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51:大団円


視点は戻り、ジュエルナイトたちへ。


この世の全てをエネルギーに変換し際限なく肥大化し続ける泥の化け物に相対した彼女たち。一度全力で攻撃したものの、先ほどまで弱点となっていたはずの“正の精神エネルギー”すら吸収されてしまった。このままではイエローアイランドのみならず、世界が危ないかもしれない。


けれどこれまでの連戦もあり、彼女たちが持つエネルギー量はほんのわずか。増殖を辞めない敵を倒すには全く足りない。体力が満タンの時の全力攻撃ですら相手に効くか解らないのだ。5人目のきりんこと“ユアドラゴン”という心強い仲間は増えたが、勝ち筋が見えない。


故に彼女たちはプルポがひそかに用意していた“ジュエルライト”。誰かの精神エネルギーをジュエルナイトに渡すというアイテムをユアドラゴンに渡したその妖精は、このイエローアイランド中に散らばったクライナージュエルの入ったストラップを彼女の力で“ジュエルライト”に作り替えることを求めたのだ。


彼女の変身アイテムである“龍の宝玉”は願望器。精神エネルギーをもって願いを成就させる不思議な水晶。その宝玉はきりんの願いを聞き届け、みんなに力を貸してもらうためどんどんとあのストラップを“ジュエルライト”に作り替えていったのだが……。



((((あ、そういえば出現したクライナー。全部師匠が回収してたんだった……!))))



ユアドラゴンが行動を開始してから、思い至ってしまうジュエルナイトの4人。


そうなのである、きりんは色々と一杯一杯だったというか、父が狂気に呑まれ化け物となってしまったため他のことに気を避ける余裕が無かった故に忘れてしまっていたのだが、アカリたちは違う。普通に千体くらいのクライナーを師匠こと“九条恵美”が無力化し、どこかから連れて来たビジネスを無理矢理働かせて解除作業をさせていた、と言うことをしっかりと覚えていたのだった。



(ど、どう考えてもジュエルライト一か所に集まっちゃうやつ!)

(え、エミさーん! エミさんなら解りますよね! それ! それイエローアイランド中にばらまいて! ばらまいてくださーい!!!)

(と、というか使い方ちゃんと伝わるの? 大丈夫なの!?)

(あ、あの。私エミさんが『私たちに何かあったのかも』って思って飛んでくる未来しか見えないのですが……。)



いつの間に身に着けたのか、ほぼ目線だけで会話しあう彼女たち。


確かに師匠である彼女が飛んでくればなんかもう全部何とかしてくれそうだし、あの泥の化け物も一瞬で消し飛ばしてくれそうなのは確かだが、それは実質的に『ジュエルナイトたちの敗北』を意味している。師匠は絶対に勝てる禁止カードみたいなものだ、試合には勝てるけど勝負には負ける、みたいなやつである。


そして正直、ちょっと考えられないことだが……。あの泥の化け物は、彼女たちがいるお城すらも取り込んで巨大化を始めている。既にこの部屋の大半は吸収されてしまっており、お城の天井を見上げてみれば雷を伴った曇り空。つまり天井。城の構造的に天まで伸びていた大きな尖塔すらも飲みこんでいるのである。


故にほんのちょっとだけ思ってしまうこと。


これ、もしかしたら師匠も飲み込んじゃうんじゃね?



(なんか普通に耐えそうだけど! も、もし師匠が飲み込まれちゃったら……!)

(考えられないけど! 考えられないけど! そうなった場合!)

(絶対にこの泥、滅茶苦茶強化される!)

(ダ、ダメですわ。星が終わりますわ。地球46億年の月日がぱぁになりますわ!)


((((と、とりあえず来ないで師匠ッ~~~!!!))))



