第40話 青い花
…私の勝ち、そう少女に告げた。
「い、いやぁあ…っ!」
剣を向けたが、殺す気はない。
ただの脅し…というものか?
まあいい。
この世界が単純なものではないと、少女に教えてあげるだけだ。
「確かに君は強い…だが、上には上が、それにも遥か上がいる。それだけを伝えたかった」
「こ、ころさないのッ…!?」
少女は焦らされているように感じ、怒りの混ざった声で言う。
…と同時に、エテルナが起き上がる。
「こ、ここは……天主様!ご無事ですか!?」
「ああ。後はこの子をどうするか…だ」
「この子…ですか?」
少女は息遣い荒く口にした。
「殺すなら…さっさと殺しなさいよ…!じゃないと…あたし………」
涙が溢れてくる。
「君を殺すつもりはない」
「そ、そうなの…?」
「あたし…うぅ…誰にも優しくされたこと……なくてっ…」
少女は思ったよりも辛い過去を歩んできたようだ。
同情の意を込めて、一つの青い花を手渡す。
「これは私の好きな花なんだ。…よかったら、私たちの仲間にならないか」
「でも…」
過去は関係ない。今を生きているのだから、今は未来だけを思って先へ進もう。
私は、優しくそう言った。
少女は生きる希望を見つけたかのように、泣きながら笑う。
………
あたしは生まれた時から一人だった。
道端で泣いている所を大人に拾われたけど、そいつらは悪い人で…
言うことを絶対に聞かないと、殴る蹴るの暴力が襲いかかってくる。
もちろん言葉遣いもとっても汚いの。
お前はこの世に必要ないなんて、何回言われたことか。
本当に必要ないのはあんたらだってのに…
そんな奴らがあたしを拾ったのは、ただの優しさなわけないよね。
小さな家に子供がぎゅうぎゅうに集められて、まるで奴隷のように働かされてた。
こんな生活、一人ぼっちなのと同じだわ。
あたしはすぐに逃げ出して、やがて森にたどり着いたの。
そこでちょうどいい洞窟を見つけたから、住みつくようになった。
人って、食べ物がないと生きていけないじゃない?
その食べ物がなくて探していたら、森に迷い込んだ人たちがなぜかばったんばったん倒れていくから、それを回収して食べてたの。
正直良い味だとは言えなかったわ。
でも前の生活よりいくらもマシだった。
………
「こんなあたしで良いなら…喜んで仲間になるわ」
「ありがとう」
少女はヴェルーニカと名乗った。
元の王国に近づく第一歩。
それは住人集めである。
王国は壊滅状態で住める場所がないため、ヴェルーニカにはこちらについて来てもらうことになった。
より早く隣国へ着くようにしなければ。
三人は洞窟を抜け、森の中へと戻った。