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ナゴメル現る

ひとまず11話くらい投稿するつもりです。

 どうしてこうなった。

 仕事をクビにされた。そんな、家まだローン残ってるのに。どうすんだよ。

 どこかボケーッとしながら家に帰る。ああ、もうダメだ。今はなんにも考えたくない。ひとまず帰ったら寝よう。

 上の空で運転してたら、家に到着する寸前で急ブレーキをかけることになった。

 猫だ。白い猫が倒れている。それも、我が家の前で。

 一体何があった?

 仕方なく、車から降りて様子を見る。息は、まだあるな。けど、やせ細っている。ひょっとして、行き倒れ?

「お」

 その時、目の前から声が聞こえた。

「お腹へった」

 ああ、今この猫がしゃべったな。間違いない。

 ん?

 え?

「猫がしゃべったー!」

 そんな自分の大声に、自分が一番驚いた。


「ペロ、ペロ、ペロ」

 今、家の中に猫をあげて、ミルクをごちそうしてやっている。ノミ取りの仕方はよくわからなかったが、グッタリしている内にシャワーで体も洗ってやった。

「ふう、うましうまし。五臓六腑に染み渡る」

「猫に五臓六腑ってあんの?」

「ふう美味かった。助かった」

 猫はすぐにミルクを飲み干した。

「もう一杯いる?」

「うむ。かたじけない」

 もう一回ミルクをあげることにした。


「我は満足じゃ」

 どうやらミルクに満足した猫は、ごく自然な動作で俺の顔を見た。

「そなた、倒れているところを助けていただき感謝する」

「ああ、うん。ともかく、無事で良かったよ」

「だが、食事中のレディーをじろじろ見るのは感心しないな。流石の我も、こんなタイミングでの求愛は受け付けぬぞ」

「いやそう言われても。そんな気はない」

「ふ、どうだか。男は皆ケダモノじゃからな」

 いやいや、流石に獣見て欲情する男はいないって。

「ところで、どうしてあなたはしゃべれるんですか?」

「猫故に。猫だから、かな」

「嘘おっしゃい」

「即刻バレてしまった。仕方ない。これもなにかの縁か。折角だから教えてやろう。でも、クラスの皆には内緒にね」

「うん」

 ていうか俺、社会人だし。しかも会社クビになったばっかだし。

「実は我、天使なのだ。今回は下界調査のため、猫の姿でやって来たのだ」

「へー」

「あ、驚いてないな!」

「ううん、驚いてる驚いてる」

「嘘おっしゃい。くー、くやしい! 我は天使なのだぞ。天使猫! 可愛さマックス! だというのにお主ときたらそしらぬ顔をして! もう、ピュアハートが傷つきおったわ!」

「ああ、ええと、ごめんなさい」

「ふん。今度はにぼしをめぐんでくれれば機嫌を直してやる」

「にぼしは買ってこないとないぞ」

「マジで? ちっ、難儀な家じゃのう」

「ええと、まあ、そうなんだ。猫さん、天使なんだ」

 こいつ、喋るし黙らねえし、売ればお金にならないかな?

「というわけでだ。折角助けてもらったのだ。このなりゆきで更に飼ってくれれば、お主に感謝の礼を授けよう」

「え、恩返ししてくれるの?」

「うむ。どうする。もちろん我の待遇は三食昼寝付きじゃ」

「で、何してくれるわけ?」

「うむ。お主に我をなでなでできる権利をやろう」

「さて。すぐ追い出すか」

「あ、うそうそ。たんま。待って。我、行くとこないの。今晩以降もここに泊めて」

「っていっても、特に何もできないんだろ。悪いけど俺、今猫を飼う余裕ないんだわ」

 すぐに次の職場が見つかればいいけど。正直、クビにされたショックが抜けてないから未来に希望をもてない。

「ふむ。なるほど。どうやらお主もちょうど困っていたところのようじゃな」

「うん」

「ではそんなお主に、我とっておきのスキルをやろう」

「え、スキル?」

 何それ?

「ふっふっふ。聞いて驚け、見て笑え」

「悪いけど今そんな余裕ない。説明、詳しく」

「今後も我を世話してくれるのであれば、お主に異世界を行き来できるスキルをやる。そうすればお主は今日から、異世界とこの地球に行ったり来たりシ放題じゃ」

「凄い!」

 俺は興奮した。

「異世界に行けるスキルなんて、お金稼ぎのチャンスの塊じゃないか!」

「え、そんな理由? もっと夢とかないの?」

「頼む、猫さん。俺にそんなドリームスキル、ください!」

「うむ、いいじゃろう。交渉成立じゃな。よし、それじゃあお主。ああ、名は?」

「那古奈留です」

「うむ。ナルよ。我は大天使ナゴメルじゃ」

「は、ナゴメル様」

「うむ。これからも敬意を払え」

「いや、やっぱ猫相手にそれは無理。やっぱナゴメル」

「なんか切り替え早すぎてちょっとむかつく。まあいい。ナル、我をだくがいい」

「それが必要なのか?」

「うん」

 俺はナゴメルをだいた。腕の中でよしよししてやる。

「にゃんにゃんにゃにゃーん。にゃにゃんにゃにゃんにゃんにゃん!」

「あざとい」

「よし。もうよいぞ」

「もういいって、まさかスキルが?」

「うむ。今お主の中に仕込んだ」

「よっしゃー!」

 俺はナゴメルを置いてから、ガッツポーズした。

「ついでに、異世界の言語をマスターできるスキルも与えてやったから、体験してみるがいい」

「ありがとう。ナゴメル!」

「ただし、この恩返しは我を飼っている間限定じゃからな」

「それ恩返しじゃなくね?」

「恩は返しておる。さて、それじゃあいっちょ異世界に行ってみる前に」

「前に?」

「今からねこまんま食わせて」


 猫さんの機嫌を損ねるとスキルが失われるかもしれないので、指示には従っておく。

 醤油と白いご飯はすぐ用意できるけど、鰹節がないので近所のスーパーに買いに行くことにした。

 ついでに、異世界で必要そうなものも買ってきておく。

 ナゴメルは家にお留守番。流石に店に猫つれてくわけにはいかない。つれてってもどうせ車内待機とかだしな。

 結構頭良さそうな猫なので、庭に置いておいた。もらしたくなったら土の上にしてもらう予定。猫用トイレとかも買ってこないとな。

 先程までとは気分が一転。鼻歌交じりに買い物をした。

 まず先に非食料品。

 輪ゴム、鉛筆、ノート、消しゴム。片っ端から1個ずつカゴに入れていく。

 これらは異世界に持っていくものだ。この世界の物がどんな価値になるかわからないからな。手あたり次第持っていこう。幸い貯金は少しずつしてきてあるから、それを崩す覚悟で持っていく。

 再就職に希望をもてない以上、これに全てを賭けるしかない。ふ、燃えてきたぜ。

 あらかた小物を買ったら、次はナゴメル用品。猫用トイレは絶対買ってく。あと猫缶もなにかあった時のために買っておこう。猫用ブラシ? 一応買っておくか。

 非食料品を買ったら、次は食料品。ねこまんま用のソフト鰹節と、にぼし。ちょっと良い醤油も買っておいてやるか。あとはあ。

「こいつから強い希望を感じる」

 カップヌードル、即席麺。買っとくか。しょうゆ味でいいよな。みそ味は日本人しか好まないかもしれないし。塩はきっとありふれている。

 さて。ナゴメルに頼まれたものは間違いなくカゴに入れたから、ご機嫌でお会計。

 一瞬で一万円近くふっとんだが、今の俺にはまだ、少しのダメージしかなかった。

 無職ってつらい。だが、ナゴメルのおかげできっとどうにかなる!


 家に帰ってきた。

「おかえりナルー。早く家にいれてー。我さびしー。心細いのー」

「ああ、ただいま。良い子にしてたか?」

「もちろんじゃ。我を誰と心得る。大天使ナゴメル様じゃぞ」

「にぼしも買ってきてやったぞー」

「やったーありがとー。ちょうだいちょうだーい!」

 ちょろい猫である。

 俺は先にナゴメルににぼしをやり、その後ねこまんまを用意する。

 白いごはんを電子レンジてチン。かつおぶしと醤油ぶっかけて、完成。

「ナゴメルー。ねこまんまだぞー」

「ふふふ、さあ、早く我に献上したまえ。ああ、夢にまで見たねこまんま。初堪能じゃ。さらば野良猫生活」

「よくねこまんまとか知ってたね」

「下界に来る前に予習しといたの」

「なら人になれば良かったのに」

「何を言うておる。我に社会人になって汗水働けというのか。ありえん話じゃ」

「だからといって猫に生まれることないだろうに」

「にゅふふー。もう良いのー。我はやっと天国を見つけたのじゃあ。ここが天国。なう。はあー幸せー。もぐもぐ、んっ、ねこまんま美味い!」

「それは良かった」

 ナゴメルがごはん食べているのを見てると俺まで腹が減ってきた。なんか食べよう。

 戸棚にあるせんべいをかじる。最初はパン買ってたんだけど、放置してたらカビ生えたからそれ以降買ってない。あの時折れた心は未だ完治せず。よって今はより日持ちするせんべいかふりかけを主食にしている。

 やっぱ揚げ煎餅最高だな。ぽりぽり。異世界行って金持ちになったらもっと良いもの食おう。

「ふう。ごちそうさまでした。よし、ナル。もうよいぞ。異世界行こう」

「ん、うん。ちょっと待って。その前に用意しなきゃ」

「ふむ。なんの用意じゃ?」

「さっき一緒に買ってきた道具をバッグにつめるの。あ、ナゴメルのトイレとかも買ってきたぞ」

「ナイスじゃナル。早速設置してくれ」

「了解」

 生前の母が買っておいた災害時用バッグを引っ張り出し、その中に買ってきたものを入れていく。ん、中に入っていたライトかあ、一応持ってくか。

 よし。バッグはパンパン。これで準備オーケーだ。

「ナゴメル、準備できたよー。で、俺はどうすればいいの?」

「うむ。ところでその荷物は異世界ですぐに使うのか?」

「うん。まずはお店に顔だして、持ってくやつを商品として買ってくれないか交渉してみる。売れたら即儲けだし」

「なるほどの。悪知恵が働くやつじゃ。では、最初の転移先はどこかの店の前とかがいいかの?」

「うん。お願い」

「承った。最初の転移は我が着地点を指定してやる。じゃが、次回以降は異世界転移した場所に固定じゃからな。つまり、今家から異世界に行くから、帰ってくる時は転移した異世界の場所から、出発したこの家の中に到着。逆もまた然り。ということになる。よいな?」

「オッケー」

「では次に、好きなように異世界転移の呪文を考えるがよい。呪文はマジでなんでもよい。次からはその呪文を唱えれば転移できるようにする」

「わかった。じゃあ、呪文はあ。ぜってー上司見返す」

「本当にそれでよいのか?」

「ああ」

「後悔しませんね?」

「はい」

 まあ正しくは、元上司だけどな。

「よし。それじゃあぜってー上司見返すを異世界転移呪文に決定じゃ。最初は我のサポートありありで、ゆくぞ!」

「頼む!」

「その前に、先に靴を履いておけ。その方が良い」

「ああ、異世界行くんだもんな。なるほど。うかつだった」

 俺はしっかり靴を履いてから、ナゴメルを見た。

「よし。それじゃあナゴメル、頼む!」

「おうともよ。折角だから一緒に叫ぼう」

「ああ、わかった。それじゃあ、せーの!」

「ぜってー上司見返す!」

 こうして俺たちは、異世界へと旅立った。


 気がつくと、道の上に立っていた。

 広い道。けどアスファルトなんてない。風が吹けば土煙舞う、そんな道。

 だいたいは馬車が通ってる。幸い端に立っていたからすれ違い、呆然としていられる。そして俺のすぐ近くに、でっかいレンガ造りの屋敷。

 と猫。足元にちゃんとナゴメルがいる。

 ナゴメル。ここ本当に異世界なんだな。

 実際に来てみて、テンション上がる。とうとう俺の物語が始まるぜ。

「ついたぞ、ナル。ここがおそらくお主の目的の場所、商業ギルドじゃ」

「一瞬だったな。これが魔法」

「いや、スキルじゃ。お主には魔力がないのでな。故に魔法は使えんよ」

「左様ですか」

 ひとまず、前に進むべきだ。

 いざやるとなると、緊張するな。

「ナゴメル、一緒に中来るか?」

「当然じゃ。我はナルの飼い猫じゃぞ。ご主人さまのそばが我の居場所じゃ」

「わかった。そんじゃ、いきますか」

「おう。くれぐれも失敗するなよ」

「わかってる」

 道具はそろってるはずなんだ。後は俺の口先次第だ。


 商業ギルドに入ってすぐに店内を見回すが、慌てて気を引き締める。まずは、どうどうとするべきだ。どうどうと。

 正面にカウンターが見えたので、そこへ向かう。そこには必死に受付嬢に話しかけるおじさんがいた。

「お願いします。ここをしのげばなんとかなるんです。ぜひ、もう500万クエン、お貸しください」

「コランタさん、もうお帰りください。以前の借金がまだ返し終えておりません。何を言おうが、これ以上お金をお貸しすることはできません。どうか諦めてください」

「お願いします、お願いします! 家には家族がいるんです。大事な娘を生かすためにも、今はさらなる資金が必要なんです!」

「コランタさん。いい加減にしないと警備員をお呼びしますよ。どうかお引取りください」

「そんな」

 呆然としているおじさん、コランタさん。なんだか、えらい場面にでくわしてしまった。

 コランタさんは肩を落として、とぼとぼカウンターから離れる。俺は彼を気の毒に思いながら、受付嬢に話しかけた。

「ようこそ、商業ギルドへ」

「あの、こちらで商品の買い取りはできますか?」

「それでしたら、担当の者をお呼びします。しばらくお待ち下さい」

 そう行って受付嬢が鈴を鳴らした。そうか、それじゃあしばらく待つか。

「待った」

 次の瞬間、俺は肩を引っ張られ、後ろを振り返った。

 そこには、もう帰るはずだったコランタさんの姿があった。どうやら、鬼気迫るオーラを発しながら俺を見ているご様子。

「君、商業ギルドに商品をおろしたいそうだね」

「はい」

「良かったら、その商品私にも見せてくれないだろうか。私にも商品を仕入れるくらいのお金はあるんだ」

 どうしよう?