思いついてしまったら、もう止まらない。


敵は相反するエネルギーを扱うジュエルナイトたちですら、飲み込まれれば命はないと思えるような泥の化け物。


師匠のことなので涼しい顔して消し飛ばしそうだし、飲み込まれたとしても内部から稲妻をもって全てを消し飛ばすとかしてくれそうなのだが……。もし失敗すれば色々と終わる。思考の1%にも満たない不安ではあるが、一度でも考えてしまえば、どんどんとその不安は大きくなってしまう。


未だ自分たちの町と言う小さな世界しか知らない彼女たち、故に師匠の存在は非常に大きく世界で一番強いのだと思っているのだが……、あながち間違いではない。そいつは文字通りこの世界における五指どころか1,2を争うような存在である。


ありえない話ではあるが、もしこの泥がクモ女を吸収し、保有するエネルギー量に耐えきれず爆散するという確定した未来を避けることが出来たと考えた時。文字通り星を食い尽くす化け物が完成してしまう。そして星を飲み込んだ暁には銀河中に広がって行き、いずれは世界の壁すらも壊すワールドイーターへと至ってしまうだろう。



((((こ、怖いッ!?))))



ドラゴンは“龍の宝玉”を制御し散らばったクライナージュエルたちを“ジュエルライト”に変換する作業を頑張ってくれている。そのためとても言い出せる空気ではなかったが……、4人の心中はもうドキドキだった。



「ッ! 来ました!」


((((誰がッ!?))))


「大量の、精神エネルギーぷる~!」


((((良かったッ! 本当にッ!!!))))



感情を表情として外に出さないように全力で無表情を貫く彼女たちであったが、内心無茶苦茶安堵しているジュエルナイトたち。言葉にして伝えてはいないが、何をしてほしいのか察してくれたのだろう。流石師匠、と脳内で感謝の意を伝えながら、どんどんと“龍の宝玉”に注ぎ込まれていく精神エネルギーを見る彼女たち。



「みんなのパワーが! 集まってくるっぷ!」


(何となく解ってはいたけど、人ごとに色が違うんだな~。精神エネルギーって。)

(思ったよりたくさんの人がパワーを送ってくれてる。感謝しなきゃ。)

(……あれ? これ結構負のエネルギーも来てない? と、とりあえずコレは私が使おうか。うん。)

(というか皆さん、解ってて言わないのだと思うんですが……。)


((((一つだけ、滅茶苦茶太いのが来てる……。師匠だよね、これ。))))



色や太さはそれぞれ違う、様々な人たちが、彼女たちの危機、世界の危機を救うためにその心の力を分け与えてくれている。負の精神エネルギーを使う故にその造詣が深いヒマだけが『なんでこんなにドス黒いのが来てるの?』というヤバめなエネルギーが百人分ほど来ていたが、まぁ使えないわけではない。飲まれない様に注意すればいいだけだ。


そしてその中、大きくても人の腕ほどの線なのに対し、何かもう別物の太さなのが一本。柱を越えてなんと形容したらいいのか解らないくらい太く強い精神エネルギーが送られてきている。真っ白で、緻密に練り込まれており、直径100mは下らない。あまりにも太いため、まだ精神エネルギーに疎いユアドラゴンは『沢山の人が応援してくれているんだ!』と少し頬を赤くしながら喜んでいるが、ある程度理解を深めた4人からすればもう誰のものか丸わかりである。


彼女たちがもう師匠だけでいいんじゃないかな……、みたいなことを考え始めた瞬間。ユアドラゴンが手に持っていた“龍の宝玉”が力強く光始めた。



「満たん! 満たんぷる!」


「これが、完全な“龍の宝玉”……。」



ゆっくりとドラゴンの腕から離れていき、元の大きさに戻って行く水晶。その内部では莫大な白いエネルギーを彩る様に、様々な色の力がうごめいていた。これがあれば、あの泥だって、全部全部、救うことが出来る。宝玉の正統な保持者。遠い過去は龍の巫女と呼ばれていた人々の血を受け継ぐ彼女が、強い願いと共に、空想を現実へと叩き落す。



「あの化け物を打ち倒し、全てを救える力を! みんなを守れる力を! 私たちにっ!」



その強い願いを、願望器が成就させる。


その瞬間、宝玉が強く光り始め、水晶を彩っていた精神エネルギーたちがジュエルナイトたち5人の体へと流れていく。様々な人の想いが込められていた宝玉、けれどその大部分は“彼女”のもの。その精神性を強く引き継いだ力は、ジュエルナイトたちが敵を打ち破り、すべてを救うために必要な力を、与えていく。


