4 マンガをすすめてみる
異世界でマンガを売りつけるために、地球の本屋に来た。
ナゴメルはお留守番。なんか猫缶買ってきてとか言われたから、後でスーパーも寄ろう。
さって。それじゃあ本屋でどんなマンガ買うかなー。
マンガ以前に、本屋なんて久しぶりに来るからな。ちょっと視線がさまよう。
と、丁度そこで、店頭にある新作マンガランキングが目に入った。
マンガの新刊が、1位から十位まで並べられている。ちょうどいい。これを参考にしよう。
1位のマンガは、少年向けじゃないな。絵が個性的だ。きれいという感じではない。
これはひょっとすると、内容が面白いとか、そんな感じなんだろうか?
そう思ったところで、俺はふと思う。異世界の常識とこの世界の常識は、かなり違うのではないかと。
例えば、よくある学園もののマンガも、異世界では、学園って何? 的な戸惑いが先にくるかもしれない。
あと、このマンガ魔法出てこないね。モンスター出てこないね。みたいな違和感がつきまとってしまうかもしれない。
うーん。これは悩みどころだ。想像以上にマンガ選びが難しいぞ。
マンガを大量に持っていけばどれかはヒットするかもしれないが、それだとコストがかかりすぎる。ここは時間をかけて、ピンポイントでストライクゾーンを狙いにいかねば。
ランキング2位のマンガは少年漫画だった。タイトルは魔術挑戦。アニメ化決定とも書いてある。
魔術使うんなら魔法と一緒じゃね?
俺は、この魔術挑戦なら、ハードル低い気がした。
あ、でも、これ続き物だよな。最終巻まで出てた方が、気持ち的にすすめやすいよな。
試しに買うのは一巻だけだけど、もう連載が終わってる方が買いやすい。なんか良さそうなのないかな。
「お、これは」
視線を更にさ迷わせると、俺の目に、堂々完結。という文字が。
第十位のそれの、タイトルを読んでみる。
シカがくる。
これか、これが第十位なのか。しかも十巻。
表紙の絵は、少女と鹿が顔を寄せ合って笑っているが、これはひょっとして、少女向けマンガ?
そこで俺は思った。マンガを見せるのはコランタさんとメレンナさんだ。なら、メレンナさんのお眼鏡にかなうかもしれない。
まあ、買わないと内容わからないわけだし。一度買ってみよう。
シカがくるを購入、しようとして思いとどまり、マンガコーナーに行って1巻目を手に取る。やっぱり最初はこれだよな。途中からだと話わかんないし。
よし。それじゃあこれを買って二人に紹介してこよう。そう思ったところで、雑誌コーナーを見つけた。
週刊誌か。これも一応、買っておくか。
もし売れるなら、こういう形態の売り方も良いかもしれない。参考のために買っておこう。
俺は、シカがくる。と、週刊誌を手にとって、お会計を済ませた。
一応買ってすぐ車の中で、シカがくる。を読んでみる。
マンガをすすめといて内容知らないんじゃ話にならないからな。せめて面白いかどうか確かめよう。
呼んだ結果、シカがくる。は、思ったより面白い内容だった。
まず最初に、田舎に遊びに来た主人公、ユルルが迷子になる。
泣いてるところに助けに来たのが、一匹のシカ。シカはユルルを先導し、無事家まで返してくれる。
それに感謝したユルルがシカを飼うと決め、家族を説得してペットにするというお話。
主人公のユルルもかわいいが、シカがいちいち頭脳派で男前。やたら風格と知性がある。そんな感じ。
ユルルのことが好きそうな男の子も登場するのだが、ユルルはシカにデレデレしまくりでラブコメ的進展はない。そんな、シカ中心の日常系マンガだった。
「これはたぶん、いけるな」
会話の内容等は普通で、どっちかというとユルルの表情、反応とシカが面白い感じだ。異世界にもシカくらいいるかもしれないし、コランタさんとメレンナさんにも受け入れられるかもしれない。
週刊誌の方は、見なくてもいいだろう。見ても説明とかしづらいからな。こういう商品が地球にあるくらいの宣伝だ。
さあ、後はスーパーで買い物して帰ろう。そして夜にマンガを紹介だ。