 俺としては物が売れれば相手は誰でもいいんだけど、でもいきなり会った人に頼むのも間違ってると思う。

 よし、断ろう。

「折角ですが、商業ギルドの方が買い取っていただけるなら、それでいいので」

「でも、商業ギルドの査定は長いよ。最低で3日はかかる」

「そんなに?」

「そのとおりだろう?」

 コランタさんが笑顔で受付嬢を見た。

「はい。その通りです」

 受付嬢はうなずく。

「それに、査定してくれる者もすぐ会ってくれるかわからない。今もほら、待たされてるだろう。だが私ならすぐだ。買い取れる。それに商業ギルドよりも良い値段で買い取ってみせよう」

 なるほど。それは時間、メリット共に魅力的だ。

 だが、俺はまだコランタさんを信じられない。

「失礼ですが、あなたを信じきれませんので」

 そう言うと、コランタさんは泣いてすがった。

「頼む、私を助けると思って一緒に来てくれ。私にはビジネスチャンスが必要なんだ!」

 うっ。そう泣きつかれると、弱い。

「ニャー」

 ナゴメルが、どうする? と訊いてきた気がした。

 うーん、じゃあ。

「わかりました。それじゃあ、一つ条件があります」

「なんだね? 言ってくれ!」

「俺の世話をしてください。その間だけ、コランタさんを信じます」

 俺は、異世界初心者だ。

 右も左もわからないおのぼりさんだから、この異世界に頼れる人が欲しい。

 それを、今この場で手に入れられるなら、これはきっと俺にとってもチャンスだ。

「なんだ、そんなことか。いいだろう。家に来ると良い。この猫も一緒か?」

「ニャー」

「そうです」

 ていうかナゴメル、今はしゃべらないんだな。

「わかった。この猫も世話しよう。ああ、猫の名前は?」

「ナゴメルです」

「ナゴメルか、良い名だ。ああ、私はコランタ。君の名前は?」

「那古奈留です」

「ナゴナルか。よろしく」

「あ、いえ、奈留です」

「ナルだな。とにかく、善は急げだ。早く家に招待しよう」

「よろしくお願いします」

 俺は受付嬢に帰る旨を伝えて、コランタさんと一緒に商業ギルドを出た。


 馬車に乗って移動する。コランタさんの馬車におじゃましているところだ。

「ところで、ナル。君は不思議な格好をしているが、どこから来たのかな?」

「あー、遠いところです」

「なるほど、言えないか」

「すみません」

 というか、言っても信じてくれるか怪しい。

「何を言う。人には言いたくないことの1つや2つ、あるものだ。良い思い出ばかりというわけにもいかないからな。話したくない気持ちもわかる」

「ありがとうございます」

「それで、売りたい商品とはどんなものなんだ?」

「ああ、じゃあまずは一つ、紹介しますね」

 俺はバッグからライトを取り出す。

 これは、いけるか?

「これはライトです」

「ほう、不思議な形だな」

「はい。こうやってオンオフして、光が出ます。どうでしょう、売れますか?」

「ふーむ、難しいな。明かりの魔法の方が便利だし、そういう魔法道具もある。松明よりは高くできるだろうが、良くて4千クエンというところか」

「あの、ところで、クエンとは?」

「なんだ、金を知らないのか?」

「はい。お恥ずかしながら。今まで見たことも触ったこともありません」

「本当か? 不思議なやつだな」

「それで、例えばこのあたりでは、一食いくらで、一晩の宿屋がいくらなんですか?」

「そうだな。使用人にかける食費は一回4百クエンで、安宿を一部屋借りたら5千クエン程だ」

「なるほど」

 ちょっと誤差があるけど、だいたい日本円と同じくらいだな。

「ところで、ある物はこれだけか?」

 コランタさんがそう言って、困ったような顔をする。

「ああいえ、他にもあります。今出せるものは。あとはこれですかね」

「これは?」

「輪ゴムです」

 俺は輪ゴムを一つ取り出して、コランタさんの前でビヨンと伸ばす。

「輪ゴム。初めて見る」

「俺の生まれ育った国には普通にありました。ええっと、紙の束をまとめたり、割り箸やパックとかを一緒に挟んだりします」

「は、割り箸?」

「ああ、それも俺の国にあったんです。で、どうでしょう。輪ゴム、使えるでしょうか?」

「ふーむ」

 コランタさんは輪ゴムを受け取り、ビヨンビヨンさせてからうなる。

「残念だが、私からはなんとも。使い道がわからないから、どう売り出していいかもわからない」

「そうですか」

 まあ、手当たり次第持ってきたわけだし、こういう反応があるのも仕方ないな。

「もしやナルの商品とは、こういうものばかりなのだろうか?」

「い、いえ。まだまだあります。ほんの序の口ですよ。期待して待っててください!」

 いかん。コランタさんのテンションが下がりまくっている。絶対とっておきを見せて、気分を高揚させてもらわないと。

「あ、ところで、食料品は商品として売れますか?」

「それは例えば、どのようなものだろうか?」

「塩、砂糖、はちみつ等です」

 スーパーで買えるものだ。重いから今回は避けてきたけど、この世界では貴重品だったりしないだろうか?

「それは普通に買えるものだからな。高くは買えん」

「どのくらいの価格ですか?」

「塩は1キロ300クエン。砂糖は500クエンだ。はちみつは手頃なもので2千クエンくらいか」

「なるほど」

 地球の物価と大して変わらないな。狙えてはちみつ、くらいだろうか。

「ナルはそれも持って来たのか?」

「いいえ。検討はしたんですが、持ってきませんでした。今回のは他数点です」

「そうか」

「でも、期待していいですよ」

「本当に?」

「はい。こっちも生活かかってるんで」

 そう言うと、コランタさんの眼に少し熱意が戻ってきた。

「どうやらお互いに、崖っぷちのようだな」

「そうですね」

 俺はコランタさん程じゃないけど、稼ぎがなければいずれそうなる。

 ここは、どうやっても成功したい運命の分岐点なのだ。


 やがて、コランタさんの屋敷に到着した。庭も広い。結構豪邸なんじゃないだろうか。

「さあ、あがって」

「はい」

 コランタさんに案内されて屋敷に入ると、中は結構殺風景だった。

 というより、なんだか家財道具をほとんど売り払った後のような?

「おかえりなさい、お父さん!」

 とここで、屋敷の中から一人の美少女が現れた。

 コランタさんとは似ても似つかない。きっと母親似なその子は、俺を見ると会釈した。

「初めまして。お客様ですか?」

「あ、はい。ナルと言います」

「ふん。我の方が美人じゃな」

「え?」

「ニャー」

 毒を吐いたナゴメルは、皆がぽかんとする中ただの猫のマネをしていた。

「今、誰か女性の声がしたような?」

「気のせいではないのか。私もだ」

「い、いえ、気のせいですよ。それよりコランタさん。早速他の商品を見てください!」

「ああ、そうしよう。さあ、ナル。こっちだ」

「おじゃまします」

「では、ごゆっくり」

 美少女はそう言って姿を消す。

「きれいな方でしたね」

「ああ。メレンナという。私の大事な一人娘だ」

「そうでしたか」

「娘のためにも、ナル。どうか、人生逆転できそうな商品を出してくれ」

「おまかせあれ。と言っておきましょう」

 俺はコランタさんに誘われるまま、応接室に行った。


「本命はこれです」

 俺はコランタさんの前に、鉛筆、消しゴム、ノート、鉛筆削りを出した。

「これは、本?」

 コランタさんはまっさきにノートに目をつけた。

「近いです。それは、ノートと言います」

 コランタさんはノートをペラペラとめくる。

「白紙だ。しかし等間隔に線が引いてある」

「その線に沿って字を書くんです。要するに、白紙の束と思っていただければ」

「なるほど。線が多いが、慣れれば助かるか。だが、白紙のものはないか?」

「一応あります」

 そちらは自由帳になりますが。

「そちらの方が、良いかもしれないな。紙の質も良い。というか、こんな薄くて丈夫な紙、見たことないぞ」

「まずはそちらのノート、いくらで売れるでしょうか?」

「ふむ。売値は五千、いや六千クエンといったところか。君にはこれ一冊で、3千クエン出せそうだ」

「ありがとうございます!」

 1クエン約1円として、とんでもない値がついたぞ。これなら暴利を貪れそうだ。

「たしかに、このノートは売れるだろう。だが、数は出せるのか?」

「それはおいおい考えます。それより、次はこの鉛筆を見てください」

「と言われても、見たところただの棒のようだが」

「この棒の中が黒くなっているでしょう。ここが芯と言ってですね。これで字が書けるんです」

「本当か?」

「イグザクトリー」

 次に俺は、鉛筆削りを持つ。

「そしてこの鉛筆削りで、鉛筆を削ります」

「専用の道具があるのか」

「はい。その方が楽なので」

 俺は鉛筆削りで鉛筆をけずった。

「これで書けます。ノートを借りますよ」

「あ、ああ」

 俺はノートに、金は命より重い。と書いた。

 それをコランタさんは、熱心に見つめる。

「本当に書けたようだが、色が薄いな」

「それは申し訳ありません。ですがある程度なら、色が濃い鉛筆を用意できます。また、色が薄い鉛筆も。更にです」

 俺はここで、消しゴムを手に取る。

「見ててください」

 そして、消しゴムで、金は命より重い。を、消した。

「え、はあ!」

 コランタさんは見事に驚いた。

「た、確かに書いたはずの文字が。え、なんで、ニンジャ?」

「ご覧の通り、消しゴムなら鉛筆の文字を、消せるんです!」

「ううむ。これは凄い」

 コランタさんはうなった。

 ふふふ。計画通り。

 異世界人に鉛筆、ノート、消しゴムのセット販売をしかければ、またたく間に大ヒットすると思ったんだ!

 しかも鉛筆削りもつけて、利益アップ!

「これは世の中を覆す発明品だぞ」

「ですよね!」

「決めた。早速この商品をこちらで買い付けさせてもらう。高値で!」

「まいどあり!」

 よし。第一段階クリア!

 でも、次の第二段階をクリアしなければ、金持ちの未来まで手が届かない。

「コランタさん。これらの商品、素晴らしいでしょう」

「ああ。便利すぎる。ノートだけでも強い商品だというのに、鉛筆に、消しゴムとは。これは大革命だ。これさえあれば借金を返せる」

「そうなるとうれしいです。ですが、それには一つ、大きな壁があります」

「壁、とは?」

「資金、です」

 束の間、静寂が広がった。

「白状すると、これらの商品を大量に仕入れるためには、多くの資金、それも特別なお金が必要です」

「特別なお金、とは」

「詳しくは言えませんが、こちらの条件をクリアできるお金、としか言えません」

 日本円が必要と言っても意味ないだろうからなあ。

「そのお金は、どうすれば手に入る?」

「それを、一緒に探してほしいんです」

 俺はここで、頭を下げた。

「お願いします。コランタさん。俺に、この世界のことを教えて下さい。そうすれば、そのお金が手に入るかもしれないんです!」

 どうしても俺は、この異世界を利用して日本円を稼ぎたい!

「なるほど。わかった。では、お手伝いしましょう」

「本当ですか、コランタさん。あなたならわかってくれると信じていた!」

「ただし、こちらにも条件があります」

「はい」

「10日以内に、私に500万クエン稼がせてください」

 

 500万、クエン。

 ぶっちゃけ、500万円。

 聞いただけでも、夢のような話だ。

 だが。

「俺に任せておけ!」

「商談成立!」

 チャレンジというものは、やってなんぼだと思う。

「ニャー」

 ここでナゴメルが、呆れたように一声鳴いた。


 コランタさんと出かける前に、腹ごしらえ。

「コランタさん。今俺たちは、厨房にいます」

「はい。というか私が案内しました」

「ではここで、最後の商品の紹介をします」

「ということは、食品なのでしょうか?」

「イエス。まずはこちら」

 俺はカップ麺を出した。

「ナルさん。これはなんですか?」

 なんかコランタさん。いきなりさんづけになったな。まあいいか。

「カップ麺です。白状すると、この中にお湯を入れて3分で食べれます」

「ははは。そんなまさか」

「ではまずお湯を沸かします」

 俺は魔法コンロに水を入れたやかんを置き、点火した。

「うちのガスコンロとおんなじだ」

「何か言いましたか?」

「ああ、いえ。しばらく待ちます。待っている間に、こっちの即席麺も説明します」

「こっちは袋に入っていますね」

「この中の麺をゆでて、スープをいれたら、食べられるという商品です」

「ははは。そんなまさか」

「まあ楽しみにしててください」

 その後。

 説明はかっとばして、俺は2人前作った袋麺の半分を、コランタさんがカップ麺と即席ラーメン一人前を食べた。

 箸ではなくフォークを使って食べたが、この世界の一般常識故、致し方なし。

「美味い! 凄い! 早い!」

「そうでしょう。それで、コランタさん。これを売るとしたらおいくら?」

「保存も効くんですよね?」

「はい」

「なら一食分買取額400クエンは堅いんじゃないでしょうか!」

「よし、売った!」

 しめしめ。カップ麺即席麺は上手くいくと思ったんだよね。

「ではまずはこれらの商品を買い取らせていただきますね」

「いえ、それらはサンプル品として手元においてください。まだ実用性をたしかめられるかもしれませんし」

「そんな、いいのですか? ありがとうございます。しかしナルさん。こんな素晴らしい商品をたくさん持っているなんて、あなた一体何者なんですか?」

「語ってもきっと悲しくなるだけなので、全ては謎に包まれていることにしてください」

「なるほど。わけありなんですね」

「ではコランタさん。早速でかけましょう」

「はい。それで、どこに行きたいんですか?」

「それが、近くに魔法道具屋、なんてあったりしませんか?」

「魔法道具屋、ですか。それは魔法道具屋か、魔法ギルドか、どちらのことで?」

「あ、えっと。魔法ギルドでお願いします」

 ちょっと考えたけど、もしかしたら魔法ギルドの方が詳しい話を聞けるかもしれない。なんといったって、魔法ギルドには魔法の専門家達がいるだろうからな。彼らからいろいろ教わりたい。

 そこで日本円を稼ぐとっかかりを見つけられたら、この勝負、勝ちだ。


 魔法ギルドに来ました。

 ここも入って正面が受付。でも玄関が商業ギルドより狭い感じする。受付嬢はこちらもきれい。

「ようこそ、魔法ギルドへ」

「魔法道具を見に来た。案内人もつけてくれ」

「かしこまりました。少々お待ち下さい」

 受付嬢が呼び鈴を鳴らすと、すぐに美少女がやって来た。

 青紫色の髪色で、すっごい巨乳だ。けど、小走りでやって来たり、緊張が伝わる面持ちから、落ち着いた、できる感じのイメージは感じない。

「お呼びでしょうか!」

「魔法道具を紹介してほしいそうです。案内してあげてください」

「はい! こちらへどうぞ!」

 俺達は素直に案内され、魔法道具が所狭しとおかれている部屋に来た。

「こちらが魔法道具を置いている部屋になります。どういったものをお求めでしょうか!」

「ひとまず、端から説明してください」

「はい?」

「端から端まで。ああ、使える、じゃなくて、人気のあるものから説明してください」

「はい。えーと、えーと」

 おお、慌てている。かわいい。

「そういえばそもそも、魔法道具って魔力は必要なんですか?」

 一応ナゴメルが言うには、俺には魔力が無いらしいので、そこのところは重要だ。

「は、はい。魔法道具は一般的に、道具そのものに魔力がこめられていて、それを使います。大体は周囲から魔力を自動供給しますが、稀に使用者の魔力も使わないといけないものもあります」

「それじゃあその、使用者が魔力を使わない魔法道具を紹介してください」

「はい」

 美少女はそう言うと、赤い杖を手に持った。

「それではまずは、この炎の杖です。これには強力な炎魔法がこめられています。これがあれば非戦闘員でも、強力なモンスターを倒すことができます」

「すいません、違うので」

「えええ!」

 流石に殺傷力が高い物を買っても仕方ない。もっと日々の生活に役立つものでなければ。

「ああ、それじゃあ魔法道具を生活用品にしぼってください」

「ふえ!」

 美少女はあたふたすると、やがて一枚のタオルを手にした。

「これは目覚めのタオルです。これで顔をぬぐうと意識がすっきりします」

「お」

 いいんじゃないか?

