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未来の未来

作者: 雪卵

あれ?これ同名の映画がある?

意図したパクリとかではないので許してください...コンテスト出してるのでタイトル修正していいやらどうかわからないので

 俺、高橋勉はどこにでもいる普通の新高校1年生だと思う。中学時代から練習が厳しい野球部に所属し、毎日練習を頑張ってるから、努力家スポーツ少年とは思われてるかもしれないけど、自慢なんてそれぐらいしかない。野球を楽しむ以外は、適当に勉強して、適当に友達とだべって日々を過ごしてる。リア充爆発しろとか思いながら。

 そんな俺は新学期4日目、4月11日の今朝、下駄箱に手紙を見つけた。

 「今日の始業式の前に、校舎裏まで来てください。お話したいことがあります。常闇未来」

 常闇さんは、中学の頃から同じクラスだった、学年でも割とかわいい方の女の子だ。誰にでも優しくしている姿が印象に残っている。話したいことってなんだろう。まさか、告白?いや、俺は常闇さんと話した事はない。一目ぼれされるほどのイケメンでもない……と思う。

 

校舎裏に向かってみると、昨日まで以上に常闇さんは、かわいかった。その目に、吸い込まれそうになる。

 「あの、高橋君。」

 話しかけられて、我に返る。まじまじと常闇さんを凝視してしまっていた。常闇さん、ごめんなさい。

落ち着いてよく見ると、うっすらと化粧をしているように見える。たれ目気味でクリクリした目が、いつもより大きく見える。

「あ、ごめん。かわいくて、つい。それで、えっと、話って何でしょうか……?」

「好きです!私と、付き合ってください!」


本当に告白だった……!常闇さんと付き合えるなら俺も大歓迎だけど……。

「あの、俺の事を好いてくれるのは嬉しいんだけど、俺って大してすごい人間でも、イケメンでもないよ?」

「いいんです。私は、高橋君がいいんです。理由は、秘密だけど。」

「好きな理由は、秘密、かぁ。この告白が罰ゲームとか、そういうことじゃないよね?」

「もちろん!私は、本当に、高橋君の事が好きだから。高橋君のためならなんでもしてあげたい。それだけは、信じて欲しいです。」


なぜ常闇さんが俺なんかを好きなのかは分からない。でも、俺はずっとリア充に憧れてきた。こんなかわいい子と付き合えるなら、断る理由はない。


「俺なんかでよければ、こちらこそよろしくお願いします!」


こうして、常闇未来さんと付き合うことになった。


俺は、野球部に入部することにした。

「じゃあ、私はマネージャーで野球部に入るよ。高橋君の近くで、高橋君を応援していたいから。」

「いいの?なんか付き合わせちゃってるみたいな……。」

「いいのいいの。私がそうしたいんだから。」



監督の通る声が響く。

「基本的に1年生は2日に1日は玉拾いに入ってもらう。だが、定期的に行うテストで俺が認めた奴は、玉拾いを免除する。さっそく今日テストを行うから、玉拾い免除を目指して頑張ってくれ。」


俺は投手志望だから、投球テストに参加した。「筋がいいな」と褒められたけど、玉拾い免除にはならなかった。

その日の夜。

「しょうがないよ。まだチャンスはある。これから頑張ろう?」

「そうだね。落ち込んでちゃ、ダメだよね。」

「まあ落ち込むのはしょうがないと思うよ。それだけ本気な証拠だし。」

「実は俺さ、コントロールがうまくいかないんだけど、どうすればいいか分からないんだ。」

「そっか。あのさ、私なんかが口出しして、怒らない?」

「え?」


それから、部活が終わると未来がつきっきりで指導してくれた。体の使い方、指の使い方、自分の投球フォームの録画の仕方、それと手本の比較の仕方。手本の人と俺の身体の違い、この人のフォームを真似するうえで気を付けるべきこと。みんな教えてくれた。

