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WRCラリー・ギリシャ:アクロポリスの悪魔、谷底へ!


ナレーター: 灼熱のギリシャ、アクロポリス・ラリー。古代遺跡のようなゴツゴツとした岩盤と、深く切り立った崖が続く、別名「ブレイクカー・ラリー(車体破壊ラリー)」。道幅は狭く、タイヤが巻き上げる砂利と埃が視界を遮る。午後のステージは、路面が荒れに荒れ、パンクやメカニカルトラブルが続出していた。スタートラインでGRヤリスRally1が荒々しい唸り声を上げ、エンジンからの熱気が、外のうだるような暑さをさらに煽る。


千束: 「(ヘルメット越しにニヤリと笑う)リョウ、準備OK?この道、なんかゴツゴツしてて、ゲームみたいだね!タイヤの感触が手に伝わってきて、ゾクゾクする!」


リョウ: 「(いつもの気だるげな声だが、その目は鋭い)ん、いいよ。だが、集中しろ。この先の路面は特に荒れている。ペースノートを読み上げる。『5、4、3、2、1、ゴー!』」


ナレーター: けたたましいスキール音と共に、ヤリスはスタートを切る。瞬く間に路面を掴み、白い砂塵を上げながら荒れたステージを疾走していく。


リョウ: 「右3、ロング、出口ブラインド。その先80、クレストからの左2、タイト、路面はハードカット!アウト側に深い溝あり!」


千束: 「(アクセルをグイッと踏み込みながら)了解!ハードカットね!こういうゴツゴツした路面、結構好き!」


ナレーター: 千束は躊躇なくアクセルを踏み込み、車は轟音と共に岩がむき出しの道を疾走する。ハイスピードでコーナーをクリアし、続くストレートでさらなる加速を得る。しかし、次のコーナーに差し掛かった時、路面の状況が予想を超えていた。


リョウ: 「(声のトーンがわずかに上がる)…待て、千束!路面の溝が深すぎる!ノートにない!車体が傾くぞ!」


千束: 「(一瞬焦りの表情を見せるも、即座に修正を試みる)えっ!?まじか!引っかかる…っ!」


ナレーター: 車の左タイヤが、路面外側に掘られた深い溝に勢いよく乗り上げてしまった。時速150kmを超える速度で走行中、不意の衝撃に車体は大きくバランスを崩す。車体が激しく傾ぎ、千束がカウンターステアを切る間もなく、右側のタイヤが宙に浮き上がった。


千束: 「(叫びながら)うわあああぁぁっ!」


リョウ: 「(無表情ながらも、瞬時に覚悟を決め、千束に体当たりするように覆いかぶさる)頭を下げろ、千束!」


ナレーター: 車体は宙を舞い、そのまま右側へ大きく横転した!ゴゴゴゴゴゴ…という恐ろしい音を立てて、土煙を上げながらグラベル路面を転がっていく。幾度もアスファルトと岩に叩きつけられ、ボディは見る見るうちに原型を留めなくなる。


リョウ: 「(体勢を低くしながら、辛うじてペースノートを落とさないよう握りしめる)…っ、ロール過多!止まらない…!」


ナレーター: 複数回の横転後、車体は路面の外側、深く切り立った谷底へと吸い込まれていく。車が転がり落ちる鈍い衝撃音と、金属が引き裂かれる甲高い悲鳴が、森の中に響き渡る。木々をなぎ倒し、岩に激突しながら、車はどんどん下方へと転落していった。最後にゴンッという鈍い音を立てて、ヤリスは谷底の岩に叩きつけられ、ようやく静止した。エンジンは停止し、辺りはしん、と静まり返る。


サービスパーク:戦場のメカニック、絶望からの挽回


ナレーター: サービスパークのピットに、血の気が引くような緊迫した空気が流れる。無線からは、通常とは異なる異常事態を知らせる緊急コールと、断片的な報告が聞こえてくる。


スタッフA: 「車両停止!ヤリス、SSの途中で停止!GPSデータ、谷底に転落しています!おそらく横転、クラッシュです!」


圭介: 「(無線を握りしめ、顔面蒼白で)なんだと!?谷底!?千束!リョウ!状況を報告しろ!怪我はないか!応答しろ!」


夏美: 「(無線越しに聞こえるノイズに耳を澄ませる)ノイズがひどいです…!あ!千束さんの声が!『ゲホッ、ゲホッ…!だ、大丈夫!生きてるよー!』…リョウさんも『問題ない…』って!か、かすかに聞こえます!」


圭介: 「くそっ…よかった…!だが、無事じゃねぇな、これは…。谷底まで落ちたんだぞ…!夏美、全員に伝えろ!『救援回収班、最大戦力で直ちに出発!車体、完全に叩き出す準備をしろ!溶接機、切断機、予備のシャーシパーツ、全て積め!』」


夏美: 「了解しました!圭介さん、私、すぐに全パーツの交換手順と必要部品リストをまとめます!何がどれだけ必要か、瞬時に判断しますから!」


ナレーター: 数時間後、崖から引き上げられたヤリスは、もはや元の姿を留めていなかった。ボディは見るも無残にひしゃげ、ルーフは潰れ、サスペンションや駆動系は完全に破壊されている。エンジンルームからもオイルが漏れ、焼け焦げた匂いが漂う。


圭介: 「(車体を見るなり、頭を抱え、絶望を滲ませる)マジかよ…!これは…もう、フレーム修正どころの話じゃねぇ…!共通スペースフレームのおかげでキャビンは潰れてねぇが、これじゃ…実質、車の作り直しだ…!」


千束: 「(ヘルメットを脱ぎ、頬に土と擦り傷をつけながらも、不敵に笑う)いやー!