全員の体が優しい白い光に包まれていき、普段の戦装束が作り替えられていく。


白を基調とし、普段の彼女たちが纏うものよりもより豪華に。彼女たちが適応したそれぞれのジュエルが真っ白な絹を彩って行き、晴れ舞台に相応しい姿、まるで物語のお姫様のような衣へと変わっていく。そして服装だけでなく、その身に宿るエネルギーも。


龍の宝玉がユアドラゴンの願いを好意的に受け止め、かなえてくれたのだろう。彼女たちが受け取ったそれぞれの精神エネルギーは、彼女たちが扱いやすいように調整され、本来保有できるエネルギー量を超過した分は、新たに構築された戦装束に溶け込ませることで外付けのタンクとする。



「すごい! すごいっぷる! これが、ジュエルナイトの“シャイニング”フォームっぷる!」


「これなら……、いけるっ! みんな、決めるよ!」



ルビーの声に合わせて、飛び上がる全員。


泥の化け物は絶えず浸食を進め、増殖し続けている。止めるためには、最大の攻撃で、一気にやっつけるしかない。選ぶのは、彼女たちの必殺技。全てを浄化し、その心を救うための力。みんなの力を借りた今ならば、それを越えた一撃を放てるはず。


全員が自身の宝玉を構え、そのすべてのエネルギーが、送り込まれていく。



「ルビーシャワー!」


「ダイヤモンドシャワー!」


「ダークパールシャワー!」


「エメラルドシャワー!」


「ドラゴン・シャワー!」



「輝く希望の宝石よ!」


「希望を示すその輝きよ!」


「絶望に染まったその体を!」


「皆が前に進むために!」


「払い給え!」」




「「「「「シャイニング! ジュエル・シャワー!!!」」」」」




轟音とともに、放たれる極光。


寸分たがわず増殖を続ける泥へと叩き込まれたそれが、確実にその全てへと直撃し、その欠片全てを消し飛ばしていく。吸収し無力化しようにも、荒れ狂う光の奔流、精神エネルギーの波に成す術はない。もともと人を核にしていた名残か、声にならない悲鳴を上げながら、すべての泥が、浄化されていった……。






 ◇◆◇◆◇





あぁ、とてもいい戦いだった。もしこれが何かの物語ならエンドロールが流れ始めることだろう。


新しい出会いと別れ。生まれたばかりの新しい龍はこの地に残り新たな自分だけの道、父との和解やよりこのリゾート施設を誰かの希望となる様な場所に作り替えるため奔走することになる。そしてジュエルナイトたち4人は、別れを惜しみながらも自分たちの戦い、そして生活へと戻って行く。


そんな場面が切り取られ、制作陣の横に表示される、ってところかな?



「まぁ、これは現実だ。もし制作陣とやらがいるのならこの世界の不条理を書き直してもらう所だけど……。そう言うのはないからねぇ?」



ゆっくりと深夜の遊園地を歩きながら、そんなことを零す。


既に彼女たちの戦いが終わってから数時間が経過している。あんな騒ぎがあった後だ、遊園地は急遽閉園となり、渦中の彼女たちは全員ホテルの一室へと避難。事態が収まるまではきりんさんもともに行動することとなった。まぁ“黄龍”氏、きりんのお父さんも正気に戻ったようだし、彼がその辺りの対応を終えるまでは5人一緒に行動する、って感じだね。


そんなわけで5人は夜までお互いの自己紹介や親睦を深めるための遊びなどに興じた後、食事と入浴を終わらせた後はすぐに眠りについている。今日の戦いは普段のものよりも大分ハードだった。疲れが溜まっていたのは容易に想定出来た。私は保護者として全員を寝かせたって感じだね。



(ここに来てから一睡もしていないけど……、逆にそれが良かった。きりんさんに真っ新なベッドを渡すことが出来たのだもの。本人はちょっと恐縮していたけれど、私は私で仕事があるかねぇ。)



いくら怪人でも睡眠はある程度必要だ。けれど私は特別製、私は別に数か月程度眠らなくても平気、これからやることがたくさんあるのだ、睡眠などとっている暇はない。ちょうどこれからも、やらないといけないことがあるからね?



