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とある極悪王子の廃嫡  作者: さんっち
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下:王国の末路と2人のその後

クロムウェル・ヒューリズが王家を廃嫡されて、半年。人々の頭から、その事実は消えつつあった。


何故なら現在、王弟殿下ハイモンド・ヒューリズと聖女イルミナの結婚式の準備が進んでいるからだ。王城にて大々的に執り行われることもあり、式場から催しまで全てが着々と進められている。ハイモンドもこの日のためにと、花嫁になるイルミナに豪華なウェディングドレスやティアラを用意していた。


そしていよいよ、式が明日に迫った日の夜。国王と王弟の元に、城の兵士が飛び込んできた。大量の汗をかき、今にも倒れそうな青い顔で。


「緊急事態です!結婚式を行う式場が、何者かに荒らされたようです!邪気が確認されたため、おそらく魔物による被害かと!」


何!?と立ち上がったハイモンド。何故イルミナが定期的に結界を張っているのに、今になって魔物が・・・!?だが報告は、それだけでは終わらない。


「式場外でも、魔物の目撃情報が多数入っています!」


「王城内で保管していた金品が、1つ残らず消失しています!!」


「金品だけではありません!今までの魔法研究の情報に、武器庫から大量の武器が・・・!!」


国のあらゆる基盤が全て破壊されたことに、驚愕するハイモンド。それは国王も同じだったようで、深夜の対応にただただ追われる王家。そこに、さらなる恐ろしい情報が入ってきた。


「ハイモンド様、聖女イルミナ様が・・・!」


「まさか、魔物に襲われたのか!?」



「大量の金品に武器などを詰めた袋を魔物達に持たせ、ドラゴンにまたがり、そのまま飛び去っていったのです!」



国の上空は、聖女・・・いや、女魔王イルミナの笑い声が響いていた。聖女の清楚な服装を破り捨て、愛する深紅のドレスを纏う、真っ赤な角を持つ女の魔人。それがイルミナの正体だ。


「馬鹿ねぇ。アタシ、貴方のことなんてこれっぽっちも愛してないから。アンタの寒い愛の言葉に、応えてすらいないのにね!勘違いにも程があるわよ、愚王さん」


イルミナは怒り狂っていた、ヒューリズ王国が完全に魔境バースを見捨てていたことを。ならばその報復にと、王家に忍び込み悪事を働いて、王家の顔に泥を塗ってやろうと企んだのだ。聖女を魔物と見抜けずに王城に上げ入れた、それだけでも充分な汚名だろうが。


最初はクロムウェルを落とし込もうと思ったが、イルミナをある程度警戒していた。オマケに彼の使用人は、強力な魔法の使い手。互いに信頼関係が強く、彼女の不審さにも勘づきつつある。これでは返り討ちされると恐れたイルミナ、そこで目を付けたのがハイモンドだった。


第一王子が婚約者にいたにも関わらず、適当に愛想良くいたら、自分に気があると勘違いした馬鹿な男。元々第一王子と仲が悪く、女好きだったのもあり、丸め込むのに苦労しなかった。自分に都合の良い解釈もしてくれ、完璧に味方でいてくれる。彼と協力して、第一王子の動きを鈍らせようとしたが・・・あんな偏った情報を世間に流した上、廃嫡にまで行くとは思わなかった。


「流石に良心が痛むわ、あんなに出来の良い人だったから。せめて愚王として糾弾されるあの国王と王弟と違って、ちゃんと幸せに生きて欲しいわ・・・そうだ」


彼女は魔境バースと別方向に飛んでいく。とある魔力を追いながら辿り着いたのは、森に囲まれた小さな屋敷だ。目的の魔物に対抗する魔力を感じ、少しうろたえつつも。ざっと人が1年は暮らせる価値の金品を袋に詰め、そっと屋敷の前に置く。



「出所の怪しい金は、受け取らないぞ」



ハッとイルミナが前を見れば、元婚約者の姿。衣服こそ平民のモノだが、その顔と声、そして威厳は間違いなくクロムウェルだ。少し遠い空が騒がしかったようで、起きていたようだ。


「聖女・・・いや、女魔王イルミナ。これが狙いか」


「まぁヒューリズ王国の評判を下げるのが、1番の目的だったからね。でも貴方達は私が来て以降、魔物や魔境バースを唯一見てくれたから。犯罪者にして追い出すのは心が痛んだわ。これは貴方への慰謝料、もっと欲しいなら言ってね」


クロムウェルは断る理由を探そうとするが、おそらく彼女はネチネチと説得してくるだろう。こんな夜明けにそんなことする体力など無いため、仕方なく受け取っておく。


「魔境バースは、まだまだ国になれそうにないな。向こうに非があるとはいえ、王城から何もかもかっさらうとは。それに国として成り立つには、奪ったモノ以外にも大量に必要だぞ」


「アハハ、言ってくれるじゃない。だったらクロムウェル、貴方がこれからの魔境バースを導いてよ。上級国民として、優遇してあげるから」


手を出そうとしたイルミナだが、触れようとした瞬間に、強い魔力ではじき返された。よくよく見れば彼の背後には、白い髪をしたあの使用人。彼女が「気味の悪い」と言った、あの少年だ。彼は何も言わず、ギュッとクロムウェルの背に抱きついていた。大丈夫だと優しくシャルロに声をかければ、クロムウェルは儚い瞳をイルミナに向ける。



「悪いな、俺はお前のところには行かない。俺はコイツと生きていくことを決めた」



イルミナはしばらく呆然としていたが、やがて「そっか」とあっさり受け入れた。2人の関係性は、王城にいる間からなんとなく察していた。ようやくここで、望んだ形になったのだろう。


「別に強奪するまで、貴方に依存しているわけじゃないから。まぁ、あの馬鹿王弟よりかは好きだったかも。・・・あぁ、ごめんなさい。もういるものね。大切な人が、1番近くに」


じゃあね、と小さく呟いたイルミナ。すぐにドラゴンに飛び乗り、そのまま魔境バースへと飛び立った。その姿が見えなくなったところで、クロムウェルはふぅと安堵の息をつく。


「まさかここまで追いかけてくるとは。まぁでも、俺はもうヒューリズ王国の王家じゃないし。王家が俺を探す余裕も無いだろうな。この慰謝料は・・・まぁ、アノス男爵家の領地にありがたく還元させてもらうか」


どうしようか、と背後にいる恋人に声をかけてみる。が、反応が無い。どうやら先程ので魔力を使いすぎたのか、いつもよりかなり早く起きてしまったからか、シャルロはスヤスヤと寝息を立てていた。


「・・・どうりでさっきから重いと思った」


困りつつ頬をつつけば、シャルロは何故か嬉しそうな寝顔になった。その様子に微笑んでいれば、朝日が見えてくる。そろそろ夜明けのようだ、だが恋人にはもうひと眠りが必要だろう。


2人の家の扉は、静かに閉じられるのだった。


fin.

読んでいただきありがとうございます!

楽しんでいただければ幸いです。


次回作は変わらず未定です。そろそろ忙しい時期なので、気が向くままに投稿します・・・。

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