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怪人クモ女VS魔法少女  作者: サイリウム
第1クール
6/53

6:憤怒


「い、いない……。」


「屋台もいつもの場所になかったし、帰っちゃったのかもね。」



そう言いながら、息を整える二人。


商店街の肉屋から推定レスラーこと、謎の巨女の情報を手に入れた彼女たちは全力で公園までダッシュ。当初の目的である走り込みを行いながら無事に公園に辿り着くことが出来た。けれど、その姿どころか公園でよく屋台を開いているラーメン屋の姿さえ見えない。


ここ『ひかりが丘』に存在する総合公園はかなり広く、河川敷と隣接していることから簡単なグラウンドの様な設備も整っている。けれど川が近いと言うことで氾濫防止のための高台も多く、一目で公園全体を見渡せるような立地ではない。故に二人は普段屋台が来ている場所を重点的に探したのだが……。何一つ見つけることはできなかった。



「むぅ! せっかく希望が見えたと思ったのに!」


「まぁでも、会えたとしても修行を付けてもらえるかどうか解らなかったしね。」



口を膨らませて不満を言うアカリを諫めるように、言葉を紡ぐリッカ。確かに彼女も『もしかしたら』と思い推定レスラーの姿を探しまわったのだが、よくよく考えてみれば会えたとしても教えを授けてくれるかは解らない。まだ子供な自分たちには対価として渡せるものはなく、同時に八百屋の主人の話を思い出せば“今は違う仕事をしている”ことが推測できた。もしかしたらレスラーと呼ばれることが嫌になっている可能性だってあったのである。


まぁそいつはレスラーではなく怪人、それもラスボスを倒したと思ったら現れる真のラスボスみたいな存在なのであるが……。二人、特にリッカが強く警戒しているあの蜘蛛の化け物本人だとは思い様がなかった。



「ま、今日は諦めて帰りましょ。そろそろ夕方だしね。……それにプルポも、もうきつそうだし。」


「プルポ? ……あッ!」


「も、もうむりぷる……。」



リッカに言われたことでようやく自分たちの妖精のことを思い出すアカリ。思わず自分の腰を見てみると、何かキラキラとしたものを口から出しながら真っ青、そして透明になっていく妖精がそこに。


妖精ゆえに空中浮遊能力は持っているが、そんなものがお空をふよふよと飛びながら二人の後を付いて行けばもう色々とダメである。そのためアカリは『ストラップ』と言い訳できるように通学時などはカバンにプルポを括りつけている。今回もそれと同様に腰に紐を巻きつけそこにプルポを吊っていたのだが……。彼女たちがしていたのは、走り込みである。つまりとんでもなく、ゆれる。



「な、なんか。みえるぽ。あれは、おばあちゃん。……の後ろに、なんか怖いのいっぱい。かいじんさんっていうの? なんか手をふってるぽ……。」


「だ、ダメー! それ行っちゃダメな奴! 帰って来てプルポー!」


「妖精って動物病院で良いのかしら……。」



何故かまだご存命のプルポのお婆ちゃんが真っ赤な川の向こうで『元気~?』と手を振り、その後ろには大勢の虫っぽい怪人たちが同様に手を振っているという色々とおかしな幻覚を見るプルポに、『それ多分三途の川ー!』と慌てながらプルポをもみくちゃにしてさらにダメージを与えてしまうアカリ。そして冷静に妖精を受け入れてくれる動物病院を探し始めるリッカ。もうカオスである。


けれどそれも、妖精のプルポが何かを感じ取ったことで、終わりを告げる。



「ぽっ! ふ、二人とも! クライナーぽる! けっこう近いぷる!」



妖精であるプルポは、彼らの敵対組織であるアンコーポが“クライナー”を生み出すときの反応。正確にはクライナーを生み出すために必要なその負の精神エネルギー。それを対象の心から汲み出すのに必要な妖精界のジュエルの反応を、感知することが出来るのだ。


そんなプルポの声を聴き、一瞬で思考を切り替える二人。


あの蜘蛛の化け物と出会ってから初めての戦い。アカリはみんなの笑顔を守るため、リッカはアカリの想いを尊重し彼女を守るために、戦いを選ぶ。



「ほんと! 行かなきゃ! リッカちゃん!」


「えぇ。プルポ、ジュエルを。」


「解ったプル!!!」



妖精のプルポがそう言った瞬間、彼の懐から取り出されたのは小さな箱。彼の手によって開かれた瞬間、収められていた4つの宝石の内、2つが天へと飛び上がる。赤の宝玉であるルビーはアカリの元に、青の宝玉であるダイヤモンドは、リッカの元へと向かい、その手に収められた。



