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WRCラリー・モンテカルロ、高速ターマックの死角!


ナレーター:雪解けのモンテカルロ。濡れた路面とドライ路面が入り混じる、最もトリッキーな高速ターマックステージ。気温は低く、至る所にグレープアイス(凍結路面)が潜んでいる。GRヤリスRally1は、路面の状況に合わせて車高を低く設定し、硬めにセットアップされたサスペンションで、路面に吸い付くように加速していく。


千束:「(集中した眼差しで)たきな、この先の高速コーナー、路面は?」


たきな:「(ペースノートに目を落とし、やや焦りの表情を見せながら)ええと…右5、ロング、アウトワイド…」


ナレーター:その瞬間、千束は嫌な予感を感じた。わずかにペースノートの読み上げが遅れたこと、そしてたきなの声に、いつもは絶対ないはずの戸惑いが混じっていたからだ。だが、時速200kmを超える速度で迫るコーナーは、千束に考える暇を与えない。


千束:「(既にステアリングを切り始めている)うわ、滑る!たきな、ここ凍結してる!?」


たきな:「(ハッと顔を上げ、青ざめる)い、いえ!ペースノートに凍結の記載が…!申し訳ありません、読み飛ばしました!この先すぐ、路面はドライに変わりますが、曲がり込みが想像以上にきつい、複合コーナーです!」


ナレーター:致命的なナビミス。千束の表情から、一瞬にして笑顔が消え、緊迫した集中に切り替わる。車は既に高速でコーナーに進入しており、このままでは間違いなくコースアウト、あるいはガードレールに激突する。


千束:「くっ…!こうなったら…!」


たきな:「(瞬時に状況を分析し、千束の次の行動を予測、そして信じられない指示を出す)千束!このまま突っ込んでください!アクセルは全開!カウンターステア、最大で!」


千束:「(驚きと戸惑いの一瞬。だが、たきなの声の絶対的な自信を感じ取り、即座に反応する)全開…!?分かった!」


ナレーター:千束は躊躇なくアクセルを床まで踏み込んだ。車はイン側の凍結路面でタイヤを滑らせながら、外側へと膨らんでいく。その時、たきなが叫んだ。


たきな:「(絶叫に近い声で)そのまま、外側の雪壁にサイドを当てて!雪壁を潰して、車体を回転させてください!」


千束:「(一瞬の躊躇もなく、意図的に車体を雪壁へ向かわせる)了解っ!」


ナレーター:凍結路面で車体がアウト側へ流れ出す勢いを逆手に取り、千束は車体を巧みにコントロールして、ガードレールの手前にある低い雪壁に左サイドを滑らせるように当てた。雪壁は衝撃を吸収しながら、ヤリスの車体の向きを強制的に変え、回転を助ける。タイヤが氷と雪を激しく掻きむしり、車は制御されたドリフト状態となる。


たきな:「(視線は一点に集中したまま、次の指示を出す)そのまま、カウンターを維持!路面がドライになったら、一気にアクセルオフ、ブレーキングで立て直してください!」


ナレーター:雪壁を潰しながら、車体は恐ろしい速度で向きを変え、複合コーナーの次の曲がりへと向き直った。まさに間一髪。千束は、たきなの指示通りに路面がドライになった瞬間にアクセルを戻し、正確なブレーキングとカウンターステアで車体を立て直した。


千束:「(安堵と興奮が入り混じった声で)あぶなっ…!たきな、今のはマジで神がかってたよ!?ペースノートのミスをリカバリーどころか、完全に芸術だったね!」

たきな:「(わずかに肩で息をしながらも、すぐに冷静な声に戻る)申し訳ありません、私のミスです。ですが、リカバリーできてよかったです。次、左4、クレスト。」


ナレーター:たきなの顔には冷や汗が流れていたが、その瞳には再び揺るぎないプロの光が宿っていた。千束は、そんなたきなのプロ意識に信頼を寄せ、再びアクセルを踏み込む。


サービスパークの奇跡と感動


ナレーター:ステージを走り終え、サービスパークに帰還したヤリスは、左サイドに雪壁を削った跡が生々しく残っていたが、致命的な損傷は見られない。しかし、その奇跡の回避劇を知る者は、チームの限られた人間だけだった。


圭介:「(車体をチェックしながら)うわ…千束、ここ何があった!?左サイドが削れてるぞ!?ガードレールに当たったのか!?」


夏美:「(タイヤを点検しながら)タイヤのサイドウォールにも雪が詰まってますね。無理に当てた感じですか?」


千束:「(笑顔で圭介の肩を叩く)いやー、ちょっとね!たきなが完璧なラインを指示してくれたおかげで、ノーダメージでいけたんだ!」


たきな:「(冷静に)いえ、私のペースノート読み上げミスが原因です。千束のドライビングテクニックと、咄嗟の判断力がなければ、間違いなくクラッシュしていました。」


圭介:「(首をひねりながら)ペースノートのミスで、この程度の傷で済んだってのか…?まじかよ、お前ら…」


ナレーター:圭介は、千束とたきなの会話から、ただ事ではなかったことを察し、その卓越したドライビングとナビゲーションの連携に驚きを隠せない。


ナレーター:そんなサービスパークの片隅で、チームのサポーターであるひとりは、ステージを終えた千束とたきなを遠目から見ていた。彼女は、チーム無線を通じて、二人の緊迫したやり取りと、奇跡的なクラッシュ回避の一部始終を聞いていたのだ。


ひとり:「(目を潤ませながら、震える声で)す、すごすぎます…。た、たきなさんの、あの冷静な判断力と、千束さんの…あ、あの、絶対的な信頼…そして、それを実現する、か、神がかり的な…ドラ、ドライビングと…!」


ナレーター:彼女は、感動のあまり膝から崩れ落ちそうになる。普段の大人しい彼女からは想像もつかないほど、その胸には熱いものがこみ上げていた。


ひとり:「(小さく、しかし力強く)私…!私、頑張ります!もっと、もっと応援しますから!だから、絶対に…!」


ナレーター:ひとりはお気に入りの応援フラッグを強く握りしめ、二人の姿を見つめる。圭介と夏美が次のステージに向けてヤリスの点検を始める中、千束とたきなは既に次のペースノートに集中し、次の戦いへと意識を向けていた。



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