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13 監視役

「ナル様。ただいまお客様がお見えになりました」

 メイドさんにそう言われて、フィーコさんが俺からぱっと離れる。

「で、では私はそういうことで。ナルさん、失礼します!」

「は、はい。フィーコさん、それじゃあまた!」

「ニャー」

 でも、俺に客ってなんだろう?

「ナゴメルも来る?」

「ニャー」

「じゃあ、行こうか」

 メイドさんにつれられて、お客のところへ行く。俺にお客っていうと、もしかして王様が選んだ彼らのことかな?


 応接間にいたのは、大柄な男性だった。一人だけだ。

 体はがっしりしているが、若くはない、というか初老っぽそうである。熟練の戦士といった感じだ。

「はじめまして。あなたが名誉転移魔法使い殿かな?」

「はい。俺はナルです。よろしくお願いします」

「ニャー」

「こっちがナゴメルです」

「はは、猫か。随分好かれているようだな」

「まあ、はい。一応ペットなので」

「俺はドクド。城の者から名誉転移魔法使いの監視役にと抜擢されてな。こうしてまいった次第だ」

「か、監視役?」

「おや、ご存知ないですかな」

「は、はい。すみません。転移魔法使いに関しての手紙はもらったんですが、まだ全然読んでなくて」

「それはいけませんな。重要書類はすぐに把握してもらいたい。なんなら、今少しお時間をとりますか?」

「え、えっと。すみません。できれば先に、そもそもなんで監視役が必要か教えてほしいんですが」

「ふむ、そうだな。確かにそこのところは書いてないだろう。よろしい。では俺が説明しよう」

 ドクドさんはそう言って、ごほんと一度咳払いをした。

「まず、転移魔法使いの存在は危険です。いつでもどこにでも行ったり来たりできるのですからな。その転移魔法の悪用を監視するのが、我らの役目です」

「なるほど」

「ですがまあ、名誉転移魔法使いのあなたはいささか事情が異なるようですが。たしかナル殿は、好きな場所に転移できないのでしたな?」

「はい。故郷と今いる場所しか転移できません」

「なるほど。それで名誉転移魔法使い。まあ、そういうわけで、監視の意味はあまりないのですが、監視役にはもう一つ意味があります。それは護衛です」

「護衛?」

「転移魔法使いはその能力ゆえ、悪用される可能性が高いです。場合によっては誘拐される可能性もあります」

「ああ」

 なるほど。そういった輩もいるかもしれないわけか。

「そんな悪党からあなたを守る役目も、監視役の仕事なのです」

「そうでしたか。それはありがとうございます」

「あとは、体裁という面もありますな」

「体裁?」

「転移魔法使いというだけで、多くの方が良い顔をしないのです。その場所に来ただけでいつでもそこに転移できるようになりますからな。そんな人物を監視しないでどうする。というのが、主に貴族たちの声なのです」

「ああ、なるほど」

「ナル殿が名誉転移魔法使いであると言っても、良い顔をしない者はいるでしょう。ああ、シュートルブ伯爵は別のようですがな」

「ええ。それとリシュール様達にも良くしてもらっています」

「リシュール様?」

「俺がお世話になった、プルーメの騎士団長様です」

「ああ。なるほど。とにかくそういうわけで、名誉転移魔法使いにも監視役が必要なのです」

「なるほど、わかりました。ということは、ドクドさんが俺の監視役に立候補してくださるというわけですね」

「はい。まあ、よく考えて決めるようにと言われましたが、実はもう老いを感じてまして。騎士以外の楽な仕事があればいいと思っていたのですよ。そこでこの仕事の話が舞い込んできましてな。俺にとってはむしろ幸運だったかもしれません」

