シアナは両手を閉じたり開いたりする。


「魔族の力を解放して戦うのか、その辺りもお姉様と話し合うことにしましょう……セディ様、それとわかったことが二つあります」

「二つ?」

「はい。一つはヴラシスという騎士のこと。彼は十中八九、人間ではありません」

「ディクスも言っていたな。とすれば、魔族か?」

「暴くことはできませんでした。とにかく、戦う時はご注意を」

「わかった。二つ目は?」


 そこまで言った時、シアナは深刻な顔をした。


「あの悪魔です……特に赤い悪魔には多量に……あれには間違いなく、魔族幹部の体の一部が使われています――」


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