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プロローグ 辺境の侯爵令嬢

 リリディア・ルーゼンヴェルクはベルンシュタイン王国の辺境の地で、侯爵家の古い領地館でたった一人で暮らしていた。 


 戦争で怪我をした父の侯爵を母が助け、それが縁で父と母は結婚した。結婚後、静かな辺境の領地での暮らしは穏やかに流れ、やがてリリディアが誕生した。

 両親と子供、光あふれる緑の領地で、花や動物に囲まれリリディアはスクスクと成長していった。母親譲りのさらさらの青銀の髪、輝く金色の瞳は神の愛を一身に受けたように愛らしく美しく成長していった。

 だが、その豊かな辺境の地での生活もリリディアが五歳の時に終わりを告げる。


 母が何者かに(さら)われたのだ。


 父が所用で出かけた晩、屋敷は黒いフードを被った数人の男に襲われた。

 リリディアは機転を利かせた母にクロゼットの中に隠されて無事だったが、母はその男たちに(さら)われてしまった。

 父はその後狂ったように母を探し回ったが、やがて(うつろ)な目で酒を飲んで暴れるようになり、ある日怪我をして病院に行ったきり帰らなかった。父の従者の話では、王都の侯爵家に引き取られたのだそうだ。


 屋敷で働いていた使用人は次々といなくなり、最後まで面倒を見てくれた乳母もリリディアが十一才の時に出て行った。


 馬一頭と山羊、鶏などの家畜と彼女だけが空っぽな家に残された。

 荒れ果てていく館の一室で少女が一人で生活していることは、周囲の人々にはほとんど知られておらず、リリディアは生きるために必死に考えた。

 始めは家の中にある物を少しずつ持ち出しては、近隣の人々に食べ物と交換してもらったりして飢えを(しの)いだ。やがてそれも交換するものがなくなり、彼女は屋敷から出て、食べ物を求めて野山を探し歩く。領地は豊かで人手が入らずに放置された畑や果樹園があり、彼女はそれらを採って来て食料にした。


 だが、彼女には不思議な力があった。リリディア自身自覚していなかったのだが、それは思わぬ時に発現する。

 その年、雨が降らず日照りが続き、作物が枯れて農民たちはみな困っていた。

 それを見たリリディアは、そっと近づいて作物に手をかざした。すると、見る間に植物が生き返って元気になったではないか。リリディアは夜の闇に紛れて畑の作物を生き返らせて歩いた。


 リリディアには、人間、動物、植物……生き物の病気や怪我を治癒(ヒール)する不思議な能力があったのだ。

 思えば母も同じ能力者だったのだろうか。その力で、戦場で怪我を負った父を治したのだろう。

 リリディアの馬も山羊も鶏も皆、元気で長生きし彼女を支えた。庭のリンゴの木もたわわに実をつけ、余ったリンゴは市場で売ったり、ジャムにして保存食とした。 

 近所の農家のお爺さんに手伝ってもらって、裏庭の日当たりの良いところに畑を耕し、せっせと種を蒔いた。

 やがてそれは見事な野菜を実らせた。リリディアがその手で作る野菜は、みな立派に大きく育つのだ。

 リリディアは野菜やリンゴ、卵を売って何とか日々の暮らしには困らなくなった。

 そうして、たった一人の静かな田舎での生活が続くかと思われた頃、突然王都の父侯爵から手紙が届いたのだ。

 その手紙には、『近々そちらに迎えの馬車をやるので、支度をして待っているように』と書かれていた。

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