「「変身!!!」」



瞬時にその姿が光によって包まれていき、次の瞬間に現れたのは光の戦士。可愛らしい衣に包まれた、“ジュエルナイト”の二人である。



「いこう!」


「えぇ。プルポ、捕まって。それと道案内を。」


「おっけープポ!」







 ◇◆◇◆◇






「ふぅ……。あぁすみません、お代わりを頂けるでしょうか?」


「あ、はい。よ、よろこんで。」



そう言いながら、屋台の店主にもう一度ラーメンお願いする。


いやー! やっぱラーメンはいいっすねぇ! うんうん、啜れば啜る程幸せになっちゃう。あっさりした醤油のスープにもちもちとしたまっすぐな麺。ネギとメンマとチャーシュー。こういうので良いんだよこういうので。お肉も一枚じゃなくてちゃんと二枚で大き目だし、ネギもメンマも多め。そして中央に輝く星型のなると! しかも屋台って言う外で食べるラーメンなせいかとーっても美味い。これが『ぴかりラーメン』! ふぅ! 越してきてよかったぁ!


しかも、この屋台さんラーメンだけじゃなくてそれ以外のサイドメニューも出してくれるからもう幸せいっぱいだよね! 確かに数は少ないけど、餃子とビール出してくれるのならもう他要らなくない? あはー! こういう屋台ってスペースの関係からラーメン一本に絞ってるとこ多そうなのに! ほんとありがたい限り!


あ、店主さーん! 瓶ビールもお代わりで3本! あと餃子も30ぐらいお願いしまーす!



「す、すいやせん。今日仕込んできたのはあと20個しかなくて……。ビールはすぐにお出ししやすね。」


「あら、そうでしたか……。他の方のためにも残しておいた方が良い感じでしょうか?」


「あ、いえいえ! どーぞ召し上がって下さい! すぐ用意しますんで!」



若干引いていらっしゃる店主さんから瓶ビールを受け取りながら、指で栓を抜く。すでに7本飲み干しちゃったから、これで8本目だね。普段はお酒飲まないんだけど、たまにはいいよねぇ。怪人化したおかげで酔わなくなっちゃったけど、それでもお酒は美味しんです。んふー!


食料品とかの買い出しが終わった後、全速力で家まで戻った私は冷蔵庫にそれを全て詰めた後、あーちゃんのご飯を用意して即座に家を飛び出た。商店街のお店で何か食べるつもりだったんだけど、お肉屋さんからラーメンの屋台のこと聞いてね? もうラーメンな口だったのよ。


んでお家を飛び出して公園に直行、屋台を見つけた後は『かなり食べるのですが大丈夫ですか?』とお伺いを立てた後に迎え入れて頂いた。最初の方は店主さんもすっごく楽しくお話させて頂いてたんだけど……。まぁラーメン5杯目からちょっと顔が怪しくなって、10を超えたころには敬語になっちゃった。



(都心でもそうだったけど、外食するといつもこうなっちゃうよねぇ。)


「お、お待たせしました。ご注文のラーメンと、餃子20です。」


「ありがとうございます。う~ん、どれだけ食べてもいい香りですね。」



家なら面倒で瓶のまま飲んでしまうだろうが、流石に行儀が悪すぎるのでちゃんとグラスに注ぎながら、ラーメンたちを受け取る。あー、たまらない。確かえっとこれで……、50杯目かな? うんうん、美味しいものはいくらでも食べられちゃう。スープもしつこくないからそのまま全部飲めちゃうんだよねぇ。



「あ、あのお客さん。つかぬ事をお聞きしますが……。いま、どれだけ。」


「? あぁ、腹具合ですか? そうですね……、大体2割ぐらいでしょうか? かなりお腹が空いていたもので。あ、それとこれお代です。」


「2、2わり!?」



料理と交換する形でお金を手渡しながら、そう答える。そうなんですよー、燃費悪くてですね、すぐお腹減っちゃうんですよー。


普段の私であれば、ここまで体内のエネルギーを消費することはない。けれどあの強化フォームの燃費は悪く、溜め込んだエネルギーのほぼすべてを使ってしまうのだ。だからこそ使用後は大量に捕食して再度エネルギーを蓄えないといけない。別に空っぽの状態でも戦えないことはないんだけど、お腹が空いてると悲しいからねぇ。