俺はだんだん上手くなった。


「俺、次のテストは5月15日って聞いたんだ。それに向けて追い込んでいきたいな。」

「あー、でも、5月9日に監督さん交代するはずだから、システム変わるかも。」

「え?未来、それどういうこと……?」


「私は、未来が見えるんだ。」


未来は、自嘲するような、控えめな笑みを見せた。なぜか、心が痛んだ。


俺は、そんなばかな、と思っていた。でも、本当に、5月9日、監督さんは交代した。家庭の事情だそうだ。

結局、新しい監督さんに見いだされて、俺は1軍に呼ばれることになった。


「未来の指導のおかげだよ、ありがとう!」

「ふふ、頑張って勉強した甲斐があったなぁ。」

「そういえば、中学の時、未来が野球に詳しいなんて話は聞いたことなかったけど、詳しかったんだ。」

「ま、まあ……ね。一生懸命、勉強したから。」

「もしかして、俺のためだけに勉強したの?」

「まあ、そうだね……。」

「そ、それにしては、詳しすぎると思うけど……。」


未来の愛が、重い。


なんで未来はこんなに愛してくれるんだろう。


「そ、そんなことより、これ、差し入れ!」

「お、美味そう!」

「エルニッチとオレンジのシュカレポーチェだよー!」

「うわっ、なんだそれ?全然聞いたことないぞ!」

「でも絶対勉の好きな味だから。食べてみなって。」


美味い。

酸味と甘みが絶妙で、俺好みだ。


未来は、本当にすごい。野球の指導もできる。勉強も運動も得意で、こうして料理も得意。世界の料理とか、文化とか、いろいろ詳しい。クラスの鉄道オタクとも話が合ってたし、科学の先生と最新の論文の話で盛り上がってもいた。博識で、万能だ。ルックスも完璧。声まで可愛い。

こんな完璧な未来が、なぜ俺なんかとつきあってくれているんだろう。


「未来って、本当に完璧だよなー。」

「そんなことないって。」

「いやだって、ほんとに何でもできるし。」

「いや、私はズルをしているから。高橋君の方がすごいよ。」

「ズル?」

「私には、ズルというかなんというか、チートじみた力があるの。」

「どんな?」

「内緒。」


未来は、謎に満ちていた。


その日以降、未来は、


「もうすぐ伸び悩むかもしれないけど、1か月もすればスランプは抜けるはずだから、この調子で練習を続けてね。」

「4組の吉村君は伸びるよ。多分、今年から正捕手になると思う。今から連携練習しといたほうがいいよ。」

「今日、英語の抜き打ち単語テストがあるよ。範囲はここ。」

「中間テストの出るとこまとめといたよ。」


こんな予言を繰り返した。

そして、それは全部的中した。


「未来、やっぱり未来の予言はすごいよ。なんでこんなにわかるの?もしかして、チートって言ってたのって……。」

「予言能力、とはちょっと違うんだけどね。まあでも、私のチートの賜物だから。誇れるものじゃないよ。」


未来は、この予言の力が好きじゃないらしい。


ある時、大きな地震が起きた。俺らが住んでいる地域にはほとんど影響がなかったんだけど、現地では死者もでる大地震だった。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……。」


ある日、ニュースを見ながら、謝っている未来を見つけてしまう。


「なんで未来が謝ってるの?」

「あ、なんでもないよ、大丈夫。」

「そう?なんかつらそうだったけど……。」

「ごめん、心配かけたね。」

「もしかして、未来の予言の力で、この人たち、助けられたんじゃとか思ってる?」

「うん、図星だよ……。私は、この人たちを、見捨てたんだ。」

「でもさ、未来が『地震が来る』なんて予言をしても、普通の人は信じないと思うんだよね。そう簡単に人は救えなかったと思うよ。」

「いや、本気を出せば救えた。少なくとも、大半は。それを知っているから、辛いの……。」


なにやら、未来は、ものすごいものをしょいこんでいる、ということを知った。


「なあ、教えてくれないか。その予言の力、とやら。俺が何か力になってやれるかもしれない。」

「大丈夫だよ……。私はもう、勉に救われてるから。今度は、私が勉の力になる番だから。」


大丈夫だと言われても、俺は、未来のために、何かをしてあげたかった。そんな悩みがあったからか、最近は野球も上手くいかなかった。

東東京大会では、俺は何度か中継ぎとして登板した。そして、準決勝、9回裏1アウト2塁3塁、1点リードで俺の出番がやってきた。


俺は、打たれた。


俺が、先輩たちの、みんなの、夏を、終わらせてしまったんだ。


先発した畑中先輩は、天を仰ぎながら、「ごめんな、兄さん。夢、かなえてやれなかった。」とつぶやいていた。

木村先輩が、そんな畑中先輩によりそって泣きながら慰めていた。松本先輩は慟哭していた。山口先輩は硬直していた。


相手高校応援団の歓声が、頭に響いていった。


してはいけない失敗をしてしまった。そんな思いが、こみ上げてきた。


 「先輩はみんな、気にするなって言ってくれたさ。でも、打たれたときの、先輩たちの絶望した顔を思い出すたび、胸が締め付けられる。俺なんかが、のうのうと生きてていいのかって思っちゃうんだ。」

