第18話 楽屋裏 — 奪われた人生
真琴「……とうとう思い出しちゃったね。あの頃のこと」
奏音「キティちゃん……懐かしいなぁ。いつもお膝の上に乗せて、可愛がってた」
真琴「……でも、幼稚園のことを覚えてないのは、やっぱり気になるわ。普通、少しは何か覚えているものでしょ?遠足とか、お遊戯会とか」
湊「……そんなの当たり前だろ。俺が代わりに行ってたんだからな」
真琴「えっ!?幼稚園で、もうあんたが出てたの?それで、ちーちゃんは何も覚えてないのね。で、幼稚園ではどうしてたのよ」
湊「好き勝手やらせてもらってたよ。喧嘩ふっかけてくるクソガキがいて、返り討ちにしてやったりな」
真琴「うわぁ、やんちゃだったんだ。ま、今のあんたの様子を見れば、さもありなんって感じだけど」
奏音「……わたし、ひとつだけ覚えてることがあるの。幼稚園の帰りのバスでのことなんだけど……工事現場で働く男の人たちを見てて、そしたら……」
湊「待て。その話はやめろ。わざわざ掘り返すな。そんなもん、思い出したってろくなことにならねぇ」
奏音「あっ……そう…だね。うん、なんでもない、忘れて」
真琴「なによ、気になるじゃない。……まぁいいわ。それじゃ、小学生の頃は?」
湊「俺は、ドッジボールやバスケが好きだったな。身体を動かしてる間は、余計なことに煩わされずに済んだんだ」
真琴「へぇ、ちーちゃんの記憶とは随分違うのね。奏音は何か覚えてる?」
奏音「……わたしは、やっぱりピアノ…かな。発表会があったんだけど、練習してもなかなか上手く弾けなくて……」
湊「…そんなこともあったな。その日は、俺が友達と遊んでて、わざとすっぽかしたんだ」
真琴「ちょっと待って。それって、ちーちゃんのピアノの時間を邪魔をしてたのは、湊、あんたってこと?」
湊「しょーがねぇだろ、俺の趣味じゃねーんだから。そもそも、あんな年中お通夜みたいな重苦しい家に、ピアノなんて優雅なもん、場違いなんだよ」
真琴「……それで、いつの間にか辞めてたってわけね」
奏音「ちーちゃん、練習のとき、いつも悲しそうだった。大好きなピアノの時間が汚されていくみたいで…」
真琴「まぁ、あの家の雰囲気じゃ仕方ないわね。……中学の時はどう?」
湊「身体の変化な。あれは流石に辛かったんじゃねーか?だから俺が代わりに……いや、なんでもない。もう寝るわ」
真琴「あっ、ちょっと!まだ話の途中っ!……まったく、いつもこうなるんだから」
奏音「ふふっ。でも、ちーちゃんにとっては、あの変化は耐えられない『暴力』みたいなものだったんだと思う」
真琴「ちーちゃんが自分の運命を呪い始めたのも、その頃からね」
奏音「うん。わたし…ただ見てることしかできなくて…」
真琴「……結局、私たちにできることは限られてるのよ。それでも、ちーちゃんのためにできることを考えるのが、私たちの役目。それだけは忘れないようにしましょう」
奏音「……そう、だね」




