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底辺悪魔の底辺冒険譚とその他  作者: 林集一
第1章 名もなき辺獄の放浪者
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第1話 辺獄へようこそ

 

「あれ? ここは……何処?」


 すっとぼけた台詞が漏れる。


 いつもと同じ俺の部屋。


 布団を退けていつもと同じ朝を迎えるとばかり思っていた俺は現状に度肝を抜かれた。


 そう、目を覚ますと見慣れない場所にいたのだ。


 クレヨンで塗った様な真っ暗な空、暗闇よりも真っ黒な枯木の森。空から聞こえる謎の唸り声からはビックリするほどの禍々しさを感じる。


 キョロキョロと辺りを伺うと、枯木の上に人影があるのに気が付いた。


 第一村人発見と言いたいが、そんな様子でもない。注視してみれば、退屈そうな顔を膝に乗せて座っている山羊角の少年がいた。山羊特有の(−)形の瞳と目が合う。


 俺が言葉を発しているのに反応してか、徐々に長い角を傾げて、少し驚いた様な顔をしている。


 ここは先手必勝。話しかけてみよう。


「やぁ、こんにちは。やけに暗いですが、ここは何処なんですかねぇ?」


「ここ? ここは地獄。地獄の一丁目の辺獄って所さ。君、産まれたばかりなのに随分お喋りなインプだね」


「……インプ?」


 自分の身体を触ってみると確かに異物感を感じる。そもそも手が人間のそれとは違う。両の腕には蝙蝠っぽい羽がついており、頭は硬くて化け物っぽい。牙も生えてる。


 言われるからには俺はそのインプなんだろう。


 インプってなんだ? と一瞬考えたが、何となく言葉から感じるイメージは小悪魔的な感じだ。


 そして、再度見渡してみると確かにここは地獄っぽい。


 黒い松みたいな枯れ木以外は岩しかない。殺風景過ぎて火星にでも来たのかと思ったくらいだ。


「……何じゃこら。俺は死んじまったのか」


 家の寝床に潜り込んで寝たのまでは覚えてる。あれか、睡眠時無呼吸症候群だとか何とかか? それとも他殺? 思い当たる節も有る様な、無い様な。


 しかし、死んでなんの説明も無く地獄で悪魔ってのは幾ら何でも酷い。せめてチュートリアルは欲しい。


「君、よく喋るけど前世の記憶でもあるの? 見てたんだけど君……今産まれたばかりのインプだよね?」


 ギラギラとした目を好奇心に輝かせながら山羊瞳の少年が質問をしてきた。


「はぁ、前世の記憶と言えば前世でしょうか、記憶はあるみたいですな。インプが何かは分かりませんが……」


「へぇ、面白いね。もし何か聞きたいことがあれば教えてあげるよ」


 ◇ ◇ ◇ ◇


 ◇ ◇ ◇ ◇


 少年は色々と説明をしてくれた。だが、長々と丁寧に……とはいかず、突然スンと興味をなくした様に「じゃあね」といって消えた。


 これは俺が失礼だったとか言う理由よりも、ただ少年がそんな性格だったからと言う所だろう。


 気まぐれな所が猫っぽいなぁ。瞳は山羊だけど。


 ……。


 少年が言うにはここは地獄の最上層“辺獄”。地獄としては地上に近い部分で、低級な悪魔と魔物が住む場所なのだと。


 生まれてすぐ悪魔カウントされるのも変な感じだが、まぁそんな星の下に生まれたんだから仕方ない。誰かが言ってたが、人は生まれ持ったカードで勝負するしかないんだ。グダグダ言っても始まらない。


 で、その悪魔は肉体が消滅しても完全に死ぬ事はなく、この地獄の何処かにポッと吐き出される様に生まれ変わるらしい。その中でも特に最弱のインプは日々そこら辺で殺されてるのでポップコーンが弾ける様にポンポン生まれ変わっているのだという。


 じゃあ俺は何処かで死んだインプの生まれ変わりなのかと聞いたら「それは知らない」と言われた。


 ただ、普通のインプは会話が成立するほど賢くないから、何か特別な存在なのかも知れない……と。


 特別な存在って何だ。


 ……ともあれ、インプはここ魔界では最弱な存在である事は間違いないらしく、ほっとけば数時間で死ぬ事になるとも付け加えられた。


 じゃあどうしろっちゅーねん。


 あと数時間、この蝙蝠とカブトガニが合体して脚が生えたような身体で散歩でもしたらええんか!


 2本しかない足の爪で小石を蹴ると、ポチャンと音がして黒い水溜りに波紋が広がった。


 揺らぎが収まるまで見ていたら、化け物となった自分の顔と目が合う。


 これが新しい俺かぁ。


 あまり現実感はない。


「ふぅ、ともあれ何もしない訳にもいかんか」


 俺は特に何も考えず、道なりに歩き出した。





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