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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
首都動乱編
103/428

騎士と増援

「遅かったな」

「多少準備に手間取った」


 高めの声……昨夜逃げようとした時、遭遇した人物と同じ声だ。

 観察すると、二十代半ばくらいの金髪男性。太陽に照らされ、異様なまでの白い肌が目を見張る。


 顔立ちの中で目立った部分としては、くっきりとした二重まぶたと、ひげの無い爽やかな顔つきだろうか……そうした姿が。騎士服と相まってずいぶんと存在感を示している。


「援軍、か……」


 そこでディクスが騎士へ視線を向ける。そういえば彼について、シアナは言葉を濁し何か言おうとしていた。彼もまた、何かしら警戒を抱いたのかもしれない。


「そして玄関前は、モーデイルを除き全滅か……予定の範囲内だな」


 倒れる面々を一瞥した後、淡々と告げる騎士。その間に屋敷玄関近くに国の騎士や兵士が集まり、彼らを取り囲み始める。


「戦闘は私達が行います。皆さんは、彼らが逃げないよう注視してください」


 ディクスが逸る騎士達に警告する。そして剣の切っ先をモーデイルではなく、騎士に向けた。


「ここに来たということは戦う気なのだろう?」

「……勇者オイヴァとは、是非戦ってみたいと思っていた。しかし、今はその時ではないな」


 騎士はどこか不満そうに語る。その時ではない……?

 彼が語った直後、屋敷の中から床を軋ませるような大きな音が聞こえた。それに騎士達は反応し、警戒を行う。


「ここで戦い続けても、いずれ私達が押し負けることは必定だ。そんな状況下で勝負し、万が一負ければ主人の身が危うくなる」

「万が一、か」


 ディクスは彼の言葉を反芻(はんすう)し、肩をすくめた。


「勝てると踏んではいるようだが……その割には、警戒心が強いな」

「相手が高名な勇者である以上、至極当然だろう」


 語る間に、屋敷の中の音が近づいてくる。モーデイルは一人状況を理解しているのか、半ば傍観者的に視線を送っているのが特徴的だった。

 そして――玄関の扉の向こうで、唸り声が聞こえた。といっても人間のものではない。獣のようなもので――


「魔物か」


 オイヴァはモーデイルと騎士を交互に見ながら、告げた。


「魔物を作り出す技術を持っているのか?」

「まあ、そんなところだよ」


 騎士が返し、玄関扉を開けた。そして中から現れたのは――

 黒い毛並みを持った狼型の魔物で、大きさは虎くらいだろうか……いや、待った。よくよく見れば一つだけ、違う所がある。


 狼の額に当たる部分。そこに、水晶のような物が埋め込まれている。瞳は真紅であるのだが、まるでそれが第三の瞳のように思え……ひどく不気味に感じた。


「見た目は、アレンジの範疇を越えないようだな」


 ディクスが皮肉気に言う。騎士は肩をすくめ「自覚はある」と答え、

 さらに屋敷から足音が。複数いるらしい。


「それでは、始めようか」


 騎士が述べる――瞬間狼が吠え、前傾姿勢を取った。

 来る……そんな風に思いながら俺は魔物に目を向けた――刹那、


 狼が、跳んだ。そしてほんの一瞬で、


 眼前に到達する。


「――――!」


 声を上げる暇すらなく、咄嗟に体を傾けた。狼の体が右腕を僅かに掠め、痛みが走る。


「な――」


 周囲の人間達が呻いた瞬間、後方から鈍い音が轟いた。慌てて確認すると、狼の突撃に巻き込まれた兵士達が、何人も吹き飛んでいた。さらに直撃したのかわからないが、一人は気絶したのかピクリとも動かず地面床に伏している。


「っ……!」


 反応できなかったことが悔やまれつつ、俺は狼へ向け攻撃を仕掛けた。しかし魔物はくるりと体を反転させると、またも跳んだ。今度は直線状にではなく、俺達の頭上を飛び越えるような山なりの軌道――