「勉は十分頑張ったって」

「分かってるよ!そんなこと!」

気づくと、俺は、未来に当たり散らしていた。


「ごめん……。」

「いや、俺の方こそ叫んでごめん。不甲斐ないのは自分なのに、支えてくれた未来にまで当たって、本当に俺って駄目だな。」

「いや、そんなことないよ。毎日本当に頑張ってたし。」

「でも、結果は出せなかった。」

「勉……。」

「ああ、あの瞬間に戻れたらなぁ。時を戻せたらなぁ。今度こそ絶対に打ち取ってやるのに。いや、もっと前に戻りたいかな。もっと熱心に練習したいな。」

「そっか……。うーん……。」

未来は、なにかを悩んでいるようだ。

「未来?どうした?」

「あのさ、どうしても、あの瞬間に戻りたい?」

「え?そりゃ、戻れるなら絶対戻りたいけど……。」

「そうだよね。私の力は、普通の人からしたら、垂涎ものだよね。」

「え、もしかして、前に言ってた、未来の力って、まさか……。」


「そう。タイムリープ。過去に戻る能力。私は、もう、何度も4月11日からやり直してるの。」





「って、信じられないよね。まあ、タイムリープなんて、荒唐無稽な話、信じてくれないよね……。」

「いや、信じるよ。確かにタイムリープなんて信じがたいけど、それなら説明がつくよ。監督の退任を予言していたのも。他にも、テスト範囲とか、たくさんの予言をしていたのも。」

「そっか。そうだよね。信じてくれてよかった。」

「もしかして、未来は俺の将来を知っているの?」

「私が経験したことのある『将来』の勉なら、知ってるよ。でも、私は今までで一番積極的に勉に働きかけたから、すでに私の知っている『勉の歴史』からずれているの。実際、勉が1年生から試合に出たのは、今回が初めてだし。」

「そうなんだ。『前回』では、俺は試合に出れなかったんだ。」

「うん。まあでも前回は実力不足が原因じゃないけどね。」

「え?」

「6月12日、交通事故で、死んじゃったから。」

「え……。」




「そういえば、6月12日、俺が本屋に行こうとするのを止めたよね。あれって、俺が事故に合うのを避けるためだったのか?」

「そうだよ。」

「そうだったのか。未来の協力がなければ、俺は死んでいたのか。」

「そう。高1生活27回目にして、勉が初めて死んじゃったから、私は唖然としたよ。」

「そっか……。え?」


27回目?