あ、そうだ。ラーメン食べ終わったら次どこに行こうかな。バイキング系は初日で出禁喰らっちゃうから最後の手段として、何か良さそうな所……。ラーメンっていうエネルギッシュな麺類を食べたから、次はさっぱり系の……。あ、そうだ。久しぶりに回転寿司にいこっと。確か近くに3つぐらいチェーン店があったし、遅くまで空いてるから200皿×3店ぐらいしちゃおっかな~。



「……ん?」


「ど、どうかしましたか、お客さん。」



そんなことを考えながらラーメンを口に運ぼうとすると……。自身の持つ蜘蛛の超感覚が、何かを告げる。この感覚は多分、一回見知った存在が近くに出現した感じ? 遠くから移動したのではなく、急にその場に現れたというか……。


私の蜘蛛の感覚は人の何百倍も鋭い。感知精度も同様なため、速く動き過ぎた故に消えたように錯覚した、急に出現したかのように錯覚したということはあり得ないだろう。つまり、空間転移系の能力によって出現したことになる。そして最近であった存在の中で、その能力の持ち主と言えば……。アンコーポの幹部。“ビジネス”だ。


思わず後ろ、現在屋台がある公園の高台の下。河川敷の方へと目を向ければ……。



(いた。……けどビジネスじゃないね。送り出しただけかな?)



少し目を細めながら遠くを見てみれば、何やら黒い服装をしたのっぺらぼうの様な集団が見える。出現位置は河川敷にあるグラウンド、ちょうど野球のクラブチームか何かが練習している傍に奴らが現れている。この前に見たクライナーやビジネスの様な雰囲気を醸し出しているため、“アンコーポ”の関係者なのだろう。あまり強そうには見えないし、下級戦闘員だろうか。


かなり離れてはいるが、十分に射程圏内。手首からでも糸を出して拘束だけでもしておこうかと思ったが……。そう言えば今は食事中。屋台のカウンターを挟んだ眼の前には店主さんがいるし、アイツらがいる場所もグラウンドという無関係な人が多くいる場所だ。



(さすがに今の人間形態じゃ目立っちゃうし……。どうしよ。ちょっとだけ離席させてもらって“掃除”しておこうかな?)



そう思いながらもしかしたらこの周囲にビジネス、私が逃した敵幹部がいるかもしれないと考えながらラーメンをすすり、探知範囲を広げていくと……。代わりに発見できたのは、私が監視している魔法少女二人の反応。少し気になってスマホを覗いてみれば、確かに彼女たちに付けた追跡蜘蛛ちゃんたちもこの公園に来ているようだ。



(ん-、どうしよ。)



他の秘密結社、一般人を捕えて改造を施してしまう奴らとは違い、アンコーポによる怪人化は元に戻すことが可能である。さらにあのクマのぬいぐるみのクライナーになってしまった幼稚園児。経過観察として監視している幼稚園児ちゃんの最近の様子を見るに、心に何かしらの悪影響が残っているとは思えない。むしろ毎日楽しく過ごしていらっしゃる。


おそらく負の精神エネルギーの様なものを、あの魔法少女たちが放った正の精神エネルギーでかき消したのが原因だと考えられる。



(早い話、ジュエルナイトに撃破されるとそれまでの心の闇が浄化されるってことだ。)



それを考えると、私が勝手に止めてしまうのも不味い。


浄化技によって心晴れやかになるはずの人がずっと闇を抱えたことになってしまうし、魔法少女たちの戦闘経験を奪うことにもなってしまう。怪人化しても変な悪影響はなさそうだったし、私も常にあの子たちを守れる状態であるとは限らない。それを考えれば二人が強くなるためにも、程々な相手で実践を積ませることは重要だろう。


勿論危なくなれば手を貸すが、過保護であり過ぎてもいけないってやつだね。



(あんまり強そうに見えなかったし、放置でいいかな~。いちおう、いつでも“蜘蛛”として出れる用意はしてるし。ここで観戦させてもらうとしよ。アンコーポの情報収集もしたいしねー。)















「あ、いたぷる!」


「あれは……、“ジューギョーイン”!」



黒いスーツのような服装に、煙の様な頭部が特徴的なアンコーポの戦闘員。それがちょうどクライナーを生み出そうとしている瞬間を目撃する二人。


即座にその行為を止めるため動き出すが……、遅かった。


彼らの眼前に巨大な黒い柱が立ち上り、人の心と、その人物が大事にしていた者が複合されていく。今回の標的は、野球の試合でずっとベンチにいた男の子。万年ベンチだったようで、その心に陰りが生じ、そこをアンコーポに突かれてしまったのだろう。