 直後、ディクスが剣を魔物へ向けかざした。空中にいる間に仕留めようという魂胆のようだが、


「おっと」


 騎士が剣先を向けた。瞬間彼はそちらに意識が向き、狼は攻撃を受けないまま騎士達の近くに着地する。


「貴重なサンプルだから、できればもう少しデータが欲しい」

「……逃げるんじゃないのか?」


 データなんて言っているため、ずいぶん余裕があると俺は思い質問。すると、


「屋敷を脱出しつつデータを取るんだよ。それほど難しいことじゃない」


 事もなげに騎士が告げた――直後、再度狼が前傾姿勢となり、


「閉ざせ――天界の門!」


 後方からカレンの声が響いたかと思うと、俺の真後ろに半透明の結界が生じた。いや、それは俺やディクス。そしてモーデイル達だけを隔離する新たな結界。


 刹那、狼が跳ぶ。俺は先ほど速度を体感したため今度は反応でき、避けた。狼は横を通り過ぎ、またも後方にいる兵士達へ向かおうとする。

 けれど、カレンの張った結界によりそれは阻まれ――激突し、動きを止めた。


「……ほう?」


 感嘆の声。俺はそれに反応することなく剣を狼へ振った。体躯に刃が触れるとあっさりと食い込み……両断。魔物は塵と化し、消えた。


「中々強固な結界だな……そちらの仲間も、相当な技量の様子」


 俺に視線を送りながら騎士は言う。それに俺は「まあな」と答えながら、後方に視線を移した。

 カレンと、シアナの姿があった。待機していたが、状況を把握し援護した方が良いだろうと判断し来たのだろう。


「そういえば、名を訊いていなかったな」


 ふいに、騎士が問い掛ける。そういえば言っていなかったと思いつつ、口を開いた。


「……セディ=フェリウスだ」

「……何?」


 反応したのはモーデイル。やはり聞き覚えがあったか。


「セディだと……? あの、勇者セディか?」

「ああ」


 首肯する俺。すると騎士も警戒の眼差しを送り、納得した様子で頷いた。


「勇者セディと、その同行者か……これは、面白いことになりそうだ」


 視線とは裏腹に騎士は楽しそうに告げた後、玄関から新たな魔物が出現した。

 漆黒ではあったが今度は人型……ただし、両腕が常人と比べ二回りも大きい。それだけで何に特化している魔物なのか、判断がついた。


「どこかに魔力を特化させ、強化した魔物達というわけか」


 嘆息を交え、ディクスが騎士達へ口を開く。


「実験の成果とはいえ……そう誇らしげに語るものでもないな」

「そうか?」


 モーデイルが怪しい笑みを見せる。何か策があるのか……それとも――


「お前達が強いのは間違いないだろう。しかし、こちらにも対抗する術はある」


 魔物達が動く。顔の部分もまた漆黒に覆われ瞳など存在していないように見えるのだが、首をしきりに動かし状況を把握している。

 そしてその視線は――カレンの構築した結界を見据えているように感じた。


「よし、やれ」


 モーデイルが魔物へと命令する。刹那、魔物がその腕を振り上げ、

 カレンの張った結界に拳を叩き込んだ。


「っ……!?」


 それによりカレンが僅かに呻いた。現在彼女は結界を維持している。しかしそれを物理的に攻撃することで、苦悶の声をもたらす結果となった。


「どうやら、悠長にしていると結界を破られそうだな」


 ディクスは察したと同時に魔物へ向け剣をかざす。


「さて、ぼちぼちやるか」


 そこでモーデイルが剣を構えた。ようやく重い腰を上げた。


「モーデイル、わかっているな」


 そこへ騎士が一つ忠告。モーデイルはそれに小さく頷き「任せておけ」と応じた。

 やはり策があるのか……? まあ、どちらにせよ早々に片付けた方が良さそうだ。ここは、一気に――


 先行して仕掛けたのはディクス。狙いは結界を破壊しようとしている魔物だ。

 彼の剣戟は鋭く、魔物は避ける暇なく一撃受け――あっさりと消滅。耐久性はやはり低い……というか、ディクスの力なら余裕と言った方がいいだろうか。


 この調子ならモーデイル達も……思っている間に、屋敷入口からさらに増援がやってきた。

 全て同じような人型……いや、よく見ると腕の太さや足の太さがややバラバラである気がする。


「統一感が無いな」


 ディクスは魔物を一瞥するとそう評した。するとモーデイル達も自覚は苦笑し、


「まあ……そういう作戦だからな」


 事もなげに告げたと同時に、魔物が疾駆する。屋敷からそれらが溢れ、まるでモーデイル達を覆い隠そうという勢いであり――


「数で押し潰す気か……!?」


 俺は零しつつ、左手を魔物達へかざした。結界で周囲の人々に危害が及ぶことはない――だからこその選択だった。


「来たれ――煉獄の聖炎!」


 金色の炎。それが魔物へ向かって降り注いだ。


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