ひとりぼっち-a93d3
教室の扉を開けた刹那、夕月の頭上から大量の水が落ちた。教室内に悪意に満ちた生徒の笑い声が響く。
「成り上がりが…汚いな。早く教室から出ていけ。空気まで汚染されてしまう。」
「おいおい、成り上がりではなく、成り上がることも出来ない貧乏人。」
「ははっ!お前は容赦がないな。」
生徒達の言葉を気にも止めないかのように、夕月は1人の生徒に近付き、来ていたジャケットを脱いで生徒の頭に掛け、微笑んでみせた。嫌悪感に顔をしかめ、頭上のジャケットを払いのけた男子生徒は、力任せに夕月の襟元を掴み上げる。
「貴様!調子に乗るのもいい加減にしろ!恭院様の情けで社交界に名を連ねることが出来たからと…何が可笑しい…?」
掴み上げられながらも含み笑う夕月に、男子生徒の眉が一層しかめられる。
「否、人間の言葉を話しているのが可笑しくてね………勉強熱心なのですね。…鼠のくせに…」
「貴様!言わせておけば!!」
「許してはおけぬ!!」
端に居た数人の生徒が、夕月の頬を力任せに殴った。固定していた訳でもない夕月の身体は軽く飛び、幾つかの机にぶつかりながら床に叩きつけられる。与えられる痛みに顔をしかめはした夕月だが、一切の悲鳴らしき声をあげなかった。
生徒達は夕月のその態度すらも許せないのか、拳や足に掛ける力を強めていく。
傍観者であった生徒も参加し始め、数人の笑い声の中で踞る夕月の白い肌からは薄く緋が滲んでいた。