実は、実話なんだよね
僕はその日は朝から愛するパソコンと見つめ合っていた。高校生時代から愛用しているパソコン。名前はパソ子。だいぶん古くなってきて周りには新しいのにすればいいのにってずっと言われてる。変えないけどね!
パソ子の紹介が終わった所で僕こと篠崎遙人の紹介。27歳と4ヶ月。世の女性がやだっ!三十路近い!!!と嘆く年である。因みに独身。生涯独身を貫きたい所存であります!
そして職業。ライトノベル作家。と、言いたい無職だ。ニートじゃない無職だ。ここ間違えないように、きっとテストに出る。僕は出なかったけど。
閑話休題。
なんで僕がパソ子と見つめ合っているのか気になるだろう?教えて上げよう。
本日は………
「僕の応募したライトノベル作品の受賞発表日なのである」
無事最終選考まで残った僕の物語。いや、パソ子と紡いだ物語。自信しかない。嘘、めっちゃ不安。処女作で最終選考に残った時「はぁーー↑↑!天才キタコレ!」って叫んだけど、クールダウンしたら凄い奇行だなって。恥ずかしい。
「発表時刻が12時ちょうどだからあと、30分か…………。30分!?」
僕は朝5時からパソコンじゃなかったパソ子の前で待機していた。おいおい、時間経ちすぎだろ。そんな焦るなって。
あと30分。アニメ1話分。CMとか飛ばせば24分。つまり一瞬で過ぎる時間。
「ヤベぇ……。お腹痛いまじ痛い病気だわこれうん病気。ヨッシャ病院行くぜ!」
予想以上に時間無くてハイテンションで病院行きたくなった。
何か気を紛らわす為に僕は本棚から漫画を二冊取った。何度も読んだ漫画。多分セリフ言える。
もう10分は経っただろ。そう思い時計を見る。
「は?5分?」
焦れよ時間。現在11時35分。
全く進んでいない長針にぷんすかしながら僕は再び漫画を開いた。
体感的に20分は経ったころ僕は時計を確認した。
「は?10分?」
僕は時の支配者なのかも知れない。
しかし、この時間が速く過ぎて欲しいときに限って時間の進みが遅く感じるのなんなんだろうね。数学者のなんとかさんが言ってたうんたらかんたらってやつ。うん、何も知らない僕は黙ってようね。はーい。
脳内で一人芝居やってるうちに3分過ぎた。もうずっと一人芝居やってようかな。
現在11時48分。
読んでいる漫画のせいか心なしかざわざわし始める僕。ざわざわ………ざわざわ………。
時は流れ約束の時。体感1時間位に感じた時間も終了。僕は急いでサイトURLをクリックする。
「……………………」
ロードが長く感じる。まるで走馬灯のよう……。僕死ぬのか……。
「金賞………無し」
今年も金賞は無いらしい。ここ数年出ていない。
「銀賞………違う」
異世界転生ものが銀賞を取っていた。まずい、同じジャンルだ。
「銅賞……違う」
日常系か。買います。
「佳作……違う」
学園ファンタジー。絶対白髪の子が出てくると予想。だってタイトルに白髪生徒会長ってあるし。
ここで僕の指が止まった。
「どうでもいいことばかり考えてるな……」
正直諦めていた。銀賞に同じジャンルが来てしまった。別に同じジャンルだからといって何かあるなんてことはないが(あるかも知れないとは言いたくない)、なんか不安だ。
「残すは審査員特別賞と鳳賞」
鳳賞とは僕の応募したレーベル、川野文庫が誇る超絶売れっ子作家による賞のことだ。他の賞は編集者が認める作家に対してこちらは作家が認める作家と言えるだろう。僕は鳳先生のファンである。
「鳳賞……無し」
コメント欄には、面白いと思える作品が無かった、と書かれている。
「怖っ」
なにそれ。面白いと思える作品が無かったってつまり面白いと思える作品が無かったってこと!?
「はぁ………」
残りは審査員特別賞。川野文庫の審査員特別賞は影の金賞と呼ばれていて例年のごとく金賞並みに売れている。取れる可能性はかなり低い。
「審査員特別賞…………え?」
目を疑った。もしかしたら僕の脳が見たい景色を映したのかも知れない。そんなことさえ思った。
無意識のうちに僕は頬を叩いた。すっげぇ痛い。
「これが痛みか……」
状況に追いついていない中で、痛みを初めて知る強者感を出せるならきっとまともなんだろう。
「審査員特別賞……受賞……?」
もう一度叩く。痛てぇ。
「本当に僕が」
更に叩く。痛い。誰だよさっきから叩いてるの。僕だよ。
「……………」
ノリツッコミができるほど脳はクリアなのに言葉が追いつかない。
顔がにやける。
嬉しいが止まらない。
ドキドキする。
「………やった」
ようやく出た言葉。その言葉に執筆中の全てが詰まっている。
「作家だ……。僕、作家になれたんだ」
憧れだったライトノベル作家。諦めて諦められなくて追い求めた景色。
ここでもう一度、僕こと篠崎遙人の紹介。27歳と4ヶ月。世の女性がやだっ!三十路近い!!!と嘆く年である。因みに独身。生涯独身を貫きたい所存であります!
そして職業。ライトノベル作家。新人ライトノベル作家。ニートじゃない。無職じゃない。
ライトノベル作家だ。
こうして僕のライトノベル作家生活が始まった。 これから僕が話すことは実話だ。本当の話。ノンフィクション。まあ読み方はなんでも良い。とりあえず実話であることをまず知っておいて欲しい。
なんでそんなに実話を推すのかって?だって先に言っとかないと外野がうるさいじゃん。
そんなに実話を推すくらいなら刺激的な話かと思ったそこの君。残念!今から語るのは動物図鑑にも載ってない不思議な不思議なお話でもなんでも無く、ただ僕にとってはちょっぴり不思議なお話だ。
一人の作家とその編集者の恋のお話。