「KURAINAー!!!」



生み出される、野球怪人クライナー。頭部がグローブの形になっており、木製バットによって構築された四肢がユニフォームによって包まれている。そして奴が背負うのは、ボールで一杯の籠。おそらく球拾いに使っていたのであろうものが、そこに。



「あー! またやられたー!」


「野球の怪人、それにボールが沢山。遠距離攻撃がメインかしら。っと、皆さん! 私たちが対処するので! すぐに避難を!」



ジューギョーイン達に怒る朱雀アカリこと“ユアルビー”に。冷静に分析を行いながら周囲へ避難を促す“ユアダイヤモンド”。なお指差され非難された下級戦闘員たちだが、彼らも給料の為に働いているサラリーマン。上から受けた仕事を完遂するためにも、なぜか悲哀の籠った背中でクライナーに指示を出し、同時に自分たちも戦闘態勢を整えていく。



「クライナー! ノック デ コウゲキ!」


「KURAINAー!!!」


「っ! 受け止めないと!」



クライナーが背負っていた籠からボールを取り出し、軽く空中へと浮かばせながら手のバットを振るおうとする。


先ほどダイヤモンドが避難指示を出したが、依然としてこの町はクライナーによる侵攻になれていない。そしてただ口で避難を促したとしても、すぐさま安全な場所を見つけ逃げることが出来るわけではない。故に、避難は未完了。逃げようとする人たちを守るためにも、彼女たちは攻撃ではなく防御を選ばないといけなかった。


なにせいくら弱めの怪人であろうと、その腕力は軽くトンを超える。そんな存在から打ち出されたボールを生身で喰らえばひとたまりもないだろう。……まぁ一応観戦しているクモ女が脚部の筋肉を伸ばしいつでも動けるようにしているため、滅多なことは起こらないが、魔法少女たちにとっては知らぬ話。何としてでも受け止めるために、ほんの少しだけ重心を下す。



「KURAI、NAー!」


「ッぅ!!!」


「ルビー!」


「だい、じょぶ! ダイヤ! 私が受け止めるから攻撃を!」



ルビーとダイヤモンドの肉体強度は、ルビーの方が上。その分スピードやテクニックなどはダイヤの方が優れているが、今求められているタンク役としてはルビーが適役だった。その選択に異論はないが、自身の親友であるルビーが傷つくのを好まないダイヤは、一瞬だけ逡巡してしまう。すぐにその思考を捨て、ジューギョーインやクライナーを排除するため動き出そうとするが……。敵の方が早かった。



「クライナー! 千本ノック ダ!」


「KURAINAー!!!」



「「くッ!!!」」



一気に叩き込まれていく、ボールたち。その一球一球が重く、思わず声を上げてしまう二人。何しろ素手で捕球せねばならないのだ。もう少し修練を積めば精神エネルギーを物質化し、グローブの様なもので捕球することが出来たかもしれないが……、今の二人にはそんな余裕はない。ただ背後の人たちを守るために、全力で守り続ける。


ジュエルナイトたちを補佐する妖精のプルポは何か反撃できる物や策はないかと慌てている裏で……、敵が、勝負を決めに来た。



「クライナー! キメルゾ! 特大ボールノック火ノ玉ブラスター!!!」


「KU、RA、I、NAー!!!!!」



ジューギョーインの声に合わせ、野球アニメのように背後に巨大な炎を纏わせるクライナー。取り出した一つのボールに負の精神エネルギー込め、生み出すのは巨大なボール。人間よりも大きなソレで、ジュエルナイト二人を纏めて場外ホームランにしてやろうという魂胆だ。



「あ、そうプル! ルビー! これ! これ使うぷる!」



普通サイズのボールで防御に手一杯、そんな大きなボールが来たらどうしようもない。そんな危機的状況で、ようやく策を思いついたプルポ。


彼が運んできたのは、近くに置いてあった金属バット。まだ二人の力では精神エネルギーを物質化することはできない。けれど放出と、何かに纏わせることはできる。故に彼が考え付いた作戦は、“ノック返し”。撃ち込まれたボールをバットで打ち返すことで相手の意表を突き、更にダメージを与える。力の強いルビーなら絶対に上手く行く。


そう考えて、自分の相棒にバットを投げ渡したプルポだったが……。


ルビーには! しっかり言語化しないと! 伝わらない!



