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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
首都動乱編
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不可解な行動

 朝食を済ませ、俺は腹ごなしに散歩を行う。早朝であるためか開いている店の数もまばらで、特に目移りする様なものはない。


「……ギルドへ行ってみるか」


 開いているのか疑問だったが、呟き足を向ける。情報を集めることに関しては、さすがにディクスばかりに任せるのは忍びないと思ったためだ。

 一応リーデスに相談しようと思っていたのだが……現れなかった。まだディクスから指示を受け、動いているのかもしれない。


「とはいえ、昨日の今日だからな……有力な情報が手に入る可能性は低いだろうな」


 零しつつ俺はギルドに到着し、開いていたので入る。中は相変わらず澱んだ空気。けれど以前来た時と比べ、閑散としていた。

 朝だから――という理由からなのかもしれないが、なんだか別の予感を抱く。


「すいません」


 奥にいる職員に話し掛ける。すると男性は俺へと目を移し、


「勇者セディか……君は仕事に参加していないようだな」

「仕事?」


 予感通り、何かあったのか――聞き返すと、男性は小さく肩をすくめた。


「深夜だったかな……突如ギルド本部へ連絡がやって来て、勇者達を連れてくるように指令があった。根無し草の奴らが来るわけないだろうと思いつつも、多くの面々が現場に急行したらしい……もしかすると、待機を命じられていたのかもしれないな」


 貴族が呼び掛けたとしたら……騒動が起こるかもしれないため、念の為に息のかかった勇者に準備させていた、ということだろうか?


「その人達は現在……」

「どうも貴族……確か、オーダイル家の屋敷だったかな? とにかく貴族の屋敷に入り、城に反抗しているらしい。ギルドのお偉いさんは頭を抱えているよ。勇者連中を統制できなくて、国に迷惑を掛けているからな」


 ギルド側にとっても、悩ませるような話みたいだ。


「……なんだか気になる話ですね。それ以上の情報はありますか?」

「今の所睨み合っているという話しか聞かないからなぁ。まあ、何かあった時は街で騒動が起きそうな気配がするな。ギルドの人間からすると、さっさと終わってくれと言いたい」