「クモ女様。シカーダアーミー総員、集合済みです。」


「うん? あぁありがとう少佐。仕事が早くて助かるよ。」



気分よく深夜の遊園地、この場所で一番大きな広場に向かって楽しく歩いていると、こちらに気が付いたのであろう蝉少佐が近寄って来て、最敬礼と共にそう言ってきた。私は普段通りの言葉使いで返答しておく。最近は色々と演技する必要性が増えて来たからねぇ。たまに自分の喋り方忘れそうになるし、“今”くらいいいでしょ。



「……何か不手際があったのでしょうか?」


「んー? ないよ。あ、口調? あはは、私こっちが素なのよー。服装だって、ラフでしょう?」



歩きながらクルクルと回ってみながら、そう返す。彼に言った通り、今の私の服装は普段着。“九条恵美”の時によく来ているスーツ姿でもなく“蜘蛛”の時に良く着る着物姿でもない。たまに寝巻にも使ってしまう少し大きめの真っ白なTシャツだけだ。まぁこれは量産品だしね、どうなっても、どう汚れてもいい服装みたいなものよ。



「だって、あの子たちが頑張っていたでしょう? 保護して指導している身からすればその活躍を見るのは嬉しくて仕方ないの。母性ともいうのかな~? 年のせいか、それとも改造による蜘蛛の性質かは解らないけれど、最近ちょっと色々あってね~? まぁキミに言っても仕方ないか。」


「は、はぁ……。」


「あははー。まぁ気にしなくていいよ、キミは。さて、命令したことはちゃんとしておいてくれたかな?」


「はッ!」



一瞬困惑した様子だった彼だが、与えた任務の報告を求めるとしっかりと軍人として応えてくれる。


シカーダアーミーたちに与えたのは、撤収準備だ。クライナーになってしまった人や、ビジネスやクラフトの記憶処理は私が行った。彼らに任せたのはこの地にデスカンパニーが関与していたという証拠を完全に抹消するということ。細胞一欠けらすら残すなと言明したのだが、やはりその辺りは“組織”だ。しっかりとオーダーを熟してくれた様子。



「また、来場者が保有していた“ジュエルライト”も全て回収済みです。こちらで保管していたクライナージュエルも全てライトに変わってしまっていましたが……。アンコーポから購入した2000全てを確保致しました。」


「あぁ、そう。まぁ別にクライナージュエルはどうでもいいしねぇ? ちゃんと私の蜘蛛に渡してくれた?」


「はっ! 赤い布を巻き付けた方にお渡し済みです。」



なら良かった。別に害はないだろうけれど、あのライトをきっかけに悪いことを企んだりとか、悪い組織に狙われたりとか色々あるからねぇ? 私の元で管理しておけば安全って寸法よ。輸送担当の蜘蛛ちゃんにちゃんと渡してくれたみたいだし、今頃例の蜘蛛ビル、廃ビルを改造した地下に送られて保存処理を受けているところだろう。


私がエネルギーを送り出した瞬間、途轍もない白い光が送り出された瞬間は正直ビビったけど。1つでもあれば今後も私が手を貸してやれることは理解できた。ま、使うかどうかは未来の私しか解らないけど、保存して置いて無駄はない。


っと、そうこうしている間に広場についたね。うんうん、指示した通り全員集まっててえら~い。



「手間が無くなっていいよねぇ? さ、蝉少佐。君も並んで?」


「はっ!」



私がそう指示を出すと、さっとシカーダアーミーの先頭に移動する彼。


……さて、もう人払いどころからこの周辺の映像機器全てを管理下に置いてるし、始めて行こうか。


ゆっくりと自身に課した拘束を解いていく。


徐々に人としての肌が裂けていき、血管が浮き出てくる。以前量産型のセミ男が見せたようなただ斑に浮き出るのではなく、クモの巣のような規則正しい紋様。まぁデス博士の遊び心だろう。それが浮きでた瞬間、即座にこの体が作り替えられていく。正確に言うのならば、元へと戻って行く。


