嘘と夢
小さな嘘を吐いた。
「それは叶うから、ただのチェックポイントだよ」
どうにもならないと知りながら、そんなことを言ってしまった。
理不尽な運命に逆らいながら、いつかその運命に収束してしまうという諦観に逆らえない。
ただのつまらない、中身のない嘘に、縋りつくほかない。
「そうかなぁ……?」
「きっとそうだよ」
怪訝な表情をする少年に、私は私の語気を強めた。
なんともみっともない。
「じゃあ、退院したら、もっと遊んでくれる?」
「勿論!」
私は残酷だ。
叶わないと思っていながら、こんなこと。
せめて冷酷にはならないようにと、終末期医療をしているつもりで。
「退院して、遊んで、将来は何になりたい?」
「なりたいものは……う~ん……いっぱいある!」
「そっか。たとえば何になりたい?」
「えっとね……、お医者さんになりたいし、お料理屋さんになりたいし、本屋さんになりたいし、サッカー選手にもなりたいし……、普通のサラリーマンにもなってみたい!」
「退院して、大人になれば、きっと叶うよ」
「うん! だから手術、頑張るんだ!」
「……応援、してるからね」
私は優しく、嘘の笑顔を浮かべることしかできなくて、どうにもならない。
「叶うから、ただのチェックポイントって言ってたけど、チェックポイントじゃなくて、僕はどうなったらいいんだろう?」
「幸せになったらいいんじゃないかな。それを目標にするとか」
「それじゃあ、一つ一つの目標がチェックポイントなら、幸せになるのが夢かな」
「きっと叶うから、やっぱりそれはただのチェックポイントだよ。チェックリストをいっぱい過ぎて行って、一つ一つ、幸せを重ねていって、幸せになるんだよ。目標が続けていくことでも、別に良いと思うな」
本当に私は、いい加減なことを言う。
「この手術が成功したら、お菓子でも何でも1つ、買ってあげるよ」
「いいの!?」
「いいよ」
「やったー! もうメチャクチャ頑張っちゃうもんね!」
「……うん」
それでも私は、叶わない夢を言い続けた。
叶わないから、夢でした。