ひよことたまご
ぱきぱき、ぱかっ
「まぁ、なんて美しい」
おかあさんにわとりは、生まれたてのひよこを見て、言いました。
ひよこは、よちよちよ歩いて、あたりを見まわしました。
「やっと会えたね、おかあさん」
ひよこは、うれしい気もちを言葉で伝えました。
「やっと会えましたね。よくがんばりましたね」
ひよこは、はじめて見るおかあさん、はじめて見る空、はじめて見る雲、はじめて見る山、すべてがキラキラと光っていると思いました。
「きれいなところだね」
「そうですね、きれいなところですね」
そう言って、おかあさんにわとりは、まだかえっていないたまごの上にやさしくすわりました。
「まだ、生まれないの?」
「そうですね、まだ生まれません」
おかあさんにわとりは、ほほえんで目をとじました。
ひよこは、あっちへちょこちょこ、こっちへちょこちょこ。
ひよこは見える世界が輝いていて、ワクワクしました。
毛なみをなでる風とたわむれて、日の光とダンスして、ほほえむ空気を吸い込んで、大地とお話しました。
みんなのおしゃべりや、自然が奏でる音楽、それに響き合う歌声、すべてが、ひよこの体を通り抜けていきました。
そして、ひよこも自分の音を重ねてみました。
「ごはんをどうぞ」
おかあさんにわとりは、ひよこを呼び寄せました。ひよこがおいしそうにごはんをつついていると、
「あら、雨が降ってきましたね」
いつの間にか、青色の空が、灰色の空に変わっていました。
ひよこは、ごはんをいただきながら、雨の粒を見つめました。湿った空気に包まれて、ひよこは、鼻歌を歌いました。
「雨の音色も、きれいだね」
「そうですね、心が豊かになりますね」
通り雨は、あたりの緑を湿らせて、キラキラと輝かせて、去っていきました。
すると、おかあさんにわとりとひよこの前に、二重の虹がかかりました。
「わぁ~!」
ひよこは、うれしい気持ちで心がいっぱいになって、しばらくそのままでいました。
「なんて素晴らしいんでしょうね」
おかあさんにわとりも、虹の空を微笑みながら見上げていました。
しばらく、時が流れて、虹が消えそうになりました。
すると、ひよこがすこし早足でおかあさんにわとりのところへと行きました。
そして、おかあさんにわとりのお腹のしたに顔をつっこんで、たまごをつつき始めました。
「どうしたのですか?」
おかあさんにわとりは、驚きましたが、落ち着いて、ひよこに尋ねました。
「早く、たまごから出てこられるように、殻を破ってあげたい」
「まだ、中で準備をしているから、今、殻を破ってしまったら、元気に生まれてこられないですよ」
「そうなの?お手伝いしてあげたら早く生まれてこられないの?」
「残念だけど、自分で殻を破らないと、生まれてこられないの。だから、待つしかないのですよ」
「そんな…」
「どうして、早く生まれてほしいの?」
「だって、一緒に、この虹を見たかった。こんな美しい虹がかかる世界に、早くやってきてほしい」
「そうですね。一緒に見られたら幸せですね。でも、もう少し、待ちましょう。それぞれのタイミングがありますから。そして、またいつか、一緒に見ることができますよ。あなたがそう願っていれば」
ひよこは、つつくことをやめて、やさしく口先でたまごの殻を撫でました。
「びっくりさせて、ごめんね。生まれてきてくれることを、楽しみにしてるね。一番いいときに生まれてきてね」
ひよこは、そう言うと、虹が消えるまで、空を見上げ続け、心の中で、今度はみんなで一緒に見ることができるようにと願いました。
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