「他には?」

「え、他にですか。ええと、あとはあ、あ、この探しネズミは、捜し物を探し当ててくれますよ! 失せ物限定で!」

 地味に便利だ。これも良いかもしれん。

「なるほど。他には?」

「あとは、えーと、えーっと、ですねえ。ひいーん」

 なんか美少女、涙目になったな。見てみぬふりをしよう。

「あとは、あとはですねえ。あ、これがあった」

 美少女は今度は、手袋を俺に見せた。

「これはパワーアップグローブです」

「パワーアップグローブ?」

「はい。これを装備するだけで力が上がります」

「それは凄い!」

 簡単にパワーアップ。これだ、これこそ魔法の道具だ!

「それじゃあさっき説明してもらったの全部くださ」

 ちょっと待てよ?

 冷静になって考えろ。これらは便利なアイテムだけど、全部異世界の道具だ。

 それを地球に持ってきて、未知の物質だとか判明したら、どうする?

 俺、他人にそこを指摘されたら、なんて説明すればいい?

 下手をすれば、人生が危ないんじゃないか?

「お、お買い上げ、されるんですか?」

 う、美少女の上目遣いが心をゆさぶる!

 つい、買いたくなってしまう。だが、そこはちょっと待つんだ!

「少し、考えさせてくれ」

「はい」

「どうですか、ナルさん。良い物はありましたか?」

「ええ、まあ」

 正直にコランタさんに言うなら、全部地球で売れそう。だ。

 だが、未知の物質を持ち込む可能性を考えると、俺にはハードルが高い。

「お、お時間が必要でしたら、応接室に行きますか? お茶もお出ししますよ」

「ああ、ありがとうございます。それじゃあ、お言葉にあまえて」

 いや、考える余地はない。地球で金を稼ぎたいなら、これらの商品を買う一択だ。

 だが、これが原因でニュース沙汰になりたくない。場合によっては異世界にも来づらくなるかもしれないぞ。

「でも、お客さんが来てくださって、私はうれしいです」

「はい?」

「だって、ここにある魔法道具は、全ていつか買われる日を待っていますから。魔法ギルドへの魔法道具の注文は、だいたいが制作依頼なんです。ですから、こうして魔法道具スペースを見てくださるお客様はめったにいません」

 そうか。制作依頼か。

 ん、制作依頼?

「あの、すみません。お名前をお聞きしても?」

「はい。フィーコです」

「フィーコさん。もしもの話なんですが、俺がここに普通の道具を持ってきて、それを魔法道具に改造、加工してもらうことは可能ですか?」

「はい、できますよ。付与魔法が使える魔法使いが承諾すれば、ですが」

 これだ!

「では、次から持ってきた物に魔法を付与していただけないでしょうか!」

 俺は今、異世界の物を地球に持ち込むのが不安なんだ。

 なら、地球の物に魔法を付与してそれを売りさばけば、全然不安になる必要なんてない!

「え、それは、もちろん可能、ですが。まずどういった物に、どういった魔法をかけるんですか?」

「そうですね。まずは手袋や帽子といったものに、さっきのパワーを上げる魔法を付与してください。あと、タオル、バスタオルに気分がスッキリする魔法をお願いします!」

「それだけですか?」

「はい!」

「なるほど。それなら、すぐに魔法使いを集められそうです。当ギルドにそれらの道具をお持ちになってください」

「はい! あ、一回いくらですか?」

「パワーアップもリフレッシュも簡単な魔法なので、1回2500クエンです」

「コランタさん。鉛筆一本いくらでしたっけ?」

「そうですね。ナルさんの取り分は500、いや、800クエンです」

 鉛筆4本で魔法を付与してもらってお釣りがくるなら、やるべきだ!

「それではぜひ、お願いします!」

「はい。ありがとうございます!」

「あ、でもそうだ。まずは効果を試さないと」

「それなら、こちらのアイテムを今試しに使ってみますか?」

「いいえ、こちらが持ち込んだ物を使って試してみます。その方が安心できますから」

「そうですか」

「それじゃあ、また明日来ます!」

「あ、あの。それでは今日は、魔法道具はお買い上げにならない?」

「そうですね。コランタさん、買ってもいいですか?」

「ええ。では、お安いのであれば、一つどうぞ」

「じゃあ、失せ物探しのネズミを一つください」

「はい、ありがとうございます!」

 こうして俺はコランタさんに気になった物を買ってもらいながら、魔法ギルドを後にした。

「コランタさん。これで活路が見えましたよ。俺たち、大儲けできます!」

「そうですか。それは良かったです。私には皆目見当がつきませんが、ナルさんにとっては見逃せないことだったのでしょうね」

「ええ。まさにそうです。それでは明日から荷をお届けしますね」

「え、明日からですか? では、早速商品を取りに行かれるのですね?」

「いえ、それはちょっと。できれば一晩泊まらせてください」

「はあ、わかりました」

「あ、でも、晩ごはんとかはいらないんで!」

「そうですか? わかりました」

 というかすぐにでも、ワークヤローショップに行って帽子やら手袋を買ってきたい。

 まずは一点ずつ揃える。それで様子見だ。

「ニャー」

 ナゴメルは暇そうに俺の手の中の失せ物探しネズミを前足でつついている。

 この猫天使、思った以上に幸運の女神だ。いや、金運の天使?

 まあいいや。これからも世話をやきつづけよう。


 コランタさんの屋敷で一部屋借り、俺とナゴメルは一息つく。

「よし。ナゴメル。それじゃあ今日はもう帰るぞ」

「うむ。どうやら異世界転移、無駄になりそうではないな」

「ああ、それはもちろん。とにかくたくさん買わないとな。それじゃあ呪文と。ぜってー上司見返す!」

「ニャー!」

 俺とナゴメルは一瞬で我が家に帰ってきた。


 時間はもう夕方頃。たぶん、異世界の一分がこの地球の一分だな。

「それじゃあナゴメル。俺異世界に持ってく商品買ってくるから」

「うむ。行って来るが良い」

「ちゃんとトイレで用を足すんだぞ」

「わかっておる。案ずるな」

 しかしこれで金儲けの目処がたった。ウキウキ気分で車を走らせる。

 まず最初にワークヤローショップに寄る。そこで帽子と、一品売りの手袋を見つける。サイズはL。あとは。

「靴、靴下、ベルトか」

 シャツやズボンは、サイズが変わるからなあ。ああでも、それは靴も靴下もか。じゃあ、そっちも今はやめとくか。

 あいや、でも最初はお試しだから、いろいろ持ち込んでみるかな。いいや、持ち込む量が増えるのはまずいか。

 というか、魔法道具を装備しまくったら、その分効果上がるのかな?

 それも確認しよう。

「売り物は、帽子、手袋、ベルトにしぼろう。数はあ、やっぱり最初は1つずつだよなあ」

 いきなり大量買いして売れなくて失敗したら涙目だもんな。たぶんいけると思うけど、ここは慎重に。

 ダメなら就活と、バイトも探すか。うう、どうにか成功してくれ。頼む。

 あと一応、大きめなバッグも買っておく。異世界で物を持ち運ぶためのものだ。アマエルの猫缶とかも入れておくべきかもしれない。

 宝くじに祈るようにワークヤローショップで買い物を済ませ、次はスーパーへ行く。こっちも重要だ。

 鉛筆、ノート、消しゴム、鉛筆削りのセットは買い占める。所詮スーパーの在庫量だ。すぐに買い占められる。自由帳も買っておこう。

 あとは、カップ麺、即席麺だな。

 麺の箱買いはかさばる。異世界転移は楽だから、往復すればいいだろうが、車に運ぶの大変だな。車の中で異世界転移するか?

 いや、今はその時ではない。ナゴメルもいないしな。ナゴメルはなんだかんだ異世界にいる間つきっきりでいてくれたし、少し気にしてくれているのかもしれない。これからも異世界に行く時は、ナゴメルのことを気にしよう。

 結局カップ麺と即席麺を2箱ずつ買った。あと自分のごはんも買って帰る。

 で、俺、帰宅。

「おかえりんごー」

「ただいまんごー」

 久しぶりにただいまって言った気がする。家族って大事なんだな。

「夜ご飯食べたらラーメン運びに異世界行ってくるけど、ナゴメルも行く?」

「うん。いくいくー。しょせん暇じゃしー」

 どうやら誘って正解みたいだ。

 ねこまんま作ってあげてから、自分もごはんを食べる。なんか、働いてた時より生活感あるっていうか、ちょっと心がイキイキしている。異世界転移だもんな。男の子心も復活するってもんか。

「ところでナル。お主両親はおらぬのか?」

「いないよ。交通事故起こして、家のローン残していなくなっちまった」

「おう。それは、すまんな」

「なんで。いいよ。今更身の上が変わるわけでもないし」

「人は言葉を選ぶものだ。今がその時。我はこれでも天使じゃし、気遣いぐらいできる」

「流石は天使様だ。今は猫だけどな」

「じゃあ、カノジョはおらんの?」

「いない」

「寂しいのお。じゃあ我が彼女役やってあげようか?」

「え、いいよ。だって猫だし。ていうか無理だって」

「いいや、無理じゃない。だって我愛くるしいじゃろ? もう老若男女がメロメロのはずじゃ」

「でもカノジョにはできません」

「本当にいいの? こんなビッグなチャンス、めったにこないよ?」

「ビッグなチャンスならもうつかませてもらった。異世界転移。すっげー上手くいく気がする。ほんと最高。ありがとなナゴメル」

「もっとおだてなさい。そしてあがめなさい」

「はいはい。ナゴメルさまさまだ」

 俺たちは晩ごはんを食べた後、異世界に行く用意をした。


 文房具はスーパーの袋に入れた。後は麺の箱だけど。

「これ、持ってなくても運べないかな?」

「ムリムリ。完全に持ってないと運べんよ。じゃないと壁に手をつけただけで家ごと異世界転移したりとかできてしまうからな」

「ああ、そっすか」

 ナゴメルの冷静な対応がちょっと心に刺さる。もうちょっと便利な力だったらなあ。

「それじゃあ、ぜってー上司見返す!」

 俺達は一瞬で異世界に転移した。

「よし、暗っ!」

 あたりは真っ暗だった。それはそうか。夜だしな。電気なんて、無さそうだし。

 まずは往復して、麺の箱を2つずつ持ってくる。あとは、コランタさんに麺の到着を告げるだけなんだけど。

「コランタさん、起きてるかな?」

「さて、どうだろう」

 スマホのライトを頼りにドアを開ける。すると廊下は明るかった。

「コランタさんは2階か、あら?」

「あ、ど、どうも!」

 丁度、廊下で美少女と遭遇した。ええと、名前は。

「どうも、メレンナさん」

「はい、ナルさん。ですよね」

「ニャー」

「あ、それと、こちらの猫さんは?」

「ああ。飼い猫のナゴメルです」

「ニャー」

「では、私はこれで。おトイレに用がありますので」

「ああ、なるほど」

 これはすまないことをした。

「どうぞ、行ってください」

「はい」

 俺はメレンナさんを見送る。

 そして待つ。するとメレンナさんが戻ってきた。

「あ、あの、ナルさん。どうされたのですか?」

「すみません。実はあなたをお待ちしておりました」

「はい?」

「コランタさんと会わせてくれませんか。今少しだけ、商品を持ってきました」

「はい、そうなんですか? 一体いつの間に」

「その方法は秘密ということでお願いします」

「ニャー」

「それでは父の部屋へ案内します。どうぞついてきてください」

「はい」

 俺は寝ていたコランタさんを起こしてしまい、申し訳なく思いながらも部屋に運んだ麺と文房具を見せた。

 ちなみに、真っ暗だった俺の部屋は、コランタさんが呪文を唱えるだけで明るくなった。そういう魔法道具が設置されていたらしい。

 俺が驚いている隣で、コランタさんは届いた商品を見て俺以上に驚いた。

「おお、凄い。まさかこんなに早く、商品が届くとは!」

「早いほうが良いと思ってお持ちしました」

「いったいどうやって。いや、詳しいことは聞きますまい。あなたは何やら秘密が多きお方。今やるべきことは、ずばり、お会計ですな?」

「はい。よろしくお願いします」

「まず、商品と数を改めさせていただきます」

 コランタさんはそう言って、俺が持ってきた商品を全て確かめた。

「鉛筆が、これだけですか」

「はい。今すぐに用意できたのはそれだけですね。あ、消しゴムやノートもです」

「なるほど。では、10日、いえ、7日以内に千個、等は無理ですか?」

「あー」

 そういえばコランタさん、十日以内に500万クエン欲しいんだったな。

「これは確認ですが、用意すれば絶対売れますか?」

「売れます。千個どころか、一万個売りさばいてみせます!」

「わかりました。では、心当たりをあたってみます」

「どうか、よろしくお願いします」

「そしてこちらは、カップ麺と即席麺です」

「奇妙な箱ですが、この脇から開けるのですか?」

「はい」

「では中を確認します」

 段ボール箱を開けてインスタント麺があることを確かめたコランタさんは、うなずく。

「たしかに。それで買い取り値段ですが、カップ麺、即席麺は量が多いのでもう少しかかりますが、鉛筆セットは1つ1万6千クエンの販売価格を想定しているので、8千クエンが5、6。といったところでしょうか」

