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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
首都動乱編
101/428

勇者対傭兵

 屋敷に正面に辿り着いて外観を見回した時、想像していたよりも酷い光景だと率直に思った。


「これは……」


 カレンも小さく呻く。そこは完全に、戦場と化していた。

 屋敷の門は歪に折れ、入口周辺を城の人間達が固めている。騎士や兵士は屋敷の中に入りこんではいるのだが、どうやら傭兵や勇者達に食い止められているようだ。


「貴族が所有する武器は、騎士達を止める力を持っているみたいね……」


 カレンが半ば信じられないような面持ちで呟く。


「それだけでなく、状況から見て騎士達が苦戦している気配かな」

「……行くしかなさそうだな」


 俺は断じると一歩足を踏み出した。その時、俺達の存在に気付いた騎士の一人が、駆け寄ってくる。顔は相当警戒している。身なりを見て、敵の仲間だと思ったのだろう。


「お前達は――」

「ああ、こういう者です」


 すかさずディクスが前に出て、何かを差し出す。それは薄い金属プレート……傭兵ギルド所属を証明する物だ。

 俺の持つ物とは異なり、色合いが金色。加えて名前まで掘られており――騎士はすぐさま直立した。


「勇者オイヴァ……! 王から話は聞いております」

「彼が反抗しているのはわかるが……苦戦している?」


 問い掛けに、騎士は苦い表情を見せながら頷いた。


「はい。交戦当初は押していたのですが、敵はかなり特殊な魔法具を使い、現在は膠着状態……今は魔法使いと連携し、押し留めているような状況ですが……」

「敵はどのような動きを?」

「一時は専守防衛の構えだったのですが、今はこちらを追い払おうと動いています」


 逃げようとしているのだろうか……それだけは防がなければならない。


「では、私達も協力を」

「……助かります」


 沈鬱な面持ちで騎士は言う。助力はありがたいが、勇者に協力を仰ぐとは失態――そんな風に思っているのだろう。


「ところで、その方々は?」


 次いで騎士は俺達へ目を向け問う。するとディクスは手で俺達を示し、


「勇者セディと、妹であるカレン殿……そして妹である、シアナ」

「なんと……勇者セディ」


 騎士は驚き目を見張り、俺とディクスを交互に見比べる。

 その間に、俺が口を開いた。


「敵が強力な魔法具を使っているのであれば、お役に立てるはずです」

「そうですね……勇者セディ、ご助力ありがとうございます」

「ええ」


 相変わらず険しい顔だったが、彼は礼を述べ手で屋敷方向を示し、ディクスへ告げた。


「……ご武運を」

「はい……シアナ、悪いがここで待機していてもらえないか?」


 彼は兵士に応じた後、シアナへ指示を送った。


「周辺に被害が及ばないよう配慮する必要がある。だから逃げ出した面々が来たら、対応してほしい」

「わかりました」


 シアナは二つ返事で返答。そしてディクスはカレンに視線を送る。


「カレンさん――」

「私も、待機しています」


 言葉を読み、カレンはそう答えた。


「それに、あれだけ乱戦の様相だと私の魔法は危険でしょうし」

「……お願いします」


 ディクスは言うと、今度は俺に目を移す。


「大丈夫か?」

「こっちのセリフだよ」


 答えと共に俺は剣を抜いた。合わせてディクスも剣を抜き放ち、ゆっくりと門方向へと歩み出す。

 その間に屋敷の中を見回す。門からは真っすぐ玄関扉へ続く道があるのだが……そこを主戦場として交戦している。


 敷地が広いため、玄関以外からも逃げられると思ったのだが――よくよく見ると、屋敷全体に淡い結界が張ってあった。どうやら屋敷を結界で隔離し、玄関付近だけ出入り口を作っているらしい。

 そうか――兵数は国側の方が多い以上、結界もなしに戦えば四方八方から屋敷に侵入され終わるだろう。それを防ぐべくあえて結界で守り、侵入経路を一つに絞ることで防戦しているのだと理解した。


「あの結界、壊せないかな……」

「できないこともないと思うが、面倒なことになるだろうな」


 俺の呟きに対し、ディクスは律儀に応じる。


「女神の武具を転用した技術のようだ。セディの武具も女神の物だが……同種の力だと上手く破壊することはできないはず。そして私が全力でやれば破壊することは可能だが……」