「あ、うん! わかった! どぉぉりゃぁぁぁッ!!!!!」



ルビーが選択した行動! それは投擲! バットシュートであるッ!



「ち、ちがうぷるー!!!!!」



プルポの叫びも虚しく、なぜか途中で発火し炎のバットとなりながらクライナーの頭部に吸い込まれていくバット。幾ら頭部がグローブで出来ていたとしても、ボールでなくバットを受け止めるなど出来るわけがない。全身全霊の力をもってノックを打ち込もうとしたその瞬間、頭にバットが直撃し、姿勢がブレる。



「KURA,KURAINAッ!?!?」



そしてそのボールは、魔法少女たちの遥か上。そう、河川敷の先にある高台に、飛んで行ってしまう。そこにあったのは、ジュエルナイトたちが探していたラーメンの屋台。とんでもない速度、そして先ほどのルビーのバット同様炎を纏いながら飛んで行ってしまうボール。思わず悲鳴を上げそうになる二人だったが……。




巨大な球体が、屋台の直前。真ん前で、止まる。




火が掻き消え、徐々にその回転速度を緩めていくボール。


そしてその回転が完全に止まった瞬間、パンとはじけ飛ぶボール。



その先にいたのは、ボールが衝突したことによって生まれた衝撃が引き起こした、惨状。


店主が丹精込めて仕込んでいたスープの寸胴鍋をひっくり返してしまっており、カウンターに置かれていた食器や瓶などが地面に落ち、幾つか割れてしまっている。屋台自体もかなりのダメージを受けてしまっており、これ以上の営業は難しそうだ。


けれどそのボールを受け止めた張本人、そしてその背後にいる店主には、一切の怪我はない。だが、その代わりに……。彼女の纏う覇気が、怒りが、爆発する。




「おい、ガキども。遊ぶんだったら余所でやれ。」




彼女の肉体はすでに人間ではないが……、その精神までもが完全に化け物になってしまったわけではない。故に彼女、クモ女の人間態である九条恵美の地雷も、改造前と変わらない。


それは偏に、食事を邪魔されることと、食べ物を粗末にすること。


つまり……。





怪人クモ女、キレた!





見た目は人間を維持しているが、その出力はすでに超人を越えた史上最悪の怪人。


それが、今! 舞い降りる……ッ!!!







〇サルでも解る! ネオ・デス博士の怪人講座!(野球怪人クライナー編)


え、うわ。こわ。どうなってんのその顔。キレ過ぎて全部の血管浮き出て……、お、おっと!


はーはっはっ! ごきげんよう諸君! ネオ・デス博士である! 別に驚いてはおらんぞ! うむ! 我が最高傑作のクモ女の性能にホレボレしておったところよ! 何せもう手に入らないであろう超貴重な素材をこれでもかと叩き込んだ故な! あれこそ最高傑作! 我が想定を大きく超えるとは! こんなものを作ってしまった私の才能が恐ろしい! はーはっはっ!!! っと、してして今回は……。あぁ先ほど出て来たクライナーの解説か。良いだろう! では基本スペックだ!


■身長:350.5cm

■体重:182.1kg

■パンチ力:6.7t

■キック力:11.8t

■ジャンプ力:18.6m(ひと跳び)

■走力:5.3秒(100m)

★必殺技:特大ボールノック火ノ玉ブラスター


相変わらずあまり良い怪人ではないが、低いスペックを道具を扱うことで補っている怪人だな! 四肢をバットにすることで近接能力を上げながら、同時にノックすることでボールによる遠距離攻撃もできる。さらに背負っているボールは負の精神エネルギーによって構成されているため基本的に玉切れ無し。


私からすれば『アイデアは良いが、それなら胸部あたりにカノン砲でも乗せればよいではないか。』というものだが、まぁこの“不合理さ”が奴らの美学であるのだろう。この私が虫にこだわったように、奴らにもこだわりがある。まぁ正直その程度の怪人しか作れぬのであればこだわりなど捨てて強さを追い求めた方が良い気がするが……。今日の私は機嫌が良い! 見逃してやろうではないか!


ではな諸君! 次の講義まではもう少し真面な頭脳を手に入れておくがいい! さらばだ!


……あ、それと。食べ物を粗末にするのはダメだぞ。絶対にだ。これ、ネオ・デス博士との約束。




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