体内に格納していた蜘蛛の腹に、複数の足。顔に収めていた残り6つの目も、瞼が開かれていく。


向こう側から聞こえる私の信者たちのうっとおしい声を聞き流しながら、元の姿へ。



「怪人クモ女、ってね?」



あぁ、近頃は家の中でもすぐに飛び出せるように人蟲形態だったからなぁ。ちょっと解放感があるよ。



「おぉ……! それがクモ女様の真のお姿……!」


「うん? どうしたの蝉少佐、見惚れちゃった? あはー! こんな気持ち悪い体なのに、趣味悪いねぇ。あ、悪いけど口を閉じてね? 話すことがあるから。」



彼らからすれば、私が真の姿を現して前に現れたと言うことはとても嬉しいことだろう。そしてにこにこしながら話すことがあるよー、って言っているのだ。多少蝉少佐は不安そうな顔をしているけれど、他の奴らはお褒めの言葉が頂けるのだ! って顔してるねぇ。


んじゃ、地獄にご招待。させてもらおうか。



「君たち、誇っていいよ? 私がこの姿を晒すってことは。“そういうこと”だから。今日はたくさん頑張ってくれたよねぇ? 急な作戦の変更だったのに、文句言わずにちゃんとお仕事した。……でもねぇ? これまで君たちが何をしてたのか。ちゃんと覚えてるー?」



そう言いながら、とある物体を地面に叩きつける。既に絶命してしまっており、肉体はもう可哀想なことに成っているが、顔は綺麗に残しておいた。だからわかるよねぇ?


うんうん、キミたちが身を置いていた“クモ女派”の拠点。そこの管理責任者。支部長ってやつだよー? いやはや、さっきちょーっとお邪魔してたからね? 引っ張ってきちゃった。ただまぁ全身の重要器官を貫かれたら死ぬ程度の強さしかなくてね? もう死んじゃったのよ! あは! かわいそ!



「デスカンパニー崩壊以後に行ったシカーダアーミーが行った作戦、単独合同合わせて61件。正確な情報は解らないけれど、その時に出た一般人への被害は十数万を下らない。そしてその過程で死んだ正義側の人数は23名。う~ん、殺し過ぎじゃない?」



もしこれが両方とも0だったら“違う未来”が合ったかもしれないけど……。あはは! まぁ無理だよねぇ!



「ッ! !? ッ!!!」


「あはっ! ようやく気が付いた、せみくん? 麻痺毒だよ~? すでに君たちが使ってた拠点は制圧済み、内部情報も研究データも敵対組織や派閥のデータも全て綺麗な状態で手に入った。勿論基地内部に生き残っている人はいないし、建物自体消し飛ばして平地にしておいてあげたよ? ……残ってるのは、きみたちだけ。あははっ! 何も知らずに全員集めちゃったねぇ!!!」



わたしさー、怒ってるのよ。まぁ確かに能力はあるんだろうね、ヒーロー23人も殺してるんだから。君たちが活動していた支部も結構大きかったし、持っていた情報もたくさん。資材もほくほくだったよ。でもコレ、どこから手に入れたんだろうねぇ? どうやって集めたんだろうねぇ? どれだけの人が犠牲になったんだろうねぇ?


確かに、確かにね? 君たちの内の中の半分以上が“連れ去られて”改造され、組織に忠誠を誓っているってのは知ってるんだ。だから私は慈悲を与えた。けどね、もうこの数は擁護できないのよ。する気も起きないのよ。あの子たちの戦いが終わった後、キミたちの拠点に行って全部を知った時、後悔しちゃった! あははっ!



