7 少しドライブする
外、外かあ。
それは難易度が高いな。
リシュール様は武装している。鎧姿なんて珍しいどころじゃない。こんな彼女が職質されたら?
切り抜けられる未来が想像できない。間違いなくアウトである。そもそも言葉通じないだろうし。
「それはあ、ちょっとむずかしいですね」
「なぜだ?」
「えっとまず、この国では武装できません。腰に剣があるだけで有罪判決くらいます」
「は?」
リシュール様は、素直に驚かれた。
「それは本当か?」
「はい。なので、まずは剣と、あと鎧も脱いでくだされば、まあなんとか外を歩けますが」
「難しいな、それは。第一、外が安全かどうかはお前の証言でしか保証されていない」
「そうですね」
「これでも仕事中の身でな。不用意な武装解除はできぬのだ」
なんとなくそう言われるとは思っていた。
「ところで、リシュール様はどういったご身分なのですか?」
「騎士団長だ。ただのお飾りだがな。だがそれ故、自分から規律を乱すようなことはできない」
「なるほど。あ、でも、少しだけなら外の様子をお見せ出来ます」
「というと?」
「車の中にずっといていただけたら、銃刀法違反等は回避できるかもしれません」
「ふむ。なるほど。よくわからんが、車の中にいればいいんだな?」
「はい」
「なら、そうしよう。早速、外の様子を見せてくれ」
「では、こちらにどうぞ」
「うむ」
「ニャー」
こうして俺たちは、少しの間ドライブをすることになった。
「なんと、立派な家だな。初めて見る」
「はい。プルーメの一般的な家とは違うでしょうね」
「これが車か。不思議な形をしているな」
「はい。どうぞ乗ってください」
「ああ」
リシュール様は助手席に座った。ナゴメルはリシュール様の膝の上に乗る。
「こら、ナゴメル、よしなさい」
「ニャーッ」
「いや、いい。動物は嫌いではない」
「ニャー」
「どうもすみません。ああ、車を出す前に、シートベルトをしてください」
「シートベルトとは?」
「これです。こうしてこう、体にまきつけてください。これがあれば事故の時助かるんです」
「なるほど」
俺はリシュール様のシートベルト着用を確認してから、車を発進させた。
「ほう。これは魔法で動くのか?」
「いいえ、ガソリンです。電気で動くのもあります」
「では、これも技術で作られたというのか?」
「はい、そうです」
「音があまりないな。それに揺れもなく快適だ」
「ひとまず適当に走りますね」
「ああ」
俺は適当に走り出した。
「道が完璧に舗装されているな。地面に継ぎ目が見えない。どういった石材だ?」
「コンクリートです。最初は泥状態なんですけど、空気に触れるとこうやって石みたいに固まるんです」
「道の左右に一定間隔に柱がたっているが、何か意味があるのか?」
「あれは電信柱です。上に黒い電線がはってあるでしょう。あれを各家庭につなげて、電気が送れるようにしてあるんです」
「各家庭というと、一軒一軒全てか?」
「はい。じゃないと電気が使えませんから」
「よもや信じられない話だが、実際に電気が使われているというものを見たからな。これが国中に配置されているのか」
「はい。電気だけじゃなく、水も水道を通して送られています。一応水は見ましたよね?」
「ああ。しかし、モンスターは出ないのか?」
「今のところは。いたとしても動物ぐらいです」
「ニャー」
「ふむ。私達の車以外にも、色の違う車が通っているな」
「はい。皆大体車を持っていますよ。特にこの田舎では」
「ここが田舎なのか」
「はい。都会ではもっと車やビルなんかが多くて、混雑してます」
「ビル?」
「仕事場のことです。主に縦に長く作られていて、一つの建物の中に複数の会社、仕事場があるんです」
「ふむ、なるほど。プルーメどころか、王都のセイテアともまるで違う」
「信じていただけましたか?」
「ああ。一応はな。だが理解が追いつかん。すまないがもっといろんなところを見せてくれ」
「はい」
ひとまず、適当な目的地が必要か。ならスーパーにでも行こう。
「ナルよ。今車を止めたな」
「はい」
「ここが目的地なのか?」
「いいえ。ただ、目の前に信号があるので止まっているのです」
「信号とはなんだ?」
「交通整理のための機械です。眼の前に赤色の光があるでしょう。あれが止まれ。という意味です。青になったら進め。黄色になったら、赤になるから止まってくれ。です」
「なるほど。たしかに今は横から来る車が走っているな。だから横向きの信号が青色に光っているのか」
「はい」
「ふむ、画期的だ」
「異世界では馬車が普通でしたね」
「ああ。だが人が集中するところはどうしても混む。この信号があれば、大分交通の便が改善されるだろうな」
「では、信号みたいな魔法道具も作れるのでしょうか?」
「おそらくできるだろう。しかし、本当にここはプルーメではないのだな」
「はい」
しばらくして、スーパーについた。
「ここがスーパーです。俺は基本ここで、主に食べ物を買っています」
「ふむ。中を見たいが、いいか?」
「すみませんが、やめてください。俺は一般人です。リシュール様が警察等に捕まった場合、俺じゃきっと助けられません」
「ふむ、ならば、私はここで待っている。だから、何か珍しい物でも買ってきてくれ」
「その手にはのりませんよ。ここでリシュール様を一人にはできません」
「ニャー」
「むう、そうか。では、もういい。家に戻っていいぞ」
「はい。ありがとうございます」
俺はそう言って、再び車を発進し、その時、近くにドライブスルーがあることを思い出した。
「リシュール様。スーパーの中を見せることはできませんが、ドライブスルーなら体験できます。寄ってみますか?」
「ドライブスルーとはなんだ?」
「車の中で買い物できるサービスです。ハンバーガーという食べ物を買えます」
「私はもうお腹は空いていないが、試しに寄ってみてくれ」
「はい。わかりました」
俺はドライブスルーに寄って、ハンバーガーセットを2人分買った。
「本当に会話がわからなかった」
「あ、ちなみにこれがこの国のお金です」
「硬化はわかるが、紙?」
「硬化より紙幣の方が価値があります」
「不思議な国だな」
「これで俺の素性がわかるなら、何よりです」
「ニャー」