「なるほど、ざっと4万クエンですか。ええ。それでいいです。よろしくお願いします」

 魔法ギルドで魔法付与が2500クエンだから、鉛筆セット1つ売れば3回できる計算。最初のお試し料金分を文房具だけでまかなえたぞ。

「少し待ってください。今そろばんを持ってきます」

「はい。俺がじっと見てるのもなんですから、廊下に出てますね」

「いいえ。ここはナルさんの部屋ですので、どうぞいてください。あ、お茶でもお出ししましょうか?」

「いいえ、結構です。おかまいなく」

「ニャー」

 俺は椅子に座って休ませてもらい、膝の上にナゴメルが乗ってきたのでなでてやった。

 ふっふっふ。ちょっとした買い物で4万クエン。この勢いのままいくぜ。


 コランタさんの商品確認が終わり、いざお支払いタイムとなった。

「こちら、お支払いとなります」

 そう言ってコランタさんが、大きめながま口財布から銀貨を出した。

「ありがとうございます」

 おお、日本円じゃない。ファンタジーっぽい。

「これがお金なんですね」

「はいそうです。ああ、ナルさんはお金を見るのが初めてでしたね。一通りご説明いたしましょうか?」

「はい。よろしくお願いします」

「まず1クエンが小銅貨。十クエンが中銅貨。百クエンが大銅貨です。その上に小銀貨、中銀貨、大銀貨、小金貨、中金貨、大金貨があります」

「なるほど」

「今出したのは中銀貨と小銀貨ですが、他のお金も見ますか?」

「ではお願いします」

「はい。ではお金を渡してからお見せします」

「ありがとうございます。ああ、そうだ。財布がないな」

「おお、そうでしたね。すみません。今適当な入れ物を用意します」

「はい、すみません。あ、財布の代わり代に、少しお金をお返しします」

「いいんですか? では、小銀貨を一枚だけ」

 コランタさんは大きめの巾着袋を持ってきてくれた。ありがたくその中にしまう。

「それではこれが、小金貨、大銅貨、中銅貨、小銅貨になります」

「なるほど。わかりました。ありがとうございました」

「中金貨と大金貨は、またその内お見せします」

「ええ、ぜひ。それでは、また明日」

「はい。ところで次の支払いは、箱を用意してそれにお金を入れますか? この部屋に置いておかれるのであれば、私が責任をもってお金をお守りします」

「いえ、お金はちゃんと自分で管理します。箱とかも自分で用意しますね。それでは、今日はこれで」

「はい。では、商品を移動させていただきます」

「あ、手伝います」

「いいんですか、すみません」

 俺とコランタさんは商品を玄関前に置いた。そこで今回の用事、終了である。

「ではナルさん。この商品は、明日すぐに売りたいと思います」

「はい。こちらこそお願いします」

 コランタさんが上手くいかないと、俺も困るからな。

 あ、いや、俺はまだ商業ギルドを頼れるのか? でも、折角コランタさんと協力関係を築けたんだから、上手くいってほしい。

「では、おやすみなさい」

「はい。おやすみなさい」

 誰かにおやすみなさいって言われるの、久しぶりだな。

 俺は部屋に戻る。するとその途中で、メレンナさんに声をかけられた。

「あの、ナル様」

「あ、はい?」

 ていうか、様って、どういうこと?

「お父様からお聞きしました。ナル様が、我が家を助けてくれると」

「あ、ええ、まあ」

「私からもよろしくお願いします。どうか我らをお助けください」

「もちろんですよ。俺だって、コランタさんに助けてもらってますからね」

「そうなのですか?」

「ええ、お互い様ってやつです」

「でも、私、どうしても不安で」

 メレンナさんがそう言って、ずずいと近づいてくる。

「ナル様。よろしければ私も、何かお力になれることはあるでしょうか?」

「え、いやあ」

「私、ナル様がどこかへ行ってしまわないか不安で。お願いします。どうか私を安心させてください。私があなたのお役にたてるのなら、私はそれで安心できます。なので、何か望みを私に聞かせてください」

「ええと、そうだな」

 こういう時は、親指をたてればいいのか?

「大丈夫。コランタさんを10日で500万クエン稼がせてみせる。約束する」

「いえ、そういうわけではなくて、それはうれしいのですが」

「じゃあ、約束だ」

「え?」

「メレンナさん。小指を出して」

「はい」

 親指でダメなら小指だ。

 俺はメレンナさんの小指と俺の小指をからめた。

「ゆーびきーりげーんまーんうーそつーいたら針千本のーます。ゆーびきった」

 メレンナさんはぽかんとしている。

 俺は笑顔で言った。

「俺の故郷のおまじない。いや、約束かな。絶対約束を守るって誓う時に、やるんだ」

「まあ、そうなのですね。でも針千本って、怖いです」

「あはは、そうだね。じゃあ、約束もしたし、安心して。いいね」

「はい。あ、いえ、そういうわけではなくてですね」

「まあ、ひとまず今日はもう遅いから。おやすみ」

「あ、はい。おやすみなさい」

 俺はナゴメルと一緒に部屋に戻り、我が家へ帰るとする。

 お金を入れた巾着袋を持ってと。あ、その前に、呪文。

「光は役目を終えた」

 こう言うだけで、本当に明かりが消えた。便利だな。この世界。

 ちなみに、明かりをつける時は、暗闇に光を。って言うんだそうだ。

「じゃ、ぜってー上司見返す!」

 俺は我が家に戻った。

「あの娘、さっきお主に欲情しておったぞ」

 そして唐突にナゴメルが何か言った。

「ん?」

「あの娘、さっきお主に欲情しておったぞ」

「ナゴメル、お前意外とかなり大変な性格しているな」

「何を言う。天界では繁栄推奨。あんあんニャンニャン大賛成じゃ。むしろそーいう興味がないやつは罰当たりじゃ」

「どっちがだよ。メレンナさんは大事な協力者の娘。手出しちゃダメなの」

「この意気地なし」

「意地とか関係ねえから」

「そんなじゃから日本の人口は今減少の一途を辿っておるのじゃ」

「はいはいすいませんでした。金稼いだらそんな相手も求めますかね」

「求めるも何も、メレンナでいいじゃん?」

「ダメって言うのこれで2回目!」

「メレンナなら手頃で即ヤれるじゃん?」

「さーんかーいめ!」

 俺はナゴメルのセクハラ攻撃をかわしながら、またでかけた。

 明日持ってく分のカップ麺と即席麺、今のうちから別のスーパーで買っておこう。できるだけ同じ種類のが良いよな。


 夜のお買い物から帰ってきたけど、俺まだやることあるー。

 といってもすぐ終わるんだけどね。スマホでネット通販するのだ。

 カップ麺をこれで大量確保ー。とも思うが、その前に。先立つものは文房具だ。

 俺はコランタさんを10日で500万クエン稼がせなければならない。

 そのために必要な、先行投資!

 ぶっちゃけ、鉛筆、ノート、消しゴム、鉛筆削りを、合計50万円分買う。

 これポチったら、俺の貯金ほぼ底を尽くなあ。

 ローンも払ってたから、あまり貯金できなかったし。

 だがここが運命の分岐点。第2第3くらいの重要イベントだけど、避けては通れぬ道なりよ。

 鉛筆、カートに入れた。

 その他のも、カートに入れた。50万円分。

 後はカード払いでポチるだけ。

「やべえ。手が震える」

 俺のチキンな理性が、いいの? 本当にいいの? と問いかけてくる。

 よし、ここは一度深呼吸だ。

「すー、はー」

 よし、今だ。ポチる。

 こういう時は、押せる時に押した方が良いのだ。

「うん。お買い上げ、いたしました」

 ふうー。と、深く息を吐く。なんだか、大きなギャンブルした気分。でももう、後戻りはできない。

 きっと、10日後には取り返せているはずさ。いやそれどころか、倍以上にふくれあがってたりして。

「過度な期待は禁物。だが、実ってくれ。ドリームチャンス」

 さあて、風呂入ろう。あ、その前にナゴメルの毛でもブラッシングしてやるかな。

 ブラシ買っておいてそのまま放置、なんて、もったいないもんな。


 翌朝。

 さって今日も異世界いくぞー。と思ったのはいいものの。

 早く異世界に行き過ぎて、コランタさんに迷惑がられないかな?

 よし。9時前頃を狙って行こう。いや、でも、朝に顔を合わせるだけならすぐでもいいかな?

 ひとまず、顔洗って歯を磨いてー。ああ、今日の目覚めはやけにいいな。なんでだろう。今無職だからかな?

 ははは、はあ。

「ぜってー上司みかえ」

 あっぶねー。思いがほとばしりすぎて異世界転移しちゃうとこだった。トイレ行こ。

「おはよう、ナル」

「おはよう。ナゴメル。昨日はよく眠れた?」

「うむ。だが我もベッドが欲しい。土鍋を一つくれ」

「あれか。猫鍋か。じゃあ、お金が増えたら買ってあげるよ」

「やったー。その言葉、絶対忘れるなよ?」

「うん。けどその時また言ってね」

 その後、二人で朝ごはんを食べて、昨晩買っておいたカップ麺即席麺を持って異世界転移する。

 すぐにコランタさんは見つかり、麺を渡した。

「おはようございます、コランタさん。また麺を持ってきました」

「おはようございます、ナルさん。では、お会計をしますね」

「はい。あと、今日は一人で魔法ギルドに行こうと思います。コランタさんの手をわずらわせるわけにはいきませんし」

「いえ、そのようなことは。ですが、はい。わかりました。では案内人を用意しますね」

「では、それでお願いします。あ、文房具は早ければ明日届きます」

「承知しました。ではそちらの方、絶対にお頼みします」

「任せてください。あと一時間くらいしたら、でかけます。そういうことで」

「はい。わかりました」

 俺はまた我が家に戻ろうとして、すぐにふと、この異世界の地理に明るくないことに気づく。

 移動は全部馬車だったもんな。せめてこのコランタさん家の周囲くらい、散策してみるか。

 どうせ家に戻っても今はやることがない。俺はナゴメルを見た。

「ナゴメル、この辺散歩する?」

「うむ、よいぞ。ナルの好きにしたらいい」

「じゃそうする」

 俺は予定変更。コランタさん家を出て、ナゴメルと一緒に散歩することにした。

 コランタさん家は住宅街にあるようだった。他にも家がいっぱい建っている。

 これは迷ったら大変なことになるぞ。少なくともコランタさん家の見た目はよく憶えておこう。スマホで撮影もしておこう。

 朝だからか人通りは少ない。けれど、行き交う人皆、俺をちらっと不審な目で見る気がする。俺、どこかおかしいだろうか?

「おや?」

「どうした、ナル」

「今気づいたけど、俺、日本人スタイルな服装じゃない?」

「そうだな。どこもおかしくはない」

「いや、そこがおかしいんだよ。異世界の人は皆異世界の服を着てるじゃないか。つまり俺、とけこめてない」

「ああ、なるほど。別に。気にしなけりゃいいんじゃね?」

「いいや、気にする。俺も異世界にとけこめるように、この世界の服が欲しい」

「ふう。まあ、いいんじゃなかろうか。我もおしゃれさんは嫌いではないぞ」

「そういうナゴメルにも、足りないものがあったな」

「何? 天使に足りないものなどない」

「首輪してないじゃん。まだ」

「お主まさか、猫様に首輪をはめて喜ぶような変態だったの?」

「首輪してないと飼い猫に見えないでしょ。散歩は中断。首輪買いに行こう。首輪」

「えー。我そんな趣味ないー」

「じゃあ野良猫に間違わられてあんなことやこんなことをされてしまってもいいのかよ?」

「うーん。そう言われたらなあ。仕方ない。ほんっとーに仕方なく、首輪してやらんでもない」

「よし。良い子だ、ナゴメル」

 俺はコランタさん家に戻り、我が家に戻ってナゴメルの首輪を買いに行くことにした。

 あと、ナゴメルの飼い猫登録もしなければいけないのかな?

 どこにいけばいいんだろ。スマホで検索すればわかるか。


 まずはナゴメルの首輪を買ってきた。

「ほら、ナゴメル。首輪買ってきたぞー」

「色が気に入らない」

「お前そんなこと事前に言わなかっただろ!」

「だって今思ったんだもん。この色やだ。チェンジ」

「わがまま言わないの。もうお姉さんでしょ!」

「やーだ! いやっ、やー! チェンジチェンジチェンジー!」

「まったく、しょうがないなあ」

「他の色じゃなきゃ嫌。我そんな首輪つけない」

「かといって、それじゃあ自分で選ばなきゃオーケーでないじゃん。あ、ナゴメル。なんか買ってあげるからさあ。今はこの首輪で我慢してよ」

「なんかって、何?」

「うーんと。あーと、キウイ」

 じゃ、ダメかな?

「ん、キウイ?」

 お、ナゴメルが反応した!

「そ、キウイ。一個、いや、2個あげよう!」

「毎日食べさせてくれる?」

「う、それはあ。お金に苦労しない内は、いいよ」

「絶対ゴールドキウイだかんね?」

「わかった。ゴールドな」

「ふむ。仕方ないなあ。そこまで言われたら、そのセンスのない首輪をつけてやらんでもない」

「よし、決まり。さあ、早いとこつけよう」

 こうして首輪をつけたナゴメル。その後スマホで猫のペット登録を検索したら、なんと猫はペット登録不要とのこと。

 ナゴメルをどこかにつれていかないといけないと思い、首輪を強引につけさせたのに。こんなはずでは。まあいいか。異世界ではおでかけもするし、きっと首輪をさせていれば安心できるだろう。

 ひとまず約束通り、キウイを買ってあげた。あげるタイミングは朝晩一個ずつでいいかな?