圭介、すごいジャンプだったね!私、あの瞬間、まさか自分が谷底を転がるとは思わなかったよ!リョウがね、直前でしっかり守ってくれたんだ!」


リョウ: 「(無表情だが、服は破れ、額には擦り傷がある)僕の読み飛ばしたノート外の溝が原因だ。僕のミスだ。千束の回避行動は完璧だった。あの速度で、あの衝撃から生還できたのは、奇跡に近い。車両の安全性、そして圭介の整備が完璧だった証拠だ。」


夏美: 「圭介さん!これは…左フロントからリアまで全部交換が必要です!エンジンもダメージを受けてる可能性が高いです!ギアボックスも衝撃でロックしてるかも…!冷却系、燃料系も全チェックです!時間がないですよ!明日の朝には走行テストしないと、次のラリーに間に合いません!」


圭介: 「(目を閉じ、深く息を吸い込む。そして目を見開くと、その瞳に諦めではない、燃えるような闘志が宿る)…分かった。全員、よく聞け!これは、ラリーだ。諦めるわけにはいかねぇ!今から徹夜でオーバーナイトパーク(夜間整備)だ!このヤリスを、もう一度走らせるぞ!ボディパネルは応急で叩き出す!エンジンは予備に載せ替える!サスペンションは全て交換だ!夏美、お前は駆動系と電子制御系を頼む!徹夜だ!コーヒーとレッドブル、山ほど用意しろ!」


ナレーター: 圭介の怒号が飛び交う中、メカニックたちは一斉に地獄のような作業に取り掛かる。壊れたパーツを外し、新品のパーツを組み付ける。その手つきは驚くほど素早く、正確だ。金属がぶつかり合う音、電動工具の唸り、溶接の火花、そしてメカニックたちのうめき声が、ピットを満たす。彼らは文字通り、車両をスクラップの状態から組み直していく。


サポートの影:極限の祈り


ナレーター: サービスパークの片隅で、チームのサポーターである後藤ひとりは、その光景に打ち震えていた。先ほどの無線での悲報、目の前で見るラリーカーの無残な姿、そして圭介たちの鬼気迫る作業。彼女の心臓は破裂しそうだった。


ひとり: 「(ガタガタと震えながら、顔面蒼白で)ひ、ひぇえ…!こ、こんなに、壊れるなんて…!せ、千束さーん!り、リョウさーん!だ、大丈夫なんですか…!?こんな状態から、また、走るなんて…!」


ナレーター: 彼女は持っていた応援フラッグを胸に抱きしめ、うずくまってしまう。メカニックたちの怒号、工具の音、そして焦燥感が入り混じった空気が、ひしひしと伝わってくる。


ひとり: 「(小さな声で、しかし切実に、涙を流しながら)ど、どうか…どうか、治りますように…!せ、千束さんの、その、笑顔が、また、見たい、です…!り、リョウさんの、その、クールな声が、聞きたい、です…!僕の、この、へっぽこギターじゃ、何もできないけど…!」


ナレーター: 圭介や夏美の必死な姿、そして夜を徹して作業を続けるメカニックたちの姿を見て、ひとりの心に微かな光が灯る。彼女は、自分にできること、ただ一つを信じて、祈り続けた。


ひとり: 「(震える手を伸ばし、祈るように)が、がんばれ…!め、メカニックさん…!ぜ、全員で…!あ、あの、ラリーカーを、また、走らせてください…!僕も…僕も、心から、応援しています…!」


ナレーター: 夜が明け、朝日がサービスパークを照らす頃、埃と油にまみれ、顔には疲労の色が濃い圭介と夏美が、最後のボルトを締めた。


圭介: 「(肩で息をしながら、ヤリスのボンネットを叩く)よし!なんとか間に合った!完璧じゃねぇが、これなら走れる!千束、リョウ!行ってこい!」


夏美: 「(笑顔で)きっと大丈夫です!頑張ってください!」

ナレーター: 千束は笑顔でヤリスに乗り込み、リョウは無言でシートベルトを締める。車体はまだ傷だらけだが、そのエンジンは力強く脈打っていた。


千束: 「(笑顔で)よーし!リョウ、みんなが命がけで直してくれた車だ!絶対に完走して、みんなに最高の走りを見せてあげようね!」


リョウ: 「(無表情ながら、わずかに口角を上げる)ああ。そのために、僕は完璧なペースノートを読む。そして、君はそれに応える。」


ひとり: 「(震える声で、しかし精一杯の力を込めて)が、がんばれー!千束さーん!リョョウさーん!行ってらっしゃーい!!!」


ナレーター: その声は、轟音を上げるヤリスのエンジン音にかき消されそうになるが、確実に二人の心に届いただろう。ヤリスは再び白い砂塵を上げ、次のステージへと走り去っていく。その傷だらけの車体は、チーム全員の不屈の闘志と絆の証として、アクロポリスの荒野に力強く響き渡るのだった。


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