5 捕まる
今日も魔法道具の制作依頼を終え、魔法ギルドから帰ってきた時のことだった。
「あ、おかえりなさい、ナルさん。実は困ったことになりまして」
そう言ってコランタさんが、実際に困っていた。そして、コランタさんの後ろにはいかめしい顔をした身なりの良い男たちと、何人かの武装者がいる。
「ただいま、コランタさん。一体どうされたんですか?」
「それが」
「この者が商品を運んでくる者か」
後ろの人たちが声をかけてきた。友好的な雰囲気は皆無。
「初めまして。俺は奈留です」
「ニャー」
「ナルよ。率直に言おう。お前には多くの商人達から疑いの声がかけられている。よって我らはお前が不正をしていないか確認しなければならない。早速協力してもらう」
「は、はあ」
この有無を言わさぬ雰囲気。どうやら俺を罪人だと思っている様子。
けど、俺は何もやましいことはしていない。はずだよね?
ちょっとナゴメルを見る。もしここで窮地に陥るようなことがあったら、ひょっとしたらこの異世界への転移をやめなければならない。
「ニャー」
でもナゴメルは余裕そうだ。なら、大丈夫かな?
「ではまず聞きたい。お前はこのコランタに、この国では見たこともない商品をおろしているそうだな?」
「はい。そうです」
「その商品はどこで作っている。そして、どうやって運び込んでいる?」
「えっと、それはあ」
どうしよう。正直に言っていいのかな?
「答えられないか。では、言いたくなるまで拘束しなければならないな」
「え!」
「お前たち、この者を拘束するぞ。共犯者であるコランタも捕まえろ」
「は!」
え!
俺は地球に逃げればなんとかなるけど、コランタさんが捕まるのはまずい!
「待ってください。俺は転移して商品を運んできます。そして全ての商品はそこから、俺の故郷から運んできました!」
「なに、念のため訊くが、お前はこの国に登録されている転移魔法使いではないな?」
「はい!」
「転移魔法の隠匿、無断使用は重罪だ。よってお前をこの国の騎士団のもとに送る!」
く、しまった!
前に転移魔法は珍しいって聞いてたのに、ここにきて言い逃れできなくなってしまった!
「そして転移魔法を悪用していたコランタも同罪だ!」
「え!」
「くっ」
俺はコランタさんを見た。コランタさんはうつむいている。
「そんな、コランタさんは関係ないだろ!」
「は!」
「そんな、ごめんなさい、コランタさん!」
「いいえ。黙認していた私も悪いのです。事前に手を打つべきだった」
「猫、お前も捕まえる!」
「ニャー!」
「お父さん、ナル様!」
「メレンナ、お前は家で待っていろ。私達は必ず戻ってくる!」
俺たちとメレンナさんはこうして別れる。
こうして、俺とコランタさん、そしてナゴメルは、騎士団の元へ連れて行かれることになった。
騎士団本部に来た。
そこで俺たちは騎士の人たちに引き渡された。俺とナゴメルはいざとなったら逃げられるけど、コランタさんが心配だ。
そう思っていると、俺たちは別々に連れて行かれ、そこで手錠をはめさせられることになった。
手錠、これはまずいんじゃない?
「ニャー」
思わずナゴメルを見ると、ナゴメルは全くうろたえていなかった。
もしかして、大丈夫だということか?
そのまま俺は手錠をつけられ、ナゴメルと一緒に牢屋に入れられた。
「俺たち、これからどうなっちゃうのかな」
「ニャー」
「このままだと、地球に戻って復職するルート一直線かな」
「ニャー」
「あと、コランタさんが心配だ」
それからしばらくすると、騎士の格好をした美女が、数人の騎士をひきつれて会いに来た。
「この者が転移魔法使いか」
「はい。そう思われます」
「ではしばらく話したい。この者を牢から出せ」
「はっ」
「ニャー」
「ああ、猫もな」
美女の計らいで俺たちは牢屋から出られる。これは、開放されるということか?
「少し話がしたい。答えてもらうぞ」
「はい」
もしかしたら彼女に信頼されたら、なんとかなるかもしれない。そう信じて、懇切丁寧にこたえさせてもらおう。
来たのはテーブルと椅子くらいしかない、小部屋だった。ここは、取調室?
「ここは取調室だ」
「あ、はい」
「まずは事情を聴取する。まあ、座れ」
「はい」
「ニャー」
俺は椅子に座り、すると俺の足の上にナゴメルが乗る。
美女は俺の前に座った。対談開始だ。
「まず、ここが肝心だが、お前は転移魔法使いだな?」
「ええ、たぶんそうです」
「たぶん?」
「えっと、確か。俺の力は転移のスキルです」
「スキル?」
「はい。効果の詳細としては、俺を、故郷とこの世界、じゃなくて場所に、行き来できる。という力です」
「故郷限定なのか?」
「はい。より正確に言うならば、故郷の俺がいた場所と、異世界のいる場所との、2箇所だけです」
「たった2箇所だけなのか?」
「はい」
「普通の転移魔法使いのように、今まで行った場所にならどこでも行けるわけではないと?」
「はい」
「ニャー」
美女は黙り込んだ。そして、やがてこう訊いてくる。
「それは、聞いただけでは信じられないな」
「そうですか。でも、本当のことなんです。どうか信じてください」
「ああ。だから、信じるために、私も転移でお前の故郷につれてってくれ」
「え?」
「そんな、リシュール様。危険です!」
「どうかそのご判断はおやめください!」
美女の言葉に、後ろで控えていた騎士たちが慌てた。
「何を言う。このような瑣末事、誰がやろうと同じことだ。お前、名をナルと言ったな?」
「はい」
「お前の故郷は、別に危険というわけではないのだろう?」
「はい。ですけど、たぶん、リシュール様を故郷につれてくことはできませんよ」
「なぜだ?」
「そういう力だからです」
「ニャー」
その時、ナゴメルが俺の足をツンツンつついて、首を横に振った。
「え、彼女も転移できるの?」
「ニャー」
今度はうなずかれる。
うそ。できるんだ。
「ああ、すいません。できるみたいです」
「うむ。そうであろうな。では今から魔法封じの枷を外す。そしたら早速転移してくれ」
「ニャー」
ナゴメルがまた鳴いた。
「え、ナゴメル。もしかして、枷をしたまま転移できるの?」
「ニャー」
ナゴメルはまたうなずいた。
「どうやら、もう転移できるみたいです」
「そんな馬鹿な!」
「魔法を封じられて、転移できるわけがない!」
後ろの騎士達がそう言うが、美女、リシュール様はふっと微笑む。
「そうか。よかろう。ではやってみるがいい」
「ええ、わかりました」
これでいいんだよな、ナゴメル?
ナゴメルは俺の足からとびおりて、俺も立ち上がる。そしてリシュール様が俺の肩に手をおいた。
「転移なら、使用者の体に触れていれば一緒に行けるはずだ」
「そうなんですね」
「ニャー」
ナゴメルの保証も得られた。よし、それじゃあ行くか。我が家へ。
それにしても、この枷本当邪魔だなあ。
「それじゃあ、いきます。ぜってー上司見返す!」
「ニャー!」