「うまうま」

「それ食ったら異世界行くぞー」

「うーん。わかっておるわかっておる」

 これ絶対、異世界錬金術を成功させないとな。


 コランタさんの屋敷に行くと、メレンナさんと会った。

「ナル様。今日は私が魔法ギルドまで案内いたします!」

「メレンナさん、いいんですか?」

「はい。ではどうぞ、行きましょう!」

 俺はメレンナさんと一緒に魔法ギルドへ向かった。


 魔法ギルドについて、馬車から降りる。

「送っていただき、ありがとうございます。メレンナさん」

「いいえ。私はこれくらいしかできませんから」

「これからは私用ですが、メレンナさんも一緒にこられますか?」

「いいんですか? では是非、ご一緒させてください!」

「では、行きましょう」

「はい!」

「ニャー」

 俺たちは魔法ギルドを訪ね、今日もフィーコさんと会った。

「こんにちは、ナルさん」

「こんにちは、フィーコさん。早速ですが、持ってきた物に魔法をかけてほしいんですけど」

「はい。お任せください。今回は私が担当します!」

「フィーコさんが?」

「はい! 付与する魔法はパワーアップとリフレッシュですよね?」

「ああ、はい」

「それなら得意です! さあ、どうぞ付与するアイテムをお預けください!」

「わかりました」

 俺は持ってきたバッグから帽子、手袋、ベルト、複数枚売りのタオルを取り出し、渡した。

「このタオルにリフレッシュ、それ以外にパワーアップの魔法を付与してください」

「はい、お任せください! あ、料金は前払いになるんですが、よろしいでしょうか?」

「はい」

「それではアイテムが4点なので、1万クエンです」

「わかりました」

 俺は1万クエン払った。

「では、魔法を付与してきます。しばらくお待ち下さい」

「はい」

「終わったら玄関すぐにあるテーブル席に持っていくので、そこでおくつろぎください!」

「わかりました」

 俺はメレンナさん、ナゴメルと共に、魔法道具ができるのを待つことにした。


 お茶ももらい、メレンナさんと一緒に飲む。ナゴメルの分の水ももらった。

 味は、正直よくわからん。基本ビールか炭酸しか飲まないからな。

 あ、炭酸ジュースって売れんじゃね? 今度検討するか。

「ナル様は、今作ってもらっている魔法道具を売ろうとしているんですよね?」

「あ、はい。そうです」

「はたから見て不安に思ったのでお尋ねしますが、あれだけの魔法を付与するのに1万クエンも支払って、利益があるのですか?」

「ああ、はい。そこは大丈夫です。ちゃんと効果があればですが」

 文房具数点で1万クエンなんだから、コストの方は問題ない。

「そうなのですか。問題なければよいのですが」

「まあその点は、俺も出来た物を確かめて、ちゃんと確認します」

 あと、買い手がすぐに、かつ多くつくかが肝心だな。

「それにしても、メレンナさん。本当に良かったんですか。俺なんかにつきあってもらって」

「はい。ナル様のことも知りたかったですし」

 そう言われるとドキリとする。

「ナル様。私、ナル様のお話が聞きたいです。よろしければお聞かせください」

「あー」

 と言われても、俺のこと、地球のことをどこまで話していいのかわからない。

「ニャー」

 ナゴメルは無責任っぽく鳴いた。

 俺のこと。俺のこと。あー、これからの目標とか?

「メレンナさん。俺は自分の身の上とか、秘密とかは、喋れない」

「そうですか。いえ、私がただ聞かせてほしかっただけですので、無理にとは言いません」

「ですが、言えることはただ一つ。お金欲しい。お金儲けしたい。それだけです」

 毎日真面目に頑張って、仕事して、待っていたのはリストラ。俺の人生あんまりだ。

 だから、もし逆転できるなら、上司を見返せるなら、やりたい。すごくしたい。

「あんまりにも夢のない話ですけど、けどだからこそ、少なくとも俺は、コランタさんも、メレンナさんのことも裏切りません。そこは誓えます」

 そこまで言うと、メレンナさんは笑った。

「ありがとうございます。私も、あなたという救世主が現れて、とても救われています」

「ははは。そういうことは、ちゃんと救われてから言ってください」

「はい。それでは、その時にまた、きちんとお礼をさせていただきます」

 メレンナさんがお茶を一度飲み、一度静寂をはさんでからつぶやくように言った。

「お金儲けは、悪いことではありません」

「はい?」

「私は商人の家に生まれ、富の力を借りて育ちました。私も、お父さんも、お母さんも、お金儲けが出来ていたからこそ幸せに暮らせました。そして、商いがピンチに陥っている今、私達は未来に光を見いだせませんでした。おそらく、どの家族もお金に左右される生活を送っていることでしょう。幸せは、お金で守れるんです。ですから、お金儲けが悪いこととは思いません。とても正しいことです」

「ニャー」

 そうだな。ナゴメルもそう思うか。キウイとねこまんまのお金、稼がないといけないもんな。

「ナル様。あなたは正しい」

「ありがとうございます。メレンナさん」

「ですから、ナル様。そのあなたの思いを、私達と共に叶えてください。私達と、協力してください」

「それはもう、こちらからお願いしますよ」

「そう言っていただけると、うれしいです」

 メレンナさんは、まるで可憐な花のように笑った。

 きれいだ。

「私、こうしてあなたと話せて、良かった。あなたのことが聞けたから、今までの不安が消えました」

「え、そうですか。俺、ただ金が稼ぎたいって言っただけですよ」

「だからこそ、です。面と向かって言っていただけて、納得できました。そして、そんなあなただからこそ、信じられます」

 なんだかよくわからないが、きっと少し、信用されたらしい。

 よくわからんが、メレンナさんと仲良くなれるのはうれしい。

「もし、お金持ちになれたら。そしたら、そのお金を使って、誰かを応援する仕事がしたいですね」

 俺はふとそう思って、言った。

「え?」

「俺は今、コランタさんにもメレンナさんにも助けてもらって、お金を儲けられそうなんです。ですから、もしそれが叶ったら、誰かを応援し、助けることをしたいです」

「そ、それは、良いですね」

「ありがとうございます」

「ちなみにその中には、私のことも、入ってますか?」

「え?」

「い、いいえ。なんでもないのです」

 メレンナさんは慌ててうつむいた。何か、応援されたいことでもあるのだろうか?

 そして今、更に思った。俺、この異世界のこと、何も知らない。

 折角だから、メレンナさんに教えてもらおう。

「ところでメレンナさん。今更な質問ですが、どうか教えてもらえませんか?」

「はい。何をでしょう」

「ここ、どこですか?」

 数秒間。沈黙が訪れた。

「ニャー」

 鳴いてくれてありがとう、ナゴメル。

「あ、ええと。まずこの町の名前から。あと、この国の名前も?」

「ほ、本当に何も知らないのですね、ナル様は」

「ええ、お恥ずかしながら」

「わかりました。お教えしましょう。まずはこの国の名前です。ここは道の国レイアール。この町の名前はプルーメです」

「なるほど」

 レイアール、プルーメか。しっかり憶えておこう。

「ええと、まず国についてご説明しますね。このフィーアルド大陸には、6つの国があります。道の国レイアール、山の国クグルモ、森の国ジェンデネ、砂の国レセーラ、水の国ウルクア、陽の国サンテア。その各地のあちらこちらに、モンスターが潜む場所がいくつもある。といった具合です」

「なるほど」

「道の国レイアールは、他の5つの国全てと隣接している国で、大陸の真ん中にあります。といっても、各地にはモンスターのいる酷土があるので、その形はアリの巣のように複雑ですが」

「酷土?」

「簡単に言うと、人が住めない過酷な地です。モンスターが発生する危険性が高く、自然の魔力が濃すぎるため長くいられないのです」

「なるほど」

 つまり、土地があっても好きなところに移住はできないというわけか。

「そしてレイアールに多く住んでいるのが、私達ポピュラです」

「ポピュラ?」

「人種のことも知らないのですね。ポピュラは私達のような、特に突出した能力はないかわりに、繁殖力が高い種族のことです。ナルさんもポピュラですよ」

「ああ、なるほど。そうなんですか」

「ニャー」

 ナゴメルが首を横に振った。そっか。やっぱり違うのか。まあ異世界だもんな。

「それでこの町プルーメは」

「ナルさーん、魔法道具出来ましたー!」

 あ、ここでフィーコさんが駆け寄ってきた。

「きゃあ!」

 あ、フィーコさんがこけた。

「メレンナさん、お話はまた後で。フィーコさん、大丈夫ですか!」

「はいいー。大丈夫ですー。あ、道具道具!」

 フィーコさんは慌ててちらかした魔法道具をかき集める。俺もそれを手伝う。というか回収。

「フィーコさん。これでもうこれらのアイテムは、魔法道具なんですね」

「はい。バッチリですよおー。完璧です!」

 フィーコさんは立ち上がり、立ち直った。

「それではまず、出来た物をテーブルに置いて」

「はい!」

「最初にタオルをたしかめてみよう」

 俺はタオルを握りしめ、顔をぬぐった。

 すると。

「おーっ、凄い、スッキリ!」

 なんとも目が覚めたかのような爽快さが脳内を駆け巡った!

「もちろんですよ。自信作です!」

「これ、日にちが経ったら効果がなくなるとか、ありませんよね?」

「はい、効果はいつまでも持続しますよ。ただ、ある程度以上壊れたりすると、付与した魔法が失われます。半分に切っても魔法道具が2つにはならないので注意してください」

「はい。それは絶対憶えておきます」

 注意事項として忘れないようにしないとな。

「それじゃあ次は、帽子と手袋とベルトだ」

 俺はひとまず、帽子をかぶろうとして、やめた。

「魔法道具を使う前の力をたしかめておかないとな」

 とはいっても、どうやって力をたしかめよう?

「うーん、どうやって力を計るか。考えてなかった」

「ニャー」

「ん、どうした、ナゴメル」

「ニャー」

 ナゴメルは俺に尻尾を見せて、ふりふり振った。

 ん、尻尾が空中に文字を書いている?

 じ、ぶ、ん、も、て。

「そうか。ナゴメルを持てばその腕の負担で力の差がわかるかもしれないな」

「ニャー」

「でもごめんなナゴメル。お前じゃ軽すぎて力を計るのにはふさわしくないよ」

「ニャー!」

「わあ、ズボンかむな!」

 俺はナゴメルをなでてなだめてやってから、メレンナさんを見た。

「あの、すいませんメレンナさん」

「はい、なんでしょう?」

「メレンナさんを抱かせてください」

「え!」

 メレンナさんが顔を赤くして驚いた。

「あ、フィーコさんでもいいです」

「ふぇ!」

 フィーコさんが目を大きくして驚いた。

「ちょ、ちょっと待ってください。ナル様。ここは私、私です!」

「あ、メレンナさん、いいですか?」

「はいっ。今晩でもよければ、喜んで!」

「今晩じゃ遅いです。今抱かせてください!」

「えー!」

「失礼しますよ」

 俺はメレンナさんをお嬢様抱っこした。

「きゃっ。ナル様。近いです」

「はい。俺は、おも、じゃなくて、軽いです。これくらいか」

 メレンナさんを一度おろす。

「それじゃあ次は帽子装備だ。よし。メレンナさん、もう一回抱きますよ!」

「はいっ。その抱くですね。どうぞ、私でよければいくらでも!」

「それ!」

「どうですか!」

「おおっ、ちょっと軽い、感じがする!」

 間違いなく、一瞬で力が増強された感じだ!

「それじゃあ次は、手袋も装備して」

「はい!」

「よし。メレンナさん。3度目抱っこ!」

「ナル様。早い、激しい!」

「おおおっ。更に軽くなった感じだ。どうやら2つ装備しただけで更に力が上がった!」

「はい。ちゃんと装備すれば効果は追加されます」

「それじゃあ次は、ベルトも装備してと」

「ああ、その先にしてあるベルトは外してください。じゃないとちゃんと装備できません。ベルトは一人の体に1つまでです」

「なるほど。わかりました。それじゃあ4度目、メレンナさんを抱っこ!」

「もう恥ずかしくありません!」

「おお、力があふれる。片手で抱き上げられそうだ!」

「これで、付与魔法の確認ができましたね!」

「はい、フィーコさん。それじゃあすぐに、あいえ、今日中にも更に追加の付与魔法をお願いします!」

「え?」

「早速取ってきますね!」

「あ、ちょっと待ってください。今日は、付与魔法を使える人が私しかいなくて。本日の付与魔法は、あと16回くらいしかできないです」

「わかりました。それじゃあ16個持ってきます!」

「そ、そうですか。わかりました。私、やります!」

 今あるクエンは、まだ余裕あるよな。朝カップ麺を渡したから余裕がある。

「あ、ところでフィーコさん。もしかして瞬間移動の魔法とかって、珍しいんですか?」

「え? はい。転移魔法は才能のある魔法使いしか使えないので、全員が国仕えの魔法使いとなります。野放しにしていては危険ですし」

 そうか。じゃあ異世界転移は人前で使わない方が良いんだな。

「わかりました。それじゃあフィーコさん。俺は一度帰ります。たぶん今日の午後にまた来るんで!」

「はい、お待ちしております!」

「早く帰りましょう、メレンナさん!」

「はい、わかりました!」

 俺は早速、馬車でコランタさん家に帰り、自室で地球へ戻った。

「ぜってー上司見返す!」

 さあ、希望の光が強くなってきたぞ。


 まずはワークヤローショップで帽子、手袋、ベルト、タオルを大量に買う。もうこれらがお金にしか見えない。

 その後、早速異世界へ転移。の前に。

「ナルー。我お腹空いたー。そろそろお昼ごはんー」

「ああ、もうそんな時間か。わかった。ねこまんまな」

「そ。早く用意するのじゃ」

 ナゴメルがご飯を食べるとなると、少し時間ができる。よし、ここは昼飯せんべいをかじりつつ、この世界で現金を得る準備をしよう。

 俺が頼りにするのは、ネットフリーマケットアプリ、ウレルナだ。

 きっとどこへ持っていっても、魔法道具をお金に変えるのは難しい。いや、魔法道具の力を知ってもらえば簡単だろうけど、たぶん領収書とかない売買になるし、客集めも大変だろう。もしくは商品登録? とかもしないといけないかもしれない。

 だがウレルナなら、商品の画像撮って名前、値段。そして大事な効果を書けば、あっという間に商品として売れる。

 良い時代になったものだ。俺はスマホを頼りに生活費を稼ぐのだ。

 タオルやベルト等の写真を撮って、ウレルナに商品として登録。金額は、いくらにしよう?

