第一話:目覚めたらホワイトハウスでした
俺の名前は辰巳太陽
日本のどこにでもいる、ただの高校二年生だ。
……いや、だった。ほんの数時間前までは。
成績は平均よりちょい上、運動は人並み、趣味はゲームとラーメン巡り。
クラスで目立つ存在でもなく、かといって陰キャでもない、中庸な存在。
彼女はいない。告白経験もない。部活は帰宅部。
──まあ、一言で言えば「特徴のない男」だった。
そんな俺が、ある日、死んだ。
放課後、友達と別れてスマホをいじりながら横断歩道を渡っていたときだ。
前方から、ものすごいスピードでトラックが突っ込んできた。
「……あ、これ、漫画とかでよく見るやつ──」
と、そんな考えが頭をよぎった直後、俺の視界はブラックアウト。
そして次に目を開けたとき──
俺は、知らない場所で目を覚ました。
「……え?」
天井にはバカでかいシャンデリア。
壁は金ピカの装飾と美術館クラスの油絵、足元はふかふかの赤絨毯。
窓の外には、アメリカ国旗がはためいていた。
これは夢? いや、あまりにリアルすぎる。
ベッドの寝心地も異様に良すぎる。
身体を起こすと、見慣れないスーツに包まれていた。
制服のはずなのに、バリッと決まった黒のスーツに赤いネクタイ。
「……なんだ、これ……?」
ふと目に入った姿見の鏡。
「………………は?」
鏡の中にいたのは、明らかに俺じゃない。
金髪でがっしりした体格。深い皺、強い眼差し。
アメリカの顔とも言える──あの男。
「……嘘、だろ……俺……」
どう見ても、俺はアメリカ合衆国大統領にしか見えない。
顔が違う。体も違う。声すら、出してみると低くて重い。
そのとき、部屋のドアが開いた。
「Mr. President! The press conference is starting in five minutes!」
金髪の美女──多分秘書か何か──が、英語でそう言ってきた。
「は? え、えーと……キャンセル……プリーズ?」
口から出たのはぎこちない英語だったが、なぜか通じた。
ていうか、聞き取れてる自分にも驚く。
「Understood, sir. I’ll tell them you’ll be a little late.」
秘書は微笑みながら去っていく。
……待って、なんで俺、英語理解できてるの? 話せてるの?
ついさっきまで日本語オンリーだったはずなのに。
だが、ここでさらに異変に気づいた。
俺の頭の中に、勝手に流れ込んでくる膨大な情報。
この国の政治制度、経済政策、軍事機密、議会との駆け引き、メディア対応──
すべてが明確な知識として浮かび上がってくる。
「……な、にこれ……インストールされてる……?」
まるで“この体”の元の記憶とスキルが、そのまま俺の脳に同期されているような感覚。
いや、これは──
「俺、転生したのか……?」
異世界ファンタジーじゃない。
剣も魔法も、ステータス画面もない。
あるのは、現代のアメリカと、最強の国家権力。
「俺が……アメリカ大統領に転生した……?」
鏡の前で呆然としながら、そうつぶやく。
ここまで来てようやく理解した。
これは夢でも妄想でもない。ガチの現実だ。
日本の普通の高校生だった俺、辰巳太陽は──
トラックに轢かれ、目を覚ましたら、
アメリカ合衆国大統領になっていた。
あまりにぶっ飛んだ展開だが、受け入れるしかない。
「……だったら、この権力、使い倒してやるか」
政治の知識なんて皆無だったけど、今の俺の頭には『 』がある。
経済、軍事、外交、法律──どれも完璧に理解できる。
しかも見た目はカリスマの塊、大統領の姿そのもの。
これはチートだ。
剣も魔法もいらない。国家権力こそが、最強のチート。
──高校生・辰巳太陽、大統領としての人生が、今ここに始まった。
「世界を、俺が遊んでやるぜ……!」