マンガの紹介は先にメレンナさんだけにしても良いと思ったので、異世界に来るなりすぐにメレンナさんと会う。
「メレンナさん。マンガという新しい商品を紹介しに来たんですけど」
「あ、ありがとうございます。お父さんはまだいませんが、どうしましょう?」
「先にメレンナさんに紹介してもいいと思って。まずはこれを見てください」
「はい。では、お願いします」
「ニャー」
俺はメレンナさんに、シカがくる。と週刊誌を見せた。
「これがマンガです」
「わあ、凄い。絵がきれいですね。色もついてますし。ですが、これ、なんて書いてあるんでしょうか?」
「ああ、それは俺の母国の字です」
「ニャー」
「へえ、ナル様は本当に異国の方だったんですね」
「それでよろしければ、メレンナさんに読み聞かせてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。よろしくお願いします」
俺とメレンナさんは顔を寄せ合って、一緒にシカがくる。を読んだ。
すると。
「凄い、凄いです。ナル様。これは超大作ですよ!」
メレンナさんは大興奮した。
「絵本なのに絵本っぽくないというのもありますが、何より先が気になる構図! 素晴らしい!」
「メレンナさんが気に入ったんなら良かったです」
「なるほど。これは売れますね。ナル様の故郷にはこんな物があるなんて、うらやましいです」
「それで、これをここで売るとしたら、難しいでしょうか?」
「そうですね。難しいと思います」
「どうにかできませんかね?」
「まず、紙が用意できません。本一冊を作るのに、こんなに薄くて丈夫な紙を大量に使うとなると、作るだけでもかなりの大金が必要になります。いえ、そもそもこのような紙が作れるかどうか」
「なるほど」
「それに、絵師も必要になってきます。こんなに上手な絵。それも写実ではない人の絵を書ける絵師は、いるかわかりません」
「たしかに、キャラ絵も独特ですからね」
「一冊作るだけでも大変なのに、それをどう販売するかも難しいです。一度紹介のために見せれば、もう十分だという方も出てくるかもしれませんし」
「ああ、そうですね」
「なので、売り込むことは難しいかと。貴族の方等に売り込むとしても、逆に貴族の方が絵師を囲って作らせるかもしれませんし」
「そうかあ」
「ですが、良いものは売れる。の精神でいくなら、これは絶対に売れます!」
「ありがとうございます」
「ですので、お父さんと相談しましょう!」
「はい、そうですね」
「ところで、このシカがくる。に、続きはありますか?」
「はい、ありますよ。十巻あって、そこで終わるみたいです」
「よろしければ読ませてください!」
「はい。では、後で買ってきます」
「それで、こちらはやけに大きいですけど」
「はい。これは週刊誌といってですね。毎週売り出されるんです。内容は数種類のマンガをちょっとずつ紹介していく。というものになります」
「な、何種類ものマンガを、毎週? それは、とんでもなく大変なのでは?」
「俺もそう思いますけど、ちょっとずつ紹介していくからきっと続けられるんです。それにマンガ1作品につき、一人以上専門家がいますから、たくさんのマンガを用意できるんです。絵をマンガ雑誌にする技術も確立されてますし」
「なるほど。ナル様の国はすすんでるんですね」
「はい」
「ちなみに、なんという国なんですか?」
「日本です」
「日本、聞いたことがありません」
「すいません。いろいろ秘密なもので」
その後、メレンナさんに気になるマンガ雑誌のマンガを読み聞かせていると、コランタさんが帰ってきた。
そして、コランタさんにもマンガを紹介してみる。
「これは凄い!」
どうやら好感触だったみたいだ。
けれど、日本語で書かれているので転売はできず、コランタさんでもマンガを作るのは難しいとのことで、試しに作ってみるということで落ち着いた。そして、そのために自由帳が更に欲しいとも言われた。
なるほど。自由帳を使うのか。小学生みたいだ。
その申し出は、喜んでお受けした。