「高すぎてもダメだよな。全部2千円でいいか」

 それだと個々の商品の元値によって利益が左右されるが、ちまちまと考えるのがめんどくさい。

 それに1つだけ安い商品があれば、それだけ重点的に売れる。なんて現象もあるかもしれないし。まあ、売れればなんでもいいが、まんべんなく売れた方が良いだろう。

「ナルー。ごちそうさまー。お皿洗っといてー」

「あー、うん。ちょっと待っててー」

 後は魔法の道具です。って書いて、効果書いて。よし。気分すっきりタオル、パワーアップ帽子。手袋、ベルト。もオッケー。

 最後に。

「売れろー!」

 念を込める。強く、より強く。これが最後にして最大の関門だ。どうかクリアしてくれ。そして俺に金をくれ。

 爆売れすれば、錬金術完成だ。

「よし。ナゴメル。もう一回フィーコさんに会いにいくぞ!」

「うむ。よかろう」

「ああ、その前に、持ってくベルトとか、選ばないと。16個までだっけ」

「適当に選んどけ」


 無難にタオル、帽子、手袋、ベルトを4つずつ持っていってフィーコさんに渡す。

「それでは前払いで、4万クエンです」

「はい、どうぞ」

 日本円じゃないから、お金を使っているという意識が薄いな。

「それでは、これらのアイテムに付与魔法をかけます」

「お願いします」

 その後はまたメレンナさんと話をしながら魔法道具ができるのを待った。

 そしてここで、俺はこの町について更にメレンナさんから教わった。

 ここは国土中央にある王都からやや離れた、陽の国サンテアよりの東の地。青物や布作りが盛んな場所で、サンテアからの輸入品も来る地らしい。

 周辺のモンスターは比較的弱いが種類が多く、酷土からの素材収集も豊富。気候も穏やかで、一般的に暮らしやすい町らしい。

 コランタさんはこのプルーメと、更にいくつかの町に店を構えており、主に冒険者から買い取るモンスター素材を扱っていたという。しかし、最近北の方で冒険者の大規模な招集があり、そこからなかなか冒険者達が戻ってこず、物資の入荷がほぼ潰え、一時的な痛手を受けていたらしい。

 なるほど。やっぱりこの世界にはモンスターもいるんだな。

 見てみたい気もするけど、近づいたら危ないかもしれない。不用意なことはしないようにしよう。

 そう話していたら、やがてフィーコさんが戻ってきた。

「おまたせしました。無事付与魔法を終えました!」

「ありがとうございます!」

 俺は笑顔で売り物を受け取る。

「それで、明日も付与魔法をしてもらえますか?」

「は、はい。喜んで!」

 良かった。良い返事をもらえた。すでに帽子類はまとめ買いしてあるからな。できるだけ用意しておきたい。

「それじゃあ、明日も同じくらいの量持ってきます」

「わかりました。私も他に付与できる魔法使いをつれてこれないかかけあってみます」

「よろしくお願いします」

 今日以上に魔法道具が作れるなら、願ったりだ。まあ、まだ売れると決まったわけではないんだけどね。

「それでは、今日はこれで失礼します」

「はい。お気をつけてお帰りください!」

 俺は荷物を持って、メレンナさんとナゴメルをつれて屋敷まで戻った。


 クエンはまだあるが、この調子で付与魔法をしていって、明日以降残っているかはわからない。今は売り物の生産が最優先だから、異世界の服購入とかはまだ後回しにしておこう。

「ぜってー上司見返す」

 コランタさん家から我が家へ移動。ウレルナは、まだ買い手がついてないか。すぐ買われないと、不安になってくる。どうにかして買い手を増やさないと。

 というわけで、正直ほぼ最後の大仕事、宣伝をしたいと思う。

 俺は家のパソコンを起動して、広告用のインターネットサイトを作ることにした。

「お、ナルよ。どうしたパソコンなんてつけて。ひょっとしてエロい画像でも探すつもりか?」

「違います。魔法道具の宣伝だよ。誰かが見つけて、興味をもってくれるかもしれないだろ。そういうサイトを作るんだ」

「あ、そ」

 ナゴメルは興味を失ったように離れていった。あいつ、エロい画像に興味があったのかな?

 ちなみに、このパソコンは一時期ネットゲームをやるために買った。ただ、やりすぎて目の下にクマが出来たことがきっかけで、ゲームは封印していた。体を壊したら元も子もないからな。

 封印していたとはいえ回線はつなげっぱなしだったのだが、それがここで役に立った。

 早速サイトを作成。見出しはこうだ。魔法道具の効果を即実感。


 今フリーマケットアプリ、ウレルナで売り出されている魔法の道具を使ってみた感想。

 その1、気分すっきりタオル。

 顔をぬぐっただけで気分がスッキリします。一瞬で爽やかな気分になり、気分を変えるのにオススメです。


 この記事の下に、気分すっきりタオルの画像を貼る。と。ただのタオルだな。まあ、仕方ないか。次だ、次。

 後はパワーアップ系の道具だが、これは、先に効果の程を画像で撮っておいた方が良いだろうな。

 俺は帽子、手袋、ベルトの3点セットを身につけ、手頃な重いものを探す。

 あー、えっと。車でいいだろう。一度スマホを持って外に出る。

 まずは車を持てるか確認。おお、持てる。後は今の車を半分浮かせた光景を、スマホで撮るだけ。

 って、スマホ持ちながらできるかな?

 お、できたできた。俺凄い。片手で車を持ち上げてる。

 よし。撮影完了。ん、いや、待てよ。これ画像より、動画の方が良いんじゃないか?

 俺は片手で車を持ち上げて、車が斜めになったところでおろすという、十秒程の動画を撮る。早速確認。良い感じだ。こっちをあげよう。

 写真は、パワーアップ三点セットだけを一緒に撮って、タオルと同じようにのせる。

 よし。実物と効果紹介動画をアップして、更に商品解説と。ああ、魔法道具は壊れたら効果が切れるという注意事項も忘れずに記載しておく。

 これで、ネットサイトも完成!

 あとは、ああ、そうだ。この動画、動画サイトにもアップしておくか。

 頼む、誰か見てくれますように!

「ふう、終わった」

 両手を合わせて拝んでから、パソコンをシャットダウンする。

 今時間は、夕方前だな。微妙な時間だ。何するか。

 カップ麺の補充は、たぶんスーパーで既に買った種類が箱で無いし、所持金も心細い。できればこれ以上の出費を抑えて、いずれ届くであろう50万円分の文房具を待ちたいな。

 じゃあ、後は。ナゴメルか。ナゴメルとでもふれあおう。

「ナゴメルー。夜ご飯まで何かしたいことあるー?」

「んー。なんでもいいんじゃね。じゃあ散歩でもどうよ。異世界の方は全然歩いてなかったし、そっち行ってもよいよ」

「あー、そうだな」

 俺は異世界の地理を少しでも憶えるため、コランタさん家の部屋へ転移した。

 そして、夕暮れまで散歩して、住宅街から抜け出せるようになったところで、我が家へ戻って、ウレルナの状況を見た。

 すると、パワーアップアイテムが数点、気分すっきりタオルが1点、売れていた。

 やった。やったよ。俺はやりとげたんだ。

 人生の勝利者まで、あと一歩だ。


 注文の品を送ってから晩ごはんタイム。

「ナル、ナルー。ごはん、ごはん。キウイ、キウイー」

「はいはい今あげるよ。どうぞ」

「わーい。もぐもぐ。ううん。どれだけ食べても飽きない。幸せである」

「良かったな。手に入る幸せがすぐそこにあって」

「うむ。もう一生手放せん」

「俺ももう少しで、豪華なディナーにランクアップだ」

 そう思いながら、異世界で売れる商品と値段を、頭の中でたしかめていく。

 ええと。文房具セットが16000クエン。カップ麺が一個400クエン。

「ん?」

 カップ麺の売り上げが1個4百クエンとして、1箱売って4千クエンちょっと。一回の付与魔法代が2500クエンだから、1箱だけじゃ2回魔法をかけてもらえない?

 ということは、カップ麺では以外と儲けられない?

「カップ麺って利益低いのか」

 危ない。気がついて良かった。

 でも、カップ麺に利益がないわけじゃないんだよな。クエンは普通に良い感じに増えてるんだから、付与魔法の代金は大体文房具でまかなうと考えれば良い。よし、そうしよう。ふう、これできっと問題なし。

 即席袋麺の方はどうだろう?

 即席袋麺は五食で一袋。つまり一袋2千クエンくらい。コランタさんは一食で400クエンの支払いって言ってたからな。それが1ケース分。

 ということは、こっちでも付与魔法代が大分稼げそうだ。

 けど、ちゃんと利益を計算して付与魔法をかけてもらわないと、気づいたら円とクエンを使いすぎている。なんて事態もあるかもしれない。今度からは、そこも考えて出荷しよう。

 まあ、コランタさんがカップ麺欲しいって言ったら、結局は売っちゃうんだけどね。

 まずコランタさんに、500万クエン稼いでもらいたい。それまでできるだけ協力しよう。

 最悪の場合、ウレルナの売値を上げたらいいだけだ。

 そう結論づけて風呂入って歯を磨いた後、ウレルナを確認したら、更に魔法道具が売れていた。

 動画サイトも確認したら、俺の車持ち上げ動画が結構人に見られていた。千人くらい。

 動画を見たコメントは、凄いという称賛と疑わしいというコメントが半々くらい。よしよし、いいぞいいぞ。売れた商品の出荷は明日にしよう。


 ウレルナにはネットオークション機能もある。

 すでに売れることになっている商品だが、それがどうしても欲しいという人がいた場合、その人は売値より高い金額を提示して、先に注文した人よりも優先して売ってもらうという機能だ。

 あと、特定の商品を大量買い、もしくは複数個買おうとしても、大量ポイントというのがたまっていって、それが一定以上になると、自動でその商品に対する買い取り優先度が低くされるらしい。

 これは、より多くの人に商品を手にしてほしいというウレルナのサービスなのだそうだ。

 そのオークション機能と、大量ポイントの機能で、早いものがちによる独占、お金に物をいわせて買い漁る人達を制限する。

 で、それが何か関係あるの? って話だが。

「俺の商品が、オークション価格で売れてる」

 しかも、そのオークション価格は複数あり、その数だけ商品が1つずつ売れる。というわけらしい。

 例えばタオルは、4千円、3800円、3700円、3600円と、ほぼ倍の値段で売れることになっている。

 きっと2枚目以降の注文は、大量ポイントが加算されて優先度が変わり、買いづらくなっているのだろう。

 けど。

「2千円で売れれば御の字だったのに、ここまで人気が出るのか。俺の考えは間違ってなかった!」

 俺は小躍りした。

「おはよう、ナル。なんだそれは。不思議な踊りか?」

「ああ、そうだ。ナゴメル。おはよう。俺は今、踊ってしまう程気分が良い!」

「あっそ。それより朝飯早く」

「あ、うん。いや、それよりナゴメル、ちょっと聞いてくれよ。魔法道具が全部倍近い値段で売れてるんだよ」

「朝ごはんの方が大事!」

「あ、はい」

 ナゴメルに言い負かされ、大人しく朝ごはんの準備をしてやる。

 この野郎、人が折角喜びを分かち合おうとしている時に。キウイの皮切らないでおいてやろうか。

「おや、ナル。キウイの皮が切られてないようだが」

「あ、うん。でもナゴメル、それでも平気じゃない?」

「平気じゃない。ちゃんと取れ」

「はい」

 うう。ささやかな仕返しさえあっさり返されてしまった。

 気を取り直して、魔法道具を出荷しよう。あ、でも、まだ朝早いから、先にごはんか。

「えっと、20点の魔法道具が全部売り切れたから、4万円以上の売上が出たな」

「ほう、良かったのではないか?」

「うん。けどナゴメルはひどく冷静だね」

「所詮我は今猫じゃし。食う寝る遊ぶ以外のことはあまり感心が湧かぬ」

「あ、そう」

 一応お金はそれら全てに影響を与えるけどね。

「でもまあ、順風満帆なら何よりじゃ。せいぜい調子に乗って足をすくわれるなよ」

「あ、ああ。そうだな。油断はしちゃダメだな。わかった。気を引き締めよう」

 でも、今日も付与魔法で20点魔法道具にしてもらったら、また4万以上売り上げられる。10日で最低40万。コストを差し引いたとしても、以前の職場より良い収益だ。そして何より楽。あまり忙しくないのが良い。

 それに、俺はクエンの利益もある。こっちは日本円以上に稼げている。2つの世界で大金持ちになったら、きっと2倍楽しいぞ。

「ふふふ」

「いきなり笑いおって。気持ち悪いやつめ」

「そう言うなって。これは幸せだから出てくる笑みだ」

 そして見事お金持ちになったら。


 誰かを応援したい。か。


 俺、そう言ったな。メレンナさんに。

「その中には、私のことも、入っていますか?」

 メレンナさん、ああ言ったけど。ひょっとして何か思っていることがあるんだろうか?