「クモはねぇ? 色んな事が出来るんだー。誰にも知られずに、全く違和感を覚えない毒だって作れる。それをあらかじめここに散布しておけばいい話。あぁ耐性なんて意味ないよ? だってついさっき私が作った新種だもの。もう死ぬまでしゃべれなーい。あぁ素晴らしいね、もうそのうざったい声を聞かなくて済むのだから。」



そう言いながら、震える蝉少佐の顎を持ち上げてあげる。


裏切られ見捨てられたという怒りと悲しみが入り混じった顔に、強い死への恐怖。あぁ、それ以外にも沢山の感情が入り混じっているねぇ? どう? 自分たちが信じていた対象に殺されるって言うのは、すごく名誉なことじゃない? ほら、笑顔笑顔。あは! あははは!



「感謝するよ、シカーダアーミーくん? 何せ君たちのおかげで真っ新で最新の情報を手に入れることが出来た。私が把握できていなかった残党たちの現状や、この国の裏社会の情報。これさえあればわざわざしらみつぶしに探さずとも、直行で残党処理が出来る。勿論私が潰している間に新しいのが生まれるだろうけど……。それも消せばいい。あぁ本当に、良い情報だ。」



その礼だ、最後にもう一度だけ慈悲をあげよう。知ってる? 私はとっても優しいんだよ?



「今すぐ自分の手で死ぬか、抵抗して死ぬか。どっちがいいかなぁ?」



そう言いながら彼の腹部に足の一本を突き刺し、解毒用の毒を送り出してやる。さぁどうする、蝉少佐くん? 優秀な君のことだ。私がこれまで何をしていたのか、大体解っているんじゃない? この身に組織への忠誠など一切なく、そしてクモ女派も含めて残党を消しまくっているのは誰か。


情報を手に入れてしまった今、この世に存在するすべての残党を消し飛ばしてしまう可能性が高いのは誰か。その身を隠し、組織内で崇拝されているからこそ油断してしまい、消し飛ばされるまでその真意を伺うことの出来ない存在は誰か。


デスカンパニーの首領などではなく、“破壊者”であるのは誰か。




「ッ! お覚悟ォ!!!!!」




そう、私。


私個人よりも、組織が生き残ることを選んだのだろう。全身に蓄えられたエネルギーを一点に集中させ、私に向かって放つ蝉少佐。緑色のエネルギー弾、今日見た彼女たちの必殺技のように光り輝いてもいないし、一気に広大な範囲を焼き払うわけでもない。


けれどその威力は、彼女たちが放ったものと比べると、数倍。いや数十倍上だ。もし彼女たちが触れてしまえば、変身した状態でも消し飛んでしまうような威力。生半可な戦士どころか、熟練の戦士すら直撃すれば死は免れない。“少佐”という称号を受けた、デスカンパニーの幹部として相応しい攻撃だ。



それを、左手で。受け止め。



「あぁ、ほんのり熱いね。」



握りつぶす。


文字通り、彼にとっての決死の一撃。それが、一切の傷を与えることが出来ずに、消し飛んだ。



「じゃあ、お返しだ。」



そう言いながら、握りつぶしたその左手。利き手ではない方を振るう。


瞬間、割れる世界。


蝉少佐だけでなく、その背後にいた怪人。戦闘員、装備そのすべてが斜めに切断され、ゆっくりとずれていく。



「で、デスカンパニーに、え、えいこ」


「あぁ、ごめん。それ嫌いなんだ。」



軽く指を鳴らし、叫ぼうとした蝉少佐の頭部を消し飛ばす。別に叫ぶのは勝手だけど、その“名前”は耳に入れたくないぐらい嫌いなのよ。ごめんね?



「さ、蜘蛛たち。おいで。」



そう言いながら手を叩くと無音で大量の蜘蛛たちが私の周りに集まっていく。もしもの時の為に、逃走者を仕留められるよう本拠地から大量に呼んできておいたんだけど無駄になっちゃった。わざわざ来てもらったのに仕事が無くてごめんねぇ? あぁ、でも。タダ働きはさせないから。



「そこに落ちてる死体。全部たべていいよ?」


「きゅ!?」


「うん、ほんとほんと。大体虫みたいなものだし、美味しいと思うよ? あぁ食べきれなかったらちゃんと処理しておいてね。痕跡も全て消しておくこと。誰か人が来る前に、手早く頼むよ。」


