パラグライダー 資格講習・第3回:「空を見た日」
Scene 1:講習最終日、早朝の山腹
(霧が残る斜面。誰もが無言で装備を確認している。
教官のカミシマが最後の説明をしているが、誰もがすでに“空”だけを見つめていた)
教官カミシマ:「お前ら、今日で決めるぞ。誰か一人でも飛べたら、俺は合格サインを出す。
だが、自分の意思で走り出せ。誰も背中は押さねえ。押すのは風だけだ」
Scene 2:ひとり、動かない足と、空への恐怖
(助走台の前で立ち尽くすひとり。風は吹いている。
だが足が震えて、前に出ない)
ひとり(心の声):「…私には、怖いものが多すぎる。人の目も、失敗も、空だって…全部、怖い」
(背中で誰かが見ている気がする)
チサト(後ろからポンと背中を叩く):「風は、あんたの味方するよ。だって……私だって怖いもん」
野田:「私も……今、立ってるだけで足が震えてるけど。
でも、昨日のたきなさん見て、思ったんです。“あ、飛べるんだ”って」
リョウ:「お前ならいける。風がそう言ってる」
ひとり(ポツリと):「……行ってきます」
Scene 3:テイクオフ、そして“無音”の瞬間
(ひとりが走り出す。パラシュートがふくらむ。風に引かれ、数秒、足が地面から離れる)
ひとり(心の声):「あっ、あっ、風が、……怖くない……空が、怖くない……!」
(彼女が浮いている間、全員が下から見守る)
瑞稀:「…飛んだ…」
伊達(口笛):「完璧だ。文句なし」
富澤:「あれ、泣くとこっすか!? うち、涙腺やばいんすけど!?」
Scene 4:野田の番
(野田が緊張している。ひとりの飛行を見て、心が決まる)
部長:「野田さん、無理に飛ばなくてもいいのよ?」
野田(ぶるぶる震えながら):「……でも、今逃げたら、一生空を“地面からしか見られない”気がして……それは、悔しいです」
(全員が見守るなか、野田、走り出す。風がふくらみ、浮く)
野田(叫ぶように):「う、うわああああああ!でも、気持ちいぃぃぃい!!!」
(着地してから大の字に倒れこむ)
教官(笑いながら):「よくやった!今の飛び、文句なしだ!!」
Scene 5:他の全員も次々にテイクオフ
•チサト:カラフルなシュートを翻し、歓声を上げながらスピン気味に滑空。「空って!ウケるー!」
•富澤:一度こけるが根性で再テイクオフ。「唐揚げが空中で消化された…」
•亀田:風速ギリギリの条件で決死の助走。「よいしょォォォおおお!腰がぁァァ!!」
•リョウ:クールに、美しい弧を描いて滑空。無言のまま、最後に親指を立てる。
•たきな、チサト、瑞稀、伊達、部長、副部長、アイボー、圭介、夏美――
誰一人欠けることなく、全員が風に乗った。
Scene 6:資格授与式、Cカードが配られる
(教官がひとりひとりに手渡す。
全員のカードが揃った瞬間、たきなが静かに手を挙げる)
たきな:「報告します。我々全員、Cカードを取得しました」
教官カミシマ:「全員合格、初めてだぞ。……最高だったな」
Scene 7:星空の下の夜会、そして未来
(山小屋の外、焚き火を囲んで。
缶コーヒー、ポテチ、そして語られる“空の感触”)
ひとり:「空って……自分のことを、好きでも嫌いでもないんだなって思いました」
野田:「あの日の私に、“飛んだよ”って教えてあげたい」
チサト:「ねぇ、次はどこ飛ぶ? 空はまだまだいっぱいあるんでしょ?」
瑞稀:「……海も、空も、夜も、全部……味方にできる気がする」
ラストシーン
朝、帰りのバスに乗り込む前。
皆がふと、空を見上げる。
もう、あの空は“遠くない”。
たきな(静かに):「風は、どこにでもいる。だから、また飛べます」
ナレーション(野田):「あの日、わたしたちは空にいた。
ほんの一瞬だったけど、確かに“空にいた”――
それだけで、ちょっとだけ、自分を好きになれた気がした」
おしまい




