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とある極悪王子の廃嫡  作者: さんっち
1/3

上:追放は、僕のせいだから

趣味は創作小説投稿、さんっちです。ジャンルには広く浅く触れることが多いです。


人生って一瞬で変わるときがあるんです。1つの暴力で悪人になったり、1つの言葉で誰かを救えたり。



「貴様は何をしたのか分かっているのか!?聖女イルミナに暴行を加え、聖女の加護を蝕んだことで、国家に多大な混乱を生じさせたのだ!!」



国王の糾弾が、王宮に響き渡った。王の視線の先には、嫡男である第一王子が佇む。彼は大きく騒ぐことも嘆くこともなく、無表情で静かにそこにいた。



ーーーあの王子、婚約者である聖女の頬を、一方的に叩いたそうだぞ。


ーーーそれでショックを受けたイルミナ様は、1ヶ月もの間、結界を張れなかったそうだ。


ーーーなんて残酷なことを。とんだ悪逆非道の王子だな。



そんな囁きをする周囲は完全に、彼を罪人として睨み付けていた。国王の少し後ろにいる王弟ハイモンドも、冷たい視線を隠すつもりもない。怯える聖女イルミナの肩を持ちつつ、彼を拒絶する態度だ。


第一王子の味方などいない。不安そうな顔で見つめる、専属の使用人である白い髪の少年だけを除いて。



「本日をもって、クロムウェルを我がヒューリズ王族より廃嫡とする!次期国王は弟のハイモンドに任命し、聖女イルミナとの婚約を認める!」



王弟と聖女が感謝を告げて一礼した後、王子に去るよう吐き捨てた国王。静かに礼をした後、黒髪を静かに揺らして、クロムウェル王子は去って行く。真白な髪の使用人は、慌てて王子の後を追った。クスクスと、どこかからの嘲笑が耳をかすめながら。


自室に戻るまでの道中、使用人の少年は周囲に誰もいないことを確認した後、「クロムウェル様!」と彼の背に声をかける。


「おかしいです、どうしてクロムウェル様が廃嫡にならなければいけないのですか!?ハイモンド様の主張ばかり通って、貴方の弁明など全く聞かれませんでした。こんなの、向こうが国王や周囲を押し黙らせたとしか!」


しばらく何も言わずに立ち止まる第一王子。だが、クルリと顔を向ければ・・・辛さや空しさで押しつぶされまいと、無理に作った笑顔を浮かべている。


「シャルロ、もう良いんだ。例え理由があっても、俺がイルミナに暴力をふるったのは事実。それで彼女の結界が弱まり、国に被害を被ったのもな」


「でも、それは・・・それは・・・僕が!」


こんな言葉を出させたのも、こんな弱々しい声にさせたのも、こんなにも辛い表情をさせたのも・・・自分のせいだ。使用人のシャルロから、堰を切るように涙がこぼれ落ちていく。


王子は何も言わず、嗚咽を出す彼をそっと、自分の胸に抱き寄せるのだった。



彼らのいるヒューリズ王国は、1年前に突如として魔物の襲撃が急増した。国の対応も急いだが、被害は増すばかり。


そんな混乱から国を救ったのが、光の如く現れた娘イルミナだ。彼女は国に強力な結界を張ることで、魔物の侵入を食い止めることに成功する。


その功績を称えられて王城に招かれた彼女は、今後も結界を維持する「聖女」になるため、王家との婚約を希望。国王は二つ返事で承諾し、第一王子クロムウェル・ヒューリズとの婚約が決められたのだ。


だがクロムウェルは、突如として現れた婚約者と上手くやれていなかった。彼には別の思い人がいたらしく、それを蔑ろにされた腹いせに、イルミナにきつく当たっていた。彼女は心優しい王弟殿下ハイモンド・ヒューリズを支えにして、聖女の務めを果たしてきた。


ある時、遂に王子の不満が爆発。イルミナの頬を一方的に叩くという、暴力行為を犯したのだ!それが原因でイルミナは1カ月も執務が出来ず、結界も弱まり魔物の被害が拡大した。


婚約者を傷つけ、さらには国家を危機にさらすという、国家転覆になりかねない過ちを犯したクロムウェル第一王子。「極悪王子」と嫌われた彼は、国王よりイルミナとの婚約破棄をされる。さらに王家からの廃嫡を告げられ、国外追放となった。


残されたイルミナは思い人である王弟と結ばれ、めでたしめでたし・・・。



(そんなの違う!クロムウェル様は、極悪王子なんかじゃない。自分勝手な僕を、守ってくれただけなのに・・・)


そう強く思っているのは、クロムウェル王子の使用人であるシャルロ・アノスだ。敗戦国にルーツを持つ底辺男爵アノス家の息子である彼。魔力の優秀さを認められて王城で働くが、その国特有の白髪だからか、周囲から軽蔑されて、陰湿なイジメも受けていた。雑務を押しつけられ、嫌がらせを受け、無実の罪を着せられかけたこともある。