 もしそうなら、ぜひ力になってあげよう。

 メレンナさんは、コランタさんの娘さんだしな。


 売れた魔法道具を出荷してから、一度異世界へ行く。

「おはようございます、ナルさん」

「おはようございます、コランタさん。どうですか、売れ行きは?」

「はい。それはもう好調で。文房具はもちろん、カップ麺即席麺も完売しました!」

「それは凄い。良かったです」

「それで、すぐに商品の補充をしたいのですが、可能ですか?」

「あ、それはあ。ちょっとまって下さい。ええっと、カップ麺即席麺は、たぶん違う種類のでいいなら、できます」

「なんと、他にもまだあるのですか。それではぜひそちらをお売りください!」

「はい、わかりました。では急いで取ってきますね」

「はい! お待ちしております!」

 慌てて我が家にとんぼ返り。ナゴメルは置いて、少しだけ麺類を買ってこよう。

「ナゴメル、それじゃあカップ麺買ってくる!」

「ああ、事故は起こすなよ」

「気をつける!」

 心は急いでいても、安全運転は忘れずに。今は調子が良いから、なおさら気をつけよう。

 スーパーに行って、カップ麺と即席麺を買う。種類はなんでもいいって言われたから、車に入れられるだけ箱買いしよう。

 あと帰ったらネット通販でも箱買いしておこう。スーパーはポイントカード貯まるけど、ガソリン代もかかるからな。なにより、移動の時間がもったいないし。

 あとごはんも買って、帰る。ナゴメルのキウイも忘れずに買う。ごはんを買うついでにカップ麺を買って異世界に持っていくのが一番面倒がなくていいけど、スーパーの買い物だと数に制限があるからな。ネット通販とスーパーを上手く組み合わせて購入していこう。

 我が家に帰ったらナゴメルと一緒に異世界に行き、コランタさんに麺類を渡す。

「ありがとうございます、ナルさん。では早速お支払いしますね」

 こうして俺はまたクエンをゲットした。今日も付与魔法の代金で5万クエン程ふきとぶ予定なので、ありがたい。

 コランタさんは忙しくでかけていき、俺は魔法ギルドに寄る。今日もメレンナさんがついてきてくれる。

 馬車に揺れながら、俺はクエンについて考えた。

 カップ麺の利益はこの異世界で使いたいから、何か買いたいんだけど。何を買えばいいだろうか?

 まずは服と、食べ物か。ん、食べ物?

 ひょっとしたら、ここの食べ物を食べてたら食費浮く?

「その手があった」

「はい? どうしました、ナルさん」

「あ、いえ。この異世界のごはんに興味があるなーって」

「異世界?」

「あ、いえ。プルーメって言おうとしたんです」

 たしかコランタさんは、この異世界の食費は一回4百クエンと言っていたはずだ。

 カップ麺1個でまかなえるなら、圧倒的安上がりなんじゃないか?

 まあ、カップ麺食べてても値段は変わらないという感じもあるけど、それでもこの世界の食べ物には興味がある。

「メレンナさん。よろしければ、この異世界のごはんを紹介してください」

「はい。わかりました。では魔法ギルドからの帰りに寄りましょうか」

「ありがとうございます。お願いします」

 あ、でも、買うのは服の方が先か。いや、まあいいか。

「ちなみに、服を買うとしたらどれくらいかかりますか?」

「そうですね。私、殿方の服のことはあまり詳しくないのですが、例えば私が着ているシュルメの生地の服は、一着3万クエン程になります」

「なるほど」

 それより安いのは。なんて聞けないよな。男用の服は知らないって言われたばっかりだし。

 とにかく、服を買うのは10万クエンくらい使いそうって思っておけばいいな。遠いな、服買うの。

 まあ、仕方ない。今はとにかく金を稼ぐこと。出費は後だ。

 その後、他にも話をしていると、魔法ギルドに到着して、今日もフィーコさんに会った。

「ごめんなさい、ナルさん。今日も私しか魔法使いが集まりませんでしたあ!」

 そして会うなりいきなり頭を下げられた。

「そんな、いいんです。フィーコさん。俺も丁度、今、5万クエンしか持ってませんでしたから。むしろ今日は丁度いいです。それより付与魔法、ぜひよろしくお願いします」

「はい。わかりました」

 俺は今日も20点、普通の道具を魔法道具にしてもらった。

 すると、残りの手持ちは本当にギリギリだった。うおお、もしかしたら、もっと即席麺を届けないといけないかもしれない。いや、注文した文房具が届けば、なんとかなるか?

「たぶん、明日も魔法道具を頼みにきます。お金は、なんとかしますので」

「はい。お待ちしております。明日も20点程でよろしいでしょうか?」

「はい。できたら、よろしくお願いします」

「わかりました。お待ちしております」

 用も済んだので、帰る。そして馬車の中で、メレンナさんににっこり微笑まれた。

「それで、ナル様。ごはんは、自炊しますか。それとも、どこかで食べてきますか?」

「ああ、ええと」

 まあ、メレンナさんと合わせて食費800クエンなら、なんとかなるかな。

「じゃあ、食べていきます」

「ニャー」

「ああ、ナゴメル。お前も食べてっていいよな?」

「ニャー」

 ナゴメルは仕方無さそうに俺の膝の上で丸くなった。

「わかりました。それでは、とっておきのお店をご紹介しますね!」

「は、はいっ。いえ、ええと」

 とっておきと言われると、少し慌てる。

 そして、ちょっと気まずげに財布を渡す。

「あの、今、手持ちはこれだけなんですけど」

「えっと、中を拝見してもよろしいでしょうか?」

「お願いします」

「あっ、これは。なるほど。では、自信をもって紹介できるお店にいたします」

「よろしくお願いします」

「大丈夫です。私も少しなら持ってますから」

「ああ、いえ、今日は俺におごらせてください。折角お世話になってるんですから。ですので、それができるくらいの店を、紹介してください」

「はい。わかりました。ありがとうございます」

 そう言ってメレンナさんは、馬車の御者に指示を出して行き先を伝えた。

「ニャー」


 メレンナさんに紹介された店は、ところどころに花が咲いた鉢が飾られている、良い雰囲気の店だった。

「ここが、喫茶店癒しの花です」

「なるほど。喫茶店なんですね」

「ええ。でもごはんも食べれるんですよ。ナル様もきっと気に入ります」

「ニャー」

「ええ、ナゴメルも気に入りますよ」

 カランカラーン。中に入る。

「いらっしゃいませー。あー猫ー!」

 丁度メニューを運んでいたらしい給仕の少女が、ナゴメルを見て顔を輝かせる。

 そしてすぐに近づいてきて、かがんでナゴメルを見た。

「もしかして、お客様かニャー?」

「ニャー」

「おー、お利口さんっぽい。それに落ち着いてる!」

「久しぶり、クラム。彼と猫のナゴメルも、いいかしら」

「あら、メレンナ。ええ、いいわよ。けど、隣の彼は、ひょっとして彼氏?」

「違います。彼はナル様。お父さんの仕事仲間。今とってもお世話になっていて、かわりに彼に町の案内をしているの」

「へー。どうぞごゆっくり。テーブル席にどうぞ!」

 クラムさんはそう言って、店の奥へ消えていく。

 それじゃあ俺達も座って。いや、その前にメニューは、壁に書いてあるのか。そっちを見よう。

「えーっと、ごはんのメニューは数種類ですね」

「はい。喫茶店ですから。お茶とお菓子の方が多いんですよ」

「レッケノってなんですか?」

 そんな名前が、一番上にあるんだけど。

「切ったパンの上に具が入ったソースを乗せたごはんです。美味しいですよ」

 なるほど。ミートスパゲティーのパンバージョンか。

「じゃあそれにします」

 といった手前、レッケノには3種類があった。

 肉、野菜、卵のレッケノ。うーんじゃあ、肉のレッケノにするか。

「決めました。俺は肉のレッケノにします」

「では私は、野菜のレッケノで」

「ああ、このくらいの値段なら、お茶とお菓子も頼めますね。メレンナさん。好きなお菓子を頼んでください」

「いいんですか、ありがとうございます」

「ニャー」

「ナゴメル、お前は何食べたい?」

 ん、ナゴメルが後ろを向いた?

 そして、尻尾で空中に文字を書く。

 み、る、く。

「はいはい、ミルクね」

「ニャー」

「ナゴメル、頭が良いですね」

「本当。猫じゃないみたいですよ」

「ニャー」

 ナゴメルが当然とばかりに鳴いた。


「おまたせしました。肉と野菜のレッケノ、それとミルクになります」

「ニャー」

 俺は初めて見る異世界のパン料理を見て、ちょっと感動した。

 サイコロ切りパンの上に、肉がゴロゴロ入った赤ソースが乗っている。ちょっと肉肉しいが、美味しそうだ。

「ペロ、ペロ、ペロ」

 ナゴメルは既にミルクを飲んでいる。俺も食べるとしよう。

「うん、これは美味い」

「そうですか、良かった」

「この店には、よく来るんですか?」

「はい。このお店はかわいいですし、お茶もお菓子も美味しいですから。ごはんというよりは、お茶しに来る感じですね」

「なるほど」

 俺は残さずレッケノを食べた。うん、満足。

「おまたせしました。お茶とお菓子になります」

 お茶とお菓子は後で頼んでいたので、ここで来る。おお、これは珍しい。

「クラム。景気はどう?」

 メレンナさんはレッケノの皿を片付けているクラムさんにそう訊いた。

「んー、ぼちぼちかな」

「やっぱりクラムの方も苦労してるのね」

「私のところはそんなでもないよ。でも、常連客が何人か見えなくなったかなあ。メレンナは大丈夫だったんだね」

「ええ。ナル様のおかげでなんとかね」

「ふーん。凄い人なんだあ」

 クラムさんが俺の顔を見つめてくる。

「コランタさんとメレンナさんにはよくしてもらってますから」

「なるほど。じゃあうちもよろしくね!」

「あ、はい。何か仕入れますか?」

「え?」

 え、二人してそんな声あげて、どうしたの?

「えっと。よろしくって、また来てねってことなんだけど」

「ああ、そっちですか。はい。わかりました。ではその内また」

「あの、もしかしてナルさん。他にも何か商品を持っているんですか?」

 メレンナさんに訊かれたら、答えざるを得ない。

「ええ。といっても、思いつく限りですが。ええと、ここ、喫茶店ですよね。ならポテチとだんごと、あと炭酸ジュースなんかはあったら売れるんじゃないかなーって」

「炭酸、ポテチ?」

 クラムさんが首をひねった。

「おだんごはなんとなくわかりますが、他はいったい?」

「ああ、それじゃあ今度サンプルを持ってきます。もしくはコランタさんに渡しますので」

「え、ええ。わかったわ」

 クラムさんはそう言って、メレンナさんを見た。

「ねえ、ナルさんって本当は、凄い人なの?」

「え、ええ。きっとそうよ」

「ニャー」

 はいはい。ナゴメルの方が凄いよ。俺だけはわかっているからな。


 コランタさん家について我が家へ移動すると、丁度注文した文房具が送られてきたところだった。

「おとどけものでーす」

「はーい。げっ」

 50万分の文房具って、いっぱいある。

 俺は玄関先に置かれるダンボールの山を必死に部屋に持っていった。

 うう、重い。こんなんじゃ異世界に持って行くのも一苦労だよ。

「あ、そうだ。魔法道具を使えばいいんだ」

 俺は急遽売るために用意した、パワーアップ帽子、手袋、ベルトを装備する。

 すると、あら不思議。今まで重かった段ボール箱が軽々と運べるようになったよ。さすが魔法の道具。この使ったやつは自分用にしよう。

 配達員が帰ったら、運ぶのは一旦中断。いちいち部屋に持ち運ぶより、異世界に持っていった方が楽だ。

「ナゴメルも異世界行ったり来たりする?」

「いや、我はいい。ただダンボール運ぶだけじゃし。ナルだけでやってくれ」

「わかった。ぜってー上司見返す!」

 幸い用意してもらった部屋は広い。ここに全部置くか。

 魔法道具があるにしても、やっぱり持ち運ぶのは大変。それでもなんとか持ち運ぶ。

「よし、あと一個。ナゴメルはずっと家にいるー?」

「運ぶ以外のことするなら行くー」

「あんましないよー」

「それでも我はナルのマスコットじゃしな。仕方ない、一緒に行ってやろう」

 別に、家でのんべんだらりしててもいいんだけどな。いや、コランタさん家でも同じか。

「ぜってー上司見返す!」

 俺とアマエルはコランタさん家でまずメレンナさんを探し、商品が届いたことを伝える。

「メレンナさん。コランタさんに売る商品が用意できました。コランタさんにお伝えできますか?」

「はい。それでは少々お待ち下さい」

 メレンナさんに任せて、俺は部屋で休む。スマホでもいじろうか。いや、電波がここにはないな。

 そういえば、異世界の本はどうなっているんだろう。時間があったら買ってみるか。地球の本でもいいけど。

「なあ、ナゴメル。なんか面白い話してー」

「別にいいけど、ここでは基本猫語がよくない?」

「あー、たしかにそうかも」

 俺はナゴメルをなでたり前足持ったりして遊んでいると、メレンナさんが部屋に来た。

「ナル様。通信魔法でお父さんに商品が届いたことを伝えました。そして、私は商品の数を確認するようにと言われたのですが、あの、その謎の箱の山はなんですか?」

「ああ、これ全部商品です」

「ニャー」

「そ、そうですか。では確認させていただきます」

「あ、数はこっちで正確に知ってますよ」

「それでも、こちらは確認しなければならないので」

「わかりました。あ、段ボール箱はどうします?」

「ナル様はいらないんですか?」

「はい。あっても捨てるしかありませんし」

「わかりました。では、それもお父さんに聞いてみます」

 そして俺は、目の前で段ボール箱を開いて商品を一つ一つ確認するメレンナさんを見て、少し心を痛めた。

 一応個数は伝えておくけど、今度から段ボール箱は少しずつ持ってこようかな。


「終わったあ」

「お疲れ様です、メレンナさん」

「はい。それにしても、たくさんありますね」

「はい。奮発しましたから」

 メレンナさんが商品の数を確認し終わった時、丁度コランタさんが帰ってきた。

「ナルさん。商品が届いたというのは本当、こんなに」

 そしてコランタさんも開けられた段ボール箱の山を見て驚いた。

「はい、コランタさん。どうぞおおさめください」

「お父さん。これ、商品の数」

 メレンナさんがノートをコランタさんに見せた。鉛筆も使われているし、ちょっとうれしい。

「ほう、どれどれ。こんなに」

 コランタさんはちょっと、呆然としているみたいだった。

「あ、あと、この最後の段ボール箱、というのは?」

「それはあの箱のことです。お父さんにお譲りしてもいいと言われているのですが、何か使い道はありますか?」

「あ、ああ。箱なら使えるし、それに商品が入っているんだろう。なら欲しいが、あー、ナルさん。段ボール箱はサービスですよね?」

「はい。そうです」

 実際そうなのだからうなずいておく。

「ニャー」

「では、段ボール箱もこちらで受け取ります。しかし、この買い取り金額ですが」

「何か不都合でも?」

「申し訳ありませんが、少し高すぎます。今すぐ払うのはちょっと、無理です」

「ああ」

 なんだ。そんなことか。

「では、料金は後払いでも結構ですよ」

「そんな、いいのですか?」

「はい。ああ、魔法ギルドで付与魔法をしてもらう代金はすぐ欲しいですが、それも明日の朝まででかまいません」

「それは、うれしいのですが。それほどまで私を信用してくださっていいのですか?」

「はい。コランタさんなら信用できます」

「そうですか。わかりました。ありがとうございます。では、先に十万クエンだけ渡し、その後何回かに分けてお返しします」

「はい、それでお願いします」

「ナルさん。本当にありがとうございます!」

「いいえ、こちらこそ。それより、この段ボール箱を持っていくのをお手伝いします。どこへ持っていけばいいでしょうか?」

「ああ、それならご心配なく。今はマジックバッグがありますので。入れ」

 コランタさんがそう言って、持っていたバッグを開けて中を段ボール箱に向けると、段ボール箱は勝手にバッグの中に吸い込まれていった。

 あれじゃあまるで、四次元なポケット、掃除機機能付きじゃないか!