「きゅきゅー!」



嬉しそうな声を上げ、怪人だったモノに群がっていくクモたち。普段は専用のペレット。餌をあげているがたまには新鮮なものも良いだろう。どうせ消し飛ばすならば、死体ですら役に立ってもらう方がいい。まぁ彼らもグルメな方だ、途中で飽きるだろうが、“掃除係”も連れてきている。



「“何も無かった”ようにしてくれるさ。」



さ、とりあえず遊園地での仕事は終わり、だね。


まだまだあの子たちのバカンスは続くし、砂浜でのトレーニングも控えている。ユアドラゴンこと黄龍きりんちゃんもいることだし、あの子専用のメニューも組んで色々していかないとねぇ。



「ふふ、楽しみ。明日もいい日になるといいねぇ。」




〇サルでも解る! ネオ・デス博士の怪人講座!(“九条恵美”編)


素晴らしい! 素晴らしいぞクモ女! さすが我が最高傑作! そのまさに空間を断絶するかのようなひと薙ぎ! なんでもないかのように見せているがとんでもない絶技ではないか! これまで習得した戦闘技術に、その身に宿る“圧縮”の力を応用し! 見えない斬撃を放つ! お前の必殺技であるスパイラルエンドの技法を流用した斬撃! 素晴らしい! 素晴らしいぞ! 今回は試運転も兼ねての“弱攻撃”だったようだが、本気で放てば空間も切れるのではないか!? たとえピレスジェットだろうと直撃すれば真っ二つよ! どこまでこの私を喜ばせれば気が済むのだクモ女! はーはっは!!!


おぉ!ごきげんよう諸君! ネオ・デス博士である! いい所に来たな! 貴様らも共に何度も見直そうではないか! 素晴らしいぞクモ女は……! うん? あぁ、その話か。よいよい! 今日の私は機嫌が良いのだ、特別にリクエストを聞いてやろう。改造前のクモ女、“九条恵美”の基本スペックだな! もちろんいつでも閲覧できるように用意しているとも! さぁ見るがいい!!!


■身長:173.9cm

■体重:94.1kg

■パンチ力:2.8t

■キック力:6.0t

■ジャンプ力:4.1m(ひと跳び)

■走力:6.9秒(100m)


どうだ! これが改造前のクモ女! 九条恵美だ!


……うむ、なんか見ていたら色々と心が落ち着いてきたな。なんだお前? 人か? いや純粋な人であったのは改造した我が一番理解しているのだが……。なんというか改造されるために生まれて来たかのような存在だな、うむ。実際彼女を拉致する時も戦闘員が三桁ほど吹き飛んだを聞いておったしなぁ。なんか火事場の馬鹿力か何かでリミッターが外れたのか基本スペックよりも強くなっていて、怪人を送り込む羽目になったらしいし。


素体としての彼女に関しては不明な点が多いのだが、おそらく人体としての究極点が九条恵美なのではないかと私は考えている。生まれながらにして消化器官が異様に強く、肉体の密度も色々とおかしい。体重がかなり重いように見受けられると思うが、この体重でコイツやせ型だったからな?


しかも“全く鍛えていない”のにも関わらずこの身体能力だ。本人がちょっとアレというか、ポカしまくる性格だったこともあり、幼少期から『力は抑えるもの』という指導を両親から受けていたが故に、一般社会に何とか溶け込めていたという感じだな。……まぁ本人は『みんな私ぐらいの力出せるけど、隠すのが“普通”だからそうしてるだけ』みたいな勘違いしてたみたいだし。


今は流石にそのあたりの修正が終わっているようだが、色々と人への基準がおかしいのはそういうところが理由だと考えられる。……う~ん、やはり何度見ても恐怖と言うか疑問しか出てこんな、このスペックは。まだだからこそ我が最高傑作のクモ女が生まれたというわけだが! はーはっは!!!


ではな諸君! 次の講義まではもう少し真面な頭脳を手に入れておくがいい! さらばだ!





次回はDVD&ブルーレイ購入特典の特別映像的なものをした後に、第3クールに移っていく予定です。

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