第39話 迷宮
森の中は暗いため、ランタンを灯しながら二人で歩いている。
あちこちから聞こえる鳥の鳴き声が、ここが異質な場所だという事を伝えているかのようだ。
「先ほどは、うまく魔力を扱えましたね!さすが天主様ですっ」
褒められると、少し照れるな。
しかし、自分でもさっきのは上手くできたと思える。
…一ついいことを思い付いた。
この光る糸を上手く扱えば、敵を拘束する事ができるかもしれない。
慣れてきたら試してみよう。
いや、それにしても、自分の魔力で作ったプリンを食べるのはとても良い体験だった…。
今のところ一番の思い出はそれだな。
ん?この森、別れ道が沢山あると聞いたが…
今のところ一つもない。
それどころか、同じ所をぐるぐるとまわっているような感覚…
エテルナも違和感があったのか、互いに目を合わせる。
「ま、まさかとは思いますが、迷ってませんよね…?」
「…明らかにおかしい、さっきもここに折れた枝があった」
「ひ、ひええっ…!!」
私が指さしたのは、折れて落ちた長い枝。
数字の7に似た形をしている。
10分ほど前にここを通った時も、この枝が同じ所に落ちていた。
つまり、私たちは10分間隔で道の入り口に戻っていることになる。
これを仕掛けたのは誰?
それとも自然に出来たもの?
そして何故分かれ道がない?
思考を巡らせながら辺りを調べ、突破口を探す。
この枝がその問題を解く鍵になるかもしれない。
もう一度、枝の場所へ戻るまで前に進んでみる。
…やはり戻ってきた。
枝をもっと観察してみよう。
っ…と、少しめまいが…
…枝の先端は入り口の方向を指している。
戻れということか…?
いや、入り口は他には無かったはず…
また前に進んでみよう。
………
三回ほど枝の所を通った。
だが…何も進展がないし……さっきから頭がクラクラする…
…そのまま私は倒れてしまった。
「ふふふ、新しいごはんだわ」
…誰だ?
気がつくと、ただただ黒い空間にいた。
目の前には巨大な蜘蛛の巣と、少女が一人。
声の主はあの少女だろう。
隣にはエテルナが倒れていた。
同じように気を失っている。
「あら、もう目が覚めたのね~じゃあ、今回は踊り食いかしら」
「今回は」という言い方、少女は今まで何人もの人を食べてきたようだ…
「…ッ!」
状況を完全に把握する暇もなく、蜘蛛の糸が襲いかかってきたが、間一髪でかわす。
「素直じゃないわね…これはどうかしら?」
頭上から大型の蜘蛛の巣が降りかかってくる。
捕まるわけにはいかない…!
そう思った瞬間、体が勝手に動いていた。
蜘蛛の巣を、光る糸が切り裂いていった。
「そんなぁっ…!!」
少女は驚いた顔でこちらを見る。
「あたしは強い…強いんだもんっ!!」
(これが、あたしの全力っ…!)
互いの繰り出す糸と糸は交差し、なお確実に少女の身体を拘束していく。
なぜか今ならわかる。
この力の使い方が。
光る糸は変形し、一振りの剣となる。
糸に巻きつかれて動けなくなった少女は、まだ獲物に食らいつこうと必死にもがく。
その少女に、剣を向けて言葉を放った。
「…私の勝ちだ」