8 騎士団のお世話になる
「ぜってー上司見返す」
ドライブを終えた俺たちは、異世界の取調室に戻ってきた。
「リシュール様、ご無事ですか!」
「リシュール様、お怪我は!」
取調室内に残っていた騎士達が慌てる。
「大丈夫、私は無事だ。それより、ナルの故郷から土産だ」
「は、これは?」
「ハンバーガーだ。私も詳しくはないが、食べてみろ」
「はっ。では」
「いただきます」
騎士二人はハンバーガーを食べた。
「む、これは!」
「なかなか美味い!」
「そうか、それは良かった」
「ジュースとポテトもありますよ」
「これは、飲み物か?」
「これは、食べ物のようだが、見た目がただ黄色いだけだな」
「どうぞ、いただいちゃってください」
「なんだこの飲み物は、美味しい!」
「この黄色いつまみも、かなりイケるぞ!」
騎士たちはすっかりハンバーガーセットを気に入ったようだった。
「ニャー」
「異国の風景に、不思議な技術。聞き覚えのない会話に、紙を使った金銭。認めよう。ナル。お前は私達の知らない国から来た者だ」
「はい」
「魔法封じの枷が自然と外れたという証明も、しっかりと認める。どうやらナルは、私達が知る転移魔法とはかなり違う転移を使うようだな」
「はい」
「その転移の力が他の場所にも転移できないという保証はないが、今のところ、お前の証言は間違っていない」
「はい」
「何より、先にコランタから話を聞いた通りならば、お前は自分の金儲けのためにしか転移の力を使っていない様子。それも、金の稼ぎ方はしごく真っ当だ」
「本当そうです」
転売だって立派な商売。いうなれば行商である。よって俺悪くない。
「何より、だ。この国では転移魔法の秘匿は重罪だが、お前の転移は魔法ではない。よって、我らはお前の処遇を決めかねる」
「というと、無罪放免というわけにはいきませんか?」
「ああ。転移ができるという事実は変わらないからな。だが、前例がない。そこでだ」
緊張する中、リシュール様は俺に言った。
「ナル。お前をしばらくの間牢屋に入れておく」
「ああ、やっぱりそういう感じになるんですね」
「ニャー」
「だが、それは王都にいる転移魔法使い専門官が、お前の処遇を決めるまでだ。それに、騎士の監視つきなら昼間の外出も許可しよう」
「お、いいんですか?」
「ああ。まあ、悪者ではなさそうだしな。それに、魔法封じの枷も効かない以上、逃げようと思えば逃げられるのだ。あまり厳重に警戒するつもりもない。というわけでだ。なんなら、騎士を一人つけさえすれば、今からコランタと一緒に屋敷に戻ってもいいぞ」
「え、本当ですか?」
「ああ。むしろコランタがひどくお前を心配していた。一度会って安心させてやるといい」
「り、リシュール様!」
「そんな、よろしいのですか!」
「いいのだ。それに、ナルからの商品が欲しいのは私達もだろう。あれらが手に入らなくなるのは惜しい」
「む」
「それは、そうですが」
「では、すぐにコランタさんと会わせてください!」
「ニャー!}
「うむ。ではアルツ。ナルの監視を頼む」
「はっ!」
俺はこうして、しばらくの間、執行猶予を得ることができた。
「ナルさん。よくぞご無事で!」
「コランタさんも無事で何よりです。何かされませんでしたか?」
「ええ。私の方はなんとも。ナルさんもお怪我はありませんか?」
「はい。リシュール様がやさしい人で助かりました」
「なら良かった。では、メレンナが心配しております。屋敷まで戻りましょう」
「ええ、それなのですが。コランタさん。俺はどうやら、夜の間はこの騎士団本部の牢屋にいなければならないみたいです」
「そうなのですか!」
「ええ。ですので、帰るのはコランタさんだけにしておいてください」
「ですが、それではナルさんはどうなるのですか?」
「多分大丈夫です。昼間の自由は保証されましたから、明日以降も商品をおろしたいのですが、会ってくれますね?」
「はい。それはこちらもうれしいですが、ナルさんは、本当に大丈夫なんですよね? 私にはそれが心配です」
「はい。最低限のことを言うなれば、俺はお金儲けさえできればいいんですからね。コランタさんの面会と魔法ギルドに行ければ、それで問題ありません」
「そうですか。ナルさんがそれでよろしいのなら、私からは何も言えませんが」
「大丈夫ですよ。リシュール様もやさしくしてくれました。もう何も怖くありません」
「わかりました。では、私だけ帰らせていただきますね」
「はい。メレンナさんにも、よろしく伝えておいてください」
「わかりました」
こうしてコランタさんは、俺を気にしつつも帰った。
「本当にこのまま牢に戻っていいのか?」
アルツさんが俺にそう尋ねる。
「はい。どうせ後は元の世界で過ごしますし、アルツさん達は気にしないでください」
「は?」
「あ、あとご飯もいりませんので。心配せずとも、俺は今までいた場所にしか転移できないので、逃げられませんよ」
「転移魔法使いとは、こうも厄介なものなんだな」
アルツさんは苦い顔をして言った。
「ぜってー上司見返す!」
牢屋から我が家に戻ってきましたよっと。
「ふー。なかなか難儀なことになったなあ、ナル」
「ああ、そうだな。でも、リシュール様は俺に酷いことしないし、まあ大丈夫なんじゃないか?」
「だといいがの」
「って、ナゴメルはこうなることわかってて落ち着いてたんじゃないの?」
「まあ、天使故にな。未来のことはちょっぴりわかる。だが、この先も安泰かは知らんぞ」
「その先見の明さえあれば大丈夫だよ。さあて、それより。今から商品の在庫をウレルナに上げて、売れ行きもチェックだ。毎日百個以上全部売れてるから、こっちの方は順調だぜ」
ちなみに、魔法付与は毎日百点ちょっとまでに抑えてもらっている。あまり商品を作りすぎても配達頼むのに大変だからな。このくらいが丁度いい。
「あ、ハンバーガーは異世界で売れるかどうか、聞かなかったな」
「あの様子では、売れるんじゃないかのう?」
「まあでも、そうだとしても保存食じゃないし、大量売買にはむかないな」
「なんじゃ、他の物も売り出す気か?」
「場合によってはね。文房具より売れる物があったら、そっちを重点的にするかな」
「思い付けばいいの」
「まあ今でも十分、稼がせてもらってるけどな」
「こんにちはー。宅配便でーす」
「お、きたきた。それじゃあナゴメル。俺は明日の商品をもらってくるから」
「うむ。では我は少しの間ひなたぼっこでもしてるかのう。ああ、それが終わったら早くお昼のねこまんま、作るのじゃぞ」
「わかってる。ひとまず顔は出しておこう」
それから魔法道具を装備して、配達人が帰るまで商品の移動だな。
俺は玄関の扉を開けて、配達員とお届け物を迎え入れた。
でも、ひょっとしたらこの先異世界で悪い展開があるかもしれないし、何か対策でも考えてみるか。