「そうでしたか。では、こちらからもよろしくお願いします」

「うむ。ああ、もちろん監視役が楽だと思っているわけではありませんぞ。ただ、騎士の仕事は何かと重労働が多くてですな。最近体の節々がまいってきていたのです」

「そうでしたか。ですが、騎士をしていたドクドさんが近くにいてくれれば安心できます。どうかよろしくお願いします」

「はい。ところで、俺と同じ監視役を頼まれた者はあと2人いると聞きましたが、そちらの方々とは既に会いましたか?」

「いえ、まだ会ってないです」

「そうでしたか。では、それまでの間俺がナル殿を警護していましょう。そしてもし2人が来たら、俺とも会わせてください」

「はい。わかりました」

「ナル様。ナル様にお客様が来ました」

 そこで丁度、メイドさんにそう言われた。

「ああ、わかった。ドクドさん、一緒に会ってもらってもよろしいでしょうか?」

「ええ。きっと俺と同じ監視役が来たのでしょう。せっかくですのでご一緒させてください」

「はい。わかりました。では、メイドさん。お客様をここへ通してください」

「はい。わかりました」

 メイドさんはそう言って、足早に迎えに行った。


 やって来たのは若さあふれる美女だった。赤毛の少女を卒業した感じの見た目で、服装は普通だが腰に剣をさしている。

「こんにちは。俺はナルです。名誉転移魔法使いの」

「こんにちは。私はレドア。名誉転移魔法使いの監視役として指名されました」

「俺はドクド。監視役だ」

「ニャー」

「こっちはナゴメル。俺のペットです」

 レドアさんはナゴメルを一度見てから、俺を見た。

「早速ですが、ナル。私はどうでしょう。監視役として合格ですか?」

「え、普通に良いと思いますけど。むしろ、俺の方こそ何かいたらないところがあったら言ってください」

「いえ、そのようなことはありませんが」

「何、レドアは自分の腕が不安なのか?」

 ドクドが楽しそうにそう言った。

「いや、そういうわけではない。剣には自信がある」

「そうか。だが、仲間の実力が知りたいと思うのは自然だろう。どれ、一つ練習試合をしてみるか?」

 ドクドがそう言うと、レドアは表情をキリッとさせた。

「よろしいのですか?」

「よい。むしろこちらこそ願ったりだ。ナル殿。そういうわけで、一度庭に行こうか。ナル殿も護衛の実力を知りたいだろう」

「ええ、はい。じゃあ、よろしくお願いします」

「決まりだな。レドア。ルールは簡単だ。相手を斬らない程度にギリギリで空振りをする。防いでもいい。それを数度行う。いいな?」

「はい。問題ありません」

「素振りといえど、本気でやれよ?」

「わかっています」

「ニャー」

 二人は楽しそうだ。俺も、剣士同士の試合が嫌いなわけじゃない。

 ちょっとウキウキしながら三人とナゴメルで、庭に出た。


「ではドクド、いきます」

「ああ、かかってこい」

「せい、やあ!」

 まずはレドアが斬りかかった。といっても、ふりだけど。

 それをドクドが剣で防ぐ。

「ふむ。まあまあか」

「は、ふ!」

 剣と剣が幾度もなくぶつかり合う。見ていてきれいだ。

「せえい!」

「ふうむ。それはなかなか。だが防御を意識してないぞ。これはどうだ」

「!」

 ドクドが初めて反撃すると、レドアは大きく避けた。

「今の一撃は、斬られていたかもしれない。ドクド、強いですね」

「お前もなかなか、な。だが、まだまだ未熟だ。もっと精進するといい」

「はい」

「年寄りの冷や水だが、アドバイスはいるか?」

「いえ、いりません。基本の型は完璧なので。後は自力で強くなってみせます」

「そうか。そうだな。うむ、ではこれくらいで終わろうか」

 そう言って、二人の試合はすぐに終わった。

「すごいですね、二人共。俺じゃ二人の剣をかわすとか防ぐとか、無理です」

「ニャー」

「そういえばナル殿はどのくらい強いのですか?」

「え、いえ。戦いなんてできません。できて子供のケンカレベルです」

「では、魔法の腕は?」

「使えません」

「は?」

 二人からそう、呆れられる。

「ああ、そういえば名誉転移魔法使いだったな。転移魔法も、未熟といえば未熟なのか」

「なるほど。ではいざという時は、逃げるなりなんなりしてください。即行動が大切ですよ。いいですね」

「はい」

 そうか。もし危なくなったらドクドさんかレドアさんが戦うしかないんだな。

 いざという時のために、前魔法ギルドで見た炎を出す杖でも買うか?

 いや、素人が銃を持つようなものだな。襲撃者やモンスターにどれだけ通用するかわからない。それならレドアさんの言う通り、即逃げした方が足手まといではないかもしれない。

 まあ、そんないざという時なんて、こないと思うんだけどね。


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