それを止めたのが、クロムウェル王子だ。



「他者を陥れる暇があれば、自らを見直せ。お前達は自ら己の器を汚しているのだと、何故分からない?」


「王子!ですがその使用人は、敗戦国の底辺男爵家ですよ?下手に構ったら、王子の威厳が損なわれ・・・」


「愚行を正当化させる時点で、お前達は終わっていると知れ!」



自分を守る王子の背に、シャルロは一目惚れした。その後シャルロは守られるように、第一王子の専属使用人になる。幸せだった、本気で彼を思っていた。イルミナとの婚約が決まった際、喜びよりも嫉妬が先に生まれてしまうほどに。


クロムウェルは勉学にも魔力にも優れていた。常識も、冷静な判断力もある。彼なら偉大な国王になるのだから、王妃がいるのは仕方ない。そう信じて、心に蓋をしていたシャルロ。


だが、そんな王子を良く思わない人物もいた。それが王弟ハイモンド・ヒューリズだ。現王の腹違いの弟であり、王家の中でも立場が弱く、王位継承権も低い。15歳しか違わない優秀なクロムウェルを、陰で憎んでいたのだ。


ある時シャルロは、ハイモンドとイルミナが仲睦まじくいるところを目撃した!



「ハイモンド様も、素晴らしいお方だとは思います」


「だろう?私こそ、この国の次期国王に相応しいはずだ!どうかあの無愛想な奴よりも、私を選んでくれないか。愛している、イルミナ」



その愛の言葉に、ただイルミナは微笑む。何も否定もせずに、王子の使用人が見ているのも気付かずに、だ。


王子が婚約者にいる聖女に、躊躇無く愛の言葉を囁くとは!婚約者がいる聖女だというのに、何も考えず婚約者の叔父と仲睦まじくするとは!自分の我慢を踏みにじられたと憤怒したシャルロは、思わず彼らに突撃してしまう。


「ハイモンド様、イルミナ様、どういうことですか!クロムウェル様を蔑ろにしているつもりですか!?」


2人の時間を邪魔された挙げ句、出されたくもない名前を聞いて激怒したのだろう。ハイモンドは怒りの形相になったと思えば、シャルロの髪を強引に掴み、暴行を加え始めたのだ!庭に響く、殴る音とシャルロの悲鳴。その音に気付いたクロムウェルが、倒れるシャルロに駆け寄った。


「叔父上、使用人に暴力をふるうとは何事ですか!?」


「黙れ!其奴はそれを受けて仕方ないくらいの愚行を犯した、さっさとどけ!!」


「その愚行とは?説明できないのなら、貴方のやっていることこそ愚行ですが」


「私とイルミナへの侮辱だ!王家と聖女を侮辱する者は、許されるべきではないだろうが!!」


「ハイモンド様、落ち着いてください!」


ハイモンドの胸に飛びつくイルミナと、イルミナを胸に抱き寄せたハイモンド。2人の恋仲を示すかのようで、クロムウェルはピクリと眉をひそめた。彼は倒れ込むシャルロの前に立ち「お言葉ですが」と、2人を睨んだ。


「叔父上、最近あなた方の評判が悪くなっているのをご存じですか?私が執務や勉学に取り組んでいる間、執務を放ってイルミナと逢瀬を重ねていると」


「えぇい、つまらんことで話を濁すな!貴様こそ何故、そんな悪人を庇う!!」


「イルミナ、貴女も気をつけてください。むやみやたらに男からの言葉や約束を受け入れていては、勘違いする輩も増えていきます」


「な、な、何故そんなに怒るのですか・・・。私はただ、ハイモンド様と一緒にいただけです。それに悪いのは、私たちに挨拶もなく話しかけてきた、無礼で()()()()()使()()()の方です!」



クロムウェルが彼女の頬を叩いたのは、その言葉が放たれた数秒後だった。イルミナの号泣ですぐに周囲には人だかりが出来て、すぐに侍女に庇われた。さらに激怒したハイモンドにより、クロムウェルは他の使用人に抑えられる。


その後、第一王子の謹慎期間中、イルミナは執務を思うように出来なくなった。そのため国の加護が弱まり、国内の魔物による被害が増え・・・後は既に言った通りだ。


自分のせいで、クロムウェル王子は、最愛の人は追放されたのだ。自分があの時、2人に言い寄らなければ・・・!ずっとずっと、後悔を繰り返していたシャルロ。


クロムウェルからは今後は国王に仕えるよう勧められたが、彼を見捨てることなんて出来なかった。シャルロは彼の最低限の付き人として、クロムウェルについていくのだった。

読んでいただきありがとうございます!

楽しんでいただければ幸いです。

「中」は明日夜に投稿します。

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