「そんなに、繰り返してきたのか?」


「うん。さらに言うと、6年後から8年後にかけて、何度も繰り返してたし、正直私の体感だと、100年は生きてると思う。」


「え……。」


 「ごめんね。隠してて。実は私、精神年齢100歳超えてるんだよね。ごめんね、こんな年増で……。」


 「年増だなんて、そんなことは気にしないけど……。」


 何度も時を繰り返して、100年あまりも生きてきたときの重さを思う。壮絶な長さだ。どんな思いで、生きてきたんだろう。


「辛いこととかなかった?大丈夫?」


「当然あったよ、いっぱい。重なってぐちゃぐちゃになっていく記憶に、死にたくなったこともあるよ。でも、そのたびに勉が救ってくれたから。」


「俺なんかが、救えていたのかな?」


「うん、だから、この力は全部勉のために使うよ。どうする?戻る?」


「え?」


「戻りたいって言ってたじゃん。」


確かに、あの時に戻りたいと思ったのは確かだ。けど、


「俺の記憶は消えるんだよな?」


「うん、記憶を保ってるのは私だけだね。でも、もっとサポートするから。」


「いや、いいよ。確かにやり直したいくらい悔しいけど、またもう一回繰り返させるぐらいなら……。」


「そっか……。」


この時、俺は俺の意思で、先輩たちの夏を終わらせたことになる。

でも、後悔はない。愛する未来に、これ以上の苦労をかけたくない。

もう巻き戻しなんてことは終わりにしよう。


俺は今まで以上に精力的に練習に励むようになった。


「勉、頑張りすぎじゃない?」

「頑張ってやりすぎることはないさ。一度しかない人生だから。いや、一度しかない人生にしたいから。」

「そっか。ありがとね。」

「いいのさ。一度きりのチャンスで、夢をかなえてみせる。」

「応援してる。でもオーバーワークには気を付けてね。」

「分かった。」


俺は誰より努力した。そう自信をもっていえる1年間を過ごせたと思う。もっとも、野球に力を注ぎすぎて、成績とかは落ちたけど。

監督には、成績を落とすようでは、真の努力家とは言えないな、と言われてしまったし、このままじゃだめだ。でも野球の実力だって足りてない。もっと。もっと。


何度も未来に巻き戻してもらって、ようやく得たチャンスだ。絶対につかみ取るんだ。

夢に向かって、一球一球丁寧に。


「ストライク、アウト!」


決まった。甲子園出場だ。


今度は、みんなの夢を終わらせずに済んだんだ。

そう思って辺りを見渡すと、相手チームの慟哭が目に入る。

そうか、俺は相手チームの夢を、この手で終わらせたんだな。

全ての夢を拾うことはできない。でもせめて、自分の周りの人の夢ぐらい、つなぎたい。



それは甲子園出場を決めてしばらく後の練習の時だった。

最近妙にけがに気を付けるように言われる。けがには気をつけているつもりだ、大丈夫。

そう思っていた。


乾いた音がした。


鋭い痛みが走った。


医者には、競技人生続行不可能と言われた。


ダメだ。このままみんなの夢を終わらせるわけにはいかない。


「未来、時を戻してくれないか。」


未来は、一瞬微妙な表情になってから、いいよ。と、答えてくれた。


「でも、巻き戻しポイントは、甲子園予選大会より前になるから、甲子園に行けるかは分からないの。」

「そうか、巻き戻しポイントは選べないのか。」

「うん、年に1,2回、現れるみたいなの。」

「分かった。それでもいいから戻してくれ。」


「ふふ、何回でもそういうのね。いいよ。」


「何回でも?……まさか、この数カ月を、また何回も繰り返している?」

「うん、今年の5月19日から、これで6回目だね。」

「6回目かぁ……」

「うん。3回は決勝で負けて、3回は故障した。」

「ひえっ……故障は避けられないのか……」

「分からない……」


俺は数日悩むことにした。

チームの皆の夢は大切だ。チームの皆の力に俺はなりたい。でも、未来の力って、本来はもっと多くの人の力になれるものじゃないのか。うちのチームのために使ってもらうだけでいいのか。

そう話すと、未来は笑っていた。

「そうだね。確かに私の力を使えば、何千何万の人を救える可能性はある。挑戦したことはあるの。でも、結局救えない人は出てきて。その人のことが夢に出てきて、悔やんで、巻き戻して。そんな繰り返しで疲れ切ったとき、もう頑張らなくていい。そういってくれたのが、勉なんだよ。」


「そうなのか……。」


「だから、勉は私の救いなんだよ。」


単純な言葉一つで、気が変わったわけではないのだとか。未来のために尽くした将来の俺に、徐々に心動かされていったらしい。


「だから、この力は、勉のために使おうと思ったの。勉の叶えたかった夢のために。そして、ようやく、もうちょっとのところまで来たの。だから、このまま、繰り返していけば、きっと……」