「そんなことしたら、バレるだろうな」

「だな。ここは時間が掛かってしまうが、確実な方法を取ることにしよう」


 ディクスが述べた瞬間、俺達は屋敷の敷地に足を踏み入れた。これで入るのは二度目。けれど門から入るのは初めてだ。

 戦場に目を送ると、兵士が傭兵の攻撃により吹き飛ばされていた。玄関付近にいる傭兵の数は五人と少ないのだが、その一人一人が漆黒の剣を握っており、兵士達が苦戦する現状が納得できる。


「おら! どうした!」


 声を上げながら傭兵が剣を薙ぐ……その後方には、昨夜剣を交えたモーデイルの姿もあった。

 傭兵達は全員騎士や兵士に取り囲まれているというのに嬉々として剣を振り、戦っている。包囲されているというのにこの表情……やはり何か、策があるのか?


 考える間に、兵士や騎士が一旦動きをストップする。それを見た傭兵達は最初挑発していたが、やがて彼らも動きを止め、様子見を始めた。


「……一番気に掛かるのは、この屋敷の主人である貴族が、どのように動くかだな」


 一連の光景を観察しながらディクスが呟く。


「傭兵はずいぶんと余裕があるように見える。となれば貴族から策を言い渡されているのだろう。それに加え、貴族と共にいることで栄達や報酬を得ることができると説明し、繋ぎ止めているのかもしれない」

「にわかには信じられないな。こんなことをしでかした以上、後は没落するだけだというのに」

「没落どころか死罪でもおかしくないな……貴族としては逃げの一手だろう。となると、一体どこに逃げるのか――」


 そこまでディクスが語った時、俺の脳裏に閃くものがあった。


「……ディクス、推論だがここの貴族は、後ろ盾があるんじゃないか?」

「後ろ盾?」

「ああ。とはいえ一連の首謀者のことじゃないぞ。貴族は最初報復を恐れ怯えていたが……それが無いとわかり、勇者や傭兵を動かし後ろ盾の人物の所へ行こうとしている、なんてシナリオが浮かんだよ」

「一理あるな。となると、候補としては――」

「西側の諸国の重役、なんてどうだ?」


 ――決して根拠のある推論ではなかった。けれど、ディクスは思う所があったのか俺を見返す。


「……こちらの国で、あんな厄介な武器を手に入れようとする人間がいるとは考えにくいが、西側だとしたらあり得るな」

「事件首謀者とは別に、そうしたコネクションを持ち、無断で武器を提供していたためかもしれない」

「ふむ、現状推測でしかないが、可能性としてはあるな」


 ディクスはそう述べた後、鋭く傭兵達の剣を注視する。


「……魔族の体で構成された剣は、人間にとっては強力で垂涎の的だろう」

「かもな……まあ、その辺りは貴族を捕まえればわかることだし、この辺りにしようか」

「そうだな……始めるか」


 ディクスは歩き出す。俺は追随し――傭兵達もこちらの動向に気付いた。


「何だ? ここの騎士は俺達と同業者に頼らないといけないくらい弱いのか――」


 傭兵の一人が声を上げ、止まった。ディクスに気付いた。


「てめえ……オイヴァ」

「ああ。悪いが国側の味方をすることにした」


 端的に告げると、ディクスはしっかりとした動作で剣を構えた。


「時には共に仕事をやった仲ではあるが……城に反逆した以上、ここで倒す」

「はっ! やれるもんならやってみろ!」


 傭兵は強気。周囲にいる面々も、モーデイルを含め似たような顔つき。


「言っておくが、俺達は最強の剣を手に入れたんだからな!」

「最強、か……」


 ディクスは漆黒の剣を一瞥し、やがて口を開く。


「試してみようじゃないか。どちらが強いか」

「ああ――おい!」


 傭兵が声を上げる。同時に後方にいた四人の内三人が移動を始めた。

 唯一モーデイルだけは動かない……いや、踵を返し玄関扉を少し開け、中へ何かを伝えている。念の為後詰めを呼んでいる、といったところか。


「後悔するなよ、オイヴァ」

「そちらこそ」


 傭兵の言葉に対し、ディクスは極めて冷静に返す。それが癇に障ったか傭兵はギラついた視線を送り、


「ここで勇者の伝説を終わりにしてやるぜ――!」


 絶叫と共に俺達へ向かい――そして、戦闘が始まった。


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