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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
首都動乱編
102/428

傭兵との緒戦

 先手を打ったのは傭兵達。一人が猛然と俺達へ迫り、漆黒の剣を差し向ける。

 それを受けたのはディクス。傭兵達にとってみれば挨拶代わりだったかもしれない一撃を、真正面から受け切った。


「――うおおっ!」


 だが傭兵は攻勢をやめない。剣を噛み合わせたまま前進し、ディクスを押し潰そうと動くた。

 一方のディクスは極めて冷静だった。傭兵の剣を容易く弾くと、攻撃が来る前に距離を置く。


「何だ、もう逃げるのか?」


 傭兵は笑みを浮かべながら挑発的に尋ねる……受け切ったことや弾いたことで、多少なりともディクスの力量を察したはず。だが強力な剣を持ったことにより自意識が肥大しているらしく、負の感情は抜け落ち、ひたすら好戦的な眼差しを向けている。


 後方にいる傭兵達も笑う……どうやら全員が同じ心境の様子。だが、


「最強の剣などと言っても、それほど強くはないみたいだな」


 今度はディクスが煽るように告げた……焚き付けなくてもいいような気はするが――

 傭兵はそれに反応。僅かに眉根をつり上げ、ディクスへ口を開く。


「そんな余裕に構えていていいのか? 言っておくが、さっきのは全力じゃねえぞ?」

「わかっているさ」


 ディクスは答えると同時に攻勢に出た。傭兵は「来たか」と呟くと、迎え撃つべく間合いを詰め、鋭い一撃を放つ。

 ここで一つ察する――おそらくだが、彼らは武器を持ったことにより身体能力も強化されている。正直相対する傭兵は、強烈な気配や強大な魔力を感じられない。俺やディクスと普通に戦えば、一撃で倒れ気絶してしまうくらいの能力しか所持していないはず。


 しかし武器の力により潜在能力が高められ、見かけ上ディクスと戦えるまでになっているのではないか……この戦闘はディクスの勝利だと思ったが、こうした事実は厄介だと感じた。


「おらっ!」


 考える間に傭兵が剣を薙ぐ。豪快な一撃。まともに食らえば、再起不能になることは間違いない。

 けれどディクスは表情を変えないまま受け流すと、武器を破壊するべくその刃を勢いよく打った。だが、武器自体を砕くには至らない。


 傭兵はすぐさま体勢を整え、続いて攻撃する……その時、俺の方にも傭兵が接近し、剣を振ろうとした。


「厄介だな……」


 零しつつ俺は傭兵の剣を受けた。感触としては、予想以上に重い。しかも傭兵の士気は高く、俺を薙ぎ払おうとする。

 強力な武器を手にしたことにより、勢いがある……それに武器の力もまんざらではなさそうだ。俺は改めてここから逃がすべきじゃないと思い、魔法具の力を活用し傭兵を押し返した。


