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婚約破棄を繰り返す〝モーリウスの毒婦〟が嫁⁉ 離婚即滅亡の危機を溺愛で脱しろ!  作者: 武州青嵐(さくら青嵐)


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9話 幕間

 その日。

 王女フォーゼとリゼルナ侯爵家次男ヨハンシュの披露宴が、王城の一室で執り行われた。


 ナナリーはイライラしながら眼前の光景を見ていた。


 小刻みに足を揺すったり、椅子のひじ掛けを指で叩いたりする様子に、ご機嫌取りの令嬢たちも声をかけあぐねている。


(どういうことよ……っ)


 フォーゼが上級貴族たちに取り巻かれ、笑顔で言祝ぎを受けている。

 隣に立ってフォーゼを気遣うのはヨハンシュ。

 すぐそばで新婚のふたりを紹介してまわっているのはジゼルシュだ。


「あのおふたりに大事にされるなんて」

「令嬢たちの注目の的でしたからねぇ、あの兄弟は」


 すぐそばをマダムたちが会話しながら通り過ぎた。もちろんナナリーに礼をしてはくれたのだが、返礼するのも腹立だしい。


「王女、なにか飲み物でも取ってまいりましょうか」

「それとも、階下でわたしとダンスでも」


 婚約者候補の男たちがナナリーの前にひざまずく。

 普段ならナナリーは満足しただろう。喜んで「じゃあ飲み物を」「そのあと、ダンスの相手をしてくださる?」と返事をしただろう。


 なにしろ彼らは将来の財務大臣候補であり、もうひとりは王家の縁戚。肩書も、そして見栄えも悪くない。


 だが、ジゼルシュ、ヨハンシュ兄弟には劣る。

 激しく見劣りがする。


(どうしてあんな女がチヤホヤされてるのよ……!)


 返事もせずに押し黙るナナリーに恐れをなしたのか、男たちは無言で下がっていった。


 ナナリーは侍女に目くばせをする。代わりに進み出た侍女に、ナナリーはいきなり扇を打ち付けた。


「どうして衣装ができあがっているのっ」

「申し訳ございません。わたしどもも理由がわからず……」


「衣装室の糸を使ったんじゃないでしょうね!」

「在庫はすべてあっております」


 ナナリーは忌々し気にフォーゼを見る。

 つい1時間前の結婚式のことだ。


 ナナリーは出来上がったばかりの衣装に身を包み、王城内にある拝礼所にいた。


 父も母も。そして弟もナナリーの衣装をほめた。

 もちろんそのほかの王族たちもだ。


 この日のために仕立てを急がせ。

 そして、フォーゼの手伝いをさせないがために発注したドレスだった。


 義姉は、いったいどんなドレスで出てくるのだろう。

 彼女にはエスコート役もいないはずだ。


 本来ならば父親が介添えするのだろうが、臣下である侯爵家に娘を引き渡すのも変だ。

 親族の誰かが買って出るのだろうが、そんなもの、誰もいない。


 祭壇をみると、ヨハンシュが凛と立っている。

 今日は儀礼用の軍服らしい。真っ白な上着に金の飾り緒が素敵だ。


 目が合う。

 つつまし気にヨハンシュは自分に礼をしてくれた。

 ナナリーもにっこりと笑って軽く手を振る。


 きっと彼もこの私を美しいと思っているに違いない。


 先日、花束を渡したときもじっと自分を見ていた。ひょっとしたら気があるのかもしれない。


(お姉さまが離婚したら、婚約者候補にいれてもいいかもね)


 そんな風に考えていたら、先ぶれが「新婦入場」と告げた。


 さあ、あの義姉はどんないでたちなのだろう。

 ワクワクしながら扉が開くのを待った。


 そして、ナナリーはあっけにとられた。

 ナナリーだけではない。母も弟もだ。


 フォーゼは純白の婚礼衣装を身に着け、絹のレースが美しいヴェールをかぶって現れた。


 エスコートしているのはジゼルシュだ。


 軽やかな。

 実に令嬢らしい足取りでヴァージンロードを歩く。


『侯爵家が全面的に後ろ盾につくということか? フォーゼの』


 王弟でありナナリーの叔父が、父王に耳打ちしているのが聞こえた。

 ジゼルシュがエスコートをしていることについて言っているのだろう。国王はなにか耳打ちしたようだが、ナナリーのところまでは聞こえてこなかった。


 ヨハンシュの前まで来ると、ジゼルシュは静かに脇に下がる。


 神父が祝詞を唱え、ヨハンシュとフォーゼが宣言をした。

 そしてヨハンシュがフォーゼのヴェールを静かに上げる。


 そこでまた、会場中が息をのんだ。

 フォーゼの首周りをかざるのは、見事なダイヤのネックレスだったからだ。


 それだけではない。


 髪は今風に結い上げられ、品の良い装飾花で飾られている。ほんのり施された化粧も素晴らしい。彼女のはかなげな風情にとてもよく似合っていた。


 朝露に濡れたバラのような美しさ。


 そこに義妹弟や義母に虐げられた娘の姿はなかった。

 ヴェールから現れたのは紛れもない、王女だった。


『第一妃の……。どこにあるのかと思ったら』

 母が口惜し気にうめいた。


『王妃も、あのネックレスをつけて嫁いできた』


 ぼそりと父がつぶやく。


 その言葉が。

 声音が。

 表情が。


 ナナリーをイライラさせた。


「王女」

 気づくと、侍女が耳打ちしていた。


「ヨハンシュ様とフォーゼ様がご挨拶にいらっしゃるようです」


 視線を転じる。

 いままさに、ふたりは階を上がって来るところだった。


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