第8話 魅せる
辺りには悪いてちゃんが蔓延り、住民はモンスターに変貌してしまっている。
「そんな…」
ハルカは言葉を失った。
「テキダ!テキダ!」
沢山のてちゃんが襲ってくる。
「きゃあ!」
ハルカは持っていたスマホを落としてしまった。
「私のスマホが!」
「そんな事言ってる場合じゃないよ!こっちに来る!ハデルサルクフラエテア!」
ミリアが無敵のシールドを張り、襲い来るてちゃんから全員を守る。
「わかった!バルデニテンステンス!」
ハルカが最近覚えた火魔法を使い、てちゃんを燃やす。
「ちょっと胸が傷む…ごめんね、てちゃん」
ハルカが涙目で燃えたてちゃんに手を合わせる。
てちゃんを燃やすのは生き物を殺すのと同じだ。
日が暮れ、月が顔を出した。
「きつい…はぁ…疲れた…」
ハルカが小さく声を漏らす。
三人は辺りのてちゃんを追い払い、休憩タイムに入った。
「お茶、飲む?」
「はぁ…はぁ…ありがとう…」
ミリアがハルカにペットボトルの冷たいお茶を渡す。
「冷たっ!…うん、美味しい!」
「そこで何してるの~?」
家の裏からラフィンが現れた。
「…ラフィン!この前の事、しっかり覚えてるからね!」
ハルカが大声でラフィンに言う。
「挨拶代わりに…サンバードブレンズ!」
雷のように炎が空から落ち、ハルカに直撃する。
「ハルカァァァァァァッ!」
ミリアが声を枯らしながら叫ぶ。
「ハルカ!生きてる!?」
ハルカはぴくりとも動かない。
「ハルカ…嘘でしょ…!」
「ハルカ!返事をして!」
返事はない。
「レイア!レイアも何か言ってよ!……っ!?」
レイアとラフィンがいない。
「ねえ…神様…どうして私を独りにするの…」
「ハルカがいないと…私…私…!」
月明かりに照らされて、光る雫が一滴こぼれ落ちる。
「どうして…どうしてなの…!」
雫が一滴、また一滴と落ちていく。
「ねえハルカ…あの時一緒に本、読んだよね…内容はあんまりだったけど、楽しかったよ…一緒に…うぅっ…」
自分の涙しか見えない。
だが、涙の中にはたくさんの思い出が見えていた。
「…この……が終わったら…ね………皆で……遊ぼ……よ…」
「ハ…カ…ハルカ…!」
ミリアの想いが、一つの魔法となってハルカを生き返らせる。
ハルカが目を開け、ミリアを見る。
「ハルカ!良かった…死んじゃったかと思った…もう、脅かさないでよ」
「約束しよう」
「うん、約束ね」
これ以上ないミリアの笑顔につられて、ハルカもそれに負けないくらいの笑顔になる。
「ただいま~」
ラフィンとレイアが戻って来た。
「ラフィン…!さっきはどうもありがとうね!」
「まだ生きてたの?すごい生命力ね~」
ラフィンが右手をかざす。
「とっておきの魔法をくらいやがれ!プランストエンレイベン!」
空に魔法陣が現れ、そこから無数の輝く石が放たれる。
「綺麗…」
「ハルカ、何を言って……!」
その石は、思わず全員が見惚れてしまう程の美しさだった。
「あうっ!」
ハルカに石が当たった。
「はっ!いけない!」
「あの魔法陣を壊せば…!プラテナリクテンダ!」
石のように美しい光が空に浮かぶ魔法陣を砕く。
「ふふ、まだこれはウォーミングアップよ」
「ベルザーストメルエンラン!」
星の弾幕がハルカ達を襲う。
「本当に綺麗…」
「わあ…」
「それは罠です。騙されてはいけません」
レイアがそう言ったが、二人はずっと見惚れている。
(なら、私がラフィンを…)
「おっと、魔王さまがお呼びだ。さらばだ~」
また逃げられた。
「はっ!いけない…見惚れてた…」
「ごめん…」
二人は申し訳なさそうにしている。
「ラフィンは妨害を得意とします。なので何か妨害されない魔法を習得したらどうですか」
レイアが提案すると、二人はそれに同意した。
魔法を習得するため、明日からまたハルカは訓練する事になった。