第49話 全ては
黒いモノはサルタヤの身体を食べきると、こちらへ歩みを進めてきた。
足はゆっくりだが、それによって威圧感が増している。
「こ、来ないで…!」
ただただ、恐怖が襲う。
…でも、恐怖はただの恐怖。
きっと乗り越えられる。
「これ以上近づいたら燃やすから!」
レイルが勇気を出して警告する。
…
黒いモノはそれでも止まらない。
「約束どおり……バルデニテンステンスっ!!」
…黒いモノは、燃えない。
「レイル…火が…!」
なんと、燃えているのは自分の腕だった。
「あ、熱い…あつい、よ」
涙を流しながら振り向く。
「ラニス!水魔法でなんとかならない!?」
「わかった、ポルフォネランゼ!」
手から勢いよく水は出たものの…
途中で、まるで障壁があるかのように全て跳ね返ってきた。
「なんで…!?」
その間にも、火は体を蝕み続ける。
このままでは…レイルは死んでしまう。
仲間たちはそう思った。
…その時だった。
「が…はっ!」
何者かがレイルをナイフで刺す。
…言葉が出ない。
仲間の命を救えなかった。
それだけが頭の中を支配する。
まだ生きているかもしれない。
そんな希望も持てなかった。
刺したのは…リアリス。
倒れたレイルを前に、首だけをこちらに向ける。
「どうして…こんな…」
リリアンは恐怖と焦り、そして仲間が裏切ったという怒りで…
「どうしてこんな事したんだ!」
"リリアン"とは思えない声と口調でリアリスを怒鳴りつけた。
「私は、全てを知ってしまった。もう、何もかも手遅れなの。この世界は、もうすぐ存在を消される…終わった世界よ」
「それって…どういう…」
本当のこの世界は既に滅んでいる。
魔法を使った戦争によって。
滅亡した世界は、世界樹から切り離される…つまり消える前に、栄えていた頃を再現したような幻想世界を作り出す。
私たちはその幻想世界の一部にすぎない。
"上"にもこれは一種のエンタメにしか思われていない。
そしてこの黒いモノも、本物じゃなくて…
研究所が作ったクローン。