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今日も魔族領の中心都市で生きている

作者: 雨宮 梓

 私が魔族領の中心都市を訪れて早一年。仕事はだだっ広い魔族領地の掃除や書類整理だったりなどの雑務、それから人間と戦うことである。


 今日は掃除の日なので、掃除できるフル装備で仕事をしている。


「昨日、俺たちを殺しに来た人間たちを喰ったんだけどよー」


「おう。どうだった?」


「不味いのなんの喰うもんじゃないわ」


「あー、弱すぎると不味いよな」


「そーそー」


 大きな声で聞こえてくる会話はいつも通りの内容だ。ここではそれが普通で、それが異常だという考えはない。


 いまだ続く会話を背中越しに聞きながら落ち葉を集めていく。


「なあんか、さっきから人間の匂いがするな」


「昨日の今日だからじゃねえの? 鼻に人間の匂いが残ってんだよ」


「いやまじでいい匂いする。絶対喰ったらうまい。お前も集中してみろよ」


「マジで? そこまで言うなら……あ、マジだ。いい匂いだな」


「人間、いるよな」


「いるな。この匂いは間違いない」


 すんすんと鼻を鳴らし香りを嗅ぐ魔族たち。私は気にせず落ち葉を集めていく。


「あっちじゃね?」


「だな」


 せっせとくまでを動かし落ち葉を集める。


 ちょっと待て。人間がいるのか、ここに。そんなまさかでしょ。だってここは魔族領の中心都市だよ。いるわけないじゃない。そんな恐れ知らずの馬鹿が……いるんだよなあ。ここに。いるんだよ。そう私だよ。でも私だって望んで来たわけじゃないんだよ。なんなら魔族を敵にするとか無理ですよ。


「お、近いわ」


 でも私が仕えている世界的にも偉い陛下がくじ引きで私に決めてしまったんだもの。仕えている側の私では拒否権なかったし、念には念をで逃げられないように拘束されるわ人質取られるわでやるしかなった。くそう、あの適当陛下め。くじ引きで決めるとか馬鹿では。決め方にセンスがない。もっとこう仰々しく……ああ、でもどんな方法で選ばれても嫌だわ。あのセンス皆無適当陛下のせいで私は毎日胃がキリキリなんだよ。


「この奥だな」


「いい悲鳴聞かせてくれよー」


 それは小さな、小さな声。狩りを楽しむために押さえられた声だ。でも私の耳はそんな小さな声ですら拾えるくらい、いいの。


「最初は正面から」


「逃げたら挟み込もう」


「半分こな」


「おう」


 ああ。愉しい、という感情が伝わってくる声。


 私は近くにあった赤黒い小さな木の実を口に放り込む。


 次の瞬間、わざとたてられた足音が耳に届く。


「あれ? レインじゃねえか」


「ん? グレインじゃない。どうしたの?」


「誰だよ?」


「ああ、お前は初めてか。こいつはレイン。掃除や雑務とか、あとはときどき戦闘員の魔族領の何でも屋だよ」


「へえ。俺はトズ。よろしくな」


「よろしく。それでどうしたの?」


「人間のいい匂いがしてよ。レインがいるなら違うと思うが、念のため聞く。ここにいねえよな」


 ギラリと妖しくそれでいて暴虐に光る瞳が私を捉える。


「いないね」


「なあ、グレイン。こいつから匂わねえか?」


 すんすんと私を嗅ぐ失礼な魔族の男トズ。


「レインの匂いで間違いないぜ」


「それじゃあこいつが人間だろ。なんで喰わないんだよ」


 言いながら私の腕を強く掴み爪を食い込ませてくる。


「ねえ、痛いんだけど」


 ピリッと圧に魔力を込めて失礼な男にかけていく。


「トズ、やめろ。レインは魔族の中で強い人間を喰った数がダントツで多いんだよ。そのせいで人間の匂いがすんだ」


「おいおいグレインよ、そんな話誰から聞いた? もしこいつからなら人間だってバレないように作った話だろ。こいつは間違いなく人間だ」


 ギリギリギリとさらに込められる力に顔が歪む。


 ええ、ええ。正解ですよ。私、人間です。だから魔族よりか弱いんですよ。それでさ、現在進行形で腕が千切れそうなんだけど。いい加減放してもらえませんかね。本当に痛いんだって。


 私は口の中に入れていた木の実を噛み締める。すると木の実の大きさからは想像できないくらいの液体が溢れる。


「ねえ、本当に痛いんだけど。放してもらえないかしら」


「はあ? 逃げ……なんだよ。その血」


「え? ああ、お腹が空いたから舐めてたところだったのだけど痛みで噛んじゃった。ちょっと待っていて。飲み込むから」


 わざとらしく数回噛み締め、ごくんと喉を鳴らし木の実の液体を飲み込む。


 初めて食べる木の実からは苦いやら酸っぱいやら、とにかく美味しくない味がした。


「は、はあ? お前、なん……」


「それで誰が人間ですって?」


「お前だよ!」


「トズ。さっきの話を俺にしてくれたのは、最高幹部が一人デルフィニウム様だ。そしてレインを何でも屋にしたのもあのお方だ」


「デルフィニウム様が?」


 私の目をじっと見つめたと思ったら、頭の先から爪先まで流れるように確認される。


「はあ……残念だな。こんなに美味そうな匂いしてんのに」


「そうね。私が人間ならきっと美味しいわよ。でも私は魔族だから人間の匂いがするの嫌なの。こういう風になるから」


「っ……悪い」


「痛かったけど許してあげる。私のことは関わりがないと知らないことだから。でも次はないわ。二度と私が人間だなんて間違えないで。そしてあなたみたいに間違えたのがいたら私のことを話して。間違えたのがいなくても私のことを話して。いい?」


「ああ」


 私はふんと鼻を鳴らし、落としてしまったくまでを拾う。


 なんだかダメージを負っている音が聞こえるけど気のせい。そう。気のせいである。


「レイン。なんかダメージ負ってる音が聞こえないか?」


「爪を食い込ませてきたせいで腕が怪我してるわよ」


「それでか。悪いけど一人で医務室行けるか? 俺たちがいると嫌だろ」


「グレイン、配慮ありがとう。一人で行けるわ」


「悪いな」


「いいのよ」


 グレインは「それじゃ」と言って気まずそうなトズを連れていってくれた。


 私は二人の足音が完全に消え、気配がなくなったことも確認できてからステータスを出して確認する。


「毒、かあ……」


 この毒に効きそうな葉っぱや草を適当に採って口に放り込み噛んで飲み込む。すると毒状態は解除され、パラメーターの上がる音が聞こえた。


 毒耐性MAX。

 気合い上昇。

 根性上昇。

 思い込みMAX。

 胃痛忍耐MAX。


 ねえ、胃痛忍耐が最高までいっちゃったんですけど。どうしてくれるんですかね。センス皆無適当陛下よ。


「ふー……」


 とりあえず今日も私は魔族領の中心都市で生きています。

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