「おっと……やるな!」


 余裕の声音で傭兵は応じると、すかさず間合いを詰める――退く気はないか。

 続けざまに斬撃。同時に刀身からは炎が溢れた。魔法剣的な能力もあるらしい。


 炎を見て俺は退避しようとしたのだが、それよりも前に刃が到達しそうになる……仕方ないか――


「防げ!」


 反射的に魔力を左手に集め、結界を発動。いつも使用している女神の盾程の強度は無いが、それでも炎を食い止め、完全に防ぎ切った。


「よく防いだな……!」


 傭兵はさらに笑みで顔を歪ませる。オイヴァと共にいる剣士を手玉に取っている……そんな風に思い、興奮しているのかもしれない。


「どうやらお前相手なら、こいつの真価を発揮できそうだな……!」


 言うと、彼は剣を構え直す――言っていることは、以前山賊の根城で交戦した人物と同じようなこと。

 その時、ディクスの方が大きく進展した。刃を交錯させていた二人だったが、次第にディクスが押し始める。


「ちいっ!」


 傭兵は押し負けると悟ったか大きく引き下がる。しかしディクスは追撃を仕掛け――

 一瞬の隙をついて、剣戟が傭兵の体に当たった。


「がっ!」


 声が漏れると同時に吹き飛び、倒れた。どうやらこれで一名は再起不能。

 そして、俺と相対していた傭兵だが……ディクス達の戦闘結果を無視するように、突撃を行う。


「死ねぇ!」


 大振りながら横薙ぎを放つ傭兵。炎をまとい、見た目上強力な一撃。しかし、


「舞え――竜の刃風!」


 俺は魔法を発動させ、握る剣に風をまとわせて対抗する。

 剣が打ち合った瞬間、風が弾け炎を消し飛ばす。さらに風により相手の剣を押し返し、威力を殺す。


「な――」


 そこでようやく、傭兵の顔に戦慄が走った――今のは生み出された風を利用し、相手の剣を捌く魔法なのだが……通常、魔力強化を利用して弾いた方が効率が良いのであまり使う機会は無い。

 けれど、先ほどのように炎なんかを刀身に絡ませているようなケースなら、それらを消し飛ばしつつ攻撃できるため、有効な魔法となる。


 相手が驚く間に、俺は刀身の根元を大きく弾いた。それにより彼は耐え切れず剣を手放す。

 これで――俺は剣戟を見舞う。傭兵は呻き、こちらに恨めし気な視線を送った後、倒れた。


「なるほど、そっちの奴もそれなりのようだな」


 倒れた二人を見て、後続の二人が声を上げた。


「二人に加勢しようと思わなかったのか?」


 何気なくディクスが二人へ尋ねる。すると片方が肩をすくめ、


「止められていただろうからなぁ。非難されてまで加勢したくはないな」

「仲間意識は皆無というわけか……まあいい。それで、今度は二人掛かりか?」


 冷淡に述べたディクスは、静かに剣の切っ先を傭兵達へ向ける。それを観察しつつ……俺は玄関扉から動かないモーデイルのことが気に掛かった。

 視線を送ると、目が合った。けれど相手は感情の無い瞳で見返し、少しして視線を逸らした。


「ま、さすがに勇者オイヴァと戦うには気合を入れる必要があるということはわかったぜ。だからここは――」


 言うや否や、傭兵達は剣を抜き放ち――

 大気を圧するような気配を発した。


「全力で潰させてもらうぜ!」


 叫ぶと共に、二人同時に走った――傍から見れば圧倒的な魔力を発する傭兵二人に、俺達は大丈夫なのかと気にするところ。けれどディクスは動かず、なおかつ俺は傭兵達の能力をしかと看破していた。


「所詮は、借り物の力だな」


 ディクスが言い――傭兵達が剣を振ろうとした直後、動いた。おそらくこの場にいる兵士達には、瞬間移動したように見えたかもしれない。

 彼は瞬きをするような短い時間で傭兵達の間をすり抜け――その間に、剣を当てていた。


 傭兵から、どちらからともなく苦悶の声が上がる。そして二人同時に、倒れ伏した。


「そうした威嚇の魔力は、相手の力量を見て使うことをお勧めする」


 そうディクスは告げ、モーデイルへ視線を移した。


 ――彼の言う通り、結局は威嚇のための魔力だったわけだ。素人なら見破られることもないのだが、修練を重ねてきた剣士ならばすぐに理解できる。傭兵達はおそらくそんなことを考えず、自分の力を誇示するように使ったのだろう。


「モーデイル……そっちは、どうする?」


 そしてディクスは最後に残るモーデイルへ告げた。


「中から人を呼んだようだけど、来ないな」

「……準備というものがあるからな」


 モーデイルは返答すると、倒れた傭兵達を一瞥し後、ため息をついた。


「少し力を与え増長させたらこれだ……だから俺は反対してたんだよ」

「モーデイル、君は違うと言いたいのか?」

「無駄に量産するより、質を高めた方がいいんじゃないかと提言していたんだが」


 頭をかきつつ語るモーデイル。口上から、彼は事件を起こした貴族とずいぶん関わりがあるようだ。


「今更行っても仕方がないけどな……で、だ。個人的な見解としてはオイヴァ、お前に勝てるほど自惚れてはいないさ」


 そう語った直後、玄関の扉がゆっくりと開く。中からは白い騎士服姿の男性が現れた。


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