第二話:大統領の初仕事が世界へのスピーチってマジ?
目が覚めたらホワイトハウス。
鏡に映ったのは、どこからどう見てもアメリカ大統領。
──そんな人生最大の混乱の直後、俺の“初仕事”は、世界中が注目する国際会議での基調演説だった。
いや、無理すぎるだろ常識的に考えて。
「Mr. President, your car is ready. The summit is waiting.」
側近っぽい黒人のおじさんに言われるがまま、リムジンに乗せられ、パレードみたいな警備をかいくぐって到着したのは、豪華絢爛な国際会議の会場だった。
でっかいホール、国連とかで見たことあるようなステージ、世界中の国旗、そして──各国の首脳たちの視線が、俺に向けられている。
「……無理無理無理、俺まだ“おはようございます”しか言ってないぞ……」
心の中で叫んでも、時間は止まってくれない。
通訳が俺の横に控え、司会者がマイクを持って言った。
「Ladies and gentlemen, the President of the United States, Mr. Jack Spade!」
──会場、拍手。
いや、無理だって。スピーチの原稿? そんなのあるわけない。
どこかの誰かの残したメモとかないの? ないの?
けど、不思議なことに、壇上に上がると自然と脳が冴えてくる。
“この場にふさわしい言葉”が、頭のどこかから流れてくる。
(あれか? 転生特典で「大統領っぽい喋り力」とかついてる?)
とにかく今はやるしかない。
マイクの前に立ち、静まり返る会場を見渡しながら、俺は話し始めた。
「Ladies and gentlemen. Distinguished leaders of the world.」
(おお……英語なのに、ちゃんと出てくる……)
「Today, we gather here not just as nations, but as people who share a planet, a future, and a responsibility.」
──わりとそれっぽいことが言えてる気がする。
俺、すごくない? めっちゃ大統領っぽいよ、俺。
でも──ここで地雷を踏んだ。
「We must pursue world peace, but without compromising the safety and prosperity of our own nations. As the President of the United States, I must say: America comes first, but peace is for all.」
言った瞬間、ざわ……とした空気。
その直後、あちこちから聞こえてくる各国の野次。
「アメリカファースト、またか!」
「それは平和とは言えない!」
「自国だけ守ってどうするつもりだ!」
「あなたは新人? 子どもみたいな演説だ!」
「うっ……」
体中から冷や汗が噴き出す。
まるでクラス発表で全員から「違うと思いまーす」って言われたあの日みたいな空気。
やばい。崩れそう。マジで帰りたい。ってか帰らせて。
「No, wait. Listen!」
思わずマイクに手をかけて、叫んでいた。
「I know it sounds selfish. I know it sounds… naive. But peace isn't something handed from the strong to the weak. It's built from mutual respect.」
(俺何言ってんだ……いや、でも、止められない……)
「If every country puts their people first, then peace must be the bridge we all build together. Not because we are the same, but because we are different.」
一瞬、沈黙。
俺の言葉が、英語で、でもたぶん、世界中の通訳を通して、それぞれの言語で伝わっていく。
「We can fight. We can argue. But we must never forget: Earth is the only home we share. Let’s not burn it down in the name of pride.」
そして、拍手。
まばらに、ではあるけど、確かに数カ国から拍手が起きた。
それが広がって、ホール全体に静かな波のように広がっていく。
──まじか。今、俺……乗り切った?
「Thank you. That is all.」
そう言って、壇上から降りる俺の背中に、さっきよりずっと柔らかい視線が集まっていた。
リムジンに戻る途中、秘書の女性が小さく言った。
「You really spoke from the heart, didn’t you?」
「…The words might’ve been borrowed, but the feelings were all mine.」
こうして俺の大統領としての初仕事は、なんとかバレずにやり過ごすという最高に情けなくてスリリングな結果に終わった。
でも、これでわかった。
この世界では、頭の回転と、勢いと、ちょっとの芝居力があれば、意外とどうにかなるかもしれない。
──たぶん。