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底辺悪魔の底辺冒険譚とその他  作者: 林集一
第1章 名もなき辺獄の放浪者
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第4話 辺獄の風情

前回の底辺悪魔は


・骸骨みたいな鳥に脇腹を食われた。


・根性で治した。


・気を付けよう。

 

 あれから数日。色々な事が分かってきた。


 まず、魔石。これを食らうと、魔力っぽい緑色のエネルギーがグルグルと身体の中を回って、身体全体で“消化”を始める。それは魔力が吸収され尽くす迄の間は続く。


 その際にドクンドクンと心臓みたいな音を立てるので、エサ(インプ)を狙って宙を旋回している骸骨鳥に捕捉されやすくなる。だからいつもより注意をしなければならない。


 んで、魔力が吸収されると吸収された分だけ身体が強くなった気がする……んだが、正直どの程度変わっているのかは分からない。


 と言うのも、腕試しをする訳でもなく、比較対象もないし、戦闘する事もないからだ。そもそも、このインプという種族はここでの戦闘に耐えるほど強いとは思えない。


 まずインプ以下の生き物(悪魔)を見た事がないし、その次に強いのが天敵の骸骨鳥だから勝てる気がしない。で、それ以上の強さの悪魔ともなると差が開きすぎて「勝負になるかよ!」みたいな感想しか出て来ない。


 実を言うと、何度か頭がおかしくなるくらいの恐ろしいもの同士の戦闘に遭遇したのだ。


 遠目から見た程度だが、俺を襲った骸骨鳥を空中で捕食するビルみたいな大きさの亀とか、その亀の甲羅を叩き割って中身を啜り食べていた鉄巨人みたいなのとか、その鉄巨人同士の喧嘩とか、他のよくわからない巨大怪物同士の争いとか……。


 まさに怪獣大戦争。


 そんなのが闊歩しているこの世界で戦闘とか……考える気にもならないし、インプにそんな力はない。


 治安は最悪だ。


 俺を襲った鳥も、ここではインプと同じく食物連鎖の最下層なのだろう。あのデカい亀からしたらインプも鳥も大差はない。


 唯一喧嘩相手になりそうなのは俺と同種のインプなのだが、何かこう、戦う気にはなれない。すんごく弱そうと言うのもあるが、何かこう……可愛いのだ。


 DNAレベルで同種には手が出ないようになっているのだろうか……。


 でも強くなる方法が全く無い訳ではないのが救いかな。


 そう、俺はめげずに徘徊して、地面に転がっている魔石拾いを続けていた。むしろそれしかやる事が無かった。


 そして、それをしつつも度々迫りくる生命の危機をも避けていた。凄いだろう。


 何かよくわからない巨大な化け物みたいなのが暴れていても、進行方向が分かれば遠目に見える段階で回避出来るし、インプの天敵であるあの骸骨鳥も岩場に隠れながら移動したらさほど襲っては来ない。


 隠れてる俺を襲うより、その辺に産まれたばかりのインプが転がっているのでそっちを狩った方が楽なのだろう。


 同種だから助けてやりたい気持ちもあるが、会話すら出来なければどうしょうもない。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 ◇ ◇ ◇ ◇


 ポツ……ポツ。


「……雨か」


 空の上にあるツララみたいな天井から滴り落ちているのだろうか、長めの糸雨が地面を打ち付けている。


 それを雨宿り代わりに入った岩の隙間からぼんやりと眺めていると、辺獄もまた辺獄なりの風情があるのだなぁと思えた。


 しかしそう考えた時、同時に“俺は今後一生ここで生きていくのか”と言う諦観が出てきた。ただ生き延びる事を考えて生きると言う事の限界を感じた。



 何がなんだか分からない地獄で始まったセカンドライフ。まずは生き延びると言う目標だったのだが、果たしてそれだけで良いのか?


「はぁ」


 ため息の1つくらい出してバチは当たらないだろう。


「コオロギとか鳴いたりせんのかなー」


 そう独り言ちながら寝返りをうつと、頭の後ろから誰かの声が聞こえた。


「助け……」


 人の声?


「に……答えよ……」


 やけに遠くから聞こえるような、断片的な言葉の羅列。


 それは、空から降り注ぐ“雨”が地面に跳ね返る際に聞こえる音だった。


「おい、助けを求めてるのか?」


 そう言っても答えは帰ってこない。


「おねが……助け……」


 ただただ、断片的な言葉の羅列が不規則に再生されるだけだった。


「だからなんだって言うんだよ!」


 俺の叫びは雨にかき消される。


 ……。


 …………。


 この雨は長く続き、岩の隙間で雨宿りをしていた俺は知らないうちに眠っていた。


 助けを求めるような、それでいて断末魔のような声は夢に出てくるほどリアルな叫びだった……。




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