いや、それはだめだ。結局、俺のために、未来は無理をしているんじゃないか。


「未来のおかげで今がある。充実した生活を送れた。もう、十分夢は追わせてもらったよ。楽しかった。次は、俺が未来に尽くす番だ。」


「それじゃ、諦めるの?」


チームメイトの顔が脳裏に浮かぶ。ここで、肯定の返事を返したら、あいつらの夢を終わらせることになる。その罪を背負って俺は生きていけるのか?あいつらに申し訳が……


でも。


「ああ。諦める。」


「そっか。結局、私の100年は無駄だったのね。」

「そんなことない!」

「だって、勉を幸せにできなかった。」


「いいや。俺は幸せだよ。ここまで夢を見れて。そして、未来にここまで愛されて。」

「ほんとに?」

「ほんとのほんとさ。もちろん野球に心残りはある。でも、野球を続けていては、どうしても未来に恩を返す余裕がない。これからは、未来に恩を返していくんだ。」


こうして、俺と未来は、野球部を退部した。


「さて、これから、何をして生きてこうか。」

「じっくり、探していけばいいんだよ、勉。」

「だな。」


数日考えた。俺は気づいた。


「やっぱり俺は、未来と一緒に居たい。未来は何がしたい?未来がしたいことをしたい。」


未来は、虚を突かれたような顔をしていた。

「それは初めてのパターンね。」

「そうなのか。でも、これが偽りのない、俺のやりたいことだ。」


「ありがとう。でも、もう数十年、勉に尽くすことだけを考えて生きてきた。何をしたいかなんて、わかんないよ。」

「それこそ、じっくり探していけばいいんだよ、未来を。」


それは俺の言葉だった。その一言が、未来の心に染み入っていった気配がした。


「未来?」


「ありがとう。私の人生だもの。私の行きたいように生きていいんだね。」



甲子園が始まった。うちのチームを必死で応援したが、結果は1回戦負け。それでも、もう巻き戻すことはしない。


救おうと思えば、俺のチームを救うことはできたはずなのに。俺は見捨てた。そういう自己嫌悪にかられそうになった瞬間、気づく。

そうやって、救えそうで救えなかった。そういう思いを、何度も何度も繰り返して、未来はすり切れたんだ。


俺の人生は、未来とともにある。だから、他の誰かの幸せじゃなく、未来の幸せを選ぶんだ。

未来の苦悩は、俺が取り除いてやるんだ。


未来が、幸せに人生を全うできるように。


 「高橋、成績戻って来たな。」

 「ええ、先生。野球という言い訳もなくなってしまいましたしね。」

 「そろそろ進路も考えとけよ。大学で何を学ぶとか、就職するにしても何をするとか。」


 何をしたいか。それは、未来に寄り添うことだ。

 未来の助けがあれば、多くの人の助けになる偉大な仕事も出来るだろう。でも、それを目指すときりがなくなる。また未来に負担をかける。

 だから、そういう道は選びたくない。

 凡人でいいんだ、俺は。


 あれから12年。

俺は、健康に気を付けることにした。未来を残して、先に逝くことだけは避けたいからだ。

そして、未来に寄り添った。孤独にしないために。


俺と未来は、新薬の研究室で働いていた。


「結局多くの人を救う仕事に着いちゃったんだね、私たち。」

「ああ。やっぱり血には逆らえないのかもな。」


でも、あれから能力は一度も使っていない、と未来は言ってる。どこまで本当なのかわからないけれど。

あれから今まで、時々未来は壊れそうになった。そのたびに、俺が寄り添った。

「私の夢に、付き合ってくれてありがとうね。」

「いーや。俺は俺の夢しか追いかけてないぞ?」

「そうなの?」

「ああ。未来が幸せに人生を全うする。それが、俺の夢だ。」

「もう、勉ったら。」


俺達の新薬は、多くの人を救った。裏を返せば、もう一日早くできていれば、もっと多くの人を救えたんだ。でも、そこを悔いることはない。


例え、一日間に合わなかった人の慟哭のツイートを見てしまっても、大丈夫。大丈夫なんだ、俺達は。


「しばらく有給とろうか。未来も俺も、無理をしすぎてる。」

「うん、勉。ありがとね?」

「ありがとう?」

「うん。勉にコントロールしてもらえば、私は壊れない。勉は私の道しるべだから。」




それから数十年がたった。俺達はとっくに定年で引退した。医療の発達で寿命も延びてる。でも、それだけに新しい病も増えている。


このまま、未来が安らかに天寿を全うして、苦しみの連鎖を終わらせるのを見守っていたい。そう思っていた。

ある日、死にたくない、そう連呼するようになった。

 ちょっと前までは、安らかに死にたいって言ってたのに。


 分かった。死に間際になって、死が怖くなって……


 「巻き戻したな?」


 そっか。俺は、未来の望みは苦しいこの繰り返しの人生を終わらせることだと思っていたし、そのために尽力してきた。巻き戻しを使わなくていいように。

 でも未来は……


 「もっと一緒に居たいの。もっと、ずっと。」


 そっか。じゃあ、ずっと一緒に居よう。



 それは、繰り返しの一度目だったようだ。取り乱しようから、そうだろう。


 そして、俺にとっては、最初の「最後の日々」。それは、突然に終わりを迎えた。


 倒れた未来は、あっけなく逝ってしまった。


 ずっとこの日を目指していたはずだ。未来が安らかに人生を終われる日を。


 でも……


 会いたいよ、未来。会いたいんだ……。


 俺に時を巻き戻す力はない。もう、未来は、手の届かないところにいるんだ。

 これでよかったのか。


 理性ではわかっている。これでよかったんだと。あの長い人生を終わらせられてよかったと。


 そうだ。何のために未来はその長い人生を送ってきたんだ。俺が幸せに人生を全うするためだろう。俺が悲しんでいてどうする。


 俺はゆっくり立ち上がった。


 生い先短い残りの人生だけど、次のやりたいことを見つけよう。なに、ゆっくり探していけばいいさ。見つかる前に、死んでしまうかもしれないけどな。

 ゆっくりでいい。ゆっくりでいいんだ。それが俺達のたどり着いた、繰り返しの「答え」だから。


久しぶりの投稿になります。書き上げていたものの温めていた作品があり、GC短い小説大賞の企画にしっくり来たので応募がてら投稿させていただきました。

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