第52話 貴方に捧げる鎮魂歌
異形…聞いた事のない言葉だった。
「こいつに、リーズンはずっと操られていたのね…!」
(確証はないけど、そんな気がする…わかる!)
異形はこちらが攻撃を始めるのを待っているかのように、じっとしている。
倒れていたリーズンは、すぐに意識を取り戻した。
「こ、ここは…私は、何をしていたのでしょう…」
本当のリーズンは…"異形"に操られていた時とはまた変わった、穏やかなものだった。
「大丈夫、もうすぐ全てが終わるから。最高のハッピーエンドが待っているから」
「これは…なんだ……?何も思い出せない…」
「頭が痛いわ…」
リーズンに同行していたサラセニアとアンスもまた、"異形"の影響を受けていたようだ。
そしてそれが今、無くなった。
悪の力から解放された二人は、その場に倒れるようにして座りこむ。
疲れ果てて眠り始めたリーズンは、夢を見た。
暗闇で、ある者の声だけが響く。
「リーズン、今までよく頑張ったわね…」
「リーズン…あなた自身が、あなたが幸せである"理由"になれるなら…ママは嬉しいわ。そうなれるように、育ててきたんだもの」
プレテキテラ、故郷の名前。
度重なる戦争に巻き込まれて、生活は苦しかったけれど。
せめて、リーズンには裕福にはなれなくても、せめて平凡な暮らしをさせたい。
いつもそうして頑張ってきた。
ママの勝手な想いだけど…
ずっと、ママはあなたの事を…たった一人の大事な子供として、大好きでいたわ。
「だからリーズン、最後に…」
「愛してる、って言わせて」
その声は次第に遠ざかり…
やがてリーズンは目を覚ました。
「う、うん…?」
視界に飛び込んできたのは、"異形"が空を…ガラスのように割り始めたという光景。
「もう…間に合わない…!」
「リアリス…」
すると、ミリアが"異形"のもとへ一歩一歩、歩きだした。
身に付けていた指輪を外し、空へ捧げる。
「ハルカ…みんな…ここでお別れね」
「どうしてっ…!?」
「これも、この世界を救うため…仕方のない事なの…」
じゃあ、さよなら。
ミリアは"異形"に向かって飛び立つ。
それを止めたのは、ハルカだった。