「1回往復すれば、商品の移動は完了します。荷馬車に積んだらまた来ますので、私一人で大丈夫ですよ」

「そのマジックバッグ、すごいですね!」

「はい。ナルさんも欲しいですか?」

「はい!」

「では、魔法ギルドで買われるとよいでしょう。私のマジックバッグは300万クエンでした。これだけ文房具があれば、私の支払いが済めばナルさんも買えますよ」

「本当ですか!」

「本当です。ああ、それとこれが、先にお支払いする10万クエンです。10万クエン出せ」

 コランタさんがそうマジックバッグに命令すると、マジックバッグから10万クエンが出てきた。

「お受け取りください」

「はい。たしかに」

「では私は忙しいので、これで」

 コランタさんはそう言って、さっさと行ってしまう。

「ナル様。本当にありがとうございました」

「いえ、メレンナさん。俺も、また素晴らしいものを見せていただきました」

「マジックバッグのことですか?」

「はい。あれ俺も、欲しいです」

 そして俺も、未来の猫型ロボットと似たようなことができるようになるのだ。

 俺はコランタさんの荷物運びを見届けると、部屋から我が家へ移動した。

 そして、今日出来た魔法道具をウレルナに出品し、その後はカップ麺をネットで買ったり、のんびりしたりした。

 そして、第二回出品の魔法道具は、その日の内に少しだけ売れた。

 あれ、人気が出たはずでは? と思って、ちょっとヒヤッとしたけど、今日は調子が少し悪かっただけだと思い、気長に待つことにした。


 翌日。魔法ギルドに行ってフィーコさんに付与魔法を頼む。そしてお金を支払う時に、マジックバッグのことも聞いた。

「フィーコさん。ところで、マジックバッグの作成も頼めますか?」

「はい。かまいませんよ。バッグも持ってきてくれるんですね?」

「えっと、いえ。それは別にどの素材でもかまいません。あ、売り物ってないですか?」

 俺一人で、しかも地球では見せられないから、こそこそと使いたい。変に売って、悪用されたら困るしね。

「残念ですが、今ここに在庫はありません。魔法道具屋なら置いてある可能性が高いですが」

「あ、じゃあそっち行った方が良いですか?」

「いえ。作成依頼なら形や値段等も選べますので。ちなみに、どういったマジックバッグが欲しいんですか?」

「いろんな種類があるんですか?」

「種類というより、性能ですね。ええと、容量の大きさ、出し入れ機能の有無、時間の流れの変更が可能です。性能が上がれば上がる程、値段は高くなります」

「なるほど。容量の大きさはなんとなくわかります。ですが、出し入れ機能と、時間の流れ、とは?」

「出し入れ機能は、マジックバッグに入れた物を、声で指定して取り出したり、また、入れ。と言ったら、バッグの口の先にある物を吸い込むという機能です。例えば、砂糖、塩を入れて、塩、出せ。と言うと、塩だけ出てきます。そして更に、バッグが吸い込む物が、バッグ以上の大きさになると、更に性能が良いものとされて、値段が高くなります」

「なるほど」

 コランタさんが、それで十万クエン出してたな。そうやって使うのか。お金を自分で数えずにピッタリ出せるというのは、良い力だ。

「時間の流れの変更というのは、マジックバッグの中の時間の流れを変えるというものです。例えば、熱々の料理を中に入れて、その熱がすぐ冷めるか、ゆっくり冷めるかを変えることができます」

「なるほど。完全にマジックバッグの時間の流れを止めることはできないんですね?」

「それができる魔法使いは、今の所いません。昔はいたらしいのですが」

「なるほど」

「時間の流れを変えても、作成料金は上がります。なので、よく考えて注文しないといけません」

「わかりました。では、例えば。出し入れ機能と、大きな物でも出し入れできる機能の両方つけたら、いくらになりますか?」

「そうですね。たしか物のサイズを無視する効果と出し入れ機能の値段が、どちらも百万クエンだったはずです。後はどれだけ容量を上げるかですね」

 ふむ。まあ、今のところはコランタさんと同じ300万クエンのマジックバッグでいいんだよな。じゃあ、そういうことにしておこう。

「では、取り出し機能つき、大きな物も入るで、300万クエンくらいのマジックバッグのものを、お金が出来たら、欲しいです」

「はい。わかりました。では、お金がたまったら、またお話しください!」

 フィーコさんに笑顔で言われた。

「では今日の代金、5万クエンです」

「はい。丁度お預かりします」

 俺はこの日はすぐに帰り、その後町中をまた散策したり、我が家でのんびりしながら、一日を過ごした。

 そして、夕飯前に、期待していた反応があった。


「魔法道具届いた! 凄い、本当に効果ある!」

「一見普通の手袋だけど、たしかに使ったらパワー上がる! 不思議!」

「このタオル凄いよお! さすが魔法使いのお兄さん!」


 実際に商品を使った感想が、サイトや俺の十秒動画にアップされる。

 それをトリガーにして、今日の分までの商品が速攻で売れていく。

 おっと、ニヤニヤ画面を見ている内に、売値がオークション値段に変わってしまった。これ以上値が上がる前に、配送を確定して素早く買い手に売ってしまおう。値段が上がっていくのを眺めてるのも感じ悪いしな。

 これで売上120万以上。3日でこれだ。そして明日以降も売れるだろう。

 俺は商品を送るついでにワークヤローショップの通販サイトで手袋、タオルなどの注文をして、毎日20点ずつ用意する準備をした。

「ナルー。遅いー。お腹減ったー」

「ああ、ごめんごめん。ナゴメル。今用意するから。あ、明日は土鍋も買ってやろう」

「やったー! ナル大好きー!」

 このお猫様にも、ちゃんと感謝しないとな。


 晩ごはんを食べてる時に、異世界の売れ行きも気になった。

 俺は食後、コランタさんに会いにいく。用事はそれだけだったが、ナゴメルも一緒に行った。

 そして大分待って、夜遅くにコランタさんが帰ってきた。今度からは暇つぶし用の漫画でも持ってきておこう。そして早速コランタさんとお話する。

「コランタさん、おかえりなさい」

「ああ、ナルさん。ただいま。もしや、お金が必要ですか?」

「いいえ、それはまだ。今回は、商品の売れ行きを訊くために待ってました。そちらの売れ行きが好調なら、また商品を持ってこようと思いまして」

「それはありがとうございます。ええ、どの商品も好調な売れ行きです。カップ麺、即席麺はほぼ完売。文房具も半分以上売れました」

「え、もう半分も? 凄い!」

「ええ。なので、またすぐ商品をお買い上げできたらと思います。あ、売れた分、代金もお返しします」

「あ、それはありがとうございます。では、お金の量が多かったら箱を持ってきますね」

「はい。よろしくお願いします」

 俺は急いで我が家にビスケットの缶を取りに行って、そこにクエンを入れてもらった。

 その中には3枚、金色に輝く硬化も入っていた。

 これがクエン小金貨。一枚で百万クエン。大切にしよう。

 その後俺は家に帰って、早急にネットで2万円分文房具を買い、1万円分カップ麺、袋麺も買った。

 これだけ買い物しても、魔法道具の1日分の売上以下だ。このくらいの量を、2日、3日おきに注文し続けよう。


「ナルさん。本当にありがとうございました。まさか5日で500万クエン稼げてしまうとは。これもナルさんのおかげです!」

 それからすぐに、コランタさんは目標額を達成した。

「おめでとうございます。これもコランタさんが頑張ったおかげですよ」

「ニャー」

「そう言ってもらえると助かります。それで、こちらが未払いのお金になります」

 チャリーン。俺は更にクエンを手に入れた。

 よし、俺も5百万クエン稼げたぞ!

 いや、それ以上の大金をもらってしまった。錬金術、凄い。

「たしかに受け取りました。ありがとうございます!」

「はい。そしてこれからも、我らがリオク商会をごひいきにお願いします」

「わかりました。ぜひこちらこそよろしくお願いします」

 さて。それでは早速魔法ギルドへ行って、マジックバッグを作ってもらおう!


 マジックバッグの注文はすぐに終わった。料金は前払い。3百万クエンさしだして、後はできるのを待つ。

 そしてこの日は、24点魔法道具の作成を頼んだ。

 頼める魔法使いが増えたわけではない。フィーコさんのレベルが上がって、付与魔法できる回数が増えたのだ。

 これで更に日本円が稼げるぞ。ふははは。

 あと、クエンがまだ余っているので、今日こそ服屋に行って着る服を買う。今日の案内人もメレンナさん。

「ナル様。それでは私が使わせてもらっているお店、光銀の針服飾店をご紹介しますね」

「はい。よろしくお願いします、メレンナさん」

 光銀の服店は、この異世界のお店にしては少し大きめの、目立つ外見の店だった。

 店内には服がびっしり。中に入ると、すぐに店員が駆けつける。

「いらっしゃいませ。お、お客様、猫のご来店はご遠慮願います!」

「え、あっ」

「ニャー」

「そっか。猫の毛が服につくから。ナゴメル、今だけちょっと馬車の中で待ってて」

「ニャー」

 ナゴメルは不満そうに鳴くが、これだけはどうしてもダメだ。

「お願い。今日はもう1個キウイあげるから」

「ニャー」

 ナゴメルはしぶしぶと店から出ていく。良かった。

「ふう。お客様、ありがとうございます。それで、本日はどのような服をお求めですか?」

「俺が着る服を2、3着ください。値段はあまり高くなくていいです」

「シュルメ生地の服をお見せください」

「はい、かしこまりました。ではこちらへどうぞ」

 店員はすぐに案内してくれる。すると大量の服を見せてくれた。

「こちらの服がお求めのものです。袖や裾の長さは後で調整いたしますので、ご自由にお選びください」

「はい。わかりました」

 さて。それじゃあ適当に選ぶか。

「ナル様はどれが似合うでしょうか。いえ、きっとどれでもお似合いになられますね」

「そんなことありませんよ。地味め、いえ、落ち着いた感じの服が良いです」

「そうですか? 私としては華やかな方が好きですけど。あ、これとかどうでしょう?」

「それはちょっと派手すぎるかな」

「そうですか?」

 俺はメレンナさんと楽しく買い物をする。

 でも、馬車にナゴメルが待っているから、なるべく早く買い物を決めた。

「では、これとこれとこれを買います」

「はい。それでは裾直しをいたしますね。それと、お嬢様は衣服をお買い求めいたしますか?」

「え、私ですか?」

「ああ、そうですね。ではメレンナさんの服も見てみます」

「いいのですか、ナル様」

「はい。コランタさんには稼がせてもらいましたから。これくらいさせてください」

「で、では。お言葉に甘えて少し、見てみます」

「ごゆっくりどうぞー」

 そして、メレンナさんは熟考して服を買った。

 俺は彼女の分の服代も払い、少し急いで馬車に戻る。

 すると馬車の中には、不機嫌な顔をしたアマエルが待っていた。

「ニャー」

「ごめんごめん。ちょっと遅くなっちゃって。これでも早く戻ってきたんだ」

「ニャーニャー」

 ナゴメルは俺のズボンを軽くひっかく。

「こらこら、イタズラするな。今度からもうちょっと早く戻るから。そんなに待たせないから」

「ニャー!」

 プリプリエビのように怒っているアマエルを、これ以上悪さできないように抱えあげる。

「ナル様。私のためにこんなステキな服を買ってくださり、ありがとうございました」

「ニャー!」

「わあ、ナゴメル、暴れるな!」

 なぜだか知らないが、ナゴメルは更に怒ってしまった。


「いいなーメレンナは。ナルのお気に入りだからお洋服を買ってもらったのじゃ。我をないがしろにして」

 我が家に戻ると、これみよがしにナゴメルはふてくされた。

「わるかったって。ナゴメルも服、買ってやろうか?」

「我は服なんていらない。だって猫じゃし」

「じゃあいいじゃないか。機嫌直してくれ」

「我は怒っておらぬわ! ただプリプリしているだけじゃ!」

「やっぱ怒ってるじゃん」

「あ、良いこと考えついた。ナル。服じゃないけど、我に首輪買え」

「え、今のでいいじゃん」

「もっとイケてるのが良いの。こんなんじゃヤなの!」

「はいはい、わかりましたよ。それじゃあお金にも余裕があるから、買ってあげるよ。1こだけ」

「わーい、やったー!」

「さて。それじゃあ、どんなのがいい?」

 俺は通販サイトをナゴメルに見せながらスマホを操作して、首輪の画像を見せていった。

「んーとね。えーとね。あ、これこれ。我赤い首輪がいい!」

「え、本当に? 牛に見られたら興奮しておそってくるよ?」

「そもそも牛と会わんわ。我これ。赤。レッド。これに決めたのー!」

「はいはい。わかったよ。じゃあこれポチってやるな」

「わーい! あ、あと今日のお昼もゴールドキウイじゃぞー」

「ちっ、憶えてたか」

 俺はナゴメルに追い立てられるようにスーパーに買い物に行った。

 ついでにちょっと豪華なごはんと、カップ麺即席麺も買っておこう。





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