「ごもっともです」

「……あんた、この街で活動するなら、勇者オイヴァと共にギルドの地位向上のために働いてもらえないか?」

「この場所にいつまでいるかわかりませんけど……尽力はします」

「頼むよ」


 男性は苦笑しながら語った後、現在ある仕事の一覧を俺に見せた。請けるつもりは一切なかったので、適当にそれらを眺めながら……ふと、


「そういえば、ここに初めて来た時因縁をつけてきた人達は……」

「この場所を本拠としているわけではないから、どこかのギルドにいるのかもしれんが……屋敷の方に行っている可能性が高いだろうな」

「そうですか」

「屋敷にいる奴らが全員捕まるとなると、人手不足になりそうだな……やれやれ、どうしてこんなバカな仕事を引き受けたのか」


 困った顔で話す男性……国に対する反逆行為をしでかすとは、いくらギルドの人達でも予想外だっただろう。

 そしてここで一つ疑問が。今回の相手は国だ。それなのに、なぜ彼らは従ったのだろうか。何か理由でもあるのか、それとも――


「……今日はよさそうなのがないので、このまま帰ります」


 考えつつ俺は引き上げる胸を伝える。


「そうか? まあ、次は頼むよ」


 男性は引き留めることもなく呼び掛け、俺は小さく頭を下げた後ギルドを出た。

 有力とまではいかないが、それなりに情報は手に入れた。さて、ここからどうするか――


「あ」


 そこで、声が聞こえた。視線を向けると、ディクスとリーデスの姿。


「セディか。私と同じくギルドで情報を手に入れようとしたのか?」

「そんなところ……けど、あまり有益な情報はなかったよ」

「そうか……リーデス。ひとまず手筈通り頼む」

「はい」


 ディクスの指示を受けリーデスは一礼すると、その場を後にした。


「……リーデスには何をやらせているんだ?」

「情報収集が主だったが、これから屋敷の監視をさせる。今は私がギルドへ向かうということで、歩きながら報告を聞いていた」

「状況は?」

「さほど変わっていない……けれど、城側は焦燥感が強くなってきたようだ」

「騎士にとっては、一貴族に遅れを取るなんて信じられないだろうな」

「だな。まあ、勇者達の武器が魔族の体であったなら、こういう状況になるのは必然とも言えるかもしれないが……」


 そう述べたディクスは、厳しい目を見せた。


「貴族が次にどういった手を打つか……そもそもなぜ籠城といった行動を起こすのか不可解であるため、行動が読めなくて不気味だ」

「もし逃亡した場合、俺達も貴族を捕まえることに協力する……ということでいいのか?」

「それで良いと思う」


 頷くディクス。なら、とりあえず事態の進展があるまで待機でよさそうだ。


「……で、セディ。ギルドでは何かわかったかい?」

「ああ、その点だが――」


 とりあえず移動をしながら説明を始める。といっても貴族が色々と勇者達に根回ししていた、というレベルの情報だが――


「ふむ、そうまで待機していたとなると……もしや、あの貴族は何か計画していたのか?」

「計画?」

「深夜にもかかわらず馳せ参じた勇者や傭兵がいたということは、あのパーティーに備えて何かをしていたという可能性が考えられる。さすがに私達の襲撃については予見していなかっただろう。でなければ、あれほど混乱は起きずセディが資料を目にしたはずがない」

「だろうな」

「となると、貴族は――」


 そこまで語り、彼は口を止めた。俺もまた硬い表情を示し、


「……もしかして、あの貴族はパーティーの場を利用して、他の人間を……?」

「殺そうとした、という可能性はゼロではなさそうだ」


 沈鬱な面持ちで語るディクス。となれば、俺達は騒動を起こしたことにより会場にいた人々を救った、という見方もできる。


「これはあくまで想像だから断定はできないが……状況として、貴族側も何かをやろうとしていたという可能性は高そうだ」

「それを俺達が逆に混乱を引き起こし止めた、ということか……いや、待て。混乱に乗じ、何かしていたという可能性は?」

「少なくともパーティー出席者で死んだ者はおろか、怪我人もいない。出席者を殺す、もしくは何かしでかそうとしていたにしろ、人々が犠牲にはなっていない以上、敵の計略は失敗だったとみていいだろう」


 結果オーライ、というわけか。まあ真相は闇の中だし、貴族から訊かなければわからないことなので、ひとまず捨て置いていいだろう。


「ともかく、私達は国の人々に被害が及ばないようにしながら、情報を手に入れることに専念しよう」

「そうだな。ひとまず、様子見は継続ということで――」


 そう俺が語った瞬間、

 どこからか澄んでいて、かつ重い音が耳に入った。


「……ん?」


 首を傾げ視線を周囲へと巡らせる。通行している人の中には俺と同様気付いた者もいるようで、空を見上げている姿が見えた。


「今の音は……」

「しっ」


 呟きを、ディクスが制する。俺は言葉を止め、耳を澄ませ、

 またも音が聞こえた。


「……爆発音、か?」

「方角までは特定できないけど……貴族の仕業だろうな」


 ディクスは述べると、走り出した。方角はもちろん、屋敷のある場所。


「シアナ達はどうする!?」


 道中、俺はディクスに呼び掛ける――が、走っている目の前の道にカレン達を発見した。

 彼女達も俺達と同じ見解なのか、屋敷へ続く道へ走っており――


「カレン! シアナ!」


 俺が呼び掛けた。直後、カレン達はこちらに気付き、立ち止まる。


「兄さん……! 今のは――」

「わからないが、確認しようと思っていたところだ!」


 言葉にカレンとシアナは頷き、俺とディクスの後ろに追随する形で走るのを再開した。

 空からは先ほどと同じような音が聞こえてくる。近づくにつれ音の重さが増し、戦っているのではないかという推論が頭の中に浮かび上がってくる。


「到着したらどう動く?」


 俺は並走するディクスへと尋ねる。


「騎士の苦戦度合いによって考えよう。優勢なら……放置で」


 戦う気はないようだ。まあ、優勢なら騎士達も俺達の協力は拒むだろうけど。

 考え走る間もずっと音は鳴っている。そればかりか、頻度が多くなっている気がした。これが戦いの音であるなら、どんどん苛烈になっているということか……俺は不安げに空を見上げ――すぐさま顔を戻し、足